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女の子が洋服を買う時の気持ちってものは

 リサを抱きかかえて街中に降りると、それを見ていた周囲の人たちから謎の拍手が沸き起こった。


「すげえなあのジャンプ! 星まで届いてたぞ!」

「それよりあの赤い服の女だよ! 空飛んでたよな!」

「っていうか2人ともすっげーかわいくねぇか!?」


 あ~……ちょっと目立ちすぎたかも。


「お~ほっほっ! 今のジャンプは【竜騎士】リサ! そして飛んでたのは【アイドル】フィードよ!」


 あ……。

 アホのセレアナが得意げに名乗っちゃってる……。


「竜騎士!? 竜騎士なんて実在したんだな!」

「だからあんなに高く跳べるのか! 竜騎士はんぱねぇ!」

「っていうかアイドルってなんだ?」

「アイドルって超レア職業であった気がするわ!」

「空飛ぶアイドルってなんだよすげえな! オレ、ファンになったわ!」


 あ、なんかめっちゃ囲まれてきてる。


「そして! この私は至高なる歌ひ……めぇ!?」


 オレはセレアナの口をふさいでその場から逃げ出す。


 いったい1日に何回こいつの口を塞いで逃げ出せば済むんだよちくしょう。


「ハァ、ハァ……。全員いるな?」

「はひぃ。めちゃくちゃ注目集めちゃいましたねフィードさん」

「ああ。今目立ちすぎるのはあんまりよくない。そこで、だ」


 オレは目の前にある店を親指で指す。


「ここで目立たない格好に着替える」


 血染めの礼服のオレ。

 見るからに怪しい高級そうな黒マントをまとっているリサ。

 旅でボロボロに薄汚れてしまっている、元は白のドレスだったなにかを巻き付けているルゥ。

 胸を羽毛、下半身を鱗で覆った露出狂みたいな格好をしてるセレアナ。


 我ながらこの4人、あまりに不審者すぎる。

 ということで、この「ほどほど安くてほどほど普通」が売りの大衆店で服を一新することにする。


 カランンコロンカラーン。


「いらっしゃいませ~」


 THE・普通みたいな店員がオレたちを出迎え、洋服を選んだ……


 そう、選んだ


 選ん……


 って女の買い物時間がかかりすぎーーーーーー!


 オレは一瞬で決めたのに、こいつら延々試着してるじゃん!


「なぁ、みんなそろそろ……」


 そう声をかけるも


「こっちのほうがよくな~い!?」

「むむむ……赤もいいけどやはり黒も捨てがたい……」

「ドレス以外着たことがないから色々着れて嬉しいです!」


 と、みんな夢中で服を見ていてオレの声が耳に入ってない。


 ルゥはあれなのかな。

 今まで髪の毛が蛇だったから上部が広く開いたワンピース系しか着られなかったのかな。

 なら初めての際限ない服選びで楽しいのもわかる。


 リサは元吸血鬼らしく赤か黒の服しか興味ないみたいだ。


 セレアナはあれだな。

 とにかく色んな服を着た自分を鏡で見たいだけだな。


「よし」


 オレは決意する。

 やるぞ、もうやるしかないんだ。

 今やらなければ、この後の快適な夕食と睡眠の時間が削られてしまう。

 オレは覚悟を決める。


──狡猾。


「すみません店員さん、長く時間かかっちゃって」

「いえいえ~、みなさん楽しく選んでくださるので、

こちらも見ていて楽しいですよ」


 不快な顔もせずにおべんちゃらを聞かせてくれるいい店員さんだ。

 彼女の手に銀貨一枚を握らせる。


「実はオレたちここ数日水浴びをしてないんです」


 そう言うと流石の店員さんも固まった。


「なのでこれは迷惑料です。あと、これ以上彼女たちが試着して被害を広げないよう、店員さんから伝えていただければ……。残念ながらオレの力では無理なんです」


 その言葉を聞き終わらないうちに店員さんは銀貨を服の中にしまい込むと、手を叩きながら大きな声で呼びかけ始めた。


「ハイハイみなさ~ん! それでは当店もそろそろ閉店の時間になりますので、そろそろお決めになっていただいてもよろしいでしょうか~!」


 すると意外にもみんな素直に「じゃあ私これ~」「私はこれとこれね」「私はこれにしますぅ」とあっさり服を持ってきた。


 あれ? もう決まってたの?

 あんだけ長々試着して迷ってたのに?

 もしかして買うもの決めてたのにずっと試着してた?

 う、う~ん……女ってやつはほんとによくわからん……。


「お買い上げありがとうございました~」


 ほくほく顔の店員さんに見送られてオレたちは店を出た。


 オレはオーソドックスな冒険者スタイル。

 とにかく地味で周りに溶け込めるようにした。


 リサは黒地のピッタリとしたミニワンピ。

 滑降の時の空気抵抗を減らしたいらしい。


 ルゥは白のミニローブ。

 聖女っぽさもありながら、走りやすいようにしたとのこと。


 セレアナはお腹の部分がぽっかりと空いたロングドレス。

 なんか動きにくそうだし前とあんま変わんない印象なんだけど……まぁいいか。


 そんなこんなで装いも新たにしたオレたちは手頃な宿を取って遅めの夕食を済ませると、各自部屋に戻って休むことになった。


 深夜。


 今夜復讐を決行する。

 そう心に決めていたオレは、興奮のあまりほとんど眠ることができなかった。

 静かに部屋の窓を開けるとスキルを詠唱する。


──透明&高速飛行


 キィ……。


 姿を消したオレが空に飛び立つと、そこには微かに揺れる窓だけが残されていた。


 黒猫円卓団リーダー戦士マルゴット邸。


「全く変わってないな、ここも」


 以前何度か訪れたことのある一軒家。

 モモとオレの歓迎会。

 初めてのクエスト達成祝勝会。

 ソラノが聖女見習いに選ばれたお祝い。

 メンバーたちの誕生会。


 当時の記憶が脳裏をよぎる。

 ただし、その楽しかった記憶も一瞬で裏切られた瞬間の光景に上書きされてしまう。


──狡猾。


 侵入に気づかれないよう慎重に扉を開ける。

 やはり鍵はかかっていない。


 マルゴットはいつも「家に泥棒が入ってくれたら堂々と人をぶん殴れるのに」と口癖のように言っていた。

 そういう男なのだ。


 中に入ってみると、マルゴットは着替えもせずにベッドの上で大の字になってガーガーと地鳴りのようなイビキを立てていた。


──投げ触手。


 宙に現れた1本の触手がマルゴット目掛けて飛んでいく。


「──いでっ!?」


 冒険者特有の反応ですぐさま起き上がると、すかさず周囲を確認するマルゴット。

 そしてオレを見つけると肩の力を抜いた。


「なんでぇ昨日会ったねぇちゃんか。どうしたこんなとこまで? もしかしてオレに抱かれに来たのか? がははは」


 オレはマルゴットとの距離を詰めながら答える。


「抱かれに? ハッ、それもいいかもな」


 オレと奴との距離はもう数十センチ。


「ただし抱かれるのはお前で、抱くのは死神だがな」


 そこでオレは変身を解いた。


「てめぇ……! アベル!! なんでここに……!?」


 ニタァ。


 オレは笑みを浮かべる。


「なぁ~んだ、ちゃんと覚えてるじゃないかぁ。名前」

次話【復讐記録1:戦士マルゴット】

8月8日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「つ、ついに復讐が始まるー!」「洋服選ぶするところ面白かった」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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