ダイアウルフのモフり方
もしこの世に「気まずい瞬間ランキング」ってものがあったとして。
『前日にひどい別れ方をした幼なじみと、翌日に女装した姿で再会する』
ってうのは何位に入りますか?
正確に言うと女装ではなくてスキルで【変化】した姿なんだけど、モモから見たらただの女装だよね、これ。
そんな気まずい状況の中、見つめ合うオレとモモ。
「と、とりあえず行こっか?」
説明を放棄するオレ。
「う、うん。私もちょっと整理するのに時間がほしいかも」
そうして、オレたちの初クエストはぎこちない雰囲気で始まった。
モモの指示に従って森の中を抜けていく。
「ねぇモモさぁん、フィードの子供の頃ってどうだったのぉ?」
「う~ん、アベル……いやフィードくんはね~、結構いつも泣いてたかも」
「えー! フィードって泣き虫だったの!?」
「いや、子供の頃の話だからね、子供の頃の!」
「モモさん、もっと詳しく教えてください! 私も気になります!」
モモの人柄のよさもあってオレ以外の4人は和気あいあいと会話が弾んでいる。
しかもオレの子供の頃の話なんか聞いてるし……。
もう気まずい通り越して居心地悪すぎだろ、この冒険……。
「しっ──!」
モモが口に指を当てて周囲を警戒する。
「縄張りに踏み込んじゃったかも……」
グルルル……。
モモの予感通り、四方から敵意をあらわにした狼の群れが現れた。
「私に任せて!」
モモはそう叫ぶやいなや、群れへと突っ込んでいく。
「モモさん!」
心配したルゥが叫ぶが、オレは「大丈夫だ」と声をかけた。
進化した【鑑定眼】でモモを見てみるが、そのステータスの高さに改めて驚かされる。
モモ
人間
武闘家
レベル 14
体力 89
魔力 6
スキル【聖闘気】
職業特性:体術
高い体力、聖なる気を纏って戦うスキル、そして体術。
全てが噛み合った理想的でハイレベルな武闘家だ。
「ハッ! ハッ! ハァーッ!」
次々とダイアウルフを一撃粉砕していくモモ。
「フィード、私もスキルの練習していいかしら」
「ああ、いいぞ」
オレが言い終わらないうちにリサは空高く跳躍していた。
そして木を蹴ってものすごいスピードで降下してくると。
ドゴォーン……!
轟音と土ぼこりが収まると、そこには新調したての武器『三節棍』を持ったリサと、数匹の狼「だったもの」が姿を現した。
そう、リサの武器は三節棍にした。
今回みたいな巣穴でのクエストでは跳躍スキルが使えないので、伸ばせば槍の代わりとしても使えて小回りの利くこれを選んだ。
「フィードー! なかなかいいわよ、これー!」
リサがご機嫌に三節棍を振り回す。
一方、セレアナはやる気なさそうにブォンブォンと斧を振り回している。
「はぁ……なんで世界の歌姫たるこの私がこんな無骨な武器を持たなければ……」
「しょうがないだろ、山賊に一番適性があるのがそれなんだから」
「適正、ねぇ。こんなの魔物の姿になってタコ殴りにすればそれでおしまいですのに」
「モモがいるんだから無茶なことするなよ。オレが【付与】のスキル覚えるまでは大人しくついてくるんだろ?」
「はぁ……仕方がありませんわねぇ。とりあえずモモさんは守っておきますから、適当にやってちょうだぁい」
そう言いながら超適当に斧を振り回すセレアナ。
しかし、その高レベルっぷりと職業との兼ね合いで達人の域に達してるかのような牽制に、狼たちはめちゃめちゃ警戒して足を止めている。
うん、オレが【付与】使えるようになったら【斧旋風】もセレアナにあげよう。
そしたらきっと世界一の山賊になるんじゃないか?
そんなことを考えていると、群れの背後で息を潜めているひときわ図体の大きい個体に気がついた。
──鑑定眼。
名前なし
ダイアウルフ
レベル7
体力 112
魔力 22
スキル【配下統率】
おお、ダイアウルフ!
こんな都会の近くに意外といるもんなんだな、野生の魔物!
──透明&高速飛行。
ギュインっ!
透明になったオレは、宙を飛んで群れの中を一瞬でくぐり抜けていく。
「やぁ!」
「なっ!」
急に目の前に姿を現したオレに思わずのけぞるダイアウルフ。
「お、喋れるんだ?」
「な、何だお前、どこから現れた!?」
オレはそのままダイアウルフの背中に周り、そのまま腰掛けてみる。
「おお~、さすがダイアウルフ! ほんとに乗れちゃうくらい大きい!」
「な、やめろ! オイ!」
そのまま背中で「ぐだ~」となって全身でダイアウルフの匂いと感触を味わう。
ん~、これが「モフる」、そして「吸う」ってやつかぁ~。
やっぱりモフモフした生き物は最高だな~。
「オイ! やめろって……言ってんだろうがァ!」
ダイアウルフは高くジャンプし、オレごと背中から地面に叩きつけようとする。
──剛力。
オレはぶつかる瞬間に片手で地面を支えると「よっ」という掛け声とともに、腕の力だけでダイアウルフを元の体勢に戻した。
「な、な、な……!?」
「あのさぁ~、キミも魔物ならわかるよねぇ?」
オレは再び背中の上で「ぐだ~」として囁く。
「絶望的なまでのオレとキミとの差を──」
「……」
目の前ではモモが狼をちぎっては投げ、リサが轟音とともにジャンプ攻撃を繰り返し、セレアナが適当に振り回す斧の風圧だけで離れた場所にいる狼たちはダメージを受けている。
「ほら、キミがボスでしょ? 早く止めないと仲間がどんどん傷ついちゃうよ?」
「くっ……これというのもお前ら人間が……!」
「ん……? 人間がどうしたって?」
「シラを切るつもりか! もういい殺すがいい! 我らは仲間のために最後まで抵抗する!」
う~ん、【博識】で調べた通りだな。
誇り高く、一度決めた意思は決して揺るがない。
もしダイアウルフと主従を結べたら、それは生涯かけての友となることだろう。
うん、オレはこいつと友達になりたいぞ。
となれば、事情もありそうだし力の差を見せつける感じで戦いを終わらせてやろう。
オレはダイアウルフの背から飛び降りると息を大きく吸った。
──咆哮。
狼たちの動きが止まる。
すかさずオレは次のスキルを発動する。
──美声。
「聞け、ものどもよ!」
女版オレの職業特性「スポットライト」との相乗効果で、言葉は伝わらずとも狼たちの注目がこちらに集まる。
「お前たちは人間になにかされたからオレたちに復讐しようとしてるのか? 答えよダイアウルフ」
オレの問いに、ダイアウルフは渋々答えだす。
「オ、オレたちは……さっき仲間を殺され、その死体をここに晒されたんだ……。その仲間の死体についてた匂いと同じものがお前らから漂ってきている……」
「その死体っていうのは……?」
「こっちだ」
狼たちに着いていくと、そこには見るも無惨に切り刻まれ息絶えた狼が横たわっていた。
「! これは……! 私がフィードにあげた服ですわぁ……」
そしてその足には、たしかにオレの血染めの礼服が巻き付けられていた。
「なんでこんなところに……さっき宿屋に置いてきたばかりのはずなのに……」
「ちょっと待って。ってことは、私達が宿屋を出た後に誰かが部屋に侵入してこれを盗んで、この狼を殺して私達が通りそうなルートに置いておいたってこと?」
「そう、ですね……。考えづらいですが、それしか考えられません」
ダイアウルフが鋭い口調で問いかける。
「お前たちがやったんじゃないのか?」
「いや……オレたちには無理だよ。大体この道を通ることすらオレたちは知らなかったんだ」
そう、オレたちにはこの殺害は絶対に不可能だ。
ただ1人、モモを除いては。
次話【女忍者、木から落ちる】
間に合えば8月12日(明日)18:30頃更新予定
『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!
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