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ごはんは、おいし  作者: 淺葱 ちま
23/31

あまいを、おもいだしたきがした

 彼は、何を言っているのだろう。理解がうまくできなかった。連絡を待っていたとはどういうことだろう。私からの? そんなわけない。支えられないと泣きながら謝ってきた彼を、今でも鮮明に覚えている。そんな彼が、私から連絡なんて欲しいわけがない。あぁ、優しい人だから、優しい嘘を吐いてくれているのだろう。


「本とCDおいてあったでしょ」

「…うん、今日返したね」

「わざと忘れた」

「…へ?」

「見つけたら、絶対に連絡が来るから、その時は絶対に、折れないって決めてた。」

「な、にを…」


 嘘にしては、ずいぶんと手の込んだ嘘だと思いたかったが、目線を逸らそうとすると腕を掴まれた。思わず顔を見ると、そこには私の目をじっと見ている彼がいる。彼は、真剣な眼差しで私を見ていた。恋人として短い期間でも彼を見てきた自分からしてみれば、その目は、何一つ、嘘をついていない時の本気の目だということは、嫌でも理解できた。


「俺も仕事したばっかりで、お金の事が不安で、って言われた時、なんもしてあげられない。 なんて声かけたらいいか、わかんないって…すごい悔しかった。」

「…八つ当たり、してごめ、」

「違う、謝らないで、正しい不安で、どうしていいかわからないずっと抱えてた気持ちだと思う。 言わせたのは俺が、追い詰めたからだって思った。 そんなことを言わせるほどに、感情的になるほどに、俺が最後の一歩を踏んだと思った。」

「ちが…」


 言葉が詰まって、涙が滲みそうになる。違う、こんな優しい人が、私が受け止められなかった、自分に自信がないことが原因だったに彼のせいだなんて思ってほしくない。


「追い詰めたのに気がついて、あの時の俺じゃ傷付ける以外できないと思った。 でも、家族を頼れない君を一人には絶対にしたくなくて、鍵は、返したけど好きだって伝えてたもの忘れ物して、絶対勝手に捨てたりしないと思ったから、連絡がきたその時、君が一人で苦しんでるなら、次こそ助けられるように準備しようと思ったんだ。 何言われたって折れないってそう思えるくらい準備しようって決めたんだ。」

「…」

「先輩とか上司とか相談して、人事の人とかとも話す機会もらって、俺が何ができるのかって相談乗ってもらって、こっちから連絡しようと思った日もあった。 会社のニュースになった日なんて特に。 俺から送ろうか、連絡が来ないだろうかって携帯ずっと気にしてたのに…虫のいい話だけど、連絡してくれたらって…頼れる人のままであればいいのにって…だけど、俺が傷つけたから、頼ってなんて俺が君に送っていい資格はまだあるんだろうかとか、誰かいい人ができてたらとか、動けなかった…沢山いろんなこと勉強したのにね。 でも今日連絡くれた時に、すごい嬉しくて、やっと会えて、でも会社のこと、一人で立ち向かったって聞いて…結局、頼れなくて、ごめん」


 ボロ、ボロッと止めどなく涙が出た。彼が滲んで見えない。なんで、なんで謝るんだ。悪いって出来損ないだって言ってくれればいいのに、あの頃彼は言っていた、覚えているんだよ。『俺のこと、頼って欲しい』って、お互い仕事がはじまったばかりで、大変な中、そんな魅力的な言ってくれたことを。


 その手を掴まなかったのは私だ。返せないのに頼ってはいけないと意固地になった私が、貴方に八つ当たりして、一人になったのに、苦しい時、消せなかった連絡先の貴方の名前を見て何度勇気をもらっていたことを、貴方は知っているだろうか。どれだけ、貴方に支えられて、どれだけ、頼っていたか。


 どれだけ返しても返しきれないほどのこの思いを口にしたいのに、私の口からは嗚咽しか出なくて、彼の腕に縋りついた。伝われ、少しでも、少しでいいから、いつでもそば感じて、大切に思っていたことを、駅で行った幸せを願う言葉が、本音だったこと、全部が伝わって終えばいいのにと思って泣きながら腕に縋りついた。そんな私の頭を彼は撫でた。


「…ず、っと…れんら、くさき…」

「うん」

「なまえ、みて…ゆうき、もらってた」


 仕事で辛い時も、握った携帯の貴方の連絡先の名前を見て、時々、あなたとの写真を見て自分を保っていた。ボイスレコーダーを忍ばせていたときも、先輩からの連絡のせいで、連絡先が開けなくなって見れなくても、そこに貴方の名前があると思えるだけで、一人で本社に行けた。辞める決断を出せた。ずっとずっと支えてくれていた。だから、ここまでやってこれたのだ。この言葉だけじゃいい表せないほど、貴方がいてくれたから、と。伝えたいのに嗚咽でまた私の言葉は止まってしまった。


「そっ、か…そっかぁ…頼りになってたんだ、俺」

「あ、たりまえ…じゃんかぁ…」


 貴方がいなかったら、会社を辞める前に、上司に一矢報いる前に、私は、ここにいなかったのだから。


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