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幼なじみとの再会

「えぇ~!? 私そんなに強く殴ってないのにぃ!」


 アークデーモンを一撃で粉砕したセレアナが驚きの声を上げる。

 オレは「お前のステータス、前の6倍になっているぞ」と伝えた。


「6倍!? なんでそんなことになってますの?」

「こっちが聞きたいよ。なんか最近気が付いた変化とかなかった?」

「さぁ?」

「例えば何か食べたとか」

「? ……強いて言えば矢じりについてたあなたのお尻の肉くらいかしら」

「いや、それはいいから……。ほら、そんな話したらみんな引いちゃってるから……」


 オレたちを畏怖いふの表情で見つめている馬車の乗客と御者ぎょしゃの面々。

 彼らを見てオレは「ああ、こっちを先に対処しなきゃな」と思った。


「え~っと、覚えられないと思うけど一応言っておきます。すみません」


 そう声をかけて彼らに【洗脳】のスキルをかける。


「この場で起きたことは全て忘れろ。そして馬車を河原に止めて車内を綺麗に掃除しろ」


 乗客たちの瞳が紫に光ると虚ろに「はい……」と返事をして作業に取り掛かる。


 おおぅ、このスキル便利すぎてヤバイな。

 ちょっと流石に人権無視しすぎてるから、あんまり関係ない人に使わないようにしよう……。


「そういえばセレアナはなんでさっきオレを助けてくれたんだ?」

「それは……」


 セレアナはうつむいてモジモジしてる。


 なんだ、そんなに言いたくないのか。

 多分オレを攻撃しようとして間違ったとかなのかな。


「まぁいいさ」


 そう言うとオレは掃除の手伝いに回った。


 その後オレたちはアークデーモンの死体を河原に埋めて証拠隠滅した。

 途中でセレアナがアークデーモンの肉片を食べて「う~ん、やっぱりフィードとは味が違いますわね……」とか言ってた。

 こえ~。


 その後は特に大きな事件も起こらなかった。

 途中の集落で一晩を明かすと、次の日の夕方には王都が遠くに見えるほどに近づいていた。


「フィードさん、ここが王都なんですね!」

「大きいわね! これから私が過ごすのにぴったりの街だわ!」

「街についたら洋服屋さんとか見て回りたいわぁ」


 思い思いに好きなことを言う女性陣。

 それを横目にオレは感慨に浸る。


「本当に……帰ってこられたんだな」


 その時、城門から駆けてくる1人の女性の姿が見えた。


「アベルーーーーーー!」


 モモ。

 オレの幼なじみだ。


 その、

 幼なじみが、

 ものすごい速さで、

 近づいて、

 近づいて──って……ぶぶっ!


「アベルーーーー! よかった生きてたんだね! ごめんね守ってあげられなくて! どうしてたの!? 今までどこに行ってたの!?」


 走ってきた勢いのままに馬車に飛び込んできたモモはオレに抱きついて質問攻めをする。


「むがが! むむむがが!」


 いや、おっぱいが! おっぱいが顔を圧迫してて喋れませんから!


「ああ、ごめんね!」


 オレが窒息死しかけてることに気づいたモモが胸を離す。


「ハァハァ……相変わらず凄い体力だなモモは」

「えへへ~。アベルくん見えたから嬉しくて走ってきちゃった」

「見えたからって……。お前相変わらずふざけた視力してるな」

「むふふ~」


 モモの丸い顔がさらに丸くなって得意げにニヤけてる。


「でもすごい偶然だよな。たまたまオレが帰ってくるのを見かけるなんて」

「偶然じゃないよ。ずっと待ってたから」

「え?」

「ずっと待ってたの。城門で」

「え? いつから?」

「アベルくんが居なくなった次の日からだよ」

「いや、でもパーティーのクエストとか……」

「辞めたよ。アベルくんにあんな酷いことするパーティーなんてこっちから願い下げだよ!」


 オレの服を掴んでる3つの手の存在に気づく。

 その手の主はルゥ、リサ、セレアナ。


「フィードさん、その方は……」


 ルゥが心配そうに尋ねる。


「ああ、オレの幼なじみのモモ。元パーティーメンバーだ」


 オレの言葉にリサの瞳がカッと殺気を帯びる。


「元パーティーメンバー!? フィードを騙して売り飛ばした、あの?」


 殺気を向けられたモモは戸惑う。


「あ、アベルくん? フィードって……? あと、この子達は……」

「フィード・オファリング。餌で供物。それがオレの新しい名前だ」

「え、アベルくん? 何言ってるの? あとその喋り方なんか変だよ? 前のアベルくんはもっと優しい話し方だったのに……」


 モモをまっすぐに見つめてオレは言う。


「モモ、オレがあれからどこに行ってたかわかるか?」


 尋常ならざるオレの雰囲気に気圧けおされたモモは弱々しく答える。


「さ、さぁ……。どこか気分転換の旅行に行ってた……とか?」


 モモの耳元に顔を近づけて囁く。

 憎しみで歪んだオレの顔を見られたくなかったから。


「魔界だよ。檻に入れられて食われるまで30日間ずっとカウントダウンされてたんだ。どんな気持ちでオレが過ごしてたかわかるか?」

「────! そんな……」


 幼なじみゆえに、モモが今どんな表情をしてるか想像がついてしまう。


「裸で見世物にされ、毒を食べさせられ、気晴らしにリンチされ、そして食われるまでの30日間毎日カウントダウンされ続けたオレの気持ちがわかるのか?」

「ご、ごめんなさい……私、そんな……全然知らなくて……」


 目にたくさんの涙を浮かべたモモは嗚咽おえつしながらも必死に言葉を絞り出す。


「あの……それなら王国に報告とかして、ちゃんと対応してもらえば……」


 モモは……お前ってやつはほんとに真面目で真っ直ぐなんだな。

 そんなことを思いながらモモの両肩に両手を置く。


「モモ、落ち着いて聞いてくれ」


 そう言うと、おでことおでこをくっつけて小声で続けた。


「王国も敵だ。昨日、王国三騎士の黒騎士がオレたちの元に来たんだが……奴の正体は魔物だったんだ。おそらくこれは王国も噛んでることだ」

「そんな……嘘……」


 モモの顔が青ざめる。


「だからオレはその全貌ぜんぼうを調べるために王国に戻ってきたんだ。魔界から一緒に抜け出してきたこの3人と共に」

「ごめんなさい……私のせいで……私があの時しっかり止めなかったから……ごめん……ごめんなさいいい……うっ……ううっ……」


 号泣するモモはそれ以上の二の句を継ぐことも出来ないほどに嗚咽する。


「モモは今までしっかりオレを守ってくれていたよ、ありがとう。ただ、これ以上はもうオレには関わらないでほしい。アベルは魔界で死んだ。オレはフィード・オファリング。もうモモの知ってるオレじゃないんだ」

「……」


 モモは肩に乗っているオレの手を掴んでゆっくりと下ろす。

 そして弱々しい笑顔を見せると、そのまま馬車を飛び降りた。


「そうだ……ご両親! アベルくんのご両親すごく心配してたから! お願い! 顔だけでも見せてあげて!」


 去っていく馬車に向かってモモはそう叫ぶ。


 両親か。

 確かに心配をかけてしまったな。

 機会があればそのうち顔を見せに行こう。


「なぁ~んだ、あなた結構モテるのね」


 わざとか天然か、セレアナが空気を読まないことを言う。

 しかし、この空気の読まなさが今は少しありがたい。


「フィードさん、よかったんですか……?」

「ああ」

「あんたのことだからどうせ巻き込みたくなかったんでしょ。あの子もそれをわかってたみたいだけど」


 リサの言葉に答えずに、馬車から身を乗り出して後ろを振り返る。

 道の真ん中で膝をついてうなだれているモモの姿が目に入った。


 その様子に記憶が呼び覚まされる。

 あれはしくも数十日前にオレがパーティーから捨てられたのと同じ場所、同じ姿だ。

 オレはあの時みたいな気持ちをモモにも味あわせてしまったんだな……。


 胸の前で手をギュッと握りしめる。

 うなだれていたモモが顔を上げる。


「アベル……バイバイ」


 はっきりとはわからなかったが、そう言った気がした。

 見つめ合う2人の距離は、どんどんと離れていった。

次話【破格の冒険者誕生】

8月3日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「モモ……つらいよね……」「ずっと守ってくれてた幼なじみとの決別のシーン泣ける」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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