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ごはんは、おいし  作者: 淺葱 ちま
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ごはんは、おいし


 一件が片付いていよいよ外に出る。向かう先は、病院だ。

 彼も一緒についてきてくれて、さまざまな検査、そして自分の置かれていた状況などを話し、結果的に心因性と不摂生からくる可能性が高いと判断された。薬をしばらく飲むことになった。

 

 だが、病院に通わない様にしていた自分には薬剤の耐性があまりないのか、薬は体に合わないことや副作用が酷く出たりと、自分ではどうしようもない体調の悪さやそこからくる感情に自分でも、驚くほどの感情の波に戸惑うばかりだった。八つ当たりをしていると分かりながら止められない感情やそれによって落ち込むことを

 

「今一生懸命戦っていることだから、また相談しに行こうね」

 

と、私の状態を書き留めて、先生に代わりに伝えてくれるなど辛抱強く側にいて付き合ってくれた。

 

 そうして、しばらく経ち、自分の体に合った薬にも出会えたが、まだ食べることはあまり積極的にしくないことを伝え、体重が平均よりも下回っていることもあり、病院から処方された体重や体調を管理するために出ているいろんな味の高カロリーの飲み物を飲んで過ごしていた。

 

 バニラやストロベリー、コーヒーもあって、私はコーヒー選んで飲んでいたが、甘みが強い物だったため、薬のおかげか、舌はだんだんと甘味を感じられるようになってきていて、少しずつ美味しく飲めていた。


 休息をしっかりと取って、なし崩し的に一緒に暮らすことになった彼との生活にもやっと慣れた頃、彼の休みの日の朝は恒例となっていた、彼は普通のご飯を、私にはいつもの高カロリー飲み物ではなく、ブラックコーヒーを入れてくれて、ご飯を食べている様子を隣で見ながら、食事が怖いものではないと実感するために、彼が美味しそうに食べている姿をゆっくりと眺めることにしていた。

 

いただきます、と二人で手を合わせて、入れ立てのコーヒーをありがたくもらって飲むと…なんと言う事か、あまりの苦さにえずいてしまった。


「、に、っが…」

「え! あっ…え、大丈夫? え、いつもと同じやつなんだけど…」

「なんだ、これ…口の中が、じくじくする…」

「じくじく…ちょ、ちょっと待ってて!」


 そう言った彼がキッチンに足早にいくと、あのときのようにレモン汁と醤油を持ってきた。スプーンにまずはレモン汁をちょびっと乗せると私に食べるよう言ってきた。

 戸惑いながらもスプーンを口に入れると、昔ほどではないが酸っぱいと感じられた。


「味…味、する…! ちょっと酸っぱい!」

「え、え! これ、こっちも食べて!」


 そう言って醤油も差し出され、口に入れるとしょっぱいと言う感覚をしっかりと思い出せるほどだった。


「味、わかる?」

「まだ、薄い感じはするけど、わかる…!」


 泣き出しそうな私が彼をみると、私よりもっと泣き出しそうに顔をくしゃっと歪めて、彼はぎゅっと抱きしめてくれた。

 

 当時のように鮮明にどちらもわかるわけではないが、甘いを感じられるようになってきた中で、全体的に味覚が戻り始めて、もともと感じやすかった苦味はだいぶ戻ったから、あんなに苦いとしっかり反応になったのかなと思った。


「よかっ、たぁ…じくじくって、昔、苦いの飲んだ時に…言ってたから、もしかして、って思った、んだけど…よ、かったぁ…っ」

「うん、よかった…また一緒にご飯食べられるね」


 彼が涙声で、私の方が泣くと思ったのに、抱きついている彼の背中を撫でて、慰めた。一緒の食事を取れるようになりつつあることを嬉しく思った気持ちを素直に伝えた。


「う、ん。 うん。 ご飯、もう少しかかるかもだけど、一緒のご飯食べよう」

「もう少しだね」


 全然私のことを離さない彼のご飯が冷めていってしまうのが嫌で、あったかいうちに食べて、と促す。

 

 彼はティッシュで目元を拭うと、もう一度いただきますと言って食事を始めた。

 そんな彼を見ながら、私は言う。あの時は彼から言われてしまったが、私から伝えるべきだと思った。


「私ね、好きな人と食べるご飯が、一番美味しいと思えるようになったんだよね。」

「…」

「一番美味しいごはんまで、もう少しだね?」

「ねー…もー…あーもー…ずるくない?」


 天を仰ぎながら手で顔を覆う彼の隠れていない耳は真っ赤に染まっていた。

 

 忘れたとは言わせない。食事があまり好きではなかった私に、彼の言った、そう恋人になったあの日の言葉を私から伝える。鋭い彼は、きっと何を言われるのか見当がついているだろう。だからこそ、私から、手を離さないために言葉を伝える。


「──好きな人と食べるごはんは、美味しいよね。 これからもずっと隣で一緒に食べてくれるよね?」

「…はい、もちろん」


 返事をした後は、机に突っ伏してずっと、あー、うー、と唸っている。

 彼は、私から告白や好きだなんて言われると思っていなかったのだろう。だが、味覚が戻ってきた時には、付き合っていた頃に言えなかった分、今度は私から言おうと決めていた。今まで返せていなかった好きな人への想いを伝えられた私は、彼を横目に放置して、気分よく入れてくれたコーヒーをカフェオレにしようとキッチンに向かった。


まだ今は、食べても同じ味にはならないかもしれないけれど、ごはんがおいしいのその時は近いはず。

読んでいただきありがとうございました。ここで、本編は区切りとしたいと思います。

今後の二人のノンビリと過ごす恋愛の様子を後日談を載せようかとも考えてはいますが未定です。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


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