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ごはんは、おいし  作者: 淺葱 ちま
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かこは、こうしていまにできあがる

 

 私は、暖かい二人のところに行くしかなかった、走って、周りからどう見られているのかなんて気にせず走って、どうやってたどり着いたかわからないが、二人に会えた。


 玄関先で私はわんわん子供のように泣いた。泣き散らかした。何を言ったか思い出せないが、とにかく溜め込んだものを全て吐き出した。口にしてはいけないと思ったこと


ーーー私はあの人たちと「家族」にはなれないことを伝えた。


 おじいちゃんが、家に電話をしてくれて、学校を休んで数日二人の家で過ごしてから、学校に通うためにも、おばあちゃんと一緒に家に帰った。


 その時、両親から「ごめんなさい」と言われた。


「もういい」


 私は、そう告げて、部屋に向かった。もう知らないからどうでもいい。ただそう思った。言い訳も何もいらない。

許すと言えるほど、私は大人ではなかった。

 

 それから私の代わりをおばあちゃんがうちに基本的に居てくれるようになってくれた。

 そうして、受験勉強という名目で、私は家では部屋からほとんどでなくなった。


 食事も、おばあちゃんが部屋に運んでくれるから、家族と顔を合わせなくて済むのは、どこか安心するものがあった。


 弟が生まれてからは、高校生になったこともあり、大学進学を機にここから出ていくと決めて、学びたいとかは関係なく、一人暮らしできるところを探して入学しようと、部屋にこもって勉強を続けながら、おばあちゃんたちに保証人をお願いして、アルバイトも始めたことで、受験の時にも増して顔を合わせなくなった。


 両親は、私がどうしてバイトを始めたのか。どこの大学に行きたいのかも知らなったと思う。私もいうつもりがなかった。一人で、生きるために今は身を寄せさせてもらっている。そう思うようにして生きてきたからだ。

 今、考えれば、この時点で二人の家に行けばよかったと思うものの、当時の自分は、家にいないのに高校のお金は出してもらうのは、気分が良く無いという概念で居座った。


 私の物心ついて覚えている限り、母の味というのは知らない。知っているのは、おばあちゃんの味だけだろう。バイトの無い日の高校帰りは、なるべく二人の家で過ごして、よりたくさんご飯を食べたから覚えているだけかもしれないけれど。


 大学は、実家から電車で通えないこともない位置の都内の国立大学に受かったが、ひとり暮らしをしますと伝え、荷物もまとめていた。


 頭金は流石に、と出してくれた両親に頭を下げ、高校卒業とともに実家を出て奨学金を借りながら一人で生活を始めた。

 

 生真面目に単位を取ろうとしたせいでほぼ毎日のスケジュールが埋まった授業とバイトに明け暮れて、何とか家賃と後期の授業料を払えるようにお金稼いで生きてきた。

 周りは、家族にお金を出してもらって、休日に楽しんでと青春を謳歌している姿を見て、悲しくもなっていたが、だんだんと無感情から憎しみに変わっていくのを感じて、「一人で生きていくだけ、大丈夫」と言い聞かせた。


 ある時、たまには飲もうとゼミの同級生に誘われ、バイトもなかったし、お酒飲みたいな、とついていくことにした。後から気づいたが合コンの人数合わせに連れていかれたようだった。


「いつもこの子働いててぇ、やっと飲みにつれてこれたんだぁ」


 なんて、今考えたら、私、そんな子誘ってやさしいアピールだったのかもしれない。


 口々にどうしてそんなに働いているのと聞いてきた。自分の人の悪口を言葉をするのをためらったが、酔った勢いで、軽く伝えた。ただおじいちゃんおばあちゃんではない誰かにも、聞いてほしかったんだろう、どこかで笑い話にしたかったのかもしれない。


 でも周りは、友人を筆頭に「かわいそう」といった。


ーーーそうか、私はかわいそうなのか。


 すっと酔いがさめる気がした。から笑いをして、昔の話だよと、その場を流そうとしたが、


「すごく、頑張ってるんだね。尊敬する。」


と、唯一その人だけは、そういってくれた。

思わず目を見開いて、見てしまった。自分を認めてくれたひとがいる。


 そんな一言でよかった、そんな一言がずっとほしかった。


 かわいそうじゃない、自分で選んだから。甘えちゃいけない、自分で選んだから。

 でも、ほんのすこしだけ、ひとことでいいから、両親から、「ありがとう」と言われてたら、「いっつもがんばってる」と努力を認めてもらえたなら、何か違ったかもしれない。


 空気を壊さないように「昔の話なのにありがとう」とだけ伝えて「ちょっとトイレに」と席を外した。久々に、泣いた日だった。


 帰り道、その人に「あなたのおかげで救われた気がする。ありがとう」と伝えると、なぜか連絡先を交換することになり、気づけば恋人になっていた。


 ありがたいことに社会人一年目も、付き合いが続いていたが、私の会社があまりにブラックで、残業手当込みとはいえ、タイムカードを切った後も仕事をさせるような会社に入ってしまい、日に日にやつれていった。


 彼は、私を心配して、何度も辞めるよう伝えてきた。でも、奨学金の返済もある。家賃も払わなくてはならない。上司に「ここを辞めたらお前なんて価値がない」と言われ続けて、「そのうちね」なんて言いながら、転職する気すら起きなかった。


また、会社を辞めないか? と聞かれたときに、私自身限界だったのだろう。


「じゃぁ、だれが私の面倒見てくれるの、今まで一人で、なんでもやらなくちゃならなくて、家族も頼れなくて、次受かるかもわかんない、辞めて大丈夫な保証もないのに軽々しく言わないで!」


 怒鳴ってから気が付いた。これじゃぁ、八つ当たりしてきた母親と何も変わらないじゃないか。


 すぐに謝罪した。だけど、口から出てしまったものは、大きな傷を彼に負わせてしまったと思う。


その後、彼から別れを切り出された。


「今の俺じゃ支えてあげられない。」


ごめんと何度も泣く彼に、泣かせてごめん、私に時間を使わせてごめんと、何度も謝った。


そうして私は、家賃のために生きるただの社会人になり果ててしまった。

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