最強パーティーの初クエスト
人類最強クラスにレベルの高い冒険者ギルド長、悪魔がなりすましてる大司教、伝説の勇者白銀騎士。
この3人との面談をどうにかやりきったオレたちは応接間を後にしようとしていた。
(あっ、そうだ)
あの大司教のスキル【精神汚染】だけは今吸収しておいたほうがいいな。
そう思ったオレはドアを出る瞬間、後ろにいる大司教に勘で右手を向けて小声で「──吸収」と呟く。
その瞬間、右手に柔らかいものが包まれた。
「……え?」
振り向くとオレの右手には、応接間に向かってお辞儀してるミアのお尻がすっぽりと収まっていた。
「まぁ……フィードさん」
頬を染めたミアはオレの手を掴むと「失礼します」と言って応接間の扉を閉じた。
その後、オレは勘違いさせてしまったミアをなだめすかし、リサに冷たい言葉を浴びせられ、ルゥにフォローされ……。
そして、ミアの持っているスキル【事前準備】を吸収してしまっていた。
◆◇
「ふむ……」
「率直なところどうでしたかな、聖女様は」
考え込む大司教に冒険者ギルド長ゾゲッタが声をかける。
「扱いづらそうじゃな」
「というと?」
「純真は純真なんじゃが、舞い上がっておらん。普通聖女であることが判明したらもっと浮足立つと思うんじゃが」
「たしかに。むしろ、まるで聖女になりたがっていないかのような印象を受けました」
話し込む2人の横で白銀騎士ラベルの目は昏く澱み、虚空を見つめている。
「それよりも。気になったのはあの黒髪の娘じゃな」
「我らを前にしても全く気後れしてませんでしたな」
「そう、この世界の人間であればまず我らの立場に平伏し、次に我らの力の一端でも感じられる者であれば我らを恐れるものじゃ」
「どちらでもありませんでしたな」
大司教は「ズズッ」っと茶をすするとラベルの名を呼ぶ。
「はい」
「あの連中について調べよ。それとクエストにお主の密偵を張り付かせるのじゃ」
「はい」
ラベルが「ヒナギク」と呼ぶと、横に黒装束姿の少女が現れる。
「そして出来ることなら……聖女以外の邪魔な2人にはクエストで命を落としてもらえると助かるのぅ……」
大司教を名乗る老人は優しそうな笑顔を崩さぬままそう続けた。
◇◆
冒険者ギルドを出たオレたちは買い食いしまくって少しふっくらしたセレアナを回収し、クエストに向けての買い出しに向かう。
思いがけずミアから奪ってしまったスキル【事前準備】のおかげで揃えなきゃいけないもの、行くべき店が頭に浮かんでくる。
おぉ、便利だなこのスキル。
でもミアは急にこんな有能スキル失って苦労してるだろうな。
彼女がクビになる前に早く【付与】スキルを覚えて返してあげないと。
そんなことを思いながらちゃきちゃき買い出しを進め、オレたちは昼過ぎにはすでに出発の準備を終えていた。
「これからどうするんだっけ?」
王都名物の王都麺をズルズルと啜りながらリサが聞いてくる。
「この後、ギルドが用意してくれたガイド役の冒険者と城門で合流してクエストに向かう予定だ」
うん、遅めの昼食としてこの王都麺を選んだのはベストな選択だった。
この各地から集ってきた多種のスパイスをふんだんに効かせた香り、そして獣の脂身がガツンと響くスープ。
これがこれから冒険に旅立つオレたちの気持ちを奮い立たせてくれる。
「ガイド役て誰? むさ苦しい人だったら断ってもいいのかしらぁ。ゲプッ」
スープを一気に飲み干したセレアナが相変わらずお高く止まったことを言う。
「さぁ? なんでもそれなりに腕の立つ冒険者で、オレたちにも合いそうな人らしい」
「ミアさんがそう言うなら安心できそうですね。書類関係も手際がよかったですし」
うん、ごめんなルゥ。
オレが【事前準備】を奪っちゃったから、ミアにはもうその手際のよさは期待できないんだ。
「まぁ、会ってみてのお楽しみだな」
昼食を済ませたオレたちは宿屋に戻り、一部屋だけ借りるとクエストに持っていかない荷物をまとめる。
オレの血染めの礼服や、ルゥたちが魔界から着てた服なんかとはここで一時お別れだ。
「で、結局セレアナはどうするんだ? 一緒に行くのか?」
「う~ん、ゴブリンといえども私と同じ魔物ですわよ? 何が悲しくて同族を殺してはした金を貰わなきゃいけなくて?」
一理ある。
セレアナは今は人型に変形してるだけで魔物のまんまだし、リサも魔物に戻るためにオレについてきてるだけだ。
そんな彼女たちに同族殺しをさせるのはあんまりだよな。
「でもセレアナって山賊でしょ? 国の監視対象に置かれるらしいけど、一人で残ってて大丈夫なの? フィードが言うには冒険者ギルド長ってレベル85あったらしいわよ」
「あと、大司教様がデーモンロードだったらしいです」
セレアナはしばらく考え込んだ後、ニコッと笑うとこう言った。
「ん? みんな何の話してるの? 早く行くわよ、クエスト! あぁ楽しみねぇ、みんなで楽しい思い出作りましょう!」
お、おう……。
セレアナ、お前ってやつは……。
そうして城門までやってきたオレたちはそこに立つ一人の少女を見つけた。
「フィード、あれって……」
「ああ……」
そう、あれはオレの幼なじみ。
「モモだ」
心配そうにリサが声をかけてくる。
「どうするの?」
「どうするって言っても今からガイドを変えてもらうのも面倒だし、モモならたしかに実力は問題ないよ」
「でも、いいの?」
昨日あんな別れ方をしたばかりだもんな。
道に突っ伏して泣き崩れていたモモの姿を思い浮かべる。
一体どんな顔して会えばいいのか……。
そんなことを思ってる間にモモがオレたちの姿を見つけて駆け寄ってきた。
「あの、もしかしてこれからゴブリン退治の方ですか? ってあれ……? なんか見覚えが……」
「ええ、昨日ぶりねモモ」
リサの言葉にハッとした顔を見せるモモ。
「もしかして──」
「そう、昨日馬車で会ったわね。あなたはそれどころじゃなかったみたいだけど」
「ひゃぁ~、昨日は恥ずかしいところを……」
と顔を手で覆うモモ。
「ってことはみなさん……?」
「そうよ、私はリサ。竜騎士よ」
「私はルゥです。一応聖女……らしいです」
「セレアナ、山賊よ」
3人が自己紹介を済ませ、オレの番が回ってきた。
「え~~~っと……アイドルやってます。……フィードです」
「ん? フィード、って……」
「フィード、オファリング……です」
モモの目がまんまるに見開かれる。
あ、久しぶりに見たな。モモのこの驚く表情。
「フィード・オファリングって……」
「うん」
「もしかして……アベル!??」
昨日、超格好つけて一生の別れを気取ってたオレ。
今日あっさり幼なじみに再会しちゃいました。
しかも…………女の姿で。
次話【ダイアウルフのモフり方】
8月11日(明日)18:30頃更新予定
『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!
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