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28日間の軌跡

 オレの血液は美味いらしい。


 ってことで、血と引き換えに女バンパイアのリサから食料と情報を得られるようになったオレ。

 突如目覚めた【吸収眼】の効果を確認しつつ、どういう順番でスキルを奪っていけばいいかの作戦を立てていく。


 よし、ここから先は一歩一歩着実に情報収集と検証を押し進めていくだけだな。 


 【2日目】

 オチューという魔物の持ってたスキル【偏食】を吸収できた。

 続けてレッドキャップの【暗殺】を吸収しようとしたができなかった。

 【吸収眼】は1日1回だけ使用可能なのだろうか。


 【3日目】

 オチューが死んだらしい。

 なんでも食べることの出来るはずのオチュー。

 それがなぜか食あたりで死んだとのこと。

 オレが【偏食】を吸収したからか。

 喪に服すということで臨時休校になった。

 魔物のくせに喪とかあるんだな。


 【4日目】

 重たい空気漂う教室だったがオレにはそんなこと関係ない。

 予定通りレッドキャップから【暗殺】を吸収。

 次にホブゴブリンの【邪悪】を吸収してみたら、なんと出来てしまった。

 昨日吸収しなかったから上限がストックされたのか?

 続けてマンドレイクの【死の悲鳴】を吸収しようとしたが出来なかった。


 【5日目】

 マンドレイクの【死の悲鳴】を吸収。

 次に吸収しようとしたミノタウルスの【旋風斧】は吸収できない。

 これで「吸収眼の使用可能回数は1日1回、使わなかった分はストックできる」ということがほぼ確定する。


 【6日目】

 いつまでも何も食べずに元気なのも怪しまれるので、出された毒の餌を食べる。

 【偏食】スキルでどうにか耐えることが出来るがツラいものはツラい。


 【7日目】

 レッドキャップが死んだらしい。

 なんでも暗殺に失敗して人間に返り討ちにされたとのこと。

 オレが【暗殺】スキルを奪ったからか。

 意外とスキルを奪うだけで結構こいつらの頭数を減らせるんじゃないか?

 とはいえオレが原因だとバレるわけにはいかないから派手には動けない。

 クラスは臨時休校。


 【8日目】

 リサの持ってくる食事が少し豪勢になる。


 【9日目】

 ゴーゴンがやたらと構ってくるようになる。

 もし目が合ったら石になるからあんまり構わないで欲しい。


 【10日目】

 現時点でこれ以上スキルを奪うのは危険だと判断。

 吸収回数の上限ストックを増やすことにする。


 【11日目】

 いつまでも裸では可哀想だということで服を着ることを許される。

 スクールカーストトップのセイレーンがおしゃれ自慢したい感じで服装について色々提案してくる。


 【12日目】

 休み時間にオレに服を着せたファッションショーが行われる事に。

 檻から出されて水浴びをさせられ、色んな服を着せられたが体力が落ちてて歩くのすらツラい。

 その間に檻をホブゴブリンが掃除していた。

 【邪悪】のスキルを奪ったからか、ホブゴブリンは福祉活動に以前より力を入れている。


 【13日目】

 今日から服を着た生活が始まった。

 食事とトイレの改善も要求する。

 昨日体力が落ちていることを実感したので夜に筋トレを開始。

 吸血鬼のリサは「眷属になれば身体能力なんかすぐに上がるのに」と勧誘してくるが断る。


 【14日目】

 要求が通って食事は粗食、トイレは監視付きで行けるようになった。


 【15日目】

 トイレでミノタウロス達にボコられる。

 オレは身を丸めて頭を守ることで精一杯だった。

 今に見てろ。絶対に殺してやる。

 改めて復讐を心に誓う。


 【16日目】

 オレがボコられたことに対してセイレーンたち女子勢とミノタウロスたち男子勢が対立。

 そこに争いに加担してなかった一匹狼のメデューサが【邪眼】でミノタウロスを殺しかける。


 【17日目】

 女子勢によるオレへのチヤホヤが始まる。

 女子勢はアルラウネ、サキュバス、スキュラ、セイレーン、ラミアの5人。

 ゴーゴンは相変わらず遠くからチラチラこっちを見てるけど輪には入ってこない。

 メデューサも一匹狼の女ヤンキーって感じで我関せずの模様。


 【18日目】

 ミノタウロスたち不良勢の勢力が弱まったからなのか、今まで声をかけてこなかった男子生徒たちが話しかけてきた。

 なんでも許可を取ったからということでグラウンドでサッカーをすることに。

 メンバーはガーゴイル、ケンタウロス、タロス、ホブゴブリン、ラストモンスター、ローパー。

 でっかいノミみたいなラスト・モンスターと触手うにょうにょのローパーのキーパーがヤバかった。あとケンタウロスがスキルの【軌道予測】で点取りまくってた。

 久しぶりに思いっきり体動かしたから疲れた。


 【19日目】

 リサから【透明】のスキルを持ったインビジブル・ストーカーという魔物がクラスにいることを聞く。


 【20日目】

 よくも悪くも魔物側もオレもこの状況に慣れてきた気がする。

 復讐心を折られないように気をつける。


 【21日目】

 今まで姿を見せなかったワイバーンが登校してくる。

 ワイバーンなだけに飛んでいる。

 スキルは【高速飛行】。

 窓の外からオレをひと目見ると「最終日にまた来る」と言って帰っていった。


 【22日目】

 全員分のスキルが判明したのでスキルを奪う順番を考える。

 前日に奪っても気づかれなさそうなもの。

 当日朝に奪っても気づかれなさそうなもの。

 一斉に奪う時に最初に奪うもの。

 そして別に奪う必要のないもの。

 うん、これでいこう。


 【23日目】

 あと一週間でお別れということで全体的にお見送りムードが漂い始める。

 みんなが妙に優しい。


 【24日目】

 餌が豪華になり、トイレの付き添いや寝具、服など、魔物たちが過剰に気を遣い始める。


 【25日目】

 ミノタウロス、オーガが初日にイジメたことを謝りに来た。

「気にしてないよ」と言うと「本当にすまなかった!」と涙を流して頭を下げてきた。

 許すわけ無いだろうがボケが。

 お前らだけは絶対に殺す。


 【26日目】

 リサが「どうせもうすぐ殺されるのだからもっと血を飲ませろ」と言ってきた。

「最終日前日になったらもっと飲ませてやる」と言っておく。

 重大な取り引きは出来るだけ引き伸ばして相手に考える時間を与えないようにする。


 【27日目】

 檻の中に花が添えられ始めた。

 いっちょまえに罪悪感でも芽生え始めたらしい。

 魔物のくせにな。


 【28日目】

 女どもは昼過ぎからシクシク泣いてる。

 男連中もなんか気まずそうだ。

 動物型の魔物キマイラ、ケルピー、ケルベロスが背中に乗せてくれた。


 【29日目】

 ついに来た。

 オレの処刑前日。

 この日は一日オレとの生活を振り返る授業だった。

 みんながオレとの思い出を作文で読み上げていく。 

 嗚咽で声にならなくて中断する魔物もチラホラ。


(アホくさっ)


 そんなに泣いててもどうせ明日になったらオレを殺すつもりなんだろう。

 お前らはしょせん魔物だ。

 永久にわかりあえない。


 放課後になってみんなが別れの挨拶を言いに来る。

 セイレーンが「今日はみんなでここでお泊まり会しよう」と言い出すが、オレは「今日は1人でいたいんで」とやんわり断る。


 名残惜しそうにみんなが去っていく中、オレはこのタイミングで奪っといても問題なさそうなスキルを吸収していく。


──吸収。

──吸収、吸収、吸収ッ!


 キマイラの【咆哮】、ケンタウロスの【軌道予測】、デュラハンの【死の予告】、ミノタウロスの【旋風斧】。

 4つのスキルを【吸収眼】で奪い取る。

 これらは今から半日のうちで使うことも少ないだろうし、仮に使っても「なんか調子が悪いな」程度にしか思わないだろう。


 よし、じゃあリサが来る夜まで仮眠を取っておくか……。


 ◇


 香ばしい匂いで目を覚ました。

 檻の前にはターキーとワインをたずさえたリサが座っていた。


「今日はずいぶんと豪勢なんだな」

「さ、最後の夜だから持ってきてやっただけですわっ! い、今からあなたは私にたくさん血を吸われるのですからねっ! そ、その……たっぷりと精力……をつけていただかないと……」

「なんだって?」

「ですから今からあなたは私に……」

「そこじゃなくて最後だ」

「最後……? そ、その、だから、せい、精力、を……ちょっと、なに言わせるんですの!」

「お前が勝手に言ったんだろうが」


 リサをからかうのは楽しい。

 血を提供してる強みがあるとはいえ、ここまで気取らず話ができる相手がいたことは心の支えになった。

 だが、それもここで終わりだ。


「血を吸わせてやる約束だがな」

「や、やっと覚悟を決められまして!? わ、ワタクシの眷属になれば明日を乗り切ることが出来るかもしませんからね!」

「眷属……? ならねーよ、そんなもん」

「はぁ? あなた約束なさいましたよね? 今日私にたくさん血を吸わせると」

「約束? したっけなぁ~? 何しろオレは騙されてここに連れてこられたからなぁ~。その約束ってもの自体がどんなもんなのか忘れちゃったかもしれないなぁ~」

「あなた、一体さっきから何を言って……」


──吸収。


 リサの持つ【吸血】のスキルを得たことを感覚で理解する。


「は……?」


 リサはぺたんと床に腰を落とす。


「悪いな、もらったぜお前のスキル【吸血】」

「……は?」


 リサは自分の歯を手で触る。


「……ない。牙が……ない……?」


 オレは【鑑定眼】でリサを見る。

 固有スキルの【吸血】を失ったリサは……種族が人間になっていた。


「おっ。お前人間になってるな」

「は……い……?」


 リサの目が死んでる。


「オレのスキルの【吸収眼】でお前の【吸血】スキルを吸収した。【吸血】スキルを失ったお前は吸血鬼であるという資格自体を失って人間になったみたいだな。あ、これはオレの右目の【鑑定眼】でわかることだ」

「え、ちょっとなにを言って……」


──死の予告。リミット1年。


 リサの体が鎌を持った死神に貫かれる。


「──ッ!!」


 リサの目から涙が飛び散る。


「ハァ……ハァ……」

「次はお前の寿命を決めさせてもらった。お前は1年後に死ぬ。この死のタイムリミットを更新できるのはオレだけだ。つまり」


 リサの耳元に顔を近づけて囁く。


「明日オレが死んだらお前は1年後に死ぬ」


 愕然とするリサの表情。


「ぁ……ぁっ……!」


 無理もない。

 惨めな人間に哀れみをかけてやってたら、自分が人間に堕とされたうえに、スキルも奪われた挙げ句、余命まで1年にされたんだ。


「そんな……そんな……」


 リサはわなわなと震えている。


「戻して! 今すぐ戻してよ私を吸血鬼に!!」

「すまない、お前が吸血鬼に戻る方法は、ない」

「そ、そんな……ダメだめなのぉ……私が人間なんかになったらみんなに殺されるぅ……殺されちゃうのぉ~……」


 子供のように泣きじゃくるリサを見てオレは悪戯心が湧き上がってきた。


「へぇ……?」


 ターキーにかぶりつき、スキル【狡猾】を発動させると、悪魔のように囁いた。


「じゃあ、オレと来れば?」

「……へ?」

「オレは明日、このクラス全員のスキルを奪って人間界に帰る予定だ。だからお前もオレと一緒に来ればいいんじゃないか? そしたら寿命も更新してやれるし、お前が吸血鬼に戻る方法も見つかるかもしれない。もしかしたらオレのスキルがパワーアップして、スキルを与える力なんかも身につくかもしれないぞ? ん?」


 リサは返事こそしないが、檻にすがりついてくる。


「もしオレと一緒に行きたいのなら、明日の朝ここに来るんだ。もう人間だから朝日も大丈夫だろ」


 リサは小さく頷く。


「言っておくが、このことを口外してオレが死んでもお前の未来はないんだからな」


 リサは怯えているのか返事をしない。


「オレはお前と話せて楽しかったんだ。リサがいなかったら29日間耐えることが出来なかったと思う。ありがとう。でも、オレが生き残るにはこうするしかなかったんだ。それだけはわかってほしい」


 リサはふらふらと立ち上がり、教室から去ろうとする。


「……アンケート」

「え?」

「さっきアンケートきた。《フィードの殺処分に賛成か反対か》って。全員反対だったら殺処分しないらしい……」


 へぇ……。

 まぁそんなことありえないだろうがな。


「私は……反対しといたから」


 それだけ言うと、リサは教室から姿を消した。


「ハッ!」


 人を騙してさらってきて監禁した挙げ句にアンケートで生殺与奪権をプレゼントかよ!

 ふざけやがって、ぜってーぶっ殺してやる!

 そう固く心に誓った。


 【吸収眼】ストック上限19。

 明日奪う予定のスキルの数21。


 現在のオレのスキル。

 【鑑定眼】【吸収眼】【狡猾】【偏食】【暗殺】

 【邪悪】【死の悲鳴】【咆哮】【軌道予測】

 【死の予告】【斧旋風】【吸血】

もし少しでも「チョロ吸血鬼リサリサかわいそ」「30日目どうなるんだろう」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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