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尻に刺さった矢を抜くのはあなた

 魔界で監禁されること30日。

 監禁から抜け出し、様々なふざけた地形をくぐり抜け、魔物たちの追手を振り切って、そしてようやくたどり着いた魔界と人間界との境目。


 その境を区切る門を今、やっとくぐり抜けたオレたち!

 そんなオレたちを迎えたのは、人間たちからの手厚い祝福!


 ……ではなく。


 降り注ぐ矢


 だった。


「ぬおおおおおお!」

「魔物が侵入してきたぞ! 射て! 射て!」

「ちょっとフィード! 私達魔物だと思われてるわよ!」

「まぁ確かに魔物の姿してますからねぇ」

「何言ってるのあなたたち! 私たちはれっきとした魔物でしょ! 胸を張りなさい! そう! 私たちは魔物なのよ~~~!」


 ツッコむリサに、補足するルゥに、場をかき乱すセレアナ。

 オレはケルピーっていう馬の魔物の姿になって、そんな3人を背中に乗せてパカラッパカラッと走ってる。


「おい! 魔物が自白したぞ! 射て~! 人間界に入れるな~!」


 ぬおおお~!

 さっきゴブリンの群れから殺されかけたと思いきや、今度は人間からかよ!

 マジで勘弁してくれよ!


 ぷつり。


 お尻に鋭い痛みが走る。


「いってぇーーーーーー!」


 走るたびにお尻に矢じりが食い込んでくる。


「いたたたたたた! ムリムリムリムリ!」


 オレはもう我を失ってジグザクに走りまくると人気のなさそうな路地裏に飛び込んだ。


──擬態っ!


 シーン。


 そこにあるのはただの路地裏。

 オレを追いかける兵隊(?)たちがドタバタと通り過ぎていく。

 そこにある、矢が一本刺さった大きめの木箱に気づかずに。


(ちょっと……! 押さないでよ狭いんだから!)

(仕方ないでしょ! あんたがどうにかしなさいよ!)

(あわわ、喧嘩しないでください。それとセレアナさん、魔物の姿やめてください。爪が当たって痛いです……)


 木箱に擬態したオレの中で3人の女達がヒソヒソ揉めてる。

 しかし自分の体内に他の人を入れるってのは相変わらず不思議な感覚だなぁ。

 よし、追っ手も通り過ぎたみたいだし人間の姿に戻ろう。


 ふぅ。


「キャッ!」


 急に人の姿に戻ったものだから、支えを失ったリア達がすってんころりん尻もちをついて転んだ。


「ちょっと! 戻る時は声くらいかけなさいよ!」

「フィードさん大丈夫ですか!? さっき矢が……!」


 ルゥ~、オレのことを心配してくれるのはお前だけだよ~。

 と思いながらも、そんな素振りは表には出さない。

 なぜなら照れくさいし、いまさらそんなこと言っていいようなキャラじゃないと思うから。


「ああ、これ抜いたほうがいいのかな?」


 と、お尻に刺さった矢を差す。


「そうね、刺さったまんまだとそこから毒が入って最悪死ぬケースもあるから」

「そうなのか~……。ちょっと自分で抜くのはあれだから誰かこれ抜いてくれな……」

「はいは~い! は~い! はい私が抜いて差し上げますわ~~~!」


 オレが言い終わる前に遮って手を上げたのはセイレーンのセレアナ。


「えぇ~……だってお前スキあらばオレを殺そうとしてるやつじゃん……」

「いいのいいの! これ抜く時あなたすっごく痛くて苦しむのでしょう!? そんなのもう私がやるしかありませんわぁ!」


 なんかこいつ、喋り方も以前みたいに戻ってきてるよな……再会した時あんなにボロボロだったのに。


「ああ、もうなんでもいいよ。早く抜いてくれ」

「じゃあ後ろ向いてお尻出しなさぁい」

「はいはい」


 オレは抜きやすいように中腰の体制になってズボンを少し下ろす。


「キャッ!」


 ルゥが両手で顔を覆う。

 リサは……なんかそっぽ向いてるな。顔が赤いか?


 パシーン!


 お尻に激痛が走る。


「いってぇ!」

「あ~ら、間違って叩いてしまいましたわ。で、この矢をどうするんでしたっけ?」

「抜くんだよ!」

「抜く? 抜くってこうでしたっけ?」


 ぐぐぐと矢が押し込まれる。


「いててて! 押してる! 押してるだろお前! 引くんだよ! 引け!」

「あ~ら、こっちでしたか」


 そう言うとセレアナは一気に矢を引き抜いた。


「────ッッァッ……!」


 尻が熱い。

 ドクドク言ってるのが感覚でわかる。

 絶対めちゃめちゃ出血してるわ、これ……。


「フィードさん! えっと、止血……しますね!」

「いや、大丈夫だ……」


 オレは【改変】スキルで作った【ぷち火炎】を患部に当てる。


 ジュッ。


 肉の焼ける音。


「んぐぐぐ──ッ!」


 ハァハァ──、とりあえずは止血完了……。

 息も絶え絶えでズボンを上げる。


「フィードさん痛いですよね……早く治るようにお祈りしときますね」


 そう言ってルゥがオレのお尻をさすってくる。

 すると不思議なことに痛みが引いていくような気がした。

 でもルゥには回復のスキルなんかなかったはずだ。

 これはきっと病は気からってやつだな、うん。

 そう結論付けて残る2人を見てみると。


 じゅるりじゅるり……。

 ハァ……ハァ……。


 目に入ってきたのは矢じりについたオレの肉片にしゃぶりつくセレアナと、飛び散った血に興味深々のリサの姿だった。


「あのさ……セレアナはちゃんとご飯とか食べさせてあげるから、こっちでは人間食べたりしないで。色々面倒なことになるからさ。あと、リサはもう人間なんだから血を飲めないよね? それ飲んだら病気になるから興味持たないで。オレが怖いから。お願い」


 冷静に2人にお願いをして、表通りへと出る。

 みんなが追ってたのは馬の魔物と鳥人間の魔物みたいで、人間4人組に見えるオレたちは見事にスルーされた。


 さて、念願だった人間界に来れたはいいけどこれからどうするかなぁ。

 魔界みたいに魔物になって移動すると目立っちゃうだろうし。

 かと言って王国に向かうのに馬車に乗るにもお金がかかる。


「まずは資金作り、だな」

次話【ルゥちゃんは銅貨5枚】

7月29日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「お尻に刺さった矢を抜いただけの回で草」「野生に戻りかけてるリサとセレアナ草」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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