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ヒナギク救出

 夕食を早めに済ませて仮眠を取ったオレは、深夜になるのを待ってから窓から外へ飛び出す。

 スキル【透明】【高速飛行】【狡猾】を発動させて空を飛ぶオレを察知できる者など人間界には誰も存在しない。

 王城の頂上は月明かりに照らされている。

 その王城のいただきに降り立ったオレは【精霊召喚(中級)】でラムウとフェンリルを呼び出す。


「召喚主様」

「何用だ、小僧」


 従順なラムウと、まだオレを上から見てるような態度のフェンリル。


「今オレ達がいるのは王城のてっぺんだ。この城の中でヒナギクが姿を消した。そこでお前たちの力を借りたい」

「承知いたしました」

「うむ、お安い御用だ」


 熟練の雰囲気をかもし出す2人。

 正直とても心強い。


「ヒナギクがどこにいるか、わかりそうか?」

「ヒナギク様の発する電気信号のパターンは覚えております。少なくともこの最上階付近にはおらぬかと」

「そうか。なら下に降りていくから、ヒナギクがいそうな場所があったら教えてくれ」

「はい、召喚主様」


 するとフェンリルが「ならば」と言い、ぬるりと細い影の姿になると窓の隙間へと入っていった。

 次の瞬間、フェンリルは城の内部に姿を現すと窓の施錠せじょうを解除した。


「中から降りていったほうが早かろう」


 おお、フェンリルやるな!


 中に入ったオレはフェンリルの影からダイアを呼び出す。


「我があるじ!」


 約一日ぶりの再会に喜びを隠しきれず息を荒げ尻尾をぶんぶんと振りながらオレに飛びついてくるダイア。


「ダイア落ち着け、落ち着けって」

「ハッ……! 主様、これは大変失礼を……!」

「いや、いいんだ。どうだ? フェンリルの中は? みんな変わりないか?」

「ハッ! フェンリル殿の中は闇の魔力で満たされており、我らみな気力体力共に充実しております!」


 そう報告しながらも尻尾がパタパタと振れているダイア。


「ダイア、ヒナギクの匂いは辿れるか?」

「ハッ! 一度この階に来た形跡があります。今は下の方にいるようです」

「一度ここに来てたのか……。ダイア、ヒナギクがどの部屋に行ったか案内できるか?」

「ハッ!」


 ダイアは地面に鼻を近づけて匂いを辿っていく。

 そして、ひとつの部屋の前で足を止めるとオレを振り返った。


「ここか……」


 ここにヒナギクからの連絡が何故途切れたかの手がかりがあるはず。


「フェンリル、開けられるか?」

「もちろんだ」


 フェンリルは影になってするすると扉の隙間に入り込むと、中から鍵を開けた。

 オレたちは部屋の中へと足を踏み入れる。

 そこは一見するとただの書斎、といった感じだった。

 しかし──。

 隅々(すみずみ)に染み付いた隠しきれない血の匂い、そして。


 ──邪悪な魔力の残滓ざんし


 ラムウが口を手で押さえ、


「これは……ひどいですな……」


 と漏らす。


「日常的にここで拷問が行われていたようだな。人間にはわからないように巧妙こうみょう痕跡こんせきは消してあるが」


 フェンリルが冷静に指摘する。

 オレは怒りを噛み殺しながらダイアに問う。


「ヒナギクは……ここにいたのか?」

「匂いの残り具合からいって、およそ一時間ほどはここにいたかと……。その後は部屋から移動して下へと向かったようです」

「そうか」


 机の上に置いてある書状を手に取る。

 宛名は「ラベル=ヤマギシ」。

 この部屋がラベルのものであることを確認したオレは、書状を握り潰すと皆に告げた。


「下へ向かう」


 それからラムウの電気信号、ダイアの匂いを辿りながら見張りを避け城を降りていったオレたちは、一階まで来てしまっていた。


「まだ下……ですな」

「ということは地下か?」

「おそらくは」

「匂いはあそこを曲がった先へと続いています。あの先にヒナギク殿はいるかと」

「わかった。ここからはオレだけでいい。お前たち、ご苦労だった」


 フェンリルがオレに問う。


「小僧よ、あれくらいの見張りであれば我らで一瞬のうちに駆逐くちくできよう。我の中で待機してる61匹のダイアウルフも呼び出せばこの城くらい簡単に落とせるじゃないか。なぜそうしない?」


 仲間を連れ去られて苛立ってるオレは、思わずギロリとフェンリルを睨んでしまう。


「す、すまん。出過ぎたことを言った」


 思わぬ敵意を向けられて狼狽うろたえるフェンリル。


「いや、いいんだ。お前らにはちゃんと説明してなかったな。オレはオレが復讐したい相手にのみ残酷になる。その代わり無関係な連中にはなるべく害を与えたくないんだ」

「そういうことか。お主の矜持きょうじ理解した。今後はお主にあだなす者だけを駆逐するやいばとなろう」


 ん、フェンリルの呼び名が「小僧」から「お主」に変わったな。

 ナメてかかってくる精霊には強く出ることも必要っぽいな。

 まぁ、今はそんなことどうでもいい。

 まずはヒナギクだ。


「わかったならみんな下がってくれ。ここからはオレ一人の方が動きやすい」

「ハッ!」


 ダイアがフェンリルの中に戻ると、2体の精霊はその場から姿を消した。


──透明、狡猾。


 姿を消したオレはダイアの示した方向へと歩を進める。

 通りがかる巡回兵にはすべて【洗脳】をかけ、「今からオレがやること全てを認識するな」と命令していく。

 通路の先にあった地下への階段を下り、宝物庫らしきところを通り過ぎると地下牢へとたどり着いた。

 見張りの兵士に【洗脳】をかけ奪った鍵で中に入る。


 キィ──。


 錆びた音をきしませながら鉄格子を開くと、目に入ってきたのはむくろのようにズタボロになって横たわっているヒナギクの姿だった。


「ヒナギク……! おい、大丈夫かヒナギク!」

「うう……。誰……っスか?」

「オレだ! フィードだ! 今助けるからな!」

「フィー……ド? って誰っスか……? ラベル様……ラベル様はどこっスか? 自分もう裏切ったりしないっスから、またお側に仕えさせてほしいっス……」

「ヒナ……ギク……?」


 うつろな表情でラベルの名前を呼ぶヒナギクの姿を見てオレは思い出した。

 スキル【因果剣】の効果を。


──すべての因果を断ち切り、無の状態へと戻す剣技。


 まさか切られてしまったというのか、オレ達との因果を。


 ヒナギクの手を取る。

 温かい。


「なにするんスか! ラベル様以外に触られたくないっス!」


 オレの手をはねのけるヒナギク。

 眷属間の思念通話が出来なくなってるのも当然だ。

 だってもうヒナギクはアンデッドではなくなっているのだから。


 これも全て因果剣の効果なのか。

 オレの洗脳が解けたのも。

 オレ達との旅の記憶が無いのも。

 そして、ラベルの部屋が血の匂いにまみれていたのも。

 すべて因果を断ち切られた後に暴力と洗脳によって再教育(・・・)されたからか。


 オレはヒナギクを強く抱きしめる。


「な、なにするんスか! 離せ! はな……」


──洗脳。


 暴れていたヒナギクはビクンと震えると、完全に脱力する。


──洗脳、洗脳、洗脳!


 洗脳スキルの重ねがけに意味はない。

 ただ、どうしてもそうせざるをえなかった。


 もう絶対にヒナギクを手放さない。

 性別や過去まで奪われ、虐待され、いいように道具として扱われてるなんて──。

 そんなの、そんなの魔物に売られたオレより悲惨じゃないか──!


「あれ……自分、一体なにしてるんスか……?」


 瞳を紫色に光らせ朦朧もうろうとしてるヒナギクにオレは力強く告げる。


「オレはフィード。フィード・オファリング。君の仲間だ!」

次話【復讐の記録4:盗賊ギルド長】

9月15日(明日)18:30頃更新予定


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