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黒騎士との遭遇

「ん……これは……?」


 両手になにか柔らかいものが当たっている。

 虚ろな意識のまま手で確認。


 むにゅん。


 うん、なんだか察してきた。

 一応逆の手も確認。


 もにゅん。


 なるほど、なるほど……。

 うん、これは覚えがあるぞ。

 右手のがルゥで左手のがリサ……。


 ということはこの状態は……。


 おそるおそる目を開ける。

 眩しい光の向こう側に見えてきたのは、リサとルゥの一糸まとわぬ姿だった。


 んん~~~?

 一体なんでこんなことに……?


 オレは必死に記憶を呼び覚ます。

 確か昨日は深夜まで酒場で鑑定をしてて……。


 昨日の記憶。


「え~っと、あんたはテキス・モニべル。人間。職業:門兵。レベルは……おっ、すごいな5だ。体力18。魔力1。スキルは【踏ん張り】。職業特性:堅固」

「レベル5! オレレベル5もあるのか!?」


 夜もふけに更けた酒場の一画。

 オレの鑑定を受けている素朴そうな男が驚嘆の声を上げる。


「ああ、真面目に尽くしてきたんだろう。誇るべきことだな。スキルの【踏ん張り】は物理的、精神的に打たれ強くなるものだな。ただ魔力が1しかないから1日1回しか発動できないだろう。職業特性の堅固と併せて門兵や前線でのタンク役に向いてるな」

「そうなのか! 仕事について迷っったこともあったけどこれからは自信を持って取り組めそうだ、ありがとうな鑑定士様!」


 顔をパァと輝かせて男は去っていく。


 ふぅ。


 これで終わりか。

 随分たくさん鑑定したな。


 手元に溜まった銀貨の山の感触を味わう。


 これでしばらくは路銀の心配もないだろう。

 僻地に上位の鑑定士が現れたという噂もいずれは役に立ってくるだろう。


 ふぁ。


 あくびが出る。

 ヤバいもう限界。


「おかみ、金は足りたか?」

「ああ、おかげで酒もとっくに品切れさ。お連れさん達は2階の客室で休んでもらってるよ。奥の二部屋。あんたの部屋は手前側だね。あんたも疲れたろう、ゆっくり休みな」

「ああ、そうさせてもらう」


 半分眠りながら階段を上る。

 

 えっと……俺の部屋はどっちって言ってたっけ?

 なんか奥って言ってたような気がするな……。

 まぁいいやなんでもいい、早く横になりたい。

 

 扉を開ける。


 あぁ、ベッドだ。

 これでやっと寝れる……。


 Zzz……。


 昨夜の記憶を呼び覚ましてオレは青ざめる。

 はは……オレ部屋を間違えて……。


「んっ……」

「あれ……フィード、さん……?」


 あっ、2人が目を覚ました。

 そしてなんかこの光景デジャブなんだけど。


「あんったねぇ~……!」

「違う! 誤解なんだ、聞いてくれ! ……ぶふぉうっ!」


 またオレはリサに投げられるも、咄嗟とっさにクッションに変身して一命を取り止める。


「ふお~、ちょっと待ってちょっと待って! 部屋を間違えただけなんだ! っていうか、あれ? セレアナは?」

「セレアナさんなら私達といっしょに寝てましたけど……って、あれ? いないですね……」


 オレたちは隣の部屋を確認しにいくと、そこには黒のセクシーランジェリーを着たセレアナが豪快な寝相でベッドで寝ていた。


「はわわ~……セレアナさんすごい格好……」

「フィードは見ちゃダメ!」


 リサの手がオレの目を覆う。


「しかしセレアナはどこでこんなもの入手したんだ?」

「んっ……あらぁ、フィード今頃来たのぉ? 早く美しい私に変身してちょうだい。そして美しい私と美しい私で愛し合いま……ぶふっ!」


 リサが枕でセレアナの顔を殴りつける。


「ななな、なに言ってんのよあんたーーー!?」


 隣を見るとルゥが「あはは……」と苦笑いしながらオレに体を押し付けてくる。


「ちょっと! ルゥはくっつぎすぎよ!」

「えー、そんなことないですよぉ」

「フィード! 早く美しい私に変身してちょうだい!」


 うん、なんだこの状況……。


「とりあえず、朝ごはんでも食べようか……」


 ということで一階の酒場に降りてきた。

 昨夜の盛況っぷりが嘘のように閑散としてる。


「静かで驚いたろ? まぁ朝はこんなもんさ」

「そうなんですね。あ、おはようございます。えっと……なにか食べられますか?」

「昨日の残りものでよければ」

「それで大丈夫です、お願いします」

「あいよ」


 おかみさんに声をかけるとオレたちはテーブルを囲んだ。

 すると、残り物だからか間を置かずに次々と料理が運ばれてくる。

 手際のいい店だ。


 あっという間にテーブルの上は料理でいっぱいになった。

 出てきたのは芋と人参のスープ、ガリガリと固そうな黒パン、そして焼いたベーコンと深い薫りのする紅茶だった。


 さっそく各々が好き好きに料理にかぶりつく。


「はぁ~このスープいい出汁でてますわぁ~!」

「はぅ~、ベーコン美味しいですぅ~、肉汁~」

「このパン、固いわね! 噛みごたえがっ! 半端ないわ!」


 ふふっ、リサが黒パンに苦戦してるな。 


「このパンはスープに浸して食べると美味しいんだよ」

「んっ、ほんとだ……! 素朴なパンにスープの出汁がみて美味しい……」


 ああ、そうか。

 これがリサ達が人間になって初めて食べるまともな食事なんだな。

 みんなとは特に共通の目的があるわけでもない旅の道連れだ。

 でも、こうして一緒の食卓を囲むというのはやっぱりなんかいいもんだな。


「そういえばルゥはこの先どうするんだ? 無事人間になれて人間界にも来れたわけだけど」


 オレは黒パンを一口サイズに千切ちぎりながら尋ねる。


「はい、私は人間になることが目的だったので、そこから先のことは何も考えてなかったんです。あの……このままフィードさんについていってはダメでしょうか……?」


 ルゥは不安そうに尋ねる。


「オレはこれから本格的に復讐に取り掛かる。相手はそこそこ腕の立つ冒険者達や王国だ。危険も多い。正直言うと、オレはルゥを巻き込みたくない」

「でもでも……! 私、力強いじゃないですか? 昨日も何人も腕相撲で倒しましたしっ!」

「それなら私のほうが強いわ」


 リサがベーコンを噛みちぎりながら無情に言い捨てる。


「はぅ……」

「それにオレの復讐は個人的なものだ。心優しいルゥが何も関わりのない人間を酷い目に合わせられるのか?」


 キッとした目でルゥが見つめる。


「でも、その人達がフィードさんを魔界に送り込んだんですよね? なら……その人達は私の敵です!」


 強い意思を感じさせる眼差まなざし。


 そうだよな……ルゥって、あの学校のイジメでもずっと心折れずにいて、そのうえオレを気遣い続けて、そして最後には自分の夢まで手に入れた女だもんな。

 この子の意思の強さは魔界一かもしれんな……。


「ハァ……わかったよ。ルゥにそこまで言われたらもうお手上げだ。それじゃあ王都に行ったら冒険者ギルドに行って職を得よう。職業スキルを得られたら今よりも強くなれるし」


 ルゥはキョトンとした顔で尋ねる。


「はぁ……冒険者、ですか……?」

「ああ、主な仕事は魔物退治だが、それが嫌なら他にも色々と仕事はある。冒険者になれば金も社会的地位も得られるし、普通の人間より頑丈なルゥにはうってつけな仕事だ」


 それに──冒険者になっておけば、オレと分かれた後もやっていけるだろうからな……。


「なにそれ、冒険者!? 私もやる! 私も冒険者になりまーす!」


 皿の上のものをほぼ食べ尽くしたリサがノリノリで挙手する。


「わかったわかった、王都に着いたら一緒に行こうな。それから……人参も残さず食べるんだぞ」

「え~、これちょっと苦味があるから好きじゃないかも」

「そんなもったいないこと言うならオレがもらお~っと」


 ヒョイっとリサのスープに残った人参をつまみ食いする。


「ん~、うまいっ!」

「あ~! ダメだって私のなんだから! 返して!」

「早く食べないとオレ全部食べちゃうぞ~」

「ああ~もう食べる! 食べます! あんたに食べられるくらいなら私が全部食べるわよ!」


 くすくす。

 ルゥが笑ってる。


「わかりました、王都に着いたらリサさんと一緒に冒険者として登録しますね。セレアナさんはどうするんですか?」

「あたひ?」


 スプーンを咥えたままパチクリした表情を見せるセレアナ。


「先に言っておくが魔物は冒険者にはなれないぞ。セレアナは人型になれるってだけで人間ではないからな」

「あっそ、別にどうでもいいけど。私はシンガー以外になる気ないし」

「そうか、それならいいんだけど。でもセレアナはこれからどうするんだ? このままオレたちについてくるのか?」


「ダンッ!」っと紅茶を飲み干したコップをテーブルに置いて威勢よくセレアナが言う。


「あったりまえじゃない! こんな広い町で見失ったらもう一生会える気しないわよ!」


 あ、うん。

 そうだよね。

 なんとなくそうなるんじゃないかと思ってた。


「え~っと、じゃあリサとルゥは冒険者になって、セレアナはこのままついてくる感じだな。それじゃ、この後連れ合い馬車に乗って王都に向かうぞ」

「はぁ~い」


 そうして腹を満たしたオレたちは、おかみに教えてもらった連れ合い馬車に乗り込む。

 ちょうど王都に行く予定だというその馬車の中でガタゴト揺られるうちに、みんなはなんだか眠たくなってしまったようだ。


 結局昨日はあんまり眠れなかったし、オレもちょっとうたた寝するかな……。

 そうしてうつらうつらとしていると、なにやら妙に視線を感じて目が覚めた。


(え……なに……? なんかめっちゃ見られてる気がする……)


 いつまでも目を閉じてても仕方ないと思って「えいっ」と思い切って目を開ける。

 近すぎて目の焦点が合わないほどの目と鼻の先。

 そこにあったのは、見知らぬ男の顔だった。


「──ッ!?!?!」


 思わずのけぞる。


「えっ……! なに……?」


 硬直したまま小声で尋ねる。

 真顔だった男の顔が嘘くさい笑みに変わっていく。


「すみません~、珍しい方が乗ってるなと思って見入ってしまいましたぁ」

「は、はぁ……」


 いや見入るにしてもあんな近くで見るか?

 鼻と鼻がぶつかるくらいの距離だったぞ?


「それにしても変わった御一行ですねぇ。男性お一人に女性3人。ご旅行かなにかで?」

「は、はぁ……そんなもんです」


 世間話を装って探りを入れてきてるよなぁ。

 適当に話を合わせるにしても、相手がどんな人間なのか知っておいたほうがいいか。

 ちょっと鑑定してみよう。


──鑑定眼


 オレのスキル【鑑定眼】によって男のプロフィールが浮かび上がる。


 ブランディア・ノクワール

 アークデーモン

 黒騎士

 レベル 78

 体力 7707

 魔力 8722

 スキル 【洗脳】

 職業特性 暗黒剣



 …………は?



 アークデーモン?

 っていうか黒騎士ってあの黒騎士?

 王国三騎士の?

 は?

 そんな奴がなんで連れ合い馬車なんかに乗ってんの?


 予想外のプロフィールにビビりまくるオレ。


 そんなオレを見て、目の前の男──ブランディア・ノクワールはニヤリと嘲笑わらった。

次話【洗脳馬車】

8月1日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

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