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鑑定士の初仕事

「いいだろう、その賭けに乗ってやろう」


 男は舌なめずりしながら下卑げびた視線でルゥを舐めるように見る。


「よし、じゃあ賭けは成立だな!」

「ちょ、ちょっと……! フィードさん何勝手に……むぐっ!」


 オレはルゥの口に人差し指を当てて黙らせる。


「大丈夫だ。あいつらはすでに【鑑定眼】で“視”た。全員体力30以下の連中だ。体力208のルゥが負けることは絶対にない」

「でも……!」


 抗議を続けるルゥの肩を掴むと、顔をぐっと近づけて囁く。


「いいから。オレを信じて」

「うぇ……!? あ……は、はい……」


 よし、ルゥは強くお願いしたら大体聞いてくれるから楽でいいな。

 

「よし、じゃあそっちは誰がやる?」


 ムキムキスキンヘッドの大男が名乗りを上げる。


「オーケーオーケー。いい勝負になりそうだ。それじゃまず銅貨5枚出して」


 大男はテーブルの上に叩きつけるように銅貨を出すと、椅子に座って腕相撲の体勢をとる。


「さぁ、早く握ってくれよオレの手をよォ!」


 ゲヘヘな表情の男に尻込みするルゥを優しく椅子に座らせ、手を握らせる。


「ひゃっ……!」


 男は手を何度も握り直してルゥの手の感触を楽しんでる。

 うん、男のオレから見てもキモい。

 ルゥ、さっさとやっておしまいなさい。

 そんな気持ちで合図を出す。


「レディー……ゴッ!」


 一瞬で勝負はついた。

 大男の手は完全にテーブルについてしまっている。


「イ、イカサマだっ! こんなのイカサマに決まってる!」


 オレはテーブルの上の銅貨をちゃかり回収しながら「仮にイカサマだとしてもそれを見破れないほうが悪いのでは?」と煽る。


「ぐっ……!」


 大男は黙る。


 そりゃそうだよな普通に力で負けたのは本人が一番よくわかってるだろうから反論なんか出来るはずがない。

 そしてこの腕相撲大会はここからが本番だ。


──狡猾。


 スキルの効果を上乗せしてオレはさらに店中を巻き込む。


「さぁ! イカサマだとしたらイカサマを見破れる者! それとも本当にこんな少女に力負けしたのか確かめたい者! 参加料は銅貨5枚、こちらが負けたら銅貨を倍にして返そう! 次に挑戦したい者は誰だ!?」


 魔界との境にある門を見張るだけの集落。

 そんな退屈なところに降って湧いた娯楽だ。

 暇を持て余してる力自慢のこいつらが食いつかないわけがない。


「オレだ! オレがやる!」

「いやオレにやらせろ!」

「むしろ銅貨5枚でこんな可愛い子の手を握れるとか逆にありだろ!」


 うん、最後のは聞かなかったことにするが、店内の客全員が乗ってきたな。

 あとは、こいつらの興味が尽きないようになるべく長く引っ張って……っと。


 一時間後。


 うん、まぁこれくらいかな。

 オレは手元に集まった銅貨の山をジャラジャラさせる。

 ん~、the・金! いい感触!


「ほへぇ~……もういいですかぁ……?」

「ああ、もう十分だ。お疲れ様」

「はえ~よかったですぅ……」


 腕相撲しすぎてフラフラになったルゥをリサに預けてオレは最後の大仕上げに向かう。


「さぁもういないか? こ~んな可憐な乙女に負けっぱなしで終わっていいのか?」


 全敗した男たちは完全に冷え切っている。


「いいもなにもその娘はバケモンすぎるだろ」

「ああ、そうだ。絶対そいつの前世はゴーレムだぜ」

「あー、ちげぇねぇ」


 惜しい! ルゥはゴーレムじゃなくてゴーゴンなのでした!


「ほんとに終わっていいのか? 今日という一日がこれで終わっていいか? 悔いはないのか?」

「もういいよ、十分稼いだだろ。もう帰ってくれ、シッシッ」


 あ~あ、完全にいじけちゃってるよ。

 でもこれに再度火をつけるのがオレの仕事なんだよね。


「そっかぁ~、それは残念だなぁ~。次はオレが『小指だけ』でやってやろうと思ってたのにな~。しかも2人同時に相手しようと思ってたのに。それで片方だけでも負ければ今までの銅貨全額返してやろうと思ってたのに。いや~、興味ないのかぁ残念だな~」


 チラッ。


 うんうん、そうだよね。食いついてくるよね。

 こんなちっちゃなオレが小指一本だもんね。

 お金も返してほしいもんね。

 はい、食いつく。もう食いつく。食いついてこいっ!

 3……2……1……。


「おい、それ詳しく聞かせろよ」


 はい、食いついた~。

 オレは声をかけてきた男に満面の笑みを見せる。


 そしてその数分後、オレの足元にはムキムキスキンヘッドとムキムキモヒカンが床に寝そべっていた。


「オイ、嘘だろ……! 何負けてんだおめえら!」

「うおぉ……今日の飲み代完全になくなったぞこれ……

!」


 2人に掛け金を担保してた酔っ払い達が絶望の声を上げる。

 

「いやいやなかなか楽しめたよ。みんなに参加してほしくて最初に失礼なことを言ってしまってすまなかった」


 明らかに様相のおかしいオレたちに男たちは警戒しはじめる。


「なにせ君たちと私達では『レベル』が違うんだから、この結果も仕方がないよ」

「レベル……? お前たちレベルがわかるのか?」


 はい、本当の餌に食いついた~。


「ああ、わかるとも。なんたってオレは『鑑定士』だからね」

「でもたしかレベルがわかるクラスの鑑定士ってかなり上位だろ? 国に1人いるかいないかってくらいじゃ……」

「その1人が今ここにいるとしたら?」


 間。


「おい、マジかよオレのレベル見てくれよレベル!」

「いやオレのを先に見てくれ!」

「おい、ふざけんな! こんなチャンス二度とないぞ、オレを見てくれ!」


 釣れた~。

 一斉に押し寄せてくる男たち。


「見てもいいがちゃんと鑑定料はもらうぞ? と言っても本来よりはかなりサービス価格でやってもいいが」

「でもそんなの適当に言われてもこっちはわかんねえだろ!」


 はい、きた。そういうのね。


「ドミー・ボウガン。人間。弩兵。……どう? 当たってる?」

「お、おう……」

「おい、あいつドミーの名前と職業当てやがったぞ……」


 ざわめきが広がっていくこの感じ。

 ん~、なかなか気持ちいいね。


「本来なら金貨数枚の価値のある情報だ。今日は特別に銀貨1枚で見てやるよ。あと、オレがここにいるのは今日限りだぞ」


 男たちは大慌てで金を確認しだす。


「それから今日の店の飲み代はオレからの奢りだ! 大いに楽しくやってくれ! おかみ、その代わり今日一日この一画を借りてもいいか?」


 おかみはハァとため息をつくと「好きにやっとくれ」という風に手のひらを向ける。


「うおー、飲み放題だってよ! みんな呼んでこい! 今日はもう仕事は終わりだ!」


 閉塞感漂う集落に突如訪れた非日常。

 これでみんなじゃんじゃん金を使うだろう。


 よし。

 改めて気合を入れ直す。

 これがフィード・オファリングとしての初仕事だ。

次話【黒騎士との遭遇】

7月31日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「結局鑑定士のお仕事に繋げたのね!」「ルゥちゃんヘロヘロになっててかわいそ……」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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