ヤバい大人3人と面談
復讐を終えて迎える朝ってどんな感じだと思う?
オレにとってのそれは、驚くほどいつもと変わらなかった。
何気ない顔をして3人と挨拶を交わし、朝食を食べ、そして予定通り冒険者ギルドへと向かう。
道中、ルゥとリサはなにか言いたげな様子でこちらをチラチラ見てきたが、オレはオレなりに多少なりとも後ろめたい部分を感じてたので出来る限り無視する。
ルゥ達を巻き込みたくなかった。
そう、これはオレ個人の問題なんだ。
「あ、お待ちしていましたぁ!」
ギルドに着くと、昨日の受付嬢が明るい声で出迎えてくれた。
「あ、昨日はどうも」
「はい! あ、私フィードさん達の専属の担当をさせていただくことになりました、ミアです!」
水色のウェーブがかったボブカットを揺らしながら昨日の受付嬢さん、ミアはそう言った。
「専属って?」
「はい! フィードさんや聖女様達の手続きを全て私が担当させていただきます! なんせ、みなさんとっても珍しい職業の方ばかりですから! 専門の知識がないと対応できないだろうってことなんです! えっへん!」
胸を張って自信満々に言うミア。
「えっと……それは嬉しいんだけど、ミアって昨日あんまりオレたちの職業について知らなかったよね?」
「あうぅ……! そ、それはこれから勉強してスペシャリストになっていきますので、なにとぞよろしくお願いしまぁす!」
120度くらいの見事なお辞儀を見せるミア。
あまりのお辞儀っぷりに彼女の腰が心配になる。
まぁいいか。
これくらいウッカリしてそうな子の方がオレも動きやすいかもしれない。
「こちらこそよろしく」
そう言ってオレが手を差し出すと、ミアは両手で掴んで「はい、よろしくお願いします!」とブンブン振り回した。
その様子を見たセレアナが早速茶化してくる。
「へぇ~、そういうタイプが好きなんだぁ? 意外~」
「おま、何言って……! って、ほら見ろよオレの体を! 女だぞ、女!」
そう言いながら、昨日からずっと【変身】したままの黒髪少女の姿をアピールする。
「ちょっとミアもなにか言ってやって……って、あれ?」
内股で人差し指を突き合わせ、すっごいモジモジしてるミア。
「わ、私は別に、そういう事言われてもべつにそんな悪い気してないですけど……」
え~、そっち!? そっちなの!? そっちもいけちゃう感じなの!?
「えっと……私たちは今日なにをすればいいんでしょうか?」
ルゥがすかさず話題を変える。
よし! えらいぞ、ルゥ!
「あ、はい。そうですね、今日はこれから冒険者ギルドのギルド長、教会トップの大司祭様、王国3騎士の白銀騎士様に会っていただきます」
「なんか朝から肩が凝りそうなメンツね」
リサがすました感じで呟く。
「あ、でも今日はお目通りみたいな感じですね。なので、そこまで気負われないで大丈夫です」
「そうなの?」
「はい、みなさん新しい聖女様がどんな方なのか興味津々なんです」
セレアナが「チッ!」と大きく舌打ちし「ったく聖女聖女ってほんといいご身分ね! 『山賊』の私にはなにかないのかしらぁ!?」とイチャモンをつける。
セレアナ、お前……なんか心まで山賊っぽくなってきてないか……?
「あ、セレアナさんは危険分子扱いなので、偉い方たちにはお会いいただけません。別室で待機してもらいます」
あっ、セレアナがショックで固まってる。
いやでも仕方ないか。
数日前まで「私は世界の歌姫になるのぉ~!」なんて言ってたスクールカーストトップの人が、今や山賊。
しかも1人だけ会合からハブられちゃうんだもんね。
「うん、セレアナ。残念だけど仕方ないな。だって『山賊』だもんな。反社会的だもんな」
オレが追い打ち……じゃなくて励ましの言葉をかける。
「そうよ、セレアナ。『山賊』だからってそんなに落ち込まないで。きっと『山賊』でも何かの役に立つ時がくるわよ。ほら、野宿する時とか」
リサも悪ノリの追い打ちをかける。
「セレアナさん、あとで迎えに行きますから元気だしてください」
心優しいルゥは普通に優しい言葉をかける。
さすがは聖女。
山賊とは違う。
ぷるぷるぷる。
あ、怒りで小刻みに震えてる人初めて見た。
「あっんったっらぁ~! さっきから山賊山賊ってうるさいわよ! そうですよ! ど~せ私は山賊ですよ! 山賊は山賊らしく屋台で買い食いでもしてきますよ! もうこうなったらブクブク太ってやるんだから! 止めたって知らないからね! フィード!」
涙目のセレアナがめちゃくちゃ偉そうに手を差し出す。
「お金ちょうだい!」
「お、おう……」
その剣幕に押されたオレはセレアナの手の上に銀貨を一枚乗せる。
バッ! っとそれをひったくると、セレアナは何も言わずドスドスと大股で繁華街の方向へと消えていった。
「山賊……いやセレアナ、またあとでね」
リサがセレアナの背中にそう声をかける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
オレたちは冒険者ギルドの応接間に通され、出された薄いお茶なんかを飲みつつしばらく待っていると、件のお偉いさん3人が一緒に部屋へと入ってきた。
オレたちは立って出迎える。
と同時に、オレはすかさず【鑑定眼】で入ってくる男たちを盗み見た。
最初に入ってきたのは白髪のヒゲを三つ編みにしたガタイのいい男。
ゾゲッタ
人間
冒険者ギルド長
レベル 85
体力 301
魔力 11
スキル【万物両断】
職業特性:号令
え、レベル85!???
そんな人間存在したの!?
冒険者ギルドもオレの誘拐と関わってる可能性があるってのに、いざとなったら面倒だぞ……この高レベルっぷりは──。
続いて入ってきたのは背中の曲がった全体的にヒョロっとしたおじいさん。
ブラザーデンドロ
デーモンロード
大司教
レベル 871(限界突破4thクリア)
体力 10294
魔力 59914
スキル【精神汚染】
職業特性:聖言
……は?
…………は?
………………はああああああああ!?
教会トップが悪魔!?
っていうか「限界突破4thクリア」ってなんだよ──!?
動揺収まらぬうちに最後の1人が入ってきた。
あ、書物や絵画でよく見た顔。
王国三騎士の1人、白銀騎士のラベルだ。
ラベル=ヤマギシ
人間
白銀騎士
レベル 42
体力 87
魔力 41
スキル【因果剣】
職業特性:経験値++
え? あれ? こんなもん?
王国最強の勇者と謳われ、今なお様々な創作物が作られ続けてる生ける伝説の白銀騎士ラベル。
前の2人のステータスがぶっ壊れすぎてて、めちゃくちゃ控えめに見えてしまう。
いや、でもまぁ白銀騎士様が人間でよかったっちゃよかったか。
王国三騎士全員が魔物でした、とかなったら流石に洒落になんないもんな。
その代わり、横にめちゃめちゃラスボスっぽい奴いるけど……。
そう思いながら大司祭を盗み見ると、シワシワの老人はニコッと穏やかに笑いかけてきた。
う~ん、本当にただの優しそうなおじいちゃんにしか見えない。
人は見かけによらないってほんとだな、こわっ……。
「こちらが昨日、水見の儀式で診断された竜騎士リサさん、アイドルのフィードさん、聖女のルゥさんです」
最後に部屋へと入ってきた受付嬢のミアがオレたちを紹介する。
「大司祭のブラザーデンドロ様、白銀騎士のラベル=ヤマギシ様、そして当ギルド長のゾゲッタです」
「はじめまして」
オレたちはちょこんと頭を下げる。
えっと、こういう時の対応とかどうすればいいのかよくわからん。
とりあえずリサ達の真似しとこう。
「ほうほう、この子が……」
3人は興味深そうにルゥを穴が空くほどまじまじと見つめている。
「あ、はい……。えっと……なんかなっちゃいました……」
ルゥが気まずそうにはにかみながら答える。
「どうですかな?」
「ふむふむふむ、ふむふむふむふむ」
「デンドロ様……」
両脇の2人に声をかける大司祭はしばらくルゥを見つめると、「ふぅ」と息を吐いて何度か小さく頷いた。
「……ほぼ、間違いないじゃろ」
「おおおおおおお!」
その言葉に、横のおっさんギルド長とイケメン白銀騎士が声を上げる。
受付嬢のミアも嬉しそうだ。
「魔力の質、本人の雰囲気。どちらも聖女たる資質を備えておるよ」
「見ただけで魔力の質なんかがわかるんですか?」
思わず質問してしまう。
「ああ、わかるとも。といってもスキルで見てるわけじゃないんじゃよ。なんというか長年生きてきた経験でなんとなくわかる……そうじゃな、勘みたいなもんじゃ」
「へぇ、鑑定士とはまた違うんですね」
オレがそう何気なく言った瞬間、室内の空気が凍りついた。
「かん、てい、し……? やめてくれ、あんな忌まわしい……」
「デンドロ様」
大司教の言葉をギルド長ゾゲッタが遮る。
忌まわしい……?
今、忌まわしいって言いかけたよな?
『オレが攫われたのは鑑定士だったから』
黒騎士とマルゴットにそう言われたことが頭をよぎる。
オレは確信する。
──こいつらは絶対にオレの誘拐に関わってる。
とはいえ、この2人はなにしろレベルが異常だ。
聞き出すにしても万全の体勢を整えてから詰めていきたい。
「ところで」
場の空気を変えるためにリサが話を切り出す。
「ルゥってこれからどうなるんですか? それによって私達も今後どうするかが変わってくるんですが」
たしかに。
これは今オレたちが一番知りたいことだよな。
白銀騎士ラベルが話し出す。
「聖女様にはこれから90日間の洗礼を受けていただきます。その後、いくつかの儀式を通してから正式に王国の聖女として任命されます」
「その間こっちに帰ってきたりは?」
「出来ません。外界とは隔離された場所で洗礼を行うため、もうみなさんとお会いする機会もこの先はほとんどないかと」
えっ。
ってことはルゥここでお別れなのか。
まぁいつか別れなきゃいけないし、ルゥもこれでひとり立ちできるんだから歓迎すべきだな。
いつまでもオレの復讐に付き合わせて危険な目に合わせたくもないしな。
と、ここまで思ってから気づいた。
いやいや……!
でもあの大司教、デーモンロードだぞ?
今スキル【博識】で調べたけど悪魔の最上位みたいな奴じゃん。
そんなとこにルゥを1人で送り込んで大丈夫なのか?
……って大丈夫なわけないよなぁ!
そもそもあいつのスキル【精神汚染】ってなんだよ、ヤバすぎな匂いがプンプンするぞ、オイ!
え~、なになに……?
その効果を【博識】で調べるオレ。
えっと……『同じ空間にいる生物の精神を徐々に汚染していき、最終的に邪悪な存在へと創り変えていく常時発生型の遅速性状態変化魔法』。
ダメでしょこれ!
ダメダメ!
こんな異常者とうちのルゥを一緒に90日間洗礼なんてさせられません!
っていうか今この空間がすでによくないのでは!?
「ダメですっ!!」
気がついたら立ち上げって叫んでしまってた。
「……どういうことかね?」
ギルド長の厳しい視線がオレを貫く。
「あ、え、えっと、ですね……」
オレが言葉に詰まっていると、リサが助け舟を出した。
「皆様。私たちは冒険者になるという夢だけを胸に抱いて王国へとやってきたんです。お願いです、離ればなれになる前に、どうか一度だけでもみんなでクエストに挑戦させていただけないでしょうか?」
おお、話に筋が通ってる!
リサ、ナイス!
ルゥを見ると、嬉しそうに微笑んでいた。
対面の大人3人が小声でごにょごにょ話している。
「どうでしょうか……」
「まぁ私達としても準備に時間が……」
「安全なように監視をつけて……」
やがてギルド長がミアを呼びつけた。
「おい、手頃なクエストはありそうか?」
ミアは手元の紙束から手際よく3枚を差し出す。
「このあたりが丁度いいかと」
ゾゲッタはそれを一瞥すると、一枚の紙を指で押し出した。
「これがよさそうだな」
『ゴブリン退治。期間5日。ゴブリンの右耳を持ち帰ること。報酬:右耳1つごとに銅貨50枚』
そこにはこう書いてあった。
「君たちの最初で最後のクエストだ」
冒険者ギルド長ゾゲッタはそう言うと、精悍な笑顔でオレ達に問うてきた。
「どうだね? やるかい?」
顔を見合わせたオレたちはニヤリと頷くと声を揃えて答えた。
『はい、やります!』
次話【最強パーティーの初クエスト】
間に合えば8月10日(明日)18:30頃更新予定
『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!
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