表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/92

勝手に建国、聖オファリング王国

 今、63体にまで増えているダイアウルフの群れ。

 その中から2匹がオレの両親を乗せて離れた街にいるおじのところまで旅立っていった。


「何をするにしても最善の道を探す努力はおこたららないようにな」

「アベルのことなら何でも受け止めるからね。世界全員が敵になってもママだけはアベルの味方よ」


 最後に2人はそう言い残して去っていった。

 

 なんだよ、2人ともまるでオレが世界に戦争を仕掛けるくらいの勢いで受け止めてるじゃないか。

 でもまぁ、ほぼそれに近いことはやろうとしてるけどね。


 その後、ダイア達に乗って王都に向かった俺たちは、あっという間に森の端っこまでたどり着いた。


「よし、ここで一旦作戦会議だ」


 みんなが円状に広がる。


 魔界から一緒に人間界にやってきたゴーゴンのルゥ、バンパイアのリサ、セイレーンのセレアナ。

 幼なじみで現アンデッドのモモ。

 元々はオレを殺しに来た王国の忍者で、今は洗脳済みでアンデッドのヒナギク。

 魔狼ワーグに進化した元ダイアウルフのダイア。

 それから63匹のダイアウルフ達。


 これが今のオレの仲間たちだ。


「あのぉ~、わたくしは……」


 ああ、忘れてた。

 途中でオレの元パーティーメンバーの魔術師ジュニオール(洗脳済み)が王都に向かって歩いてたんで拾ってきたんだ。


「あ~、その辺に混ざっといて」

「はい」


 昨日オレから受けた恐怖からか、素直に言うことを聞くジュニオール。


 っていうかジュニオールの肉声初めて聞いたわ。

 いっつも召喚精霊に喋らせてたからさ、こいつ。

 まぁいい、こんな奴はさておき。


「みんな聞いてくれ。王都に戻ったら、みんな分かれて行動することになると思う。そこで、みんながそれぞれ今後何をするかを確認しておきたい」


 みんな興味深そうに話を聞いている。


「っと、その前に」


──精霊召喚。


 昨夜ジュニオールから奪ったスキル【精霊召喚(中級)】を発動する。


(ん~、何の属性の精霊を召喚するかな……。まぁいいや、とりあえず全部だ)


 そう考えた瞬間。

 空は暗雲に覆われ、強風が木々を薙ぎ、横殴りの雨粒が叩きつけられ、地面が隆起し、雷撃が落ちて木々が炎に包まれたかと思うとその炎が一瞬で凍りつき、闇が広がったかと思うと眩い光が打ち消し、そしてまるで最初からなにも起きなかったかのような元の景色が目の前に現れた。


「い、今のは一体……」


 ダイアが状況を飲み込めずに戸惑いの声を上げる。

 異変に最初に気づいたのはヒナギクだった。


「これは……」


 上を見上げて絶句するヒナギク。

 つられて視線を上に向ける一同。

 その視線の先には、空に浮かんだ異形の存在の姿があった。


「あ、あれ昨日見たやつだ!」


 モモがサラマンダーを指して無邪気に言う。


「カハハッ! たしかに昨日ぶりだ! しかもまさか昨日オレが襲いかかった相手に呼び出されるとはな!」


 火の精霊サラマンダー。

 燃え上がる炎を身にまとったトカゲ姿の精霊はそう言うと豪快に笑った。


「あら。でも貴方あなた、昨日は片手で払い落とされたんでしょう? クスクス」


 そうチクリととがめるのは青白い肌と細くて美しい曲線を持った氷の精霊シヴァ。


「う、うっせぇよ! 俺たちをこんなに一度に召喚できる器の奴だぞ! しょうがねぇだろ!」 


 サラマンダーはもとから赤い顔をさらに真っ赤にして反論している。


「そんな……嘘だ……!」


 魔術師のジュニオールがわなわなと震えながらそう呟く。


「このわたくしですら同時召喚は2体が限界だというのに……火の精霊サラマンダー、氷の精霊シヴァ、水の精霊ウンディーネ、風の精霊シルフ、雷の精霊ラムウ、土の精霊ゴーレム……6体同時召喚、だと……? そんな馬鹿な……あり得ない……」


 へ~、ジュニオールは6体ごときでこんなにビビるのか。

 なら「もっといるよ」って教えてあげたらどうなるんだろう。


「あ~、実はオレが呼び出したのは『全属性』なんだよね」


 ジュニオールがほうけた顔でこちらを見つめる。


「…………は?」

「いや、だから全属性。全部の属性を呼び出してみました」

「そんな……そんなことできるわけ……」


 ズシーン!


 地響きとともに宙から獣が降り立ってきた。

 空から降ってきたそれは、黒い炎を纏った闇の精霊。

 その名も。


「フェンリル──! フェンリルだ……。あの伝説の魔獣が今、私の目の前にぃいいいい──!?」


 震える指先をフェンリルへと向けたジュニオール。

 その頭の上、とんがり帽子のツバの部分に小さい獣がポヨンと落ちてきた。


「オレもいるぜぇ~!」


 ジュニオールの頭の上に着地したのは、昨日まで彼が使役し代弁させていた光の精霊──。

 カーバンクル。


「よぉ~、ジュニオール。昨日まで世話になったな~。元々オレが軽口だとはいえ、お前の性根がひん曲がった言葉を代弁するのは骨が折れたぜ~。今度の召喚主はお前と比べると随分素直そうでいい奴そうだな。まぁ、今のところは──だがな」

「そんな──。8体も同時に召喚、だと──? そんなことを成し得た人物は歴史上誰も存在しないぞ──!」

「いや違うね」

「え?」

「8体じゃない、9体だ」

「え?」

「召喚したのは9体」


 キラーン。


 超上空から突如急下降してきた巨大な城塞──。

 いや、城塞に見えたのは無の精霊、オメガ。


「これ、は……?」


 上空に浮かぶオメガに威圧され完全に固まってしまうジュニオール。


「9体目、無の精霊オメガだよ」

「無の精霊? そんなものが……そんなものが存在してたとは──! これは! これは精霊魔術史上初めての発見だッ! そうぅぅぅ! 精霊術史上ぉぉ! 初のぉぉ──!」


──洗脳。


「うるさい、黙れ」

「はい……」


 叫びすぎてガラガラ声になっちゃってるジュニオールを黙らせると、オレはみんなに説明を続けた。


「ここにいるみんなが俺たちの今の仲間の全員だ。あ~、あとはゴブリンがいるけど、あれは正式な仲間ってわけじゃないからな」


 オレの言葉にダイアウルフたちは「おお……」「強力な精霊がこんなに……」「やはり私達のボスは凄いお方だ……」とざわめきたつ。


「この精霊たちに、今からバラバラに動く俺たちのサポートをやってもらおうと思ってる。ここまではいいか?」


 みんな顔を見合わせると真剣な顔で頷いている。


「よし、それじゃ具体的に内容を伝えていくぞ。まずダイアたちは待機だ。この数の狼は街の中には連れていけないからな。その代わり……」


 オレの前に闇の精霊フェンリルが降り立つ。


「この中にみんな入ってもらって、いざという時は出てきて助けてもらおうと思ってる」


 フェンリルから「ズズズ……」と影が伸びると、その中にダイアウルフたちがトプンと飲み込まれていく。

「クゥーン、クゥーン」と怖がるダイアウルフ達に、オレは優しく説明する。


「大丈夫だ。影の中に入っても害はない。中から出たい時はいつでも出られるし、オレがフェンリルを召喚した時は中にいるお前たちもまとめてこっちに瞬間移動できるんだ。つまり、お前たちの家だと思ってくれていいぞ、このフェンリルは」

「おお、なるほど! これでいつでも我らは主様あるじさまの元に駆けつけられるというわけですね!」

「うん、そういうことだ。あ~、えっと……フェンリルがよければ、なんだけど」


 ダイアよりも数回り大きい魔獣フェンリルの顔を見上げると、ツンとした表情がホロロと崩れ快活にガッハハと笑った。


「この私を家扱いか! いやはや今回の召喚者は子供であったゆえ不安に思っておったが、我らを同時に召喚する魔力! 大胆不敵な胆力! そして奇抜な発想力! すべてがずば抜けておる! 気に入ったぞ小僧! 家だろうがなんだろうがわれを自由に使うことを許可する!」

「うん、ありがとう」


 オレは次はヒナギクに提案する。


「ヒナギクはこの後、元の雇い主の白銀騎士ラベルに報告に行ってもらう。俺たちの能力やゴブリン王国のことは伏せて報告してくれ。あと向こうの情報も引き出せたら引き出してほしい。細かい状況は眷属間の思念通話でわかるけど、一応念のために風の精霊シルフをお供に付けておく。ヤバくなったら活用してくれ」

「はいっス。お心遣い痛み入るっス」

「あ、あとラベルに会っても【洗脳】破られたりしないように気をつけてくれよな」

「それは難しいかもしれないけど、出来るだけ頑張ってみるっス」


 う~ん、相変わらずノリが軽いな。

 ヒナギクは以前、ラベルに異様に執着してたっぽいからちょっと不安だ。

 まぁ眷属化させてるうえに洗脳も効いてるから大丈夫だとは思うけど。


「それからオレ、モモ、ルゥ、リサ、セレアナ。この5人は冒険者ギルドに依頼の報告に行く。その時にルゥの聖女としての今後の身の振り方もわかると思う。それから……」

「ちょっと待って。それなら私とセレアナはギルドに行く必要ないんじゃない?」

「ああ、たしかにオレとルゥ。あとは個別にギルドから依頼を受けたモモだけいればいいか。それじゃリサとセレアナは別行動で、夜に宿屋で落ち合おう」

「わかった」

「わかりましたわぁ」


 リサはともかく、セレアナに自由行動を取らせるのはちょっと怖いんだよな。


「あ、そうだ。じゃあ2人にも用心棒に精霊を付けておく。レベルが高くても一人じゃ対処しきれない事態に陥るかもだからな。サラマンダー、ウンディーネ」


 サラマンダーはリサの肩に、ウンディーネはセレアナの胸元に収まる。


「あら、ずいぶん可愛らしい用心棒ね」

「カハハ、よろしく頼むぞ小娘!」

「水の魔獣セイレーンに水の精霊とはなかなかわかってるじゃなぁい、フィード」

「澄んでいて力強い清流せいりゅうの雰囲気のある子。とてもいい居心地……」


 うん、組み合わせ的にも相性バッチリっぽいな。


「それじゃあ冒険者ギルドに報告に行くのはオレ、モモ、ルゥの3人。報告が終わったらモモは家に帰って両親に顔見せてやれ」

「わかったよ。じゃあ明日の朝みんなに合流するね」

「うん。ルゥの今後の予定とヒナギクの報告を聞いてから今後の方針を立てよう」

「わかりました」

「わかったっス」

「ああ、そうだ。モモとルゥにも今のうちに精霊を用心棒につけとくな。魔法に弱いモモにはカーバンクル、物理攻撃に弱いルゥにはゴーレムだ」


 キラキラ光る弧を描いてカーバンクルはモモの頭の上に、ゴーレムは土の中を渡ってルゥの周りに土柱を立てながら喜んでいる。


「お~! このねーちゃん知ってるぞ! 一緒に冒険してたよな! あのパーティーで唯一まともだった子だ!よろしくな!」

「あ、あはは……。まさかジュニオールさんのあの精霊が私の用心棒になるとは……」

「石ノ匂イガスル……。コノ子、コノマシイ」

「元ゴーゴンだからでしょうかぁ? こちらこそよろしくお願いしますね」


 うん、ここもまぁまぁ相性よさそうだな。


「よし、それじゃあまず。ジュニオール、先に行って報告を済ませてこい。『オレの両親を焼き殺した』とな」

「ひぃ──っ! は、はい、行きます! すぐ行きます!」


 そう言いながらジュニオールは足をもつれさせながら王都の方へと走っていった。


「ラムウ」

「はい、偉大なる召喚主様」

「今行った男をこっそり監視することは出来るか?」

「はい、それならば下級の精霊を奴のフードの中に忍ばせておきましょう」


 地面にまで届きそうな白ヒゲを蓄えたラムウが人差し指を掲げると、小さな小さな雷の精霊が現れた。


「ゆけ」

「ハイ~、行ってきまぁ~ス」


 そう答えた下級精霊は、必死に駆けていくジュニオールのフードの中にするりともぐりこんだ。


「これであの者が今後どのような行動を取るのか把握することが出来ます」

「よくやった、なにかあればいつでも自由に顕現けんげんして教えてくれ」

「ハッ」


 ラムウはそう返事をすると姿を消した。


「シヴァはこの後、用心棒を頼みたい相手がいるから姿を隠して待機しといてくれ。オメガは必要な時に呼び出す。それまで精霊界で待機だ」

「わかりました、マスター」

「承知」


 さて、と。


──変身。


 一日ぶりに女の姿に戻る。

 男の姿の方がしっくり来るけど仕方がない。

 王都で復讐を済ませるまでの辛抱だ。


「よし、それじゃあ王都に凱旋だ!」


 3人の人間、1匹の魔物、2体のアンデッド、9体の中級精霊、1匹の魔狼、63匹の狼。

 出発の時は4人ぽっちだった俺たちが、大軍団となって王都への帰還を果たす。

 そして、その背後にはゴブリン王国と、フィード達の誰もがすっかり忘れてしまっているあの集団の存在があった。


◆◇◆◇


 あの集団。

 魔界から逃げ出す際に地獄の長城でフィードがかけた【特大魅了】と【範囲魅了】。

 それによってフィード大好きマンと化してしまっていた大勢のゴブリン、ホブゴブリン、そしてハーピー。

 彼らはフィードを熱狂的に褒め称えあうことによってエコーチェンバーを引き起こし、より【魅了】の深度を深めていった。


 その結果。

 フィードたちが誰も思い知らないところで勝手に生まれてしまっていた。


 新興独立国。


 聖オファリング王国が。


「うおおおお! オレ達の王! フィード・オファリング様のためにオレ達は戦う!」

「今こそフィード様のフィード様のフィード様による国を立ち上げるんだ!」

「いつ帰ってこられてもいいように魔界にフィード様の故郷を我らの手で作り上げるのだ!」

「そのためニ、オレらガ、もっと国民ヲ増やしテ、豊かナ国ヲ、作らなキャ!」


 不在の我らが王フィード・オファリングに帰ってきてもらうため、彼らは必死に快適な国造り、国土の拡充に努める。


「グギャー! グギャギャー! フィード様! 素晴らしきフィード様! 愛しのフィード様の為に最高の国家を!」


 空を飛びながらフィードへの愛を叫び続けるのは、種族特性スキル【罵倒】を奪われたうえに【特大魅了】を食らったハーピー。

 彼女はフィード大好き集団の中で魅了のエコーチェンバーを受け続けた結果、特性が反転してスキル【扇動】が目覚めてしまっていた。


 そのハーピーによる【扇動】によって、魔法抵抗力と知性が低いゴブリンやホブゴブリンを中心にどんどんと二次魅了が広がっていった。

 そうやって魅了されていったゴブリン達がその高い繁殖力で次々と数を増やしていった結果。

 生まれた時からフィードを王と信じてやまない新世代のゴブリン、ホブゴブリンが増えていった。

 不思議なことに彼らは従来のゴブリンよりも知能が高く、体格もよく、さらに種族スキルとは別のユニークスキルまで個別に兼ね備えていた。


 そして学校で愛する我が子達を殺された魔物の親族一同。

 フィードを探し続ける彼らが聖オファリング王国と衝突する日も、もはや時間の問題となっていた。


 人類や人間界のゴブリン王国、すべてを巻き込んだ魔界の大戦争。

 それが人類の誰も知らないところで勝手に巻き起ころうとしてた。


 そう、本人もすっかり忘れてたフィードの【魅了】のせいで。

もし少しでも「これから先が楽しみ」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

いいね、感想、ブクマ登録もぜひぜひお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ