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ごはんは、おいし  作者: 淺葱 ちま
3/31

そのけしき、なつかしむ

─────ガタ、ゴトン、ガタン


 電車に揺られて、外を見る。会社とは反対方向、混み合った電車だけど外を見る余裕はある。


 いつもは外など気にせず、今日は何をすべきか、何を言われるのか、何時に帰れるのか、終電には乗りたいな、なんてことを思いながら揺られているが、今日は違う。


 外の景色は明るくて、町並みがほんのり変わったことにも気がついた


「……」


 声は出ない、出さない。だけど、思い出は私の中を掛けめぐった。




『付き合って一年だもんね、折角ならいいお店行こうよ』

『私なんかが行っていいのかな?』

『何言ってるの、二人で行くんだからどんな所でも大丈夫だよ』


 頭を撫でてくれた感触


『美味しいね』

『うん、とってもおいしい』

『きてよかったね!』

『あのね』

『うん?』

『連れてきてくれてありがとう』


 私の一言に照れたように笑顔を見せてくれた。

今はもういない人


 あのとき食べた味は、もう覚えていない。

 電車は駆け抜けていく、泣くかと思ったが、存外泣けないのは、随分冷たい女だなと思った。


『ごめん、いまの俺じゃ、支えてあげられない…』

『…うん』

『ごめん、ごめんね』


 彼は、たくさん泣いて泣いて、そばにいようとしてくれたのに、だからこそ手放さなきゃと思った。私なんかのために使う時間は、もったいないのだから


────ゴトゴト、ゴトン、パァーーーッ


 電車がすれ違い大きく窓が揺れ、つんざくような音がした。だけど、心がうまく、うごかない。


 はっと気がつくと、次の駅が祖父母の家があるところまで来ていた。


────次は──駅に到着します。お降りの方は、お忘れ物のないように


 ドアの近くに並ぶ、ピンポンとなりながら開くドアをすり抜けた。

 改札まで歩いていくと、駅員はおらず切符回収口に切符を入れた。ぼろぼろな屋根を横目に、目の前には田舎の景色がそこにある。舗装はされているが、コケたら血が出そうな石が沢山転がっていて、事実足の裏をほんのり刺激する。


 祖父母の家は確か、こっちと、いつを最後に来たか覚えていないが、複雑だからこそ道を覚えているもので、歩いていく。引っ越したなどは聞いていないから、きっといるはずと歩いていく。


 歩いていくと、大きな建物が見える、あぁ、学校だ。チャイムが鳴るがなんのチャイムかわからない。とても懐かしい。ここに通ってないのに、学校そのものが懐かしい。戻りたい。戻りたくて、たまらなくて、思わずじっと学校を眺めた。


 不審者だと思われたらいけないので、後ろ髪を引かれながら歩いていく。住宅街の坂道を、一歩一歩と踏みしめる。時々見える猫の尻尾を、後ろ足に目をやりながら。顔はちゃんと見えなかった。だが隣にいるような存在を大切に、一歩、また一歩歩いていくと、平屋の家が見えた。ここだ。


 はぁっ、と上がった息を整える。普段の運動不足がたたったが、落ち着いて、息を整えた。表札は祖父母のもの、だけど中にいるかはわからない。一か八かにかけてきたのだ。


 心を決めて音符マークのついた小さなベルを押すと、家の中でピーンポーンっと大きくなった。そして


『はぁーい? はいはい』


 と中から聞こえた。コツっと何かを履いた音、コツコツと鳴らして、ガラガラっと開いた玄関から覗いたのはおばあちゃんだった。


「ひっ、久しぶり」

「? あらっ、あらあら、ようけ久々に来たねぇ」


 ふんわりと笑ったおばあちゃんは背中を少し丸めて手招きをした。

 一歩足を踏み入れると祖父母の家の匂いがした。

 玄関に飾られた写真たちも、木彫りの熊が、靴箱の上においてあるのも、招き猫もだるまも


あぁ、なつかしい。

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