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聖女マウント

 ついに。

 ついに出会った。

 オレの最も復讐したい相手。

 オレを魔界へ売り払った男。

 オレを追放した元パーティーのリーダー。


 戦士マルゴット。


「いってえな! 気をつけろ!」


 あ、れ……? オレに気付いてない……?

 ああ、そうだ。

 オレは今、女の姿に【変身】してるんだった。

 

「あ、ああ……すまない」

「ん?」


 マルゴットがオレをじろりと見てくる。


 うわぁ……なんだこの、生理的嫌悪感……。


 マルゴットがよだれを口の中でくちゃくちゃさせながら言う。


「なぁ~んだ、えらいぺっぴんじゃね~か」


 ニタァ。


 おそらくは。

 この男の下卑げびた人間性、病気を持ってそうな粗暴そぼうさ、そのへんを女性の本能的で感じ取ったんだろう。

 男の体だった時はマルゴットのことを「頼もしい」とすら感じていたことを思い出して身震いする。


 これが……女性と男性との感覚の違いか。

 そしてオレは、酒場でルゥを勝手に賭けの対象にしてしまったことを後悔した。

 きっとルゥにも、あの時こんな思いをさせてしまっていたんだろうな。


「ぐへへ。どうした? 緊張して声も出ないのか? そりゃそうだよなぁ、なんてったってオレ様は今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの【黒猫円卓団】のリーダーだからなぁ」


 聞き馴染んだパーティー名が耳に飛び込んできた。

 そう、オレも所属していたパーティーの名前。

 すると、不意にオレの体の底からフツフツと怒りが湧いてきた。


「黒猫円卓団……って最近メンバーが2人も辞めたあの?」


 マルゴットのこめかみの辺りがピクリと反応する。


「あ~? それもう大昔のことだろ。大体あ~んな使えない奴らが俺様のパーティーにいたこと自体が間違ってたんだよ」

 

 は……?

 なんだって……?

 大昔……?

 使えない奴ら……?

 いたこと自体が間違い……?


「だから、あいつらがいなくなってからというものオレたちのパーティーは絶好調! おかげで今ではギルド長から直に依頼を受ける立場だからな! がっはっはっ!」


 ありがとう。


 オレは心の中でマルゴットに感謝する。


 お前がクズでい続けてくれたおかげで、


 オレの復讐の火が燃え尽きることはなさそうだ。


「しっかしお前ら、全員女のパーティーか。こりゃあ冒険者じゃなくて違う商売でもしてた方がいいんじゃねぇのか? なんなら紹介してあやろうか? がっはっは!」


 唾を飛ばしながら笑うマルゴット。


「私達を侮辱したな、お前?」


 あ、ヤバイ、リサがキレてる。


「あ? 侮辱? 今《水見の間》から出てきたようなひよっこのカスが何言ってんだ、あ? お前らなんか侮辱する価値すらねーよ、ただの事実だ事実」

「ほう……そのカスに今からひれ伏すのがお前なんだがな」

「あ? どうやらこのガキは痛い目見ないとわかんねーらしい。言っとくが、オレは女だろうがガキだろうが容赦しねー主義でなぁ!」


 バキィ!


 リサの顔面をマルゴットの拳が直撃する。


「……なるほど。この程度のもんなのね、冒険者ってのは」


 そう言うと、リサはマルゴットの腕をつかんでゆっくりとひねり上げていく。


「えっ、効いてない? ……って、でっ! いででで! お、おい! なんだこの馬鹿力はっ!?」

「誰がカスですって? もう一回言ってごらんなさいよ」


 圧倒的なステータスの差で大男の腕をねじりあげていくリサ。

 でも冒険者ってのは単純なステータスだけじゃ測れない部分があるんだ。

 そう、たとえばスキルの使い方。


「くっ──、このガキッ!」


 来る。


──軌道予測。


「ぶっとべクソがあああああ!」


 ひねりあげられた腕を折ってでも敵を打ち砕こうとする職業特性タフネス

 インパクト力を数倍に高めるスキル【ぶん殴り】。

 そして、たとえ腕一本犠牲にしても回復師ソラノにすぐに回復してもらえるという打算。


 そういった要素が乗算されて魔物をも倒す力を得るのが冒険者なんだ。

 だからリサにとって不意打ちとなるこの一撃は看過できない。


「えっ」


 オレはリサの襟を引っ張り、スキルで予測したマルゴットの裏拳の軌道から外す。


 グッブッゴォン!


 とてつもない風切り音と共に放たれたマルゴットの裏拳は空を切り、そのまま勢い止まらず建物の壁を削り取っていく。


「今のは食らってたらさすがにダメージ受けてたぞ」

「あの状態から反撃するとか完全に頭どうかしてるわね……」


 マルゴットの捻りあげられていた肩は完全に脱臼してしまっている。


「リスクを負ってでも果敢に挑む。あれが冒険者だ、覚えておけ」


 物音を聞きつけてさすがに人が集まってきた。


「おいおい、マルゴットのやつ女に脱臼させられてやがるぜ~」


 守銭奴狩人エルフのエルクをはじめ、オレの「元」パーティーメンバーがぞろぞろと集まってきた。


「キヒヒ、間抜けですなぁ。憐れですなぁ。惨めなリーダー殿」

「みじめー、みじめー、だっさー」


 歪んだ刀フリークの侍ミフネ、相変わらず召喚精霊に悪態を吐かせてる守護札マニアの魔術師ジュニオール。


「あっれぇ~、マルゴットちゃんこんなところで怪我しててウケる~! その女の子にやられたのぉ? 恥ずかしぃ~。あ、なんか壁壊してるけどこれマルゴットちゃんの給金から差し引きねぇ~」


 そして「自称」聖女見習いの回復師ソラノ。


「ああ~、これ結構バキッとイッてるなぁ~。さすがに私でもこれは治すのにちょっと時間かかちゃうよぉ?」


 その時、マルゴットを触診してるソラノの前にルゥが進み出た。


「あ、あの……!」

「はぁ? なにあんたぁ? 今《水見の間》から出てきたばっかのルーキーってとこぉ? そんなのが《聖女見習い》の私に何の用ぅ?」


 あ~、馬鹿だなぁソラノ。

 お前誰に向かって口聞いてると思ってんの。


 ルゥが不安げにこっちを見る。

 オレは「うん」と頷いてみせる。


「よかったら、私にその方を治療させてもらえませんか?」

「は!? 私でも時間かかるってのに、あんたなんかにな~にができるってのよ。引っ込んでろよな、チッ」


 オレは2人の間に割って入ると「いいからいいから」と言ってルゥに患部を触らせる。


「いけそうか?」

「はい、大丈夫そうです」

「ちょっと、なに勝手に……」


 ソラノが文句を言おうとした瞬間。

 辺りはまばゆい光に包まれた。


『エクストラヒール』


 やがて光が収まり、マルゴットは外れていた肩を確かめるようにぐるぐると回す。


「あれ……治ってるぞ、これ」

「は? えええ!? どういうことよ、ちょっとあんた今のスキルって……!」


 水見の間から出てきた受付嬢が声をかける。


「あ~、なにか物音がすると思ったら……大丈夫ですか聖女様(・・・)?」


 その言葉に聖女見習い(・・・)のソラノが口をあんぐりと開ける。


「せ、せい、じょ……? さ、ま…………?」


 いいぜいいぜ~!

 ソラノ、なかなかいい顔を見せてくれるじゃないか!

次話【禁断の抱擁】

8月6日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「元パーティー全員集合きた!」「聖女マウントきたー!」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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