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ごはんは、おいし  作者: 淺葱 ちま
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はちみつみたいに、からめとられる

 カシューナッツを食べながらこれからどうするかの話をいくつかした。白熱する議論に一息ついて、コーヒを飲みながらテレビに映る自分を見て気がついた。服が彼のTシャツとズボンになっていたことに。驚いた顔で彼を見て


「服、あの、」

「今気づいたの? パジャマいらないって言った意味わかったでしょ?」


 いや、そういうことではない、そういうことではない。肝心なところは口に出しづらくて、小さく体育座りをして、なんとか情報過多なこの状況で意識を保てた。

 落ち着いてまた、一息ついてから話をした結果をもとに、動く方向性を決めた時に、彼はしばらく休むと言って引かなかった。今日の休みだけで十分で次の休みに少しずつ動いていけばいいのというと、彼は私の前でハンズフリーのスピーカーモードにして自分の上司に連絡を入れ始めた。


『──はいよ、どうした?』

「お疲れ様です。 すいません、昨日も電話してたんですけど、しばらく休みください」

『…は? 電話してきたと思えば、お前…』


どうやら昨日タクシーだけでなく上司にも電話していたらしい。何をしているんだ、怒らせてしまったのでないかと、慌てて訂正させようとするとスピーカーから聞こえてきたのは


『前に相談してた彼女さんの件だろ? 昨日動けそうになったから休みくれっていうから、わかったって言ったろ。 聞いてなかったんか? むしろ休め。 来たら怒ってるわ。 徹底的に潰してくるように』


と言ってくれた。思わず、ハンズフリーで声が届くのがわかっていて声を顰めていたはずなのに


「へぁ…君の会社、天国かなんかなの?」


と言ったら、上司さんに聞こえてしまい、面白い彼女さんだなぁと言って、彼と二人して笑っていた。彼は宣言通りに有給を使って積極的に動いてくれた。彼の人柄がそうさせたのもあるかしれないが、自分の問題に巻き込んでいるのに、彼はそれを応援してくれるような素敵な会社に巡り会えたのだなと思った。


 早々に行ったことは、私の住む家の管理会社に不審な手紙が届いたことを伝え、警察に相談に行きたいこと引越しを考えていること、場合によっては防犯カメラを見させてもらうかもしれないことを電話した。むしろ防犯カメラをすぐに確認してくれる旨を聞いた後は、一緒に警察に行った。


 どんな話をしていくのか得意の妄想シュミレーションをして、想定通り、痴情のもつれで私に責任があるのではないかと疑った様子を見せられた。

 集めていたメモのがかなりの量になっており、釈放されたばかりの男上司が犯人だと思うことを伝え、告発したことなどの内々の事情を話すとメモを改めて確認した警察が、恨みごとの中に殺害を想起させる文言の方が多く含まれていたこと『釈放中の容疑者』の行動であることから、すぐにマンションの防犯カメラの確認をしてくれた。そしてしばらくはここに帰ってこないように伝えられた。


 次にしたのは自分ではもう話すことはないと思っていた自分の会社へ、彼が隣で手を握ってれる中、電話をすることだった。人事部に、自分の名前を名乗ると電話口では、あっ、と驚いた声を出した様子の人事窓口の子から、すぐ代わりますと、あの時話をした男性に電話が変わった。

 私は、冷静になるべく話をしたが、途中で、やっぱり息が詰まってしまった。そのときに、彼が変わってくれて、改めて上司が犯人と思われる殺害を想起させるようなメモの数々の投函があったことで、警察に相談していること、そのことで罪悪感を感じて謝りたかったこと、早急に引っ越しをしたいと思っていること、そして、まだ退職手続きをしていないなら休職扱いにしてもらえないかということを伝えてくれた。


 休職は彼と一緒に考えたが、私の発想にはなかった彼からの提案だった。休職を選ぶきっかけは警察とは他に自分のために動こうと決めた一つ、『舌の治療をする』があったからだ。病院に行くとなれば保険証が欲しかった。やめてしまうと、保険証を失ってしまう、どうしたら…と彼にいうと、扶養に入らないのであれば支払いをしながら国民健康保険に入ることになるが、彼は上司だけだろうけど、ここまで迷惑をかけられたのだから、休職にしてもらい、その間は給料が支払われるため、お金の不安をなくして保険証もそのまま使おうと提案された。そして、退職までに時間がかかると言われていたことを伝えると、休職がまだ通るかもしれない今、電話をして相談しようと言われた。

 私は、上司が私の件で捕まるかもしれないことも伝えておきたい気持ちがあったこと再度迷惑をかけて申し訳なかったことを謝りたかった。謝る必要はないと言われたが、私が引き起こしたことだから、と譲れなかった。

 転居は彼が言い出したことで、ダンボールに全部しまってあるし、帰ってこないようにと言われた落ち着けない家を出て、もうこのまま、こっちにおいでと言われたのだ。私は別の場所に家を借りると言っていたが、平行線でひとまず電話をした。


 ちなみにまだ付き合ってはいないはずなのだが、電話を代わってもらった時に、息がうまくできずに呼吸音だけが私の耳を埋め尽くしていたが、私の背をさすりながら彼は「すみません、彼女が話すのが難しそうで、あ、はい。 婚約者です」と言って自分の名を名乗っていた気がする。

 そして人事に「安全のために自分の家に引っ越させます」と彼が自分の住所を伝えていて、引っ越しせざる終えなくされて、なんだか外堀を埋められた気がした。


 ちなみに私の退職手続きは、残業代のこともあり言われていた通り、まだ行われていなかった。扱い上は、休職の扱いにしてくれていたそうだ。

 ただ、改めて休職扱いのために保険証のことや給与のことを伝えようにも私は通知を切ってしまっまい、溜まった通知を開くこともしなかったため、会社からの電話に気がついておらず、一先ず給与を入れようとした時には、私が通帳を解約してしまったせいで振り込みができなくなっており、また電話をしようと思っていたところだったそうだ。

 必要な手続きは書類や流れがわかる書類を出向くことへの不安を考慮して送ってくれることとなったと彼から教えてくれた。それらを聞いた、彼はありがとうございますと言って電話を切って、私の頭を撫でながら


「入社決めた時言ってたみたいに、優しい会社だね」


 そう言ってと笑ってくれた。やっぱり、あの部署だけがおかしかったのだろうと改めて思った。


 上司は警察がきた様子をどこかで見ていたのか、しばらく現れず、上司自身の自宅にも帰っていなかったため、捕まったと報告はしばらく入らなかった。

 引越しをしたとわかってしたと分かれば、現れない可能性もあると、しばらくは外に出ず彼の服で過ごした。

 捕まらない間は穏やかでいられないだろう私のことを気遣って、まだ休もうとする彼の背中を押して仕事に行かせて、今まで眠れなかった分、たくさん寝させてもらった。味がわからないため、買ってきてくれた材料で料理を作ったりすることは出来なかったが、掃除や洗濯など、できる限りのことをしてゆっくりと過ごさせてもらった。


 そして仕事に行った彼には言わずに、警察に相談した上で一度だけ家に帰った事がある。そうすれば、出てくると思ったのだ。私は管理会社の協力のもと非常口から出て、自宅にさも安心して戻ったように見せた。

 そして案の定というべきか上司は私の家にやってきた。だが今回はメモを入れず、どうやら私の部屋の番号を押したらしい。執拗に何度も。そして警察がすぐさま声を掛け、逃げようとしたため、すぐ取り押さえることができたらしい。

 事情聴取からまた釈放となるかと思ったが、どうやらナイフを所持しており、言動から殺意がある犯行だと判断され、会社への容疑を整理している中での釈放だったが、逮捕に至ったとのことで安心してほしいと報告を受けたらしい。


らしい、というのは窓口を彼の携帯電話にしており、帰宅後に彼から伝え聞いたからだ。

帰宅までベットを我が物顔で使い、眠っておりぽやぽやした頭で聞き、ほっと胸をなでおろすと、彼が一緒に喜ばず、嫌に冷静な声だったことに気がついた。


ベットに座って彼の顔を見ていなかったため、盗み見るように恐る恐る顔を上げると、そこには目の笑っていない大変綺麗に笑った彼がいた。


「相談ってなんのことかな? なんで帰った?」


何故バレたのか、家に帰ったことは伝えていないはずなのに…と動揺して目線を外す私に突撃した上司は何故彼女が自宅にいるとなぜ思ったのかと彼が警察に問い、彼女からの提案で、止めたが安全を確保した上で事が行われたと話してくれ、そして、君から相談して了承してもらったと聞いたが…全てを報告されてたそうだ…そして、この事実を知った彼がここにいる。


「そこ、座れるね? 説明できるね」

 

正座しながら、頼るとはどういうことであるか、社会人としての報連相の大切さ、心配したこと等切々と説かれたのは言うまでもない。

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