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女忍者、木から落ちる

 突如遭遇した狼殺害事件の犯人として皆の注目を一身に集めるモモ。


「え、え、みんな私を疑ってる!? ムリムリ、無理だよ! 私がガイドの依頼受けたの待ち合わせの直前だし! 大体、私こういう切りができるような武器使わないよ!」


 たしかにそうだ。

 時間的、状況的、性格的に考えてもモモがこんなことするはずがない。

 となれば考えらるのは、あの面談にいた3人の誰か。

 冒険者ギルド、教会、王国。

 このいずれかにくみする者が尾行し、先回りしてたとしか考えられない。


 いや。


 考えられうる最悪のケースは、その3者すべてが関わっていた場合だ。

 でも、オレたちを襲ってくる理由は?

 聖女が邪魔だったから?

 それとも聖女以外を殺そうとしてた?

 もしくは。


 オレを殺そうとしてた──?


 いくらオレが変身してるからといって、それを見破るスキルが世の中に存在しないわけではないだろう。

 オレたちの会話を聞かれた可能性もある。

 これは……想像してたよりも難易度の高いクエストになりそうだな。


──高速飛行。


 オレは宙に浮かぶと、指に唾を付けて風下の方向を確認する。

 鼻のいい狼をダシに使うくらいだ。

 この状況を仕向けた尾行がいるとすれば、間違いなく風下にいるはず。


 ふむ、大体あのへんかな。


──洗脳。


 おおよその見当をつけた辺りに【洗脳】の範囲スキルを放つ。


 ドサッ。


 一瞬の後、木の上から人影が落ちてきた。


「ダイアウルフ、確保してくれ!」

「わかった!」


 地面を縫うように駆け、ダイアウルフは人影を押さえつけた。


「この匂いは……!」


 人影に鼻を近づけたダイアウルフが断言する。


「あの布切れに微かに残っていた匂いだ!」

「間違いないんだな?」

「ああ、オレを誰だと思ってる? 匂いを間違えるなんて絶対にありえねーよ」

「そうか、ありがとう」


 ダイアウルフに取り押さえられた人物の周りを取り囲む仲間と狼たち。


「みんな、こいつが誇り高き狼の一族を手にかけ、オレたちがぶつかるように仕向けた張本人だ」


 そう言って、オレはうつ伏せに押さえつけられていた人間の顔を表に向ける。


「え……?」


 子供……?


 雑に切られた紫色のおかっぱ頭の女の子。

 日に焼けた小柄な彼女が、髪と同じ紫色の瞳を虚空に向けて放心している。


 こんな子供が本当にオレたちを殺し合わせるように仕向けたりしたのか……?


 どうしても信じられないオレは【鑑定眼】で詳細を調べる。


 ヒナギク

 人間

 忍者

 レベル 22

 体力 41

 魔力 1

 スキル【同化】

 職業特性:諜報


 忍者!

 噂には聞いてたけどほんとにあるんだそんな職業!

 っていうか忍者なら……出来うるかもな。

 オレたちの服を盗んで先回りして罠を仕掛けることが。


「オレが今から聞くことを仲間に伝えてくれるか?」


 ダイアウルフにそう言うと「わかった」と返事が返ってきた。


「女、オレの問いに答えろ。お前は誰だ」 

「わたし、は……ヒナギク。白銀騎士ラベル様に仕えるしのび


 ヒナギクと名乗る少女はたどたどしく喋り始める。


「オレたちがぶつかり合うように仕向けたのはお前の仕業だな?」

「はい」


 スキル【洗脳】に侵された少女はぼんやりとした瞳のまま即答する。


「なぜそんなことをした?」

「聖女以外の人間を殺すため」

「なにっ? なぜそんなことを?」

「知らない」

「知らない? なぜ?」

「任務に関係ないことは何も聞かない。聞く意味がない」


 これは……思ったより情報を引き出すのは難しいかもしれないな。


「お前はラベルに命令されてオレたちを殺そうとしたんだな?」

「そう」

「なんでそんなまどろっこしいことをする? 普通に殺しにくればいいだろ」

「知らない。私に命じられたのは監視と、事故に見せかけた殺害。それだけ」

「お前とラベル以外にこのことを知っているのは?」

「冒険者ギルト長と大司教」


 ああ……やっぱり全員グルなのか……。


「……鑑定士について知ってることは?」

「ない」

「王国は民を魔界に売り渡したりしてるのか?」

「知らない」

「お前のスキル【同化】とはなんだ?」


 オレの【博識】で調べてもわからなかったスキル。


「周りの無機物と一体化できる。空気と一体化すれば姿を消せるし、風と一体化すれば速く移動できる」


 え、なにそのチートスキル。

 っていうかそんなスキル持ってたらそりゃオレたちの部屋に侵入するのも、礼服盗むのも、先回りして罠を仕組むことも出来るよね。


「白銀騎士ラベルとは一体どういう人間だ?」

「ラベル様はこの世界の至宝にて至高。ラベル様のためなら死ねる。いや、死にたい。あの美しすぎるお顔、うれいを帯びた所作、権力争いに巻き込まれて実力の発揮できない役職を負わされいる不幸! 全てが愛おしい! そしてそんなラベル様を24時間監視できる私のこの役職はまさに役!!! 得ッ!!!! 早くこんなくだらない任務終わらせてラベル様の元へ帰りたい! というわけだから早く死ねぇぇぇぇえええ!」


 うおっ!


──軌道予測ッ!


 女忍者の突き出してきたクナイを間一髪でかわすと、ダイアウルフが再び押さえつけた。


「フィードさん! 大丈夫ですか?」


 ルゥが慌てた様子で駆け寄ってくる。


「あ、ああ……」


 洗脳状態から勝手に感情(たか)ぶらせて襲いかかってきたぞ、こいつ。

 言ってることもよくわかなんなかったし、なんかヤベーやつだな……。


「最後に聞くぞ、お前が囮として利用した狼の仲間たちについてどう思う?」

「……別になにも」

「そうか」


 オレはダイアウルフに目で合図を送る。


「オレからは以上だ。あとはお前らの好きにするがいい」


 そう伝えると、ダイアウルフは「アオーン!」と高らかな雄叫びを上げた。

 その声につられた狼たちが敵意を剥き出しに「グルルル……」と唸り始める。

 そして狼たちは女忍者との距離を縮めていくと一斉に飛びかかった。


「ダメッ!」


 飛びかかる狼と少女の間にモモが割って入る。


「モモさん!」


 ルゥの叫び声も虚しく、狼たちの牙がモモに突き立てられる。


「あああああ────ッ!」


 そんな、嘘だ……!


「モモーーーーッ!」


 オレはスキルを使うことも忘れて無我夢中でモモに向かって走り出した。

次話【タイトル未定】

間に合えば8月13日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「モモちゃん……大丈夫!?」「ヒナギク、もしかしてメンヘラ……?」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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