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ゴブリンの恋

 ゴブリンの恋というものはわかりやすいらしい。

 特に女ゴブリンは会った瞬間にひと目で自分のツガイとするべき相手が本能でわかるそうだ。

 そしてその求愛行動は非常に直線的で──情熱的。


 飛びついてきたゴブリンの姫に押し倒されてキスされながら、オレは大悪魔から奪ったスキル【博識】でそんな内容を調べていた。


 んだけど。

 ん……。

 いやちょっと……。

 く、くるし──。


 ぶはっ!


 姫の肩を両手で引き離すと、オレは大きく息を吸い込んだ。

 姫も息を吸い込むと、もう一度唇を近づけてくる。


「ちょっと待って! ちょちょちょちょちょ、ちょ~~~っと! 待っ! てっ!」


 オレはそう叫ぶと姫を抱きしめ、そのままローリングして呪いの部屋から脱出した。

 オレは姫を膝立ちにさせると肩を掴んで落ち着かせようと声をかける。


「姫、何をしてるんで……ぶはぁッ──っ!」


 モモがスキル【聖闘気】をまとわせたグーパンでオレのアゴをピンポイントでぶん殴った。


「なにしてんのフィードくん! 男の子のヒナギクちゃんにいきなりキスしたり! かと思ったら次はお姫様にいきなりキスしたり! いくらなんでも幼なじみとしてこれは見過ごせないよ!」


 アンデッドのモモは自分の纏った【聖闘気】で体がボロボロと崩れていってる。


 おいおい、モモのスキルとアンデッド化の相性悪すぎるだろ……。

 っていうか全力でアゴ殴るのやめてマジで。

 ダメージもそうだけど脳が揺れてヤバいから。


「フィードさん!」


 ルゥが心配して駆け寄ってきてくれる。


 ビシッ!


 ルゥはオレの頬にビンタを食らわせると回復を始めた。


 え、ちょっと待って! いる? 今のビンタ。


 突然のことに頭が追いつかないオレは救いを求めてリサに視線を送るも、ゴミを見るような軽蔑の目つきで見下されてしまう。

 一方、ヒナギクとダイアは「フィード様、またキスしたくなったらいつでも言ってくださいっス。男の姿でも女の姿でもオーケーっスよ」「さすがは主様! ゴブリンの姫君をも魅了してしまうとは!」と茶々を入れてくる。


 目の前ではゴブリン姫がまだキスしようと迫ってきてるし、横を見ればモモが泣きながら体ボロボロ崩れていってるし、なんなんだこの状況! あ~、もうめちゃくちゃだよ~~~~!


 ◆◇


 それから皆が落ち着き、さらにオレが数発殴られた後、オレたちは呪いの小部屋のさらに先にある大洞穴だいどうけつへとやってきていた。


「うわぁ、こんな広いところがあったんだぁ」


 狭い通路を抜けた先にあらわれた一面のひらけた光景。

 そのスケールに圧倒されてオレたちは感嘆の声を上げる。


 キィンキィン!

 ワーワー!


 大洞穴の真ん中辺りからなにやら喧騒が聞こえてきた。


「あれはなんだ?」


 ゴブリンの姫、グローバはオレに両腕を絡ませながら問いに答える。


「あれは私の夫となる者を選別するために戦ってるのです。はぁ……私の夫はもう決まったのですから、もはやあの戦いも無意味ですね」


 なんかもうオレの妻みたいに振る舞ってるグローバ。


「いやいや決まってない! キスしただけで決まってないから!」


 即座にグローバの言葉を否定するモモ。


「そ、そうです! キ、キスしただ、け……あわわわ!」


 そして否定しながらも「キス」っていう言葉に照れちゃってる純朴すぎるルゥ。

 なんかゴブリンたちの夫選びとは別に、こちらでもまた謎な戦いが起こりかけてるような気がする。


「何度も言ってるけど、オレはやらなきゃいけないことがあるからグローバとは結婚出来ない。だからちょっと離れてくれ。誤解されると面倒だ」

「ご、誤解……。そんな……あれは誤解だったというのですか!?」


 緑色の顔面がより蒼白になり、力なくよろよろと地面に伏すグローバ。


 あ、これまずい流れかも。

 このままグローバにキレられたら、ここの精鋭ゴブリン全員との戦いになっちゃいそう。


「え~、いいじゃないっスか誤解でも。自分は別に構わないっスよ。ワンナイト全然オーケーっス」

「さすがは我が主! 英雄色を好むとはこのことですな!」


 頼むから黙っててお前らは。

 ほら、グローバだけじゃなくてモモとルゥの怒りのバロメーターも上がってきちゃってるから!


「結婚するしないは別に後からでもいいんじゃないの? そもそも人間とゴブリンの間での結婚の捉え方も違うでしょうし」


 リサがナイス提案をする。

 いいぞリサ!

 そう思ってリサに視線を向けると、また生ゴミでも見るみたいな目で見られた。

 お、おう……なんかこういう嫌われ方するより、露骨に殴られたりしたほうがマシだな……。


「たしかにそうですね。では、この戦いをやめて引き上げるように提言して参りましょう」


 地味に傷ついてるオレを横目に、グローバはさっと切り替えて即時行動に移す。


 う~ん、恋愛に関してはアレだけど、こういう判断に関してはほんと聡明で有能なんだよなぁ、この子。


 グローバは大洞穴を見下ろせるせり出た場所に移動すると「グギャギャギャーギャ、グギャギャ!」とゴブリン語で叫ぶ。


「ギャ……? グギャギャ……?」


 戸惑ってる様子のゴブリン達。

 すると大洞穴の反対側にあるせり出たとこに、見るからに「ゴブリンの王様」って感じのマントと王冠をかぶった威厳のあるゴブリンが出てきた。


「グギャ!」


 一同のゴブリンがひれ伏す。


「グギャギャ!?」

「ギャギャッ!」


 そう言うと、グローバはオレの腕を取ると皆に見せつけるように前へと連れていった。


「グギャー! ギャー!」


 大洞穴は異様な熱気と叫び声に包まれる。


 うん、なんかめっちゃ嫌な予感がしてきた。


「ギャッ! ギャーーー!」


 ゴブリン王がドクロの杖でオレを指すと、戦いを繰り広げていたゴブリンたちが一斉にこちらめがけて走りだしてくる。


「あ、あの……グローバ? 今の話はなんて?」

「この者たちを全員殺せば私の夫として認めてくださるそうです! さっ、がんばってください!」


 はぁぁぁぁぁ~…………!

 やっぱこういう感じになっちゃうのね!


「ちなみにお仲間全員で戦ってよいそうです、みなさんもがんばってください!」


 オレが後ろを振り向くと、リサたちにめちゃめちゃ睨まれた。


「あんったねぇ~……」

「はぁ……。フィードくんってほんとトラブルメーカーだよねぇ」

「みなさんが怪我したら治しますので言ってくださぁ~い……」

「自分、面倒なんで消えてるっスね」

「主様! 今こそ我らが力を見せつけてやりましょう!」


 うん、チームワークばらばらっ!


 隣を見ると、オレの勝利を信じて疑わないかのようなニコニコフェイスでこちらを見つめているグローバ。

 前を見ると、怒り丸出しでオレめがけて襲いかかろうと走ってきてるゴブリンの群れ。


「こうなっちゃったもんはもう仕方がない。みんな、いくぞおおおおおお!」


 そうしてオレたちは襲いかかってくるゴブリン達に向かい、例によって大きく宙へと飛んだ。

次話【ゴブリンの王】

間に合えば8月19日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「やっぱり宙に飛ぶんだ!?」「今回特にハチャメチャで草」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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