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復讐の記録5:冒険者ギルド長ゾゲッタ

「オレのところへわざわざ向かう? これはお茶でも用意して待っておくべきだったかな」

「いーや、悪いがあんたのれる茶は不味そうだからな」


 冒険者ギルド長ゾゲッタの軽口に対して、同じく軽口で返すオレ。


「まぁ、そう言うなよ。飲んでみたら意外と美味いかもしれんぜ?」


 三編みで結んだ白ひげを揺らしながら、ゾゲッタはその巨体に見合った巨剣を構えニタァと笑う。


(フッ──!)


 オレは一度息を吐いて間を取ると、ゾゲッタの会話のペースから逃れた。


 冒険者ギルドのトップ。

 オレの知る限り、オレ達以外で人類最強のステータスを持つ男。

 そして怖いのは、そのステータスよりも。

 ──奴の持つ経験。

 さっきの盗賊ギルド長も一筋縄じゃいかなかった。

 たとえ何気ない会話といえども奴のペースに巻き込まれるのは出来るだけけたい。


「ふぅん、なるほど」


 巨剣を構えたまま一分のスキも見せないゾゲッタが話しかけてくる。


「新米冒険者にしては随分と冷静なようだ。それにお前の職業、なんだったっけな、ア、ア、ア~……? ああ、思い出した! アイド……」


 言い終わる前に爆裂な勢いですっ飛んでくるゾゲッタ。


「ルッッッッッ!」


 マズい、受けるな受けるな受けるな受けるな、奴のスキルで斬られるぞ。

 避けろ避けろ避けろ避けろ避けろ!


 そう考えてる間に、もう目の前にゾゲッタが迫ってきている。


 無理だ! 避けられない!

 くそ! こうなったら!!!


──高速飛行!


 進むのは!

 前だ!


──石肌っ!


 ガツーン!


 オレの頭──まさに石頭がゾゲッタの剣の柄にぶつかり、2人は弾き飛ぶ。


「くはぁ! やるじゃねぇか! オレの攻撃を2回もかわした奴なんかいつぶりだ? そもそもアイドルってのはそんなに飛んだり石みたいになったり出来るもんなのか?」


 答えるな。

 なにか余計な情報を与えれば、それがオレの命取りになるかもしれない。

 こっちのペースに引き込むんだ。

 主導権は、オレがつかむ。


──透明。


 オレは静かに姿を消す。


 そう、オレのスタイルは不意打ちからの暗殺&状態異常だ。

 ゾゲッタみたいな肉弾戦タイプと正面切ってやり合う必要はない。

 こうやって相手をけむに巻きつつデバフを入れていけば……。


 ブワァ。


「あ、網ィ……!?」


 宙一面に広がる網。


 あー、これもしかしてマジックアイテムとかだったりするのか?

 それともただの網?

 ただの網だったら【火炎】スキルで焼き切れたりするか?

 いや、ちょっと待て。

 ダメだ、オレは今。


 ──考えすぎてる。


 相手は歴戦の戦士だ。

 しかも正面切ったタイマンになってしまった以上、オレがいくら策をろうしようが相手はその裏をついてくるだろう。


 となれば。


 もうシンプルにいく!


──変身。


 オレが今までで見てきた中で一番デカい生き物。

 無の精霊、オメガ。


 巨大な浮遊要塞となったオレは肌に絡みついてくる網を払い落とすと、そのまま急上昇した。


 よし、危機は脱した。

 しかしこのサイズじゃ、ゾゲッタの【万物両断】の絶好のまとになるだけだ。


 オレは再び姿を消して元の大きさに戻るとジグザグに空を飛び回る。


 これで奴は完全にオレの居場所を見失ったはず。


「くくく、デカい要塞に化けて空飛んで姿消して……。アイドルってのはこんなんだったかぁ? なぁ、教えてくれよ。ここを石に変えたのもお前の力か? 中で起こってる爆発は……っと。ありゃ、アイツの仕業だよなぁ……。となると」


 それまで好々こうこうやぜんと笑っていたゾゲッタの顔が一瞬で曇る。


「アイツは、死んだのか……」


 キッ!


 ゾゲッタは憎悪に満ちた目で、姿が見えないはずのオレを睨むと、くうを踏みつけ一直線にオレに向かって跳躍してくる。


「あの靴もマジックアイテムか!」


 正直オレは痛感し始めていた。

 心のどこかで「ギルド長」という存在をナメていたことを。

 フル装備で正面から襲いかかってくるギルドのおさがこれほどまでに面倒だとは。


「なんでオレの場所がわかるんだ!」

「友を殺されたオレの怒りが教えてくれる!」


 友?


 友だと?


 オレが盗賊ギルド長を殺したからお前が怒っていると?

 いやいや、違うだろ。

 お前らだろ。

 お前らが最初にオレに仕掛けてきたんだろ。

 それをちょっと復讐されたからって。

 え?

 なに被害者ぶってんだお前らは。


 オレはゾゲッタの思わぬ言葉に不意に冷静さを取り戻す。


 きっと奴はオレに染み付いた盗賊ギルド長の匂いとかでオレの居場所がわかるんだろう。

 まぁ。

 どのみちあんなピョンピョン跳んでこられたところでオレを捕まえられるわけはない。


 そう判断したオレはゾゲッタの射程範囲外を飛び回り、冷徹にデバフを入れ続ける。


──洗脳、魅了、邪眼、石化、毒液、腐食、死の予告、死の悲鳴。


 跳躍以外の行動が取れないゾゲッタはそれらをかわせるはずもなく、なすすべなく全てのデバフ攻撃を喰らい続ける。

 しかし。

 どれだけスキルを叩き込んでも、それらは全て一向に効果が表れなかった。


「はぁ……もしかして鎧までマジックアイテムってわけか?」

「その通り! 内側に1万800枚の魔法防御陣が組み込まれておる。お前がいくらスキルを多用できようと、1万800回発動することは無理だろう!」


 ふぅん、1万800回ねぇ。

 やったことはないけど多分出来るだろ。

 まぁ時間がないからここではしないけど。

 それと。

 今はあっちが頭に血がのぼってるみたいだな。

 今度はこっちから煽ってみるか。


「いや、できるけど」

「ハッ、強がりを!」

「いや、強がりじゃなくて。オレ、魔力が50万あるから」

「ハッ、こんな姑息な戦い方しか出来ない卑怯者は冗談までつまらないな!」

「レベル85、体力301、魔力11、スキル【万物両断】。これがあんたのステータスだ」

「な、なぜそれを……! お前、まさか……!」


 集中を乱されたゾゲッタは宙を踏みそこね、地表へと落下していく。


「くっ──!」


 地面に激突する寸前、宙を横に蹴って回転しながら勢いを殺すゾゲッタ。


 ゴロゴロゴロゴロ!


 地面を転がり、石と化し館にぶつかると、その衝撃で血反吐ちへどを吐く。


「ぐ、ガァ……カハっ……」


 いくらマジックアイテムをたくさん持ってるからといって、中身は普通の人間。

 どうやら今の落下が致命傷となったようだ。


「お前まさか……アベルか? 鑑定士の」

御名答ごめいとう~」


 オレは変身を解き、ゾゲッタにアベルの姿を見せてやる。


「お前……なぜ生きている!?」

「なぜ? なぜってなぜ? 逆に聞こう……なぜお前がそんなに動揺してる? 何を知ってる? オレがどこに居たのかお前は知ってるのか? 知ってるのならなぜ! なぜなぜなぜなぜ! なぜお前はそれを知ってるんだ!?」

「そ、それは……」


 その時、人影が視界に入ってきた。


「お、おい! 火事だぞ! 盗賊ギルドの家が火事だ!」


 思わぬ乱入者にオレは舌打ちする。

 空を見ると、地平線がかすかに紫色に染まってきている。

 夜明け。

 タイムリミットだ。


「おい、鎧を脱げ」

「…………」

「もしお前に少しでも罪の意識があるのなら、自分でその鎧を脱ぐんだ」


 鎮痛な面持ちのゾゲッタ。

 体の痛みをおさえながら、ゆっくりと鎧を脱いだ。


──洗脳。


「お前はオレとオレの仲間に今後絶対に危害を与えない。いいな?」


 ゾゲッタは瞳を紫色に光らせ「はい……」と返事をする。

 念のためにゾゲッタの首元に噛みついて眷属にもしておく。

 この二重の支配を破れるのは勇者ラベルの【因果剣】くらいのもんだろう。


「アンデッドになってるからもう体の痛みは大丈夫だろう。このまま、まっすぐ家に帰って誰とも会うな。何も話すな。オレが後から行くから、その時に話は全て聞かせてもらう。いいな?」

「はい……」


 ふらふらと家の方へと歩き去っていくゾゲッタ。


(ふぅ……)


 疲れた。

 一晩のうちにヒナギクの救出、盗賊ギルド長への襲撃、ゾゲッタとの一騎打ち。

 さすがのオレも限界だ。

 早く帰って休もう。

 っと、その前にこれはもらっておくか。


 オレはゾゲッタの脱いだ鎧──1万800枚の魔法防御陣が組み込まれてるらしい──を手に取った。


(あとは……)


 ゾゲッタの巨剣を拾うと盗賊ギルド長の館の入り口に突き刺す。


(せめてのもの、友だった者からの手向たむけだ)


 オレは姿を消し、ルゥ達の待つ宿へと飛んでいく。

 顔を見せ始めた朝日は巨剣を照らし、その輝きはもう誰も知るよしのない2人の友情を静かにとむらう。

次話【1日ぶりの全員集合】

9月17日(明日)11:30頃更新予定


もし少しでも「ゾゲッタ強い!」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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