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ごはんは、おいし  作者: 淺葱 ちま
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かこをほりおこして、ふりかえる

 私の過去を思い起こしてみる。


 おじいちゃんとおばあちゃんが好きで、よく悩みを聞いてもらっていた。


 どうして両親に聞いてもらわないのか。


 離婚して父親がいない。そんなのよくある話だ。母親が再婚した。そんなのもよくある話。その間に子供ができた。

 よくある話のはずなのに、私は、なぜかどこかで裏切られた気がした。


 「男なんてもういい」


 そういった母親は、仕事を中心に生活し夜遅くまで働いていた。


 正月に帰省したり、誕生日やいろんなタイミングで電話をしてくれていたおじいちゃんとおばあちゃんから、子供もいるし、お金も大変だろうから実家に帰っておいでと言うようなことを何度か勧められていたようだったが、そのたびに母親は、顔をしかめては、今の仕事を頑張るから帰らない、私一人でも育てるから大丈夫だからと言っていた。

 

 そんな会話が繰り返されれば、幼い私だろうと、一人で私を育てるには、すごく大変で沢山に働かなくてはならないから夜遅くまでいなくて当たり前だと思うようになり、いつしかお母さんにとっても大変な思いをさせている、そう思った。


 休日に出勤することもあり、会話もろくにできず、家事をできる範囲で任されるメモと食事の代わりにお金だけおいていかれる日々だった。私は、せめて助けになればいいと思って、わがままを言わずに、頑張って言われたメモの家事や母親に食事を作るようになった。


「いい子ね、助かるわ」


 たまに機嫌よく早く帰った日には、そうやって私を褒めた。あぁ、よかった。私のせいで、たくさん働いてる母親に、何かを返せている、助かるということは必要とされているんだと実感できた。帰ってくる母親がとても恋しかった。


 お弁当が必要な日には、自分で結んだ不格好なおにぎりをもっていった。隠れるように、ひっそりと食べた。段々と上達したが、可愛いお弁当箱なんてものはなくて、結局、一人でこっそり食べた。


 行事には来てもらったか、記憶にない。だけど、それでも良かった。たまに褒めてもらえる、いい子ね、という言葉だけが私のお守りだった。


 中学生になってからある日、「結婚するね、今日からお父さんよ」と今の父親を突然連れてきた。


 とてもやさしい人だと思うけれど、私は、思春期真っただ中で、何度か顔を合わせるわけでもなく、突如として父親という存在が降って湧いてきた事に頭を殴られた感覚がした。


 名字が変わったことを、周りは、理解を示してくれたけど、とやかく言う人間の一言が私の中では大きく心を占めていた。それと同時に、不信感が湧いた。


どうして何も教えてもらえなかったんだろう?

どうして結婚前に私に意見を聞いてくれなかったんだろう?

いつからあっていたの?

私が、一人で寂しい時にもあっていたの?


 なんだか自分本位にしか見えない母親がだんだんと好きになれなくなった。


 もともと家のことをしない母親だったが、結婚後は、前よりも早く帰ってくるようになり、料理はしたくないなりに考えて惣菜を買ってくるようにもなって、家のことをしてくれるようになった。 

 

 母親が家にいるのが、嬉しかったはずなのに、とても苦しかった。


 結婚して1年くらいだった頃、二人の間に子供ができ、私に弟が誕生することになった。

 二人は子供ができたことをとても喜んでいた。子供は好きだから私も、よかったね、と精一杯喜ぶように伝えたけど、心からは喜べなかった。


 そんな醜い自分を嫌になったが、私の幼い心は、とても辛くて悲しくて、この感情をどうしていいのかわからなかった。


 二人で、どんな名前を付けようか、どんな子供になってほしいか。そんな話をするたびに「私のことを話してくれたのはいったいいつだろう」と感じることが増えていった。


 幼い私がいけないんだ、私は悪いやつだ、素直に喜ばなくちゃと、何度も何度も自分に言い聞かせたが、この感情を両親に伝えることもできず、打ち明ける場所を私は持ってはいなかった。


 そんなもやもやした中、中学の帰り道におじいちゃんとおばあちゃんの存在を思い出した。


 小学生一人で行くには難しかったが、中学生の自分なら行けるくらいの近さに住んでくれていた事を思い出して、ふらりと引かれるように会いに行ってみた。


 前触れもなく来た孫を、二人は受け止めてくれて、私はたくさん話しを聞いてもらえると、スッキリとした気持ちになって、ほっと一息つけた気がした。

 はじめは、私の心情を聞いて母親に怒った二人が、電話しようとした。私はそれを泣いてそれを拒んだ。これを言ってしまえば、私は、どこかでもう家族でなくなる気がしたから。だから、二人に言った。


もう二度と言わないから、やめて、と。


 そうしたら、二人は、言わないから聞くからなんでもいいなさいと、言ってくれた。

こわごわ家に帰れば、遅かったね、どっか寄り道したの?といわれた。


本当に母親に伝えないでくれたことが分かって、あぁ、あの二人には吐き出していいんだと、心から安心した。


 それからは、もやもやとしたときには、小学生の頃の話だろうとなんだろうと、会いに行っては、思いを吐き出して、二人は、ただただ聞いてくれた。

 

 心が軽くなっているはずなのに、段々とあの両親と一緒にいることそのものが、辛くなって、避けるように部屋にこもったり、二人の家に居座ることが増えていった。おじいちゃんとおばあちゃんの家は、なぜだかすごく暖かくて心地よかった。


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