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私、ヒナギクっス

 木漏れ日を反射させて儚く光る紫髪のボブヘアー。

 その下に伸びるスラリとした細い首筋。

 そして、そこに空いた2つのくらい穴。

 穴から首筋へとしたたった一筋の血が地面へと落下する。

 

 ポタリ。


 するとオレの足元にザクロの花が1つ咲いた。


 え、なんか詩的。

 吸血鬼ってこんなポエミーな気分になるんだ。

 スキル【吸血】を発動してるからか、なんかいちいち高貴でナルシストな感じで物事をとらえてしまう。


 しかし、なるほどだな。

 確かにこんな気分だったらリサみたいな性格になっちゃうのもわかる気がする。


「ん……。これは……?」


 女忍者ヒナギクが血の気を失った真っ白な自分の腕を見て呟く。


「あ、キミ、オレの眷属になったから」

「は?」

「ちなみにキミはもう死んでアンデッドになりました」

「は?」

「そしてこちらがキミの先輩アンデッド。数分前にオレの眷属になったモモです」

「あ、私先輩です! わからないことあったら何でも聞いてねー! って私もよくわかってないけど!」


「はああああああああああああああ!?」

 

 ヒナギクは叫び声を上げる。


(おいおいヒナギク、そんな大声上げるなんてお前それでもほんとに忍者か?)

(は!? なにこれ、頭に直接言葉が入ってくるんだけど!)

(あ、これ思念通話。なんか眷属との間ではこういうのも出来ちゃうみたい)

(なにこれ! キモイキモイ! マジでイヤ! 勘弁して! っていうか眷属ってなに!? なんで私こいつらの前にいんの!?)


 無言で見つめ合ってるニヤニヤ顔のオレと、ドン引き顔の女忍者。

 一瞬の間の後、女忍者の姿が薄れて見えなくなっていく。


 ほほう、これがこいつのスキル【同化】かぁ。

 空気と一体化でもしようとしてるのかな。

 それじゃ、まだ試してなかったあのスキルでも使ってみますか。


──罵倒。


 そのスキルを発動させた瞬間、腹の底から抑えようのない怒りが溢れ出てくる。

 そして次の瞬間、思ってもない言葉が勝手に口から飛び出してきた。


「このク××ビ××! ア×××! ×××××!」


 スキルによる状態変化を解除するハーピーの固有スキル【罵倒】。

 その聞くに堪えない言葉を食らった女忍者は、消えかけていた姿を再びはっきりとあらわす。


「ななな、なにこれ……。なんで私のスキルが解けてるんスか……」


 わなわなと震えるヒナギク。


「フィード、眷属には最初に《命令》しておいた方がいい」

「ああ、そうだな」


 リサの忠告に従い、思いついたいくつかのことを女忍者に《命令》する。


「我が眷属ヒナギクに命ずる」


『オレたちに危害を加えるな』

『オレたちに不利益をもたらす行動をするな』

『オレたちから逃げるな』

『勝手に命を落とすな』


「ぐッ──!」


 女忍者は目端に涙を浮かべ、ビクンと仰け反った。

 吸血鬼の感覚によって彼女の魂にくさびが打ち込まれたことが理解わかる。


「ねぇねぇフィードくん! 私にもなにか命令して!」


 モモがめちゃくちゃ空気を読まないことを言ってくる。


「う~ん? モモに命令するようなことは特にないなぁ」

「え~、私も今のビクンってなるやつやりたいよ~!」


 え、そういう理由……?


「あ~、え~っと、じゃあ……」


『絶対にオレより先に死ぬな』


 モモは女忍者と同じように仰け反ると目の端に涙を浮かべて少し震えた。


「わぁ~、これかぁ……」


 モモはそう言うと「これでフィードくんより先に死ぬことはなさそうだね」と笑顔で続けた。

 モモとそんなやり取りをしてる間に、リサとルゥが女忍者に事情を説明してくれてたようで、女忍者は「はぁ……じゃあ私はあなた達と一緒に行くしかない、ってことっスよね……」と心底嫌そうにため息をついた。


「理解が早くて助かるよ。みんな、忍者のヒナギクだ。よろしく」

「はぁ、ヒナギクっス。え~っと、私は今アンデットで、忍者で、殺そうとしてたターゲットの眷属にさせられた間抜けで無能なクズっス。しかもなぜか私の名前も職業も知られてたみたいっス。どうぞよろしくっス」


 う~ん、突然の語尾アピールが凄い。

 元々こういう奴なのかな?

 まぁ、いい。これでオレたちの危険が一つ消えた。


「私、もう人間には戻れないんスかね?」

「え? 戻れるわよ?」

「え、戻れるんスか!?」

「え、戻れるの!?」


 リサの即答にオレとヒナギクが同時に激しく反応する。


「ええ、眷属にされた主の血を吸えば」


 瞬間、ヒナギクはオレに飛びかかり首筋に噛みつこうと大口を開ける。


「でもあなたは出来ないわよ。フィードが【吸血】スキルを発動させてる時じゃないと意味がないし、なによりあなたはフィードに危害を加えられないように《命令》されてるから」


 あむっ。


 ヒナギクに噛み付かれる。

 が、これは……甘咬みされてるだけだ。

 オレたちに危害を加えるな──という《命令》に逆らえないヒナギクはオレの背中に張り付いてエンドレスではむはむ甘咬みし続ける。

 そんなヒナギクは置いといてオレはモモの肩を掴む。


「モモ! オレの血を吸ってくれ! 人間に戻ろう!」


 快活に告げるオレの言葉に、意外にもモモは気乗りしなさそうに視線を逸らした。

 

「え、モモ……?」

「あ、あのね、フィードくん。私……」


 言いづらそうにモモが続ける。


「しばらくはこのままでいいかなって思うんだ」

「え? なんで?」


 素朴な疑問が口をつく。


「私、フィードくんの眷属にしてもらったからか、フィードくんの気持ちがちょっとわかるようになったんだ。どれだけフィードくんがその……復讐する相手を憎んでるかも。だから、この体のほうがよりフィードくんの力になれるんじゃないかって思って。それに……眷属だと『思念通話』っていうのが出来るんでしょ?」

「たしかにそうね」


 リサが同意する。


「たしかに眷属化は便利だし、いつでも人間に戻れるわけだから別に今じゃなくてもいいんじゃない?」


 たしかに。

 離れていても話せる思念通話は便利だし、これから向かうクエストに関しても肉体的なリスクが激減する。

 でもモモをそんな道具みたいに考えるのは、やっぱりちょっとはばかられる。


「う~ん……よし、わかった……。でも、絶対に後から人間に戻ってもらうからな」

「うん!」


 モモは笑顔でそう返事をすると(フィードくん! フィードくん! フィードくん! フィードくん!)と思念通話を飛ばしてきた。


(えっと……モモ、こういう思念通話の使い方はやめて?)

(うんっ!)


 返事は元気いいけどほんとにわかってんのかな……?

 まぁ色々あったけど、やっとこれでクエストに向かうことが出来るな。


「よし、それじゃあみんな行こ……」


 その時、ダイアウルフがオレの声を遮った。


「お待ち下さい、我が主」


 ん……? 我が、あるじ……?

次話【騎乗狼ダイア】

間に合えば8月15日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「モモちゃん人間に戻れそうでよかった」「ヒナギクは後輩キャラなのかな?」「狼……? 我が主……?」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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