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異世界系アイドル、はじめました。  作者: 和三盆
第一章
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九話 「デビュー」

 上層アイドルには、トップアイドルと呼ばれる四人のアイドル「四天王」が存在する。

 現時点で、四天王と認定されているのは、ソロアイドルの頂点「紅井朱里(くれないあかり)」、バラエティアイドルの頂点「雨宮飴李(あめみやあめり)」、頭脳派アイドルの頂点「水鳥沢翡翠(みどりさわひすい)」、ライブアイドルの頂点「敷島四季(しきしましき)」であり、その中でも紅井朱里は突出した才能を持ち、アイドル界に伝説を残すであろう存在として各方面で重宝されている。


 四天王を含め上層アイドルは、十二名と定められており12個の分野の頂点達だけがなることが許されている。

 上層アイドルになるには年に三回行われる査定で各分野の上層アイドルに挑める挑戦権を得ることで、直接対決を行いアイドル委員会が選抜した審査員の判断により、勝利したものだけが勝ち取ることが出来るものとなっている。

 当然、敗北した者は降格となり中間層アイドルとして活動しなければいけなくなるのだ。

 私はこの話を聞いた時、トップへの道は日々の積み重ねだけでは補えないのだと、悟った。



 事務所に集合した私たちは、お披露目会が行われる「東京コロシアム」という三年前に都内に新設されたドームへと車で向かう。

 キャパは約六千人と、そこそこ大きい箱であり、デビュー前のアイドルにとっては貴重な経験となるだろうと三朝は話していた。

 車中、私達は、それぞれ今日行う特技のチェックや、出番の確認等で集中しており、目的地まで沈黙が続いたが特に違和感は感じなかった。



 到着すると、楽屋に案内されメイクの準備が始まる。

 同じ楽屋には私達の他にも「小堀(こぼり)プロダクション」所属のアイドルもいるらしいが今は姿が見当たらなかった。


「ついに……始まるんだね……」


 緊張の為か、先ほどから楽屋中をウロウロと歩き回り落ち着きがない星乃に対し、夏希は降車してから一言も喋っていない。

 そんな彼女はメイクが終わると背伸びをし、早々と楽屋を出て行ってしまった。


「夏希って緊張すると無言になってすぐ一人になろうとするのよね」


 星乃は依然として、歩き回りながら私に喋りかける。

 メイクはしなくていいのかと心配になりながらも、忘れていたのか数分後にメイクをし始めた。

 一方私は、メイクをし終えたのだが一人になりたくないと目で訴える星乃をほっとけず、改めて段取りを確認することにした。


 お披露目会は午前と午後の部に分かれており、私達「宵闇プロダクション」の出番は午前の部の最後でトリを務めることになる。それもあってか二人はいつも以上に緊張しているのだ。

 私は、緊張というよりも楽しみたいという感情に近かったので、緊張もせず、特に失敗等を恐れてはいなかった。

 星乃のメイクも終わりかけ、自販機に飲み物でも買いに行こうかと楽屋を出ようとした瞬間 、ドアを開くと目の前にいた人物にぶつかってしまう。


「いたっ!」


「あっ……すいません……」


 私が勢いよく出て行こうとした為、向こう側にいた女性が倒れこんでしまう。手を差し伸べようとしたがそれよりも早く立ち上がる。


「気を付けなさ──────」


 何かを言いかけた彼女は私の顔を見た瞬間、固まる。


「御船藍。同じ楽屋だったのね」


「私を……知っているの?」


「貴女、自覚がないの?思っている以上に有名人よ。」


 四角い額縁眼鏡が特徴的な、茶髪の三つ編みをした少女が私に向き直る。

 知的な雰囲気を漂わせる彼女は、眼鏡をクイッと正すと、暫く私の顔を凝視する。

 何か顔に付いているのだろうか……


「生で見てもそんなにオーラは感じられない…さらに言うと、無に近い……」


 ブツブツと何かを分析する。

 すると、ポケットからメモ帳を取り出し私を見ながら何かを書き留める。何を考えているかよくわからない女の子だった。


「ねぇ……ドアの前で何やってるの?密会??」


「すまないが、入らせてくれないかい?」


 そんなやり取りをしていると、遅れて二人楽屋に入ろうとやってくる。

 恐らくこの三人が「小堀プロダクション」のアイドルなのだろう。


「とりあえず……中に入りましょう」


 眼鏡の少女にそう促されたので、自販機に行くのを諦め楽屋へと戻っていった。


「え!?し、詩音(しおん)……?」


「ほっしー!!!アイドルなってたの!?」


 楽屋に入るなり、大声で駆け寄ってくる星乃。

 遅れてやってきた二人の内、紫色の髪をサイドに纏めお団子状にしている彼女は、感動の再会さながらに抱き合っていた。


「小学校ぶりかな?」


「うんうん!あ、夏希も一緒に受かったんだ!」


 見たことのない笑顔で談笑する二人を眺めながら、私に向けられた視線を感じる。


「まだ話は終わってないですよ。御船藍」


 無表情で、私に向けられた顔は何を意図してのものなのかわからず、困惑してしまう。


「貴女とは、同期として必ず超えて行かなければならない壁でもあります。私は絶対に貴女にだけは負けない。そして私が、紅井さんを超えます」


 それだけ伝えると、席につき携帯を眺め始める。

 今朝、三朝に言われたことを思い出す。このお披露目会に参加したアイドル達が同期となると同時にライバルとして戦っていく者達だと。

 彼女の様子のフォローをする為か百七十センチ程ある長身の少女が近づいてくる。


「申し訳ない。彼女は負けず嫌いなんだ。あ、私は「凪沢 薙紗(なぎさわ なぎさ)」だ。で、さっきの彼女が「倉戸 唯菜(くらと ゆいな)」。よろしくな」


 男勝りの口調で話す彼女は、ショートカットが印象的でまさにこの三人のまとめ役といったような少女だった。


「それで!私が「三宅 詩音(みやけ しおん)」ね!よろ!」


 いきなり元気よく私に飛びつきながら、そう自己紹介する。

 あまりにも突然だったのでつい拒んでしまうがお構いなしにくっついてくる。

 スキンシップが激しく、何故か私の腕や頭を触り続けていた。


「えっ……とぉ……」


「わぁ!ごめんごめん!可愛いかったからつい……でへへ……」


「可愛い物には目がないらしくてな……。許してやってくれ」


 頭を抱えながら、そう私に謝罪する。

 私はこの三人を見て、凪沢は、夏希に三宅は星乃に、そして倉戸は私に似ていると思い心の中で重ね合わせた。









 俺は彼女達を楽屋に向かわせると、とある場所に向かう。

 このお披露目会は、一般人による期待値が高いアイドル達の事前アンケートが実施されておりそれぞれ一人一票好みのアイドルに票を入れることが出来る。

 俺はその結果が貼り出されているフロントに到着するとそのランキングを確認する。


「やはりか……」


 予想通り、御船が一位を獲得していた。


 二位に小堀プロの「倉戸 唯菜」が、三位に光月の「冷堂 千代子(れいどう ちよこ)」がランクインしていた。

 一方、麻倉木は四十四位、帆村が三十五位となっていた。

 それも当然。他の事務所だと、SNSや雑誌などで新人を紹介したりするがウチは一切行っていないので、ホームページ等の情報や単なる見た目の好みでのランキングとなってしまう為仕方がない。

 実際このランキング結果はあくまで期待値が高いというだけであり、今後の活躍に比例しないので俺もあまり気にしていない。

 まあ今回のお披露目会では計五十七名の新人がデビューするので、二人のこの順位も妥当なものだろう。

 結果を確認していると、後ろから声を掛けられる。つい最近聞いた声でその主はすぐに理解できた。


「またお前か、打瀬(うつせ)……」


「何よその顔ー!」


 騒がしい奴がやってきて、憂鬱な気持ちになる。

 だが、これは予測していたことだったので、事前に聞きたかったことを質問する。


「聞きたかったことがある。お前が立花の担当になったのか?」


「んー?あの娘の担当はまた別にいるけど?知ってるでしょ?私は新人にしか興味がないの!」


 どうやら打瀬は彼女の担当ではないらしく安心する。立花が彼女に矯正されるのは勘弁してもらいたいからな。


「それじゃあ、またどこかで」


 俺は会話を強制終了させ、その場から離れようとするが、腕を掴まれその策は失敗してしまう。


「太一君、なんで私を避けるの?」


 純粋にそう聞きたかったのだろう。俺は言葉が詰まり、顔を引きつらせる。


「……まあいいけど。今日は真面目な話。来週のアイドル免許合宿、彼女達も参加するの?」


 打瀬にそう言われ、俺は思い出す。お披露目会の事に集中しすぎてすっかり忘れていた。


「そうだな。アイツらも参加させるつもりだ。……お前の所もか?」


「当たり前っ!……話変わるけどさ……私たちのこと……だけど、過去の事は忘れてお互いライバルとしてさ、今後も会うだろうし……そう接して欲しい……」


 さっきまでの態度とは打って変わり、打瀬は頬を赤らめ恥ずかしそうにそう言った。

 重い。重いんだよ……。何故俺にこうも執着するのだろう。

 だが、確かに俺も突き放しすぎていたのかもしれない。と少し反省する。

 俺は昔から気まずい空気というのがどうも苦手で、親密だった関係が何かがきっかけで崩壊すると他人も同然のように接してしまう。接し方がよくわからないのだ。

 そうなると自分から関わりをなくしてしまった方がいいと、突き放してしまう。

 これは昔からの癖であり今後も変わることはないだろう。


「……お前がそう言うなら努力するよ。」


 俺は彼女から視線を離し、思ってもないことを口にした。








 楽屋に戻ってきた夏希と共に、最終的な確認を行っているとあっという間に私たちの出番が訪れる。

 傍で、携帯を弄る三朝はライブでもないんだから気軽にやれと言っていたが、その言葉が私以外の二人にプレッシャーをかける。


「……なあ、星乃がはけたら私が出る…でいいんだよな?」


 夏希は混乱しているのか初歩的な事も頭に入っていなかった。

 そんな彼女を見兼ねて、先ほどのうろつきが嘘のように落ち着いている星乃がもう一度初めから教えていく。


「宵闇プロダクションさんお願いしまーす!」


 スタッフが楽屋に来たのを合図に舞台袖へと案内される。

 おおまかな流れとして、一人約十分程度の自己紹介を行う。

 ただそれだけのことなのだが、この十分というのが長い。

 その自己紹介の中にいかに特技や自分のアピールが出来るのかが鍵となる。

 そしてお客さんの心も掴むのも私たちの仕事だ。

 ここでインパクトを残せるかどうか、それだけで頭が一杯なのだろう。


「じゃあ、行ってくるね」


 トップバッターの星乃は笑顔で私たちにそう告げ、ステージへと向かう。

 その顔つきからは、緊張の色が見えず、堂々としていた。

 そんな彼女を見て、不安になっている夏希を見て背中をさする。


「なあ。私……うまくやれっかな」


「夏希なら大丈夫だ。ほら、掌を合わせてみて」


 私は以前教えてもらった水鳥沢直伝のおまじないを夏希に教える。

 すると落ち着いたのか笑顔で私を観る。


「ははっ!なんだよこのおまじない。藍……ありがとな」


 照れ臭そうにそう言うとあっという間に夏希の出番になり、親指を立てながらステージへと向かっていった。私も準備をしなければと深呼吸をし、集中する。





 舞台に立つと、不思議とあの時を思い出す。

 いつかの舞踊大会。私は思うままに踊り歌った。あの時のように私は胸が高鳴っていた。


「宵闇プロダクション所属、御船藍です」


 名前を告げた瞬間、会場が一気に沸き上がる。

 ブーイングや応援の声等でカオスな状態となりその勢いに飲まれそうになる。

 私が言うのもなんだが今一番注目されている新人は私だと思っている。

 炎上等で半ば不本意な形となってしまったが、これも人気を獲得する一つの手だと三朝も言っていたので渋々納得した。


「私の特技は……剣術です。今から殺陣を披露したいと思います」


 喧騒で自分の声もしっかりと聞こえない中、一度袖に戻りペンダントを掲げる。

 流石に公の場でペンダントが剣に変わる姿を見せるのは不味い。

 聖剣ペンドラゴン片手にステージに戻ると、聖剣のリアルさに驚いたのか一層ざわざわとし始める。

 私は、目を瞑り仮想敵を想像し剣を振り下ろす。

 その瞬間、会場が途端に静かになる。

 それを合図にユグドラシルで行っていた戦闘の如く、次々と仮想敵を斬りつけていく。

 所々、斬りつけられる演技なども加えながら最後にとどめの一撃を食らわせ客席に向かってお辞儀をする。とそれと同時に一気に歓声があがる。

 会場全体を自分の物にした実感を得ながら私は床に置いていたマイクを拾い上げ、叫ぶ。


「私の伝説はここから始まる!見ていてくれ!!」


 そう勢いよく啖呵を切るとそれに合わせて会場も反応する。

 客席からの圧は凄まじく、改めてアイドルになったことを自覚させてくれた。

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