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ファーストキス

 どんどん木が合体して巨大化していくアルラウネを尻目に、ワイバーンに変身したオレは空をグングン突っ切っていく。


「さっそくあんたに復讐にきたわね!」


 リサがデリカシーの欠片もない言い方をする。


「あれはアルラウネの親なのか?」

「植物系の魔物は全部親戚みたいなものなの! 魔界にいる限り森は避けたほうがいいかも!」

「……とっとと魔界自体からおさらばしたいもんだな」


 リサと話してる一瞬のうちにもう巨大アルラウネの姿は見えなくなっていた。


「あの……フィードさんって本当の名前があるんですよね? その……人間界にいた時の……」


 ゴーゴンがおずおずと話しかけてくる。


「アベルだ。元々の名前はアベル」

「アベル……。あの、すみません……私が変な名前を提案しちゃったばっかりに」

「いや構わない。このままフィードと呼んでくれていい」


 軟弱で馬鹿正直だったアベルとしての自分はもう捨てた。

 これからは復讐者フィードとして生きていく。

 この名前でいる限り、オレの復讐心が消えることはないだろう。


「ところで、なんであんな名前つけたんだ? ゴーゴンめっちゃ温厚な性格なのに、あの名付けのせいでずっと嫌な奴だと思ってたぞ」

「あっ、あれはそう名付けたほうが、みんなにいたぶられないんじゃないかと思って……」


 なるほど。

 仮にあの状況で「オレはアベルだ!」なんて名乗っても反感しか買わないだろうけど「フィード(餌)・オファリング(供物)」だったら圧倒的弱者として憐れみを持ってもらえるだろうな。

 いじめられっ子として生き抜いてきたゴーゴンだからこそ思いついた優しさ、か。


「うん、ありがとう。お陰で生き延びられた」

「いえ、傷つけてしまってたみたいですみません……」

「そういやゴーゴンって名前なんだっけ? リサみたいに長かったりするのか?」

「あ、えっと……ゴンゴル、です」

「ゴンゴルか。ゴンだと男の子みたいだしゴルもあれだから……ルゥって呼んでもいいか?」

「ルゥ……はい、嬉しいです!」

「ルゥいいわね! ゴンゴルってなんか堅苦しいもんね!」

「ゴーゴンはみんな名前がゴツゴツしてるんです……」


 へぇ。種族によって名前にも傾向があるんだな。


「じゃあリサの一族はみんな名前が長かったりするのか?」

「当然よ! 身分が高くなればなるほど長くなっていくわ!」

「へ~。あっ、じゃあもしかして『リサ』って短く呼ばれるのって……」

「屈辱よ! 屈辱だけど……今の私はもう吸血鬼でもなんでもないただの人間だからね。屈辱を甘んじて受け入れるわ」


 ふむ。

 リサって伊達にツンツンしてるだけじゃなくて精神力も強いし誇りも高いんだよな。

 一本筋が通ってるというか。

 凄いとは思うけどこんな生き方で疲れないのかな?

 今度からたまにフルネームで呼んであげることにしよう……。


「あ、岩山見えてきました!」


 彼方にツルツルの岩山が見えてきた。


「あそこなら植物もなさそうね!」


 よし、あそこで一休みしよう。

 そう思って山頂に着地した瞬間──。


 つるっ。


 見事に滑った。


「キャッ!」

「はわっ!」


 背中に乗ってた2人も落っこちて山肌を滑り落ちていく。


「これは……つるつる岩山よぉ~~~!」


 つるつる岩山。

 大悪魔から奪った【博識】スキルで情報が頭に流れ込んでくる。


『一見すると普通の岩山だが、その岩肌に触れると慣性がゼロになり滑落かつらくする。ふもとには落ちてきた間抜けな生き物を分解する下級スライムが大量に生息している』


「うおおおおお、なんじゃそりゃああああ!」


──擬態っ!


 オレはスキー板に【擬態】すると、岩肌を滑り降りていってリサとルーの下に潜り込む。


──さらに擬態!


 オレは2人を包み込む超巨大なシャボン玉になった。


 ふわふわ。


 空を風に任せて飛んでいくオレたち。

 岩肌から離れたせいか慣性も元に戻っていた。


「つるつる岩山! 話には聞いてたけどまさか自分が滑ることになるとは夢にも思わなかったわ!」

「あってもいきなり山頂に降りたりしないですからね~……」


 う~ん、こんなものがあるのか魔界。

 思ってたよりかなりどうにかしてるなこっち側の世界は。

 せっかく手に入れた【博識】スキルも自分が積極的に調べようと思わなければ発動しないっぽいし、ちゃんと魔物たちの授業も聞いてたほうがよかったかもしれん。


「っていうか私たち今なにに乗ってるの!? この透明なのはフィードなの!?」

「そうだよ~、今シャボン玉になってふわふわ浮かんでるんだぁ~」

「しゃ、シャボン玉!? もしかしてミミックの【擬態】スキルかしら?」

「うん、そうだよ~」

「というかフィード。あんたその喋り方……」


 ふわぁ~、しっかし気持ちいいなぁ~ここのまま何も考えず揺られ続けてもいいかも~……。


「フィードさん!」


 あれ? ルゥの声で正気に戻る。

 オレ今何考えてた?


「大丈夫ですか? 今様子が変でしたよ?」

「あ、ああ。すまない。意識がシャボン玉の方に引っ張られてた」

「あんた心までシャボン玉になりかけてたの!? ちょっと! 気をつけてよね! 私の寿命更新してもらわないと困るんだから!」


 ああ、そうだ。

 オレは【死の予告】でリサの寿命を1年後に設定してるんだった。

 っていうか意識引っ張られるとか【擬態】スキルヤバいな……。

 これ絶対1人の時に使っちゃいけないやつだわ……。


「フィードさん、あっちに岩山ありますよ! 鳥もいるし、あそこはつるつるじゃなさそうです!」

「よし、じゃあそっちに向かうか」


 その時、耳をつんざく金切り声が聞こえてきた。


「ビー! ビー! ビー!」


 女の顔に鳥の体。

 武器は大きく不潔な爪と汚い罵り言葉による精神攻撃。

 所持スキルは【罵倒】。

 ハーピーだ。


「ファ××! ク×××! ウン×××!」


 なんて言ってるかはわからないけど直接精神に干渉してくるハーピーの【罵倒】。


 シャボン玉の表面、つまりはオレの皮膚がぶるんぶるん震えだし、


「わ、わわ、擬態が解け……」


 ボワンっ!


 【擬態】が解かれてしまった。


「キャー!」


 真っ逆さまに落下していくオレたち。


「うおおおおおお! ハーピーのスキルって状態変化を解除できるのかよおおおおお!」


──変身んんんっ!


 ワイバーンになったオレは【高速飛行】スキルを発動してリサとルゥを背中に乗せる。


「掴まってろ!」


 2人にそう言うとオレは地表へぐんぐん向かっていく。

 一刻も早くあの糞ハーピーの声の射程外に行かないと!


「……××! ……××!」


 って、おいおい……ハーピー共どんどん集まってきてるじゃねーか。


「大きく息を吸い込め!」


──潜水!


 ドボンっ!


 その勢いのまま川に飛び込む。


「んぶぶぶぶぶぶ……!」


──変身。


 オレはケルベロスの姿になると、リサとルゥにキスする。


「!?」

「ぶぶっ!? あぶばぼぶぶっ!!!!」


 慌てる2人に残る1つの頭で「落ち着いて」と口の動きで伝えると、2つの頭で2人にキスしたまま口の中に空気を送り込む。


「むむむっ……!」


 暴れるリサを押さえつけて、ハーピーの気配がなくなるまで水の中でしばらく待った。


(もういいかな)


 そう思って岸に上がるとリサにビンタされた。


「なななななななな、なにすんのよあんたっ!!!!」

「え、ああ。【潜水】スキルを使たら水の中でも息ができたから、空気を2人に分けてたんだ。いやケルベロスが頭3つもあって助かったよ」

「そ、そういう問題じゃないでしょ、そういう問題じゃ!」

「え、いやでもああしないと多分みんな危険だったし……」

「だからっ! もう、あんたって人は!」


 命を助けたのにめちゃめちゃ怒られてる。

 なんで?


「あ、もしかしてキスされるくらいなら死んだほうがよかったとか? オレって嫌われやすいみたいだし」

「そっ……! そんなことは……ない、けど……」


 急に顔真っ赤になるリサ。

 う~ん? マジで何を言いたいのかわからん……。

 困ったオレはルゥに助けを求める。


「なぁ、ルゥ……」


 ルゥを見ると口を押さえてめっちゃモジモジしてた。

 え、なにこのリアクション。

 もしかしてトイレとかかな?

 気を利かせてこの場を離れたほうがいいのかもしれん。


「ちょ、ちょっとその辺を見てくるよ」


 そう言って半ば逃げるようにその場から脱出した。


 おお~やべぇ~、あの2人の考えてることぜんっぜんわからん!

 そもそも人間界にいた頃のオレって全然空気読めなかったんだよな。

 パーティーメンバーにも最後ボロクソ言われたし。

 う~ん、あんな年頃の女の子2人とこれから先やっていけるんだろうか……。


 そんなことを思いながら元の場所に戻ると、気まずそうにかしこまったリサがいた。


「あ、あのっ、さっきはごめんなさい。た、助けてくれたのに酷いこと言っちゃって……」

「え、あ、うん。どうしたの急に」

「ルゥにちゃんと言葉にしないと思ってること何も伝わらないって言われて……」

「リサさん、さっきは気が動転してたんですよね。いきなりファーストキ……」

「わー! わー! わー! わー!」


 手をバタバタと振ってルゥをさえぎるリサ。


 ちゃんと言葉にしないと……か。

 たしかにそうだな。


「リサ。ルゥ。オレは自分たちが生き延びることだけを優先しすぎてたかもしれない。そのせいで2人には迷惑をかけてると思う、すまん」


 言葉に素直な気持ちを乗せ、頭を下げる。


「そ、そんな! 頭を上げて下さい……!」

「そ、そうよ! い、生き残るためだったんですものね! そ、そうよね私もわかってるわよ、ちゃんと!」


 あれ……。

 素直に思ってることを口に出すのって、意外と気持ちいいんだな。

 もしかして前のパーティーの時でもこうやって素直に話せてたら違う結果になっていたんだろうか……。


 そんなことを思いながら頭を上げると、はるか遠くに舞う砂埃が目に入った。


 ドドドドドドド……!


 あれは……水獣ケルピーの群れ。

 オレが殺したケルピーの復讐に来てるっぽい。

 あきらかにこっちに向かって走ってきてる。


「すまん、もう1つ思ってること言っていいか……?」

「奇遇ね、私も言おうと思ってたの……」

「わ、私もです……」


 3人とも息を大きく吸い込むと、同時にこう叫んだ。


『逃げろーーーーーー!』


 ワイバーンに変身したオレは大急ぎで2人を積み込んでその場からピューっと飛び去った。

次話【初夜】

7月23日(明日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「ルゥちゃん空気読めてかわよ!」「リサ照れててかわいい」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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