洗脳馬車
「そんなに緊張しないでくださいよぉ」
王国三騎士の1人、黒騎士がそう言って嘲笑う。
「い、いやぁ、人見知りなもんで」
オレは笑って誤魔化す。
笑顔がぎこちなくなってないか気になる。
緊張で額に汗が伝う。
「そんなに美しいお嬢さんたちをお連れになってるのに人見知りはないでしょう」
なんだこれ、探り合いか?
それとも本当にただの世間話か?
ええい、こっちから探りを入れてやれ。
「いえいえ……ところで、あなたもこれから王国に?」
笑顔の男の目の奥がスゥと冷めていくような気がした。
「私はこれから王国に帰るところなのですよ。昨日急いで馬を飛ばしできたので、帰りはゆっくり帰ろうと思いましてねぇ」
「そうなんですね、そんなに急ぐなんてなにか大事な用でもあったんですか?」
男は押し黙る。
ヤバい、話を突っ込みすぎたか……?
「実は」
男は一挙手一投足も見落とさまいといった様子でねっとりとこちらを見つめながら続ける。
「昨日、魔物がこちら側に侵入してきまして。それを警備の者が取り逃がしたらしいんですよ。そこで、ちょっと腕に覚えのある私が急遽呼ばれたわけなんです」
おいおい、こいつはオレたちを追ってきたのかよ。
しかも王国三騎士の1人“黒騎士”がわざわざ?
「ああ、それなら昨日見かけましたよ。馬の魔物が走っていってましたね」
「馬の魔物」
「ええ、上に鳥の魔物みたいなのが乗ってた気がします」
「鳥の」
「はぁ」
しばし見つめ合ったまま沈黙が流れる。
「それと昨日、酒場に鑑定士が現れたそうでしてねぇ」
「はぁ」
「なんでもレベルまで鑑定できる上位の鑑定士だとか」
またオレのことじゃん!
これは、素直に打ち明けたほうがいいのだろうか。
「そんな凄腕の鑑定士が我が国にいらっしゃるなんて初めて聞いたものですから、ぜひ私も会いたいと思って酒場に行ってきたのですが、残念ながらすれ違いになったようでしてねぇ」
「そうですか」
男のねちっこい話し方になんかゾクゾクしてくる。
「酒場のおかみに鑑定士の風貌を聞いてきたのですがぁ、身長は小柄で年は若い。黒髪で痩せ型。赤色の礼服を着ていて女性3人を連れてるらしいんですよねぇ」
「はは……」
こいつ絶対確信して話しかけてきてるな。
「それ、僕ですね」
オレが認めると、男の顔がパァと輝いた。
「おお、やはり! お会いできて光栄です。こんな優れた鑑定士は世界的にも珍しいですからねぇ、わざわざ馬を飛ばしてやってきたかいがありましたぁ」
にこやかに話す男だが、オレはこいつがアークデーモンであることをすでに知っている。
そして、こいつは自分の正体がアークデーモンだと知られる可能性のある上位の鑑定士を放っておくつもりはないだろう。
「いえいえ、そんな大したものじゃないですよ」
「よかったら私も鑑定していただけませんかぁ?」
「ええ、いいですよ」
これは早めに動いたほうがよさそうだ。
「鑑定料は銀貨1枚でしたっけ? 相場の数百分の1とはまた豪気ですねぇ」
「旅の路銀に困っていたところだったんで、昨日は特別価格でやりましたね。あっ、今は鑑定料はいいですよ。せっかく乗り合わせた仲ですからね。無料でいいです」
「そうですか、ではお言葉に甘えましょう」
いくぞ。
「では鑑定しますね」
「はい、お願いします。──フィード・オファリング……いや、アベルくん」
──吸収!
同時に黒騎士がこちらに手を向けて叫ぶ。
「洗脳っ!」
男の目が紫色に怪しく光る。
しかしオレの【吸収眼】の方が一歩早かったため、その光りは一瞬で失せる。
「なにっ!?」
不発に終わった自身のスキルに動揺を見せる黒騎士。
「きゃっ!」
突如激しく揺れだした馬車に驚いたルゥが声を上げる。
「あなたたちぃ! こいつらを殺しなさぁい!」
黒騎士が命じると、馬車に乗り合わせていた乗客達が襲いかかってきた。
「ルゥ! 敵だ! みんなを起こせ!」
「は、はい!」
スキル【洗脳】を奪ったにも関わらず命令に従う乗客たち。
くそっ、オレたちが馬車に乗り込む前にすでに全員洗脳されてたってことか!
「言われなくても寝たふりして話を聞いてたわよ! あんた正体バレてるじゃないの!」
リサが瞬時に飛び起きると、襲いかかってくる乗客を押さえつけて無力化していく。
「リサ! その人達は操られてるだけだ、傷つけるなよ!」
「わかったわ……よ、っと!」
武器を持っていたところでしょせんは体力10程度の相手。
体力3000を超えるリサが負けるはずがなかった。
「セレアナさん、起きてください!」
「んが……んんっ……?」
ルゥに起こされて目を覚ましたセレアナが、男を見て瞬時に青ざめる。
「えっ……ちょっと、この人……」
魔物のセレアナは、このアークデーモンのヤバさを本能で察知したらしい。
「ふむ、我が洗脳はちゃんと機能していますねぇ。なら、な~んであなたには洗脳がかからないのでしょうかぁ?」
そう言いながら黒騎士はアークデーモン本来の姿に変化していく。
「ちょちょちょっと! アークデーモンじゃないの! なんでこんな上位の悪魔がいるのよ!」
つられてセレアナが魔物の姿に戻る。
「その姿はセイレーン……。セレアナとはどこかで聞いた名だと思ってましたが、あのクラスの生き残りの1人ですかぁ」
「ちちち、違うんです! 私はその男に無理やり連れてこられてるだけなんです! その男はスキルを吸収しまくってヤバイから従わされてただけなんです! マジ気をつけてぶっ殺してください!」
セレアナ……お前マジで一瞬の躊躇もなくオレを裏切るよな。
「吸収……。“吸収”だと……? まさかあの【鑑定眼】の持ち主の中に数百年に一度だけ生まれるという【吸収眼】を持ってるというのか!? お前が!? そんな馬鹿な……」
──洗脳。
「あっ……がっ……!? そんな……私、が……っ」
一瞬の抵抗を見せた後、アークデーモンはガクンと動きを止めた。
「黒騎士ブランディア・ノクワール。お前の今の状態を言え」
「はい……。私はフィード・オファリング様の命令ならなんでも聞く犬でございます」
そう言ってアークデーモンこと黒騎士は跪く。
「はぇ……? えっ……? ええ~!? さ、さすがフィードねぇ~! 信じてたわよぉ~!」
セレアナが上ずった声でオレを称える。
いや、今さら持ち上げてももう遅いから。
まぁ、お前がそういう奴だってことはわかってたからそこまで気にしないけど。
「フィード! こっちもなんとかしてよ!」
「フィードさん、こっちもお願いしますぅ~!」
乗客を1人で押さえてるリサと、暴れて走り回ってる馬と御者をなだめてるルゥが助けを求める。
「え~っと、ちょっと待って」
さっき吸収した【洗脳】を【複製】して【改変】する。
よし、出来た。
──洗脳解除。
「はっ、私達何を……?」
リサに取り押さえられていた乗り合わせた人達が正気を取り戻す。
馬も大人しくなったようで、御者に抱きついてたルゥが「ふへぇ~」と息をついている。
よし、うまくいったようだな。
「さてと」
アークデーモンの方を見る。
「黒騎士、そしてアークデーモン。王国三騎士の一角、黒騎士の正体が魔物とは一体どういうことなんだ? そしてどうしてオレを魔界に売り渡した? 答えてもらおう」
アークデーモンは跪いたまま、わなわなと震えている。
「それは……」
憎悪を込めた瞳でオレを睨んでくる。
あ、やっぱ範囲で洗脳解除した時にこいつも一緒に洗脳解けてたか。
「お前が《鑑定士》だからだああ! くらえ、【暗黒剣】ッッ!」
オレが黒騎士を再度洗脳しようか、それとも一旦石化しようかと一瞬迷っていると、
「危ないっ!」
という声と共に放たれたセレアナの一撃がアークデーモンの上半身がふっとばした。
「え?」
オレはセレアナを見る。
「え?」
セレアナも驚いてオレを見る。
そういえばセレアナのステータスって昔見たきりだったな。
もう一度確かめてみるか。
──鑑定眼。
セレアナ
セイレーン
レベル 127
体力 12059
魔力 20111
…………は?
ステータスが前見た時の6倍くらいになってるんだが???????
次話【幼なじみとの再会】
8月2日(明日)18:30頃更新予定
『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!
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