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ゴブリンの巣穴

 オレたちは小高い丘の上から、目下に広がるゴブリンの巣穴──つまりは洞窟を見下ろしていた。


「ふぁ~、あっという間に着いちゃいました~」

「うん、今日は途中で一泊する予定だったんだけどもう着いちゃった。すごいね、この子たち」


 そう言って乗ってきたダイアウルフを撫でるモモ。

 撫でられたダイアウルフは嬉しそうに舌をべろんと回した。


「まだ夕方だけどどうする? このまま突入する? それとも夜まで待つ?」


 またがったダイアウルフから下りながらリサが聞いてくる。


「そうだな、まず中がどうなってるかを知りたい。ヒナギク、調べられるか?」

「はいはい、そういうのはお手のもんっスよ。ちゃちゃっと行って帰ってくるっス」


 そう言うと、ヒナギクの姿がスゥっと消えていった。


(空気と一体化したのか?)


 さっき眷属になりたてホヤホヤのヒナギクに『思念通話』で話しかける。


(わ、そういやこれが使えたんスよね。便利っスね、これ。あ、自分は空気と一体化して今洞窟の中に入ったっス)

(中の様子はどうだ?)

(ん~、暗いんでよくわかんないんスけど、これ結構いるっスねゴブリン)

(中の構造はどうなってる?)

(入り口は狭いんスけど、中はわりと入り組んでてややこしいっス。あ、なんか人の声がするっス)

(人? 誰か捕まってるのか?)

(見張り付きの小部屋があるっスね。奥で女の人が泣いてるっス。もっと近づいて見てみるっス)

(頼む)

(あっ──)


 あ、なんか嫌な予感のする声。


(閉じ込められたっス。罠っス、これ)

(は?)

(なんか一回入ったら二度と出れない的な呪いがかけられてるぽいっスね。アンデッドになっててよかったっス。人間のままだったらこのまま飢え死にしてたっス)


「──ヒナギクが捕まった」

「は? 凄腕忍者じゃなかったのあの子?」

「なんか呪いの小部屋みたいなのに入っちゃったらしい」

「なにそれ? 呪いとか全然詳しくないわよ。ルゥは知ってる?」

「いえ、学校ではもっと上級生が選択教科で選んで学ぶような専門的なものなので私は……」


 ちらりとセレアナの方を見るが普通に視線を外された。

 そりゃ知ってるわけないよな。


「フィードくん、どうする?」


 心配そうに聞いてくるモモにオレは「ヒナギクを助けに行こう」と即答する。


「では、あの入り口の見張りを蹴散らさなきゃいけないわよねぇ」


 そう言ってセレアナは宙に飛ぶと、振り上げた斧を地面に叩きつけた。


 ドゴォーン……!


 舞い上がる土埃の中から魔物の姿に戻ったセレアナが現れる。

 腕は青い羽根になり、足は鳥の鉤爪かぎづめになって山賊用に新調した斧を握りしめている。


「最近ずっと人間のフリしててストレス溜まってたから、久しぶりに暴れさせてもらいますわぁ~~~!」


 そう言って羽根を羽ばたかせて宙に浮くと、足で持った斧を粗暴に振り回しゴブリンたちの命を刈り取っていく。


「あの馬鹿──ッ!」


 入り口のゴブリンたちが「ギャギャギャギャッ!」と騒いで異変を伝えている。


「全員突入だ! なるべく静かに制圧しよう!」

「もう遅いわよ!」

「わかった! 静かにだね!」

「我が主、承知いたしました!」


 それぞれ叫びながら2人と1匹が宙に舞った。


 ドゴォーン……!


 竜騎士リサは轟音を立てながら滑降攻撃を行い。


 ドゴォーン……!


 格闘家モモは着地の勢いを利用して拳を地面に叩きつけ。


 バリバリバリ──ッ!


 魔狼ワーグのダイアは「疾風迅雷!」と叫ぶと、激しい雷音を身にまといゴブリンたちを屠っていく。


 ……うん、うるさい。

 静かに制圧してって言ったのに馬鹿なのかな、この子たち?


「ダイアウルフたちもゴブリンが出てきたら取り押さえて」


 そう伝えるとダイアウルフたちは「アオーン!」と吠えながら丘の上から宙に舞った。


 あ、うん。やっぱり飛ぶんだ?

 そうだよね、全部この小高い丘が悪いんだよね。

 丘の上から下にいる敵に襲いかかろうと思ったら、もう宙に舞っちゃうのは仕方ないよね。


「はぁ……」


 オレはひとつため息をつくと、みなと同じように宙に飛び上がった。


「もうどうなろうと知ったこっちゃねぇぇぇぇぇ!」


 そう叫ぶとオレはワイバーンへと姿を変え、ゴブリンたちへと襲いかかる。

 それから、まるで一国でも攻め落とせるんじゃないかというほどの圧倒的で苛烈な蹂躙じゅうりんを終えたオレたちは、突入前に体制を整える。


「私はここに残るわぁ」


 ひとしきり暴れて満足した様子のセレアナがそう言う。


「そうだな、外から戻ってきたゴブリンに挟み撃ちにされても面倒だから誰か待機しといてくれると助かる」

「では、私の配下たちも残しましょう」


 アオーン!


 ダイアウルフ達が嬉しそうに遠吠えしてセレアナにすりすり肌を擦り付けてる。


「ちょ、ちょっとなんですの!?」

「みんな『ねえさん! 姐さん!』と言ってますな」


 ダイアが通訳する。


「ね、姐さん!?」

「え、山賊と狼って相性いいみたいな感じなのかな?」

「ちょ、ちょっとやめなさいって!」


 ダイアウルフたちにもみくちゃにされるセレアナを見ながらオレは「こいつら、進化の媒介となったオレより懐いてんじゃん……」と軽く嫉妬を覚える。

 まぁ、とりあえずセレアナとダイアウルフたちを残したオレたちは、思念通話によるヒナギクの道案内によって、呪いの小部屋の前にたどり着いた。


「ぐ……ッ!?」


 スキルで透明化したオレが見張りを始末し、小部屋の中を覗き込む。


「だ、誰ですの──!?」


 中にいた人物が声を上げて振り返る。


「ゴブリン……のお姫様──?」


 そうとしか言い表しようのない風体の女性の姿にオレたちは目を奪われていた。

次話【キスしないと出られない部屋】

間に合えば8月17日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「まさかのゴブリンの姫!」「丘の上からはみんな飛び降りたいよね、わかるよ……」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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