ルゥちゃんは銅貨5枚
「オレたちはお金がない」
そう堂々と宣言する。
「お金? お金って?」
「人間が色々な物と交換するチップみたいなものですね。授業でやってましたよ」
「私授業出たことないから」
「そういえばそうでしたね……」
「お金ってあれでしょう? いずれ私が全て手にするはずのものでしょう?」
うん、セレアナは黙ってて。話が行方不明になるから。
「だからお金を得ようと思う」
「お金があるとどうなるの?」
「お金があると、なんと……宿に泊まれる!」
「もう野宿しなくていいの?」
「さらに飯が食える!」
「もう野生のよくわからない生き物を捕まえたりしなくていいの?」
「そして馬に乗って移動したり出来る!」
「自分のお馬さんが持てるんですか?」
「あとは服とか装飾品とかなんでも手に入るぞ!」
「服欲しいわ! この世のありとあらゆる服は私に着られるためにあるのだからぁ!」
うん、だからセレアナちょっと黙ってて。
「で、だ」
オレはみんなを見回す。
「お金を増やす方法は大きく分けて2つ。1つは真面目に働く」
「働くってなに?」
「ごはん屋さんで皿洗いとかですよ。今、私達を追いかけてきた人たちも多分仕事でやってますよ、あれ」
「あれも仕事なの? 仕事って色々あるのね」
「私が将来なる予定のシンガーも仕事ですわね!」
コホン、と空咳をする。
「そしてもう一つは……ギャンブルだ」
「ギャンブルって賭け事?」
「そうですね、人間の世界には色んなゲームがあるらしいですよ」
「ねぇ、そんな面倒くさいことしなくても、お金を持ってる人間を殺して奪えばいいんじゃないの?」
セレアナが魔物らしい質問をする。
「そうだな、それが一番早い。でも、魔界でもそうだったように人間を殺すとみんなが捕まえに来て厄介なんだ。だからオレの復讐を済ませるまでは、なるべく関係ない人は傷つけずにいきたいんだ」
「ふぅん……」
訝しげな半目で相槌を打つセレアナ。
「仕事とギャンブルって要するに何が違うの?」
「一番違うのはかかる時間だな。仕事だと数ヶ月かかるのに対して、ギャンブルだと早ければ一晩だ」
「あらそうなの? じゃあギャンブル一択じゃない」
「ただし、それは上手くいった場合のことだ。ギャンブルで負けたらオレたちは数カ月間ここでタダ働き、いや最悪命を取られることも……」
「え、上手くいかなかったら逃げればよくない?」
リサが元も子もないことを言う。
いやまぁ確かにオレのスキルがあれば逃げられるだろうけどなぁ。
「いやいやダメだよリサぁ。そんな逃げるだなんて卑怯じゃないかぁ」
「じゃあ負けたらどうするの?」
「負けた時のことは……」
爽やかな笑顔で言い切る。
「考えない!」
「え、フィードさん? でも負ける可能性はあるわけですよね……?」
「そう! だからもし負けてしまったら結果的に逃げることになってしまうかもしれない! でも! オレは負けた時のことは考えてないから、結果的に逃げることになってもそれは卑怯じゃないんだ! なぜなら! 逃げるつもりはなかったのに、仕方なく逃げてしまっているだけなのだから!」
何を言ってるんだこいつは、という3人の表情。
うんわかる、わかるよその気持ち~。
でもね、人間には建て前ってのが必要なんだ。
オレはオレを裏切った連中への復讐は徹底的に行うけど、関係ない人に対しては善人でいたい器の小さ~い人間なんだ。
「え、結局逃げるならなんでもいいのだけれど、そのギャンブルはどこでやるのかしら?」
ムフフ。
「ギャンブルはね、するもんじゃないんだよ。こっちが有利なゲームを相手に押し付けるものなんだ」
キョトン顔のセレアナを見てオレはニタリと笑う。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「お、いるねいるねぇ~」
オレたちは酒場へとやってきていた。
私をもっと見なさいとばかりに自信満々なセレアナ、初めて見る光景に興味津々のリサ、おずおずとオレの後ろに隠れてるルゥ、そしてちっちゃいオレ。
明らかに酒場に不釣り合いなオレたち。
そんなオレたちに、昼間っから酒を飲んでるヤバげな連中の視線が向けられる。
「おいおい、ガキがこんなとこに何の用だ? ミルクならそこの女どもに飲ませてもらえよ!」
「ガハハハ! ちげえねぇ!」
男どもの大声と共に漂ってくる爛れたアルコールの匂い。
「なっ……!」
言い返そうとするリサを手で制する。
「平日昼間から酔っ払ってるのは非番の兵士だろうか。それともまさか当番の兵士だったりはしないだろうなぁ」
ピクッ。
男どものこめかみがヒクつく。
「いやぁ、さっき門の向こうからやってきた魔物を取り逃がしてるのを見て笑っちゃったよ。ここの奴らはとんだボンクラ揃いなんだな」
ドンッ!
「てめぇ! 喧嘩売ってんのか!」
分厚い木のテーブルに男の拳が叩きつけられて軋む。
「別に喧嘩を売ってるわけじゃない。ただ、そんなボンクラ兵士どもなんて、うちのこの子にすら勝つことが出来ないんだろうなと思ったら笑いが止まらなくてね」
後ろに隠れてたルゥの肩を掴んで前に押し出す。
「え? え?」
急に差し出されて戸惑うルゥ。
「あ──? 誰が誰に勝てないって?」
一触即発。
怒りに猛った男たちがオレたちを取り囲む。
よし、店内全員の注目が十分に集まったな。
パンっ!
オレは手を叩いた。
「よし、じゃあ実際に勝負してみよう! この子と腕相撲して勝ったら、オレが今言ったことは全て謝る」
「は? なんでそんな勝敗が見えてる勝負をわざわざやんなきゃなんねーんだよ」
「そうだな、じゃあ賭けならどうだ? この子が負けたらオレが謝罪して、さらにこの子を一晩好きにしていい。その代わり、もしこっちが勝ったら今脅されて心に傷を負ったオレたちに慰謝料として銅貨5枚を払ってくれ。どうだ?」
「えっ!? フィードさん何言って……」
慌てて抗議してくるルゥを尻目に男たちの様子をうかがう。
ゴクリと生唾を飲む男たち。
どうだ?
この賭けに乗ってくるか……?
次話【鑑定士の初仕事】
7月30日(明日)18:30頃更新予定
『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!
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