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異世界系アイドル、はじめました。  作者: 和三盆
第一章
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十七話 「アイドル免許合宿⑦」

 私はラッキーだったと思う。パートナーに恵まれたのかもしれない。

 一時選考は試験の意味を瞬時に理解し私をクリアまで導いてくれた。

 二次選考も彼女が引っ張ってくれなければチームワークも滅茶苦茶で早々に負けていただろう。

 三次選考だけは、冷堂が汚名返上も兼ねて一人で戦ってくれたお陰なのだが、冷堂のやる気を引き出したのはやはり彼女だったので、間接的にだが彼女がいたから勝てたと言える。

 そのおかげで今私は部屋でテレビを楽しく鑑賞出来ている。


「なんだ。部屋にいたのか」


 彼女────璃々須はおもむろに部屋に入ると、椅子に腰かける。手に持っているラムネは汗をかき水滴がポタポタと床に垂れている。


「いやぁ~ってかほんと璃々須ちゃんがパートナーで助かったわぁ」


「ほう。そうか。私は当然の事をやったまでなんだがな」


 私を見下ろす彼女は女王のような風格すら漂よわせている。

 私は彼女の事を一切知らない。

 どこで生まれ、どこで育ったのかすらもだ。


 全てが謎に包まれた璃々須魔子というアイドルをこの三日間観てきて私は確信を持って言える。

 彼女は今後アイドル界を揺るがす途轍もない存在になると。

 そう言い切れる程に彼女は逸材なのだ。


 この合宿を通し、私は彼女の行く末を傍で観ていたいとも思うようになっていってしまった。

 そんなカリスマ性も持ち合わせる彼女は、明日から行われる特別試験も軽々しくクリアし、中間層アイドルになるんだと確証を得ていた。


「……本当にありがとう。こんな使えない私と一緒じゃお荷物だったよねぇ」


 彼女と比べると私は月とスッポン。

 強いて言えば運だけは人一倍あるのかもしれない。


「フン。お前は使えない訳じゃない。運動神経も人並みに持ち合わせているし、所謂ムードメーカー的存在だろ。私にとってはただ五月蠅い女としか思えんが」


 ラムネをグビッと飲み干し椅子に座る彼女は、本心で言っているのかわからなかったが、例え嘘でも私は心から嬉しいと感じた。


「へへっ!明日からもよろしくっ!今まで以上に活躍して見せるぜ~~!!!!」


「チッ……うるさ」


 眉間に皺を寄せ舌打ちする音だけが部屋に響き渡った。


 


 


 


 部屋に戻ると特にすることもなく、なんとなく食堂に行き、軽食を取ることにした。

 特に合宿に来てから食べていないデザートを食べたいと思い、いちごパフェだけを皿に取り寄せ席へと着いた。

 暫くして、私の目の前に二人の少女が座る。


「よっ!元気か?」


「なんだか久しぶりだね」


 夏希と星乃だった。

 試験をクリアしていたのは確認していたが、こうして話すのは久しぶりな気がする。


「いや~無事免許取れて良かったな」


「そうだね。三人全員生き残れたのは嬉しい」


 これで宵闇プロダクション所属のアイドルは無事、本格的にアイドルデビューを果たすことが出来る。

 私は本心で喜びを感じていた。


「マジで私のチームが最悪でさ~。一時はどうなるかと思ったぜ」


「あはは……私の所も癖のある娘ばっかりでちょっと大変だったかな」


「私のチームはこうして終わってみると特に不満はなかったかもしれない」


 結成当初は主に風鈴に少し不満を感じていたが、私達の為に必死に戦う姿を見て、評価を改めた。

 私や他のアイドルに対しての敵対心は相変わらずだが、私の事は少しは認めているようだったので、彼女の方に私も歩み寄ってみようと考え始めていた。


「あ~でもこれで終わりじゃないんだもんなあ……正直、疲れちまったよ」


 椅子を後ろに倒し、頭を抱える夏希。

 その姿から観るに冷堂の相手をするのに相当辟易しているようだ。


 対して星乃は、相変わらず柔らかな雰囲気を出し、ニコニコと笑っていた。

 まだ心に余裕はあるようだ。


「明日からの試験を乗り越えれば、私達は自由だ。頑張ろう」


 二人を激励し、暫く雑談をした後解散となった。


 


 

 目が覚めるといつも通り食堂に行き、朝食を済ませると医務室に向かい、唯菜と風鈴の様子を見に行くことにした。

 二人共怪我は完治していないものの、動ける状態には回復したようで今日の試験も参加するようだった。

 一応、桂川に参加の許可を貰ったとの事なので、これで二日ぶりに四人揃っての試験となる。


 身支度を済ませ大広間に行くと、もう既に大半の参加者が揃っていた。

 辺りを見渡すと、顔馴染みが多く、璃々須や生方の姿もあった。 彼女達も免許を獲得したようだ。

 程なくして桂川も姿を現し、今回の特別試験の概要を説明し始める。


「お前らにはまずこの曲を聴いてもらう」


 唐突に大広間中に流れ出した楽曲は、私も以前テレビで聴いたことがある曲だった。


「紅井朱里の『クリムゾン・ハート』……」


 隣にいる風鈴は呟くと、歌番組で披露した姿を思い出す。

 アップテンポの明るい曲で、甘く可愛い印象の楽曲であった。


 聴いている方も思わず口ずさみたくなるような、耳に良い曲だ。

 紅井の歌唱力も高く、それも相まって気分も高まっていく感覚に陥る。

 あっという間にフルサイズ聴き終わってしまい、名残惜しく感じる。

 そんな気分もすぐに打ち消すように、桂川が口を開く。


「この楽曲を課題曲とし、今日一日トレーニングアイドルから振りを習い、明日発表してもらう。一グループ私の独断と偏見で、中間層アイドルとして認めさせて貰う。では、代表者はくじを引き、書かれた番号のレッスン場に行け。知っていると思うが、レッスン場はここの二階にある。さあ、くじを引きに来い」


 相変わらず突然の注文に驚きを隠せずにいたが、チーム内で相談する前に凪沢が率先して引きに行った。

 その結果、三番の文字が書いてある紙を引き、そこに向かう事になった。

 存在は知っていたが、足を運ぶ機会がなかった為二階へは初めて赴く事となる。


 レッスン場は四つあり、その他には恐らくスタッフルームとなっている空き部屋が数か所あった。

 私達は三の文字が書かれた部屋に入ると、数分後、星乃のチームも入室してきた。

 恐らく六チームを四分割した為、一部屋に二チーム配置されたのだ。


「あ!藍も一緒か~。なんか安心したかも」


 私の顔を見て安堵する星乃に着いていく形で残りの三人も入ってくる。

 が、誰一人顔見知りですらないアイドルだった。


 参加者が多すぎて、全員の顔を覚えていなかった私が悪いのだが……。

 そんな事を考えているとその内の探偵帽子を被った、ショートヘアーの少女が私に近づいてくる。


「ほう。君が御船藍さんですか。近くで見るとより可愛い。……サイン貰えますか?」


「え……ごめん。まだ、サインは作っていないんだ……」


 私をまじまじと見つめる彼女からは物凄い圧を感じる。 何としても貰いたいといった表情だった。


「はあ……っもう等々力(とどろき)ちゃん……それぐらいにしておいて。藍が困ってるじゃん」


「あ……これは失敬……つい、注目株が目の前に現れたので、テンションが上がってしまいました。アハハ」


「注目株といったら、私の事をお忘れでは?」


 後ろから会話を聞いていた風鈴が強引にカットインし始める。


「えっと……どちら様?」


「はあ?この次世代を担うアイドル風鈴和美様を知らない!?失礼にも程があるでしょ。御船藍よりも注目されているのよ!」


 私が注目株か云々はさておき、事実風鈴はそこそこ有名な新人なのだと私は思っていたので彼女が知らないのは意外だった。


「あ~そうなんですか!それじゃ、一応貰っておきますか。あ、御船さんも名前だけでも描いてくれると嬉しいです」


「一応って……まあ仕方ないから書いてあげてもいいわよ。貴女、名前は?」


「私、等々力朋美(とどろき ともみ)って言います。探偵アイドルを目指してます。以後、よろしくです!」


 そう自己紹介すると、ポケットから手帳を取り出し、サインを要求してきた。

 探偵アイドルが何なのかだけがよくわからなかったが、私も渋々自分の名前を描いてあげると満足そうに笑っていた。


「ごめんね……面倒だったでしょ?」


 一部始終を見て呆れていた星乃に同意していると、同じく隣で見ていた残りの二人組も私に話しかけてくる。


「御船藍さんは優しいんだね。私は断ったよ」


 黒髪の長いツインテールがゆらゆら揺れる彼女。 肌も少し黒く体育会系なのだと連想させる。


「私は勢いに圧されて描いちゃったから、御船さんと同じだわ」


 彼女も黒髪だったが、ショートボブで肌は白かった。


「じゃあ二人も注目株って事?」


 そう口にすると、二人は顔を見合わせ笑い始める。


「いや、私達はついでって感じだね。チームメイトだからってさ」


「注目株でいたかったよ……」


 なんだか、落ち込ませてしまったようで慌ててしまう。


「私は八重崎来珂(やえさき らいか)。気軽に来珂って呼んでくれていいよ。よろしくね」


仁科肇(にしな はじめ)だよ~よろしく!」


 ツインテールが八重崎で、ショートボブが仁科。 二人共仲が良いようで思わずほっこりする。


「二人はここで知り合ったの?」


「いやあ、それが偶然パートナーになってね」


「来珂とは小学校からの親友だよ~」


 じゃあここで知り合った訳ではないという事か。

 まあ完全ランダムらしいしこんな偶然もあり得るのだろう。

 等々力と比べると数倍絡みやすく、非常に助かる二人だ。


「御船君」


 すると不意に凪沢は耳元で囁いてくる。 少し耳がくすぐったかった。


「誰か来るよ」


 その言葉と同時にレッスン場の扉が開く。

 そこから現れたのは、何故か竹刀を手に持つヤンキー風の女性。

 上下ジャージを着ていて、ジャージには何故か「喧嘩上等」「神愛怒劉(かみあいどる)」といった文字が書かれている。


「オウオウお前等、静かにせえや」


 バシンと竹刀を床に叩きつけ、ドスのきいた声で恫喝する。

 各々の時間を楽しんでいた空間が一瞬にして緊迫した空間へと昇華される。


「私がお前らを担当する「野崎摩与(のざき まよ)」だ」


 そう自己紹介をし、その場で踵座で私達の顔を一人一人まじまじと見つめ始める。

 全員の顔を凝視し終わると、立ち上がり私の目の前まで歩き始めた。


「六十五点」


「……はい?」


 何故か採点をし始める野崎。

 何の点数かは謎だが、私に得点をつけると風鈴、凪沢、唯菜、等々力、八重崎、仁科、星乃といった順番でまた点数をつけ始める。


「四十七点、六十点、三十五点、五十九点、五十点、四十五点、三十二点」


 私達はその場で困惑し立ち尽くすことしかできない。 状況が全く理解できていなかった。


「私はハズレ組を引いちまったようだなあ。パッとしねぇ奴等ばっかじゃねぇか」


「いきなり何なのよ!」


 風鈴が怒りを見せるが、ねめつけられるとすぐに怯み、後ずさる。


「ま、取り敢えず。実力を見させてもらうわ。じゃ、チーム毎にフィーリングで踊ってみろ。振りは自分が思うようにしていい」


 そう促されると、近くの椅子に座り、私達の行動を観察し始めた。


 


 


 


「はあ……思った通りだったようだな」


 二チームの即興ダンスの披露が終わった途端そう項垂れる野崎。 結果は散々だった。

 両チーム統率は取れず、度々ぶつかり、転び、各々の場所の間隔すらわかっていなかった。


「そりゃあこうなるよね……」


 凪沢も結果が分かり切っていたようで、頭を抱える。

 正直、ここで完璧に披露できるチームは最早プロの領域だ。


「だが、凪沢と八重崎。お前等は思った以上にいいじゃねぇか。十点プラスしてやる」


 凪沢はダンスが得意分野だと以前言っていた。

 八重崎は昨日の試験に出場していたようなので、自信はあるのだろう。

 流石に、私達よりも技術は飛び抜けていた。


「各チーム一人はやれる奴がいるってのはまあ、及第点を上げてもいいな。だがよぉ、御船、等々力。お前等、やる気あんのか?」


「!?」


 突然の指名に背筋が凍る。

 彼女の目つきは明らかに私達を見下し、侮蔑していた。


「だが安心しろ。私が調教してやる。覚悟しておけよ」


 その宣言と共にこの合宿一苦痛の一日が始まろうとしていた。

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