復讐記録1:戦士マルゴット
「てめぇ、どうやってここに……! 魔界に売られたはずじゃ……!」
ダンッ!
オレはマルゴットに壁ドンする。
「へぇ。魔界に。魔界に売られたってなんで知ってるんだぁ? お前はオレをパーティーから追放しただけだったよなぁ? それがなんで《魔界に》、《売った》、まで知ってるんだぁ? ん?」
オレは笑顔でマルゴットの返事を待つ。
「誰か……」
──洗脳!
叫ぼうとしたマルゴットに、それより早くスキル【洗脳】をかける。
「いいか? お前はこれから大声は出さない。誰かに助けは求めない。いいな?」
瞳を紫色に光らせたマルゴットは「はい……」と虚ろに返事をする。
「よし、じゃあそれを踏まえて元に戻っていいよ」
正気を取り戻したマルゴットが激しく動揺している。
「お、お前……何をした……!?」
「んんー? オレはただお願いしただけなんだよ。ちょっとした【スキル】を使ってねぇ」
「スキル……? お前はしょうもない【鑑定眼】しか使えなかっただろうが……!」
オレは「ハッ」と鼻で笑うと囁くように告げる。
「マルゴット。戦士。レベル14。体力44。魔力2。スキル【ぶん殴り】。職業特性:タフネス」
ぽかんと開けたマルゴットの口から悪臭が漂ってくる。
「お前、それ……」
「そう、見えるようになった。見えるようになっちゃったの。覚えてる? モモがオレのスキルが進化するかもって言ってたの。進化しちゃったよぉ、ホントに」
マルゴットの顔に焦りの色が見え始める。
「そ、そうか。よかったなそりゃ。じゃあ、お前さえよければまたパーティーに戻ってこないか? モモと一緒に──さっ! あぁ!!」
マルゴットが不意にオレの頭を横からぶん殴る。
「え……? あれっ……?」
完全に決まったと思っただろう一撃。
しかし倒れないオレ。
動転するマルゴット。
「オレの【鑑定眼】も進化したんだけどさぁ。実はもう一個スキルが開花したんだよねぇ。その名も【吸収眼】。なんでも数百年に1人しか覚えられないスキルらしい」
「吸収……眼……? なんだそれ……。い、いや、まさか……」
オレは怯えるマルゴットにニッコリと笑いかける。
「耐えろよ?」
──ぶん殴り。
昨日、目の前の男から盗んだ男のスキルを乗せた《デコピン》。
ズグワァン──!
オレのデコピンはマルゴットの額をかすめ、肉をごっそりと削り取った。
「こらこら~、避けちゃダメだろリーダー。せっかくオレは避けずに受けてやったのにさぁ」
「お前、今の……」
「そ~う。お前のスキルは昨日オレが奪っちゃってたんだよねぇ~。今のはそれを上乗せしたデコピン。結構何にでも使えるんだな、これ。便利そうだ」
マルゴットの顔が憤怒の色に染まる。
「ぎ、ざ、まっ──!」
巨体から繰り出される拳の連打、連打、連打。
「ぐおおおおおおおおお──!」
あ~、こういうのも何度か見たことあるな。
パーティーがピンチに陥った時に火事場のクソ力的なマルゴットのラッシュで危機を脱したことが何度もあった。
でも。
今お前に押し寄せてるこれは危機ではない。
確定した絶望なんだ。
「1、0、0、0、1、0、1、0、0、1、0、1」
「あぁ? とうとう気でも狂ったか?」
「お前がオレに与えてるダメージをカウントしてる。ちなみにオレの体力は14000を超えてる。つまり、あと2万発は殴ればオレを倒せるかもなぁ?」
「くっ、こいつ……!」
マルゴットの息は次第に上がっていき、弱々しいパンチがオレのアゴを撫でる。
「0」
「ハァ、ハァ……」
「どうした? 打ち止めか? いつもみたいに馬鹿笑いしてみろよ」
どんよりと澱んだ目でこちらを見つめるマルゴット。
「ふん、お前にも絶望というものが少しわかってきたみたいだな。だがな、オレの味わった絶望はこんなもんじゃない」
──擬態。
魔界でオレが閉じ込められていた檻。
それに変化して中にマルゴットを閉じ込める。
「──なっ!?」
鉄柵を掴んでガタガタ揺らすも、あまりのレベル差ゆえにビクともしない。
「オレはあの後、魔界の学校で檻に閉じ込められていたんだ。裸でな。そして30日後に殺して食うと言われ、毎日いびられ、慰みものにされ、毒を食わされたよ」
──投げ触手&毒触手。
ドサドサドサッ。
突如、宙に現れた毒の触手で檻の中が埋め尽くされる。
「ぶぐぉがっ……!」
毒触手に体が埋め尽くされ、もがき苦しむマルゴット。
体力残り43、42、41……。
スリップダメージを受けて減っていくマルゴットの体力を確認しながらオレは尋問を開始する。
「どうしてお前はオレが魔界に売られたことを知っていた?」
40、39、38、37……。
「お前はオレを魔界に売るためにパーティーから追放したのか?」
36、35、34、33……。
「お前たちと別れた後、オレを攫ったのは誰だ?」
32、31、30、29……。
「最初からオレを売るつもりでパーティーを組んだのか?」
28、27、26、25……。
「他のパーティーメンバー達もお前とグルなんだよな?」
24、23、22、21……。
黙秘を続けるマルゴット。
う~ん、このままじゃ埒が明かないぞ。
オレは少し質問の角度を変えてみる。
「黒騎士から依頼を受けたのか?」
ピクッ。
黙秘を続けていたマルゴットが反応する。
「きさま、どうしてあのお方のことを……!?」
「あのお方? あのお方って、お前知ってるのか? あいつの正体は魔物だぞ?」
「そ、そこまでわかっておきながら……なんでオレをこんな目に……」
「あ? そんなの決まってるだろ。お前の口から直接真実を聞きたいからだよ」
16、15、14、13……。
「いいかぁ? オレはお前に無理やり喋らせることなんかいくらでも出来るんだ。でもしない。お前が心底悔いて、嘆き、苦しみ、そして謝罪する姿を見たいからだ。お前が自分から進んで真実を明かす姿を見たいからだ」
12、11、10、9……。
「いいか、最後に聞くぞ。なんでオレなんだ?」
「が、がはははは……。それはお前が鑑定士だからだ。でも気にするな、きっとあのお方と黒猫円卓団がお前を殺してくださる……。覚悟しとけ、ゴミ……が……」
8、7、6、5……。
「あ、ちなみに黒騎士はもうとっくにオレが殺しといたぞ」
「──なにッ!?? そんな、ばっ……!」
4、3、2、1……。
「かな……!」
0。
口から大量の血を吐き、マルゴットは頭からベッドの上に突っ伏している。
擬態を解いたオレは、動かなくなった元リーダーの姿を見下ろす。
「結局、最後まで悔い改めなかったな」
かつてはあんなに頼りにしていたリーダー。
そしてあんなに憎んでいた相手。
なのに。
不思議となんの感慨もわかない。
これが、復讐か──。
真相へと続く残りの道は、他の元パーティーメンバー。そして黒猫円卓団を不自然なほど急に取り立てた冒険者ギルドが握っているだろう。
そうだ、王国の他の2人の騎士も鑑定してみなくちゃな。
それから。
『鑑定士だから狙われた』
黒騎士もそう言っていったこの言葉。
大悪魔のスキル【博識】を持ってすらわからないこの理由も調べる必要がある。
「まだまだやることは山積みだな」
オレはそう呟くと闇に姿を溶け込ませた。
そして、まるで過去の自分と決別するかのように月へと向かって勢いよく飛び続けた。
どこまでも。どこまでも。
次話【タイトル未定】
間に合えば8月9日(明日)18:30頃更新予定
『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!
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