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なりきり作戦

 地獄の長城。

 人間界と魔界を区切る長く高い壁。

 ようやくそこまでオレたちはたどり着いた。


「それじゃ、これからどうしようか」

「どうしようかって何も作戦はないわけ?」

「う~ん、【博識】で調べてみたけど大した情報はなくてなぁ。わかったのはワイバーンの姿で飛び越えようとしたら確実に撃ち落とされるってことくらい」


 ここから見てもわかるほど、長城の壁の上にはバリスタや投石機がたくさん設置されている。

 あれを超えて飛んでいこうとしても無傷じゃ厳しいだろう。


「透明になったらどうなの?」

「オレは透明になれるけど、お前たちがなぁ」

「それじゃあ門が開くのを待ってからこっそり通る、みたいな感じでしょうか?」


 壁の近くの森でヒソヒソ会議してるがいい案が出そうにない。

 離れた位置でツンとしてるセレアナに声をかけてみる。


「お~い、なんかいいアイデアないかな?」


 声をかけてみてもセレアナはツンとして無視してる。


「はぁ……しょうがないなぁ」


──魅了。


 初めて【魅了】のスキルを使ってみた。

 さて、どうなるかな。


「え、うそ、やだっ……! あ、あの……私あなたのファンなんです……。すごく……あの、声が……すてきで……」


 あ、そういう感じなんだ。

 芸能人とファン的な?


「そんなに怯えないで子猫ちゃん。それより教えてほしいことがあるんだ。キラーン」


 ちょっと悪ノリしてみよ。


「はい、なんでもお聞きください……!」


 目をうるませてるセレアナ。


(あれ? 今まで気にしてなかったけど、もしかしてこいつかなり可愛い?)


 初めてセレアナの顔をまじまじと見た非モテなオレは少し動揺しながら言う。


「この壁を超えて人間界に行きたいんだけど、なにかいい方法ないかな?」

「それでしたら……」


 セレアナが作戦を告げる。

 ふむふむなるほど。

 それでいこう。


 数刻後。


 準備を終えたオレたちは門に向かって魔物たちの集落の中をずかずか突き進んでいた。

 最後尾に顔を隠したセレアナ。

 その隣にルゥ。

 前にはリサとオレ。

 ただしオレはセレアナの姿に【変身】している。


「いい? ちゃんと堂々としてるのよ!」

「わ、わかってるよ」

「ほら、またガニ股になってる! 足閉じて!」

「だ、だからわかってるって!」


 ぎこちない歩き方のせいなのか、それともセレアナの美貌のせいなのか、オレたちは魔物たちの注目を一身に集めている。


「おい、嬢ちゃん達!」


 声をかけてきたのは壁にいくつかある門の周辺で人間の侵攻に備え配備されているゴブリン。


「あ? なんだ?」


 そう答えた直後にリサに足を蹴られる。


「いだっ! え、えっとなんですの?」

「あんたらここがどういうところかわかってんのか? こ~んなべっぴんさんばっかで冷やかしに来やがってよぉ」


 べっぴんさん!

 

「おい聞いたかリサ! オレべっぴんさんだって!(小声)」

「私“達”のことでしょ! 私やルゥもいるんだから言われて当然よ!(小声)」


 そうかぁ~べっぴんさんかぁ~。

 よ~し、じゃあ気合い入れて【美声】スキルも使っちゃうぞ~。


──美声!


「もし美しく、麗しく、可憐な私達が無遠慮に現れたことによってあなたを不快にさせたのなら謝るわぁ。でもねぇ、私たちは魔王様からの命令で人間界に行くところなのぉ。だからあの門を取りたいんだけど、ここの責任者は誰なのかしらぁ? あぁ喉の調子がいいわララララ~♪」

「せ、責任者?」


 オレの美声に飲まれたゴブリンはさっきまでの威勢はどこへやといった様子でおずおずと答える。


「そう、誰があの門を開ける許可を出すのかしらぁ?」

「も、門を開けるのはあそこにいる奴だ」

「彼ね。どうもありがと、ゴブリンさんラララ~♪」


 礼を言って門の前に立ってるホブゴブリンの方へと向かうと後ろからセレアナに殴られた。


「いたっ! なにすんだよ!」

「調子に乗りすぎ!」


 あれ……もしかして【魅了】の効果薄れてきてる?

 そういや【魅了】の効果時間とかちゃんと調べてなかったな。

 これ途中で切れたりしたらヤバいかも……。


「ん? なンだお前らは?」


 オレは【美声】をかけて答える。


「私は麗しの歌姫、もうすぐ魔界のスーパースターになる予定のセレアナ・グラデンですわ! 魔王様直々の命令で人間界に行って人間どもをかどわかしにいくとこですの。さぁ、わかったらさっさと門を開けなさぁい」


 オレの圧に飲まれそうになりながらもホブゴブリンは律儀に規律を守ろうとする。


「そンな報告は受けてない。手続きをしなイと門は開けられない」

「報告がないのは当然よぉ。なんてったって密命ですからねぇ。あなたみたいな下々の者には知らせてなくて当然よぉ」

「密命なら書状があるはズ。それを出セ」


 う~ん、ホブゴブリンのわりにしっかりしてるな。

 面倒くさいからこっちの方法でいくか。


──範囲魅了。


 前に進化して得たスキル【改変】で作った【範囲魅了】を放つ。


「門でスか! はイ、今すぐ開けます! おイ、早く門開けロ!」

「開門了解! オレの開けた門を通ってもらえるとかマジやばいっしょ!」

「うおお! 誰だあのセイレーン、美しすぎる!」


 猛烈に押し寄せてくるゴブリン達。


「おい! 気安く近寄るな! オレのほうがお前らより前からこの御方のファンなんだからな!」


 さっき道を聞いたゴブリンが古参ぶってたりもする。


「あ、あれ……? 魅了が効くのはいいけどなんか集団ヒステリーみたいになってない……?」


 と、同時に身近から漂ってきた不穏な雰囲気。


「あれ……? リサ? ルゥ? なんか目つきが変だぞ……?」


 あっ、これヤバイかもと思った瞬間に2人に飛びかかられた。


「フィードさん! フィードさん! 私のメシア! すきすき大好きです! セレアナさんの姿になってもかわいいです! 好きすぎます!」

「もうっ! なんで私があんたについていってやってるのかいい加減に理解しなさいよっ! にぶすぎるのよあんたバカバカッ! 人にあんなことまでしておいてお預けってどういうつもりなのよ!」


 いやいや痛い痛いっ! リサ殴らないで! マジで体力減ってるから!


「あぁ……なんて素敵なんでしょう……」


 うっとりした声を発していたのはセレアナ(本物)。


「さすが私ですわ……下等な人間が化けているとはいえなんという美しさ。そして声の美しさ。やはりわたくしは……最高ですわぁ~~~~!」


 自分を自画自賛しながら変装も解くと魔物の姿になって飛びかかってくる。


「うおお、お前が一番厄介なのかよ! って毒触手やめて! 減ってるから! 体力スリップダメージ受けてるから!」


 もみ合うオレたちを見てゴブリンたちも盛り上がる。


「うおおお! 麗しの御方が2人になったぞおおおお!」

「いけいけ! どっちも頑張れ~!」


 うわぁ、なんだこの状況。

 ゴブリンに囲まれて女4人でもみ合ってるって我ながらわけわからん。


「おい、落ち着け! とりあえず門開いてるから今のうちに行くぞ!」


 無理矢理でもいいから門をくぐろうともがいてるその時、一匹のハーピーが壁の上に降りてきた。


「ほうこーく! ほうこーく! 魔族29人殺しの大罪人フィード・オファリングが逃亡中! 人間界に戻ろうとする可能性あり! 見かけ次第殺せ! 報告以上!」


 オレのことじゃ~ん。

 めっちゃ指名手配されてるじゃ~ん。

 しかも「捕まえろ」とかじゃなくて「殺せ」なのか、こわっ。

 まぁ魅了、変身、透明、擬態あたりのスキルがある限り絶対見つからないんだけどね~。


「ん……?」


 そこまで考えて気づく。

 そういえばハーピーって……。


「ビー! ビー! なにしてんだお前ら! ファ××! クソ×××! チ××ス×××!」


 あ、これって……。


 ボワンっ!


 状態変化を解く【罵倒】じゃ~~~~~ん!


「……ん?」


 我に戻るオレたちを取り囲んでるゴブリン達。


「……へ?」


 我に戻るオレに組み付いてる女達。


「あっ……」


 そして、変身が解けて男の姿に戻るオレ。


 こうしてオレたちは、一瞬にして空前の大ピンチに陥ってしまった。

次話【強行突破】

7月27日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「ハーピー来るタイミング悪すぎて笑った」「大ピンチじゃん!」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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