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異世界系アイドル、はじめました。  作者: 和三盆
第一章
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十四話 「アイドル免許合宿④」

「テメェ……私に歩幅を合わせやがれ!」


「お前こそこっちに合わせれば済む話だろ」


「下らねぇ。意思を統一させることすら出来ないのか」


「いや~これは困ったなぁ……」


 練習を開始して早々、チームワークがメチャクチャなことに気づく。

 そもそも私達と組むことになった冷堂と帆村の二人が仲が悪い。

 口を開けば冷堂は悪態を吐き、帆村もそれに応戦する。


 冷堂とは暫く接してみてわかったのだが、やはりつまらない女だ。

 孤独でいることがカッコいいと思っているのか、他人を近寄らせないし自分が第一優先にと何事も考えている。

 元ヤンキーなのか知らないが喧嘩の腕には自信があるようで困ったら手を出しそうになるのも悪い癖だ。

 協力が必須のこの合宿で一番向いていない人材である。

 帆村は気性は多少荒いがあくまで自分からは悪態を吐く等はしないしチームで戦うということがわかっているので良しとしよう。

 問題は冷堂だ。奴をどうコントロールするかが鍵となるかもしれない。


「おい冷堂。とりあえず……私とタイマン張れ」


「……は?」


 いきなりの申し入れに困惑する冷堂。

 だが、上等だと言わんばかりに手の関節をポキポキと鳴らし既に戦闘態勢に入っている。わかりやすい奴だ。


「ちょ、ちょっと!璃々須ちゃんそれはダメでしょ!?」


「辞めろって……一応チームメイトだぞ?」


 何やら外野が五月蠅いが、そんなことはどうでもいい。

 冷堂も私と決着を付けたいだろうしいい機会だ。


「来いやオラァ!!」


 すると思いきり私に殴りかかってくる。筋はいいがまだまだだ。拳を真っ向から受け顔面に痛みが走る。


「おい!顔は辞めろよ!」


「邪魔をするな」


 帆村が止めに入ろうとしたので、静かに睨みつける。

 突然睨まれて委縮したのか、震えながら後ずさる。

 近くで見ていた場地でさえ、苦笑いを浮かべていた。


「いくぞ」


 その言葉を合図に思いきり腹を殴る。

 腹を抑え痛みに耐えながらぎろぎろとこちらを()め付けていたが、やがて力尽きその場に倒れこんでしまう。

 冷堂はあっけなく私に屈した。


「ク……ソが……」


 倒れこんだ彼女を帆村と場地が介抱するが、本人はそれを嫌がり話せともがく。

 私は彼女の顔に近づき、満面の笑みでこう言った。


「お前は私に殴られ負傷した。二人三脚はお前以外の三人で回す。怪我人に用はねぇ。静かに自室で寝てな」


 屈辱に塗れた顔でただ私を見つめる。 彼女の目の前に屈んで頭を撫でる。


「覚えてろや……」


「まだ吠えるか。やはりお前はつまらないな。まあいい。……よし、お前ら練習の続きだ」


 気持ちを切り替えるために手を叩く。立ち上がり、地面に転がっている紐を足に結ぼうと拾う。

 そんなやる気満々な姿を見せてたが、二人は冷堂の心配をし私に目もくれていなかった。


「私に構わずに練習しろ」


 だがその行為が彼女のプライドを傷つけたのか、拒む。


「チッ……少し頭冷やしてくる。私抜きで頑張れや」


 その言葉を残し冷堂は大広間を後にした。


「おい璃々須。やりすぎじゃねーか?」


「お前よりもアイツの扱い方はわかっている方だ。口を出すな。さあ、やるぞ」


 帆村の疑問を一蹴し練習に移ろうとする。冷堂も思うことがあるだろう。

 恐らく次の試験もこの四人で進むことになる。 彼女の協力も必要不可欠になる。

 こんな所で沈む器ではないとは思っている。

 ああいう単細胞は悔しがってすぐに這い上がってくる。私はそれを待つだけ。

 考えを改めないで一匹狼を続けるのではただの負け犬に過ぎない。

 つまらない奴だと思うが、別に嫌いという訳ではないので彼女がどう変わるのかがただ楽しみだった。


 


 


 私「高谷 塔子(たかや とうこ)」がアイドルになったのは、昔から好きで、私も同じステージに立ちたいと思ったから。


 でも今、後悔している。 私はこの場に相応しくない。

 完全に彼女達と同じ土俵に立てていない。

 二人三脚如きでこんなに心が折れるなんて思ってもいなかった。

 生方かもめのチームに負けたと思ったら次は御船藍のチームに負けた。

 いや正しくは戦いを放棄した。 帰りたい。ただその感情だけが先行する。


「塔子、なんで足を止めた?」


 パートナーである谷口(たにぐち)が心配の声を掛けてくれる。


 だが、そんなことはどうでもよかった。


「仮に私たちが免許を取れたとしよう。それで、どこまでいけるかな」


「何を言ってるの……?」


「下層アイドルで一生燻るんだろうなって。御船藍を見て思ったよ。私達が敵う相手じゃない。それにこんな所で差を感じてる時点で私達は既に敗北者なんだよ」


 これで、二連敗。もう後はない。

 まあ、逆にこんな免許合宿で自分の力量がわかってよかったかもしれない。

 あーあ。普通の生活に戻るのかあ。レッスン楽しかったなあ……。


「ねぇ。なんで君途中で諦めたの?」


「へっ!?」


 いつの間にか目の前で私を見つめる彼女─────御船藍が立っていた。

 汗をタオルで拭きながら、不思議そうに返答を待つ。


「だ、だって……勝てないって思ったから」


「そっか。でも、さっき走ってたの見てたけど、チームの連携取れてるし四人共信頼し合ってる感じがあったからこんな風に終わって私的に不完全燃焼だったな」


 こんな私如きの走りを見て正々堂々戦おうとしていたの?

 意味がわからなかった。

 思考が停止し、その場で固まっていると彼女から手を差し伸べられ握手を求められる。


「じゃ、次はお互い本気で戦り合おう!」


 その純粋無垢な顔を見て、今まで考えていたことがどうでもよくなる。

 この娘は何も考えていないんだ。 皆を同等のライバルとして見ている。ただそれだけ。

 彼女はこの合宿を楽しんでいた。

 その時、私から負の感情はなくなり彼女と同じ土俵に立ちたいと心から思えた。

 私ももう少し頑張ろう。


 


 


 


 歩く度に足が痛む。親指に青い痣が出来、内出血していた。 痛みには練習中に気が付いた。

 いつ怪我をしたのかはわからない。

 意識すると増々痛み、ただそれを我慢するのに精いっぱいだった。

 最悪だ。今の私は完全についてない。

 パートナーも、私の苦手とする所謂「良い娘ちゃん」だし。

 それに同じチームに御船藍が参入してきたのだから気分も悪い。


 観た感じ運動をしなさそうな倉戸唯菜はその予想が的中し抜群に運動神経が悪かった。

 実質、私と御船藍、凪沢の三人で戦うことになる。

 事実、この二レースは三人でなんとか乗り切っている。

 御船藍と凪沢の二人が運動が出来たのが幸いだった。

 取り敢えず、この試験が終わるまでは我慢しよう。 ここを乗り越えればなんとかなるはず。

 今、運が悪いんだからきっと次は私に回ってくる。 そう信じて、今は集中しよう。


「もう始まりますよ」


 ベンチで座っていた私に駆け寄り義務的に告げる倉戸。

 今の所何も貢献していない彼女は余裕そうに促す。

 私は彼女と違って怪我と戦っているのに生意気だ。

 苛立ちを抑え、次のレースへと挑むのだった。


 


 


 彼女の様子がおかしいのは薄々感づいていた。

 声を掛けるべきかとも思ったが、また罵声を浴びせられたら面倒だったし自分から助けを呼ばない辺り異常なしと見て気に掛ける程度に留めていた。


「じゃあ、御船君がさっき二回走ったから次は私が二回走ろう」


 額から流れる汗を拭い爽やかに仕切る凪沢。

 彼女から疲れは見えなかった。


 私達のチームは倉戸が運動が苦手なことを考慮し三人でローテーションする方向でレースに挑むことになっている。

 一レース目は風鈴が二回走り、次は私が。

 今の所三人のコンビネーションも良く、二連続で先に二勝してレースを終えている。

 他のレースを見る限り、Cグループは生方かもめのチーム以外は脅威ではないので恐らくこの方針で勝ち続けられるだろう。

 だが、油断をしないよういつでも走れる準備をしている。


「私が先に走るわ」


 一走目は凪沢、風鈴ペアでいくらしい。

 私は二走目か。少し日陰で休憩しながら他の組のレースを観察することにした。

 すると、とあることに気づく。

 風鈴が右足を明らかに引きずりながら歩いていた。

 先ほど確認した時よりも症状が悪化しているのかと思い、声を掛けようとしたがもう遅かった。


 一走目が始まってしまった。

 二人は相変わらずお互いのタイミングを上手く合わせ、難なく勝つことが出来ていた。

 内心ほっとしたがやはり風鈴は右足を庇っている。


「もう足は限界なんじゃないか?」


 走り終わった彼女に声を掛ける。

 汗も尋常じゃない程かいていて、心なしか顔も青ざめていた。


「これぐらい平気よ……。それより、水くれない?」


 息遣いも荒く、誰が見ても体調が優れないと言えるだろう。

 彼女の事はあまり好きではないが、同じ人間であり今は仲間だ。

 放っておく訳にはいかない。


「風鈴君。今、景果(けいか)さんを呼んでくる。ここで待っててくれ」


「待ってよ!わ、私は大丈夫だから!ほっといて!」


「でも、流石に私達が観てもわかるぐらいに体調悪そうですよ」


 凪沢と倉戸も駆け寄り、心配の声をかける。

 だが、意に介さずその言葉を一蹴する。


「私の心配はいいから、早く次。走ってきて」


 風鈴にそう促されるが、やはり放っておけない。

 何か出来ることがないか考えていると、不意に手を引っ張られる。


「ここは倉戸君に任せよう。まずはこのレースに勝ってからだ」


 妙に落ち着いている凪沢にされるがままにレーンへと連れていかれた。

 だが、凪沢の顔からは笑顔が消え、怒りの感情が微かに垣間見えていた。


 


 結果は明白だった。

 相手も半ば諦めかけていて、流し気味にレースを終える。

 これで三連勝。生方チームも同じく三連勝しているらしく、やはりそこに勝てるかどうかで一位で突破出来るか鍵となる。

 もし一位が取れれば、中間層アイドル枠にグッと近づく。

 油断をしないよう、自分に喝を入れ残りの二レースに挑むことにした。


「風鈴は?どうなった?」


「……一人でどこか行っちゃった」


 やはり止められなかったか。

 本人の意思を尊重するべきではないと思うが、こうなると仕方がない。

 もう彼女を信じるしかないのかもしれない。


「取り敢えず倉戸君。いつでも行ける準備だけはしておいてくれるかい?」


「風鈴が出るプランと出ないプランを考えよう」


 風鈴が戻ってきたらまた説得をする話になり、各自休憩を取る為、この場は一度解散となった。


 


「おっ。御船ちーん!調子はどう?」


 お手洗いを済まし、外に戻る途中で三宅と遭遇する。

 彼女は生方チームに入っているようで今回は敵となる。

 レースを見る限り、主に生方と三宅を中心に走っていた。

 共に運動神経が高く強敵となりうるだろう。


「三宅こそどうなの?私は絶好調だけど」


「へぇ……。いいね。やっぱり御船ちんは熱い女だ」


 嬉しそうに笑う彼女はいつも通り元気で笑顔が眩しかった。


「うぶかもも中々面白い娘だし、いい同期がいっぱい出来て嬉しいや」


 うぶかも……恐らく生方かもめのあだ名だろう。

 独特の感性を持っていて、何より明るく親しみやすい。

 その性格もあり、人と仲良くなるのが得意なタイプなのか積極的に距離を詰めてくる。


「私たちとのレースは最後だし、お互いベストメンバーで戦おう」


「へへっ!絶対負けないかんな!なぎなぎとゆいっぺもいるし猶更負けられないし!」


 心から私たちと走るのを楽しみにしているのを感じ、こちらも燃えてくる。

 その後、数分雑談を交わした後、お互いの持ち場へと戻った。

 だが、戻った時予想を出来ていたが私が目にした景色は最悪の物だった。


「風鈴君が……倒れた……」


 クールで冷静な凪沢が狼狽し、こちらを向いていた。

 その時、直感で感じたのだ。

 風鈴の離脱がこの合宿のターニングポイントになるということを。

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