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いいとこ探し

作者: 鳥羽風来

健太は毎日がいやでした。学校では、いじめっ子にいじめられるし、嫌いな水泳もあります。そして、家ではお母さんにしかられます。

夏休みは好きでした。学校に行かなくて良いし、田舎のおじいちゃんの家に泊まりに行けるから、しかる人もいません。

健太は、おじいちゃんに気持ちをぶつけてみました。

「ぼくは毎日がいやなんだ。いい方法ないかな?」

 おじいちゃんは少し考えて言いました。

「いつか、教えてやろうかのう」


 夏休みが終わり、新学期が始まりました。

 健太は寝る前に、ふとんで夢の世界を想像します。

 アニメで出てきた雲の上の世界、地底の世界、過去、宇宙。好きなときに好きなものが食べられて、いじめっ子もいません。乗り物があって、自由に景色を楽しめます。猛獣やヘビが出てきても、安全な壁に守られているので、怖くありません。ゲームセンターや遊園地もあります。健太が好きな友だちだけを、その世界に誘ってきます。


 そのまま、眠ってしまい、朝になって目が覚めると、本当の世界です。

 学校に行かなければいけないし、いじめっ子もいます。悪いことをすると、お母さんにしかられます。

 無事に学校が終わり、帰ってくると、自分の部屋でゆっくりできます。

 そこで、よく思います。

「毎日がいやだ。夢の世界へ行きたいなあ。いい方法ないかなあ?」


 十二月になり寒くなってきたある日も、自分の部屋でそう思っていました。

すると「いい方法ならあるぞ」と、声が聞こえました。

 なんと、部屋のすみに、おじいちゃんが立っていました。

 健太はびっくりして、よろこんで叫びました。

「おじいちゃん!」


 おじいちゃんは言いました。

「今の本当の世界でのいいことを探すんだ。何がある?」

 健太は考えて言いました。

「自分の部屋がある。夏休みがある。あとは、お母さんのおいしいごはんが食べられる?」

 おじいちゃんは言いました。

「そうだな。自分の部屋でゆっくりできるし、長い休みもあるな。おじいちゃんの子どものころは、貧しくておなかがすいても、ごはんが食べられなかったよ。だから、健太はごはんが食べられて、しかもそれがおいしいごはんだなんて、とても幸せだと思うよ。ほかにいいことはあるかな?」

 健太は、また考えて言いました。

「ほかには思いつかないよ。悪いことなら、たくさんあるよ」

 おじいちゃんは、あわてて言いました。

「悪いことは、言わなくていい。毎日、屋根のあるところで、ふとんを着て眠れるとか、具合がわるくなったら病院に行けるとかは、どうかな?」

「そんなの、あたりまえじゃないか」

「そうでもないんだぞ? おじいちゃんが小さいころは、家がせんそうで焼けてから、外で寝泊まりしていたんだ。ふとんはないから冬は寒いし、雨が降ったらびしょぬれだった。熱が出ても、お金がなくて病院にはかかれなかった。昔の話に聞こえるかもしれないが、本当におじいちゃんはそうだったんだぞ?」

「それは、大変だったね。昔に生まれなくてよかった。あっ、こんな風に言うと、おじいちゃんにわるいね」

「いや、わしのことはよい。昔じゃなくて、いまでもアフリカのある地域では、食糧や病院が足りなくて、栄養失調や感染症で小さい子どもが次々となくなっていると聞くぞ。いずれ、こんなことは学校で習うと思うがね。ほら、こう考えていると、いまの本当の世界が、少しは夢の世界のように思えてくるじゃろ?」


 健太は考えてみました。たしかに、この世界はよいのかもしれないと思いました。しかし、いじめっ子にいじめられるのは、どうしてもいやだと思いました。

 だから、それをおじいちゃんに伝えました。

 すると、おじいちゃんは、難しそうなかおをして、こう言いました。

「それは、健太がもっと良い世界にするために、がんばるしかない。解決するまで、時間はかかるだろう。体をきたえて、強くなってもいい。いじめっ子たちは、健太がけんかが強いなら、やられるのがこわくて、いじめるのをやめるだろう。味方をふやしてもいい。そうすれば、いじめっ子たちは、たくさんの味方に仕返しされるのがこわくて、いじめるのをやめるだろう。とてもやさしい人になってもいい。そうすれば、いじめっ子たちは、健太をいじめるのは、かわいそうだと思って、いじめるのをやめるだろう。健太らしくがんばって、うまくいくようにするんだ」


 健太は、また考えました。そして言いました。

「わかった。この世界のいいところを見つけて、もっといい世界になるようにがんばるよ」

 おじいちゃんは、うれしそうな顔をしました。

「そうだ。その意気だ。健太、元気でな」


「元気で? どういうこと?」

そのように健太が思ったとき、お母さんが、

へやに入ってきました。なき出しそうな顔をしています。

「どうしたの? お母さん?」

 お母さんは答えました。

「おじいちゃんがね、少し前からぐあいが悪くなって、入院していたのだけど、さっきなくなったって。おばあちゃんから、でんわで連絡があったの」

 

 健太は何がどうなったのか、よく分かりませんでした。

 でも、とりあえずお母さんを安心させようと思って言いました。

「そんなはずないよ。だって、おじいちゃんはそこにいるよ」

 健太が振り返って、指差した先には、だれもいませんでした。

「あれ? おじいちゃん、どこに行ったの?」


 お母さんは言いました。

「そこにいるわけないわよ。おじいちゃんがいる田舎からここまでは、とても遠いからね」

 健太は、そんなはずはないと思って、おじいちゃんをさがしました。

 しかし、おじいちゃんは、まったく見つかりませんでした。


 あとから聞いたところによると、あの日たしかにおじいちゃんは、田舎の病院にいて、そこでなくなったそうです。あの日、おじいちゃんは、最後の力をふりしぼって、なんとか健太にさよならを言いに来たのかもしれません。


(おわり)






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