復讐記録2:侍ミフネ
「キヒヒヒ、アベル殿ぉ。どうしたのですか、この腕はぁ? ちょっと見ない間に化け物にでもなったのですかなぁ?」
ガラスを爪でひっかくような笑い声。
糸のようなニタニタとした目。
人を小馬鹿にしたかのように邪悪につり上がった口元。
以前からなんとなく苦手だったミフネ。
その男が今、あきらかな敵意と殺意を持って斬りかかってきている。
オレはミフネに向けて怒気を込めた声を叩きつける。
「なんでお前らがここにいる! お前らここで何をしたっ! オレの親をどうしたんだっ!!!」
ミフネはニィ……と笑うと、後ろに大きく跳んだ。
「主様っ!」
突如響いた声に振り向くと、ダイアの押さえつけている男──術符マニアの魔術師ジュニオールがこちらに炎の術符を飛ばしてきていた。
パシッ。
スキル【石肌】によって体が石と化しているオレは、それを片手で払い除ける。
「うわぁ~、馬鹿が石になってる! 馬鹿すぎてとうとう人間やめちゃったの? まぁそんなのお構い無しで焼き尽くしちゃうんだけどねぇ!」
ジュニオールの頭の上で召喚精霊があいも変わらずピーチクパーチク吠えている。
「正面からの術符攻撃と同時に放たれていた上空からの召喚精霊! 石ごと焼き尽くすサラマンダーの炎に溶かされちゃえ~!」
上を見上げると、炎の精霊サラマンダーが空からオレ目掛けて降ってきていた。
「ドアリャアアアアア!」
が、そのサラマンダーは跳躍したセレアナの斧の一撃によって真っ二つにぶった切られ、消滅した。
「……は? え? サラマンダーだよ? 世界でも召喚できる者はそんなにいない上位精霊だよ?」
思いもよらなかったサラマンダーの消滅に動揺を隠せない様子のジュニオールの召喚精霊。
「上位精霊がなんですって!? そんなの相手になるわなけいでしょ、なぜならばっ! 私は世界の歌姫になる予定のセレアナ・グラデンなのですからっ! おーっほっほっ!」
得意げに高笑いを決めるセレアナの足元で狼たちがピラミッド型に積み上がっていく。
そして、その頂点に立ったセレアナがオレを指差してこう続けた。
「だから! フィードには私のスキルを返してもらうまで死んでもらっちゃ困るんです!」
皆がセレアナに気を取られてるうちに、オレはスキル【石化】を発動させる。
「これは……!? くっ、がっ……!」
驚愕の表情を浮かべたまま、ジュニオールは一瞬で石と化した。
よし、これであとはミフネだけ!
カキーン!
ミフネのぐにゃぐにゃに歪んだ二本の刀による剣撃を三節棍で受け止めたリサがオレに声をかける。
「ボケッとしてんじゃないわよ!」
「クヒ……不意打ち失敗……」
口の中にいっぱいに溜った唾を啜りながら、ミフネは再び後ろに飛び退いた。
「ミフネ、お前ら1人ずつだったらオレも普通に尋問してただろうさ。だがオレの家族まで巻き込むってのはどういう了見だってんだよ! 外道のてめえは許さねぇ──速攻でたたむっ!」
──変身。
オレは怒りの表情そのままにケルベルスへと姿を変える。
「そんなに炎が好きならいくらでも食らわせてやるよ! 【火炎】っ!」
オレはミフネに向かって火球を飛ばす。
「キヒ……。──剣技【砂そぞろ】」
ミフネはゆらりと揺れると歪な二本の刀をくるくると回す。
やがて、それは1つの大きな弧を描き火球を真っ二つに両断した。
「キッヒ……。クソ雑魚アベルはとうとう犬になっちゃったのですかァ──!」
斬り捨てた火球の中から飛び出してくるミフネ。
その動きを予測していたオレは、ケルベロスの3つの頭、6つの目による【邪眼】をミフネ目がけて飛ばした。
「ぐっ……」
突進してる状態で食らう、3方向から計6本の不可避の邪眼攻撃。
それは狙い通り目標を捉え、あらゆるバッドステータスを一度にくらったミフネはたまらずよろめく。
オレは知ってるんだよ。
その技、【砂そぞろ】は出し終わった瞬間が無防備になることを。
知ってるんだ、
一緒のパーティーだった時に何度も見たてきたから。
オレの脳裏にミフネやジュニオール、モモやマルゴッド達と旅をした過去の記憶が一瞬よぎった。
「あ、がが……!」
倒れてのたうち回るミフネの刀をケルベロスの前足が押さえつける。
──腐食。
ジュウウウ……という音を立てて、刀は一瞬で錆びた鉄塊へと姿を変えた。
「あ、あああああっ! 私の、私の秘刀、がぁ……!」
オレはそのままミフネの腕を押さえつけると、スキル【剛力】と【発熱】を発動する。
「ぐあああああああああああ!」
ミフネの腕が焼かれる匂いが辺りに漂う。
「痛いか? 苦しいか? でもお前に騙され魔界に売り飛ばされたオレはもっと苦しかった。そして、お前が焼き殺したオレの両親はもっと苦しんだんだぞ!!!」
刀も失い、ステータスも侵されて腕も焼かれたミフネに出来ることはもうなにも出来ないだろうと判断したオレは元の姿へと戻った。
「もういい。お前には尋問する気すら起きない。罪を償わせる気もない。今すぐすべてを吐いてから死ね。【洗脳】」
オレが右手を掲げると、ミフネの瞳が怪しい紫に色を帯びる。
「さぁ答えろ。お前らは誰の差し金でオレの親を襲った? なんの目的で!? そして、なんでオレを魔界に売ったんだ? 裏で糸を引いてるのは誰だ!?」
ミフネが震えながら言葉を発しかける。
「そ、それは……」
その瞬間。
周囲から無数の短刀が飛んできた。
「危ないっス!」
「アベルくん!」
ヒナギクとモモが身を挺して短刀を防ぐ。
「あててて……何本か刺さちゃったけどアンデッドだから助かったよ。アベルくんは無事?」
「ああ、大丈夫みたいだ。ありがとう」
「このダガーは盗賊ギルドのものっスね。毒が塗ってあるっス」
「毒……? ハッ!」
慌ててミフネを見る。
そこには毒の短刀が何本も突き刺さり、すでに事切れて死体となったミフネが転がっていた。
「くそ、口封じか!」
ピューイ。
奴らの誰かが鳴らした指笛を合図に、周囲に潜んでいたとおぼしき連中が一斉に逃げ始める。
「ダイア!」
オレの声にダイアは「アオォォーーーーーン!」と反応すると、配下の狼たちが逃げた連中を追って駆け出した。
「1人も逃すな! 全員捕まえろ!」
くそ……。
元パーティーの奴ら、王国、教会、冒険者ギルド、そして盗賊ギルド。
一体どこまで根深いんだこの騒動は。
もしかしたら王国だけにとどまらず、もっと……。
そんなことを考えていると聞こえてきて懐かしい声に、オレは思わず涙腺が緩む。
「アベル……? アベルなのか……?」
そこには、オレがもう諦めてしまっていた2人の姿があった。
「父さん……母さん……!」
「アベル……!」
気がつくとオレは、2人を抱きしめてワンワンと声を上げて泣いていた。
次話【復讐記録3:魔術師ジュニオール】
間に合えば8月22日(明日)18:30頃更新予定
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