表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごはんは、おいし  作者: 淺葱 ちま
6/31

かこは、そうしてすすんでく

そんな暖かい場所を見つけて、安堵したのもつかの間に、妊婦検診でどうやら食事指導があったのか、母親は自分の分だけ、手作りの食事をするようになった。

 

 私と父親は相変わらず惣菜を皿に並べて、出されているが、妊婦で大変な母親に文句を言うことはなかった。

 ギリギリまで仕事を続けていた母親は、事あるごとに自分の分の料理を、めんどくさい、やりたくないというようになっていった。

 そうして、やはりというべきか、つわりやお腹の子を理由に私は、またあの頃のように家事全般を任された。


 結婚してしばらくは、他の家で見たような家族にの形になって嬉しかったからか、妊娠をきっかけにこうなる事をどこかで予測していたはずなのに、思ったよりも落ち込んで、息が詰まって、苦しくなった。


 家族だから当然だよね、という話で両親の間ではまとまっており、またあのと時のように私の意見は聞かれることはなかった。


 私には、イエスと言う道しかわからなかった。


 もちろん父親も手伝ってくれていたが、新しく生まれる命や家庭を守るために夜遅く帰るようになった父親に休日の買い出しくらいしか頼めることはなく、ほどんど、私がやることになった。必然的におじいちゃんとおばあちゃんのところには行けなくなった。


 もやもやとした感情と自分の幼い心を葛藤させてる最中、母親が妊娠したことの情緒の不安定さからかだろうか、私にキツくあたることが増えた。

 あんなに聞きたかった、いい子、は一度も言ってもらえることはなかった。


 やった行動に感謝を言われるわけでもなく、当たり前のように扱われ、むしろできてないところや効率の悪さを重箱の隅を突くかのごとく指摘される日々が続いた。

 食事の味付けに文句を言われるも、その日でいうことも変わる。


 母親は、お姉ちゃんになるんだから、文句を言わせるようなことをするな家の事も勉強も完璧であれと求めた。


 私はできる限りのことはした。眠くても勉強をして、家の事をして、自分の事より母親を大切にしたつもりだった。

 

 だが、限界がある。また文句を言われて爆発寸前な私は、思い出す中で初めて、母親に対して反抗した。


「お母さん、あのね、私、頑張ってるけ、これ以上家事は全部完璧にはできない、そんな細かなところまではできないよ…ごはんだってそう、毎回味付けは変えることなんてできないし、宿題とか受験にむけて勉強の時間もほしい、すごく辛い」


言ってしまった。でも冷静に伝えたつもりだ。これできっとわかってくれる。大変だったよね、ごめんね、いつもありがとう、助かってる、そうやって、ねぎらってくれるーーーーそんな淡い希望をした。


「大人になったら、女がやることを先にやらせてあげてるのに…! 私のほうが辛いよ! どうしてそんなに不器用なの!? 甘えないで両立しなさいよ!」 


 呆然としてしまった。私は伝え方を間違えたのだろうか? 私が不器用で努力が足りないのだろうか? 私は、甘えているのだろうか?

 

「もぉお! 冷静に攻めるところも、あの人に似てる! 無表情で家事やって、あんたは、あの人に似てかわいくない!」


 そうやって叫ぶような大声を上げたと思ったら、わぁっとそのまま泣き出してしまった。


 あの人に似てからの言葉からあと、ここにいるはずなのに、耳がキーンと音を立てて、遠くなって、自分を傍観しているような気分になった。それは、どんな状態であれ、言っていい言葉なのだろうか?


 この頃、酷く言われることが増えていた。体調が良くないのかもしれない、だけど、なぜ、そこまでいわれるんだろう、泣きたいのは私だ。でも、泣いたら負けだと思って、意識を今に戻して、ぐっとこらえた。


 やらないとは言わない、だけど、自分のことをやらせてほしい。完璧を求めないでほしい、私にとっては当然なことを言っているだけなのに、なぜ私があたかも悪いように言われなくちゃならないのか、私がおかしいのだろうか? 私は言い返すこともできずに、ただ立ち尽くしていた。


 どうすればいいのかわからずに、ただは母親の泣き声を聞いていると、珍しく早く帰ってきた父親は、私達の様子を見て、私を部屋に行くように促した。


しばらくして、父親は、私のもとへやってきた。


「お母さんは落ち着いたよ。寝かせてきた」

「…そう…私は、」


ーーー私は二人の為に、やれることはしたいけど、ちょっと限界で、少しだけ手を抜かせてほしい


そう伝えたかったのに、伝える前に父親は、何を言われたかわからないが、母親の言葉だけで言葉を紡いだ。


「あのね、家族が増えるっていうのは、家族で支え合って、いかなきゃいけない。 確かに家事をまかせている部分はあるけれど、お母さんは、お腹に新しく家族を育ててくれている。 だから、辛く当たらないで、優しくしてあげてほしい。」


 ぶちっと、張っていた糸が切れた気がした。なら私は、いったい誰に優しくしてもらえばいいんだ。


 小さな頃頑張って一人で過ごしたことも、結婚のことを相談されなかったことも、名字が変わったことも弟ができたことも、家事も勉強も全力でいなきゃいけないのも、全部普通で当たり前なのに、受け入れられない私が悪い子だからいい子になれるように締め付けていたのにーーーもうダメだった。


 立ち上がって、入り口にいる父親を押しのけて玄関まで走った。無理やり靴を履いて、家を飛び出した。

 何か言っていた気もするが、振りかえることはない。


 その日、初めて、家出をした。2度目の初めてを、一日で体験した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ