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7話 貧乏の田舎者から貴族に昇格?

 無事にマンションと思われる場所に戻った。私が群青隊の扉を開けると、パンと何かが破裂したような音が聞こえた。


 私はびっくりして軽く悲鳴を上げた。紅の月によるテロで、やけに冷静だったから性格が変わったんじゃないかと思っていた。だが、やはり私は相変わらずのビビりだった。


「こ、これは……?」


「お祝いのお出迎え……的なやつですかね?」


 1人の女性がそう答えた。おいおい、何故疑問系なんだ。入隊おめでとう、的なやつだということで良いのだろうか。

 よく見ると、お出迎えをした全員の手にはクラッカーが握られていた。なるほど。先程の音はこれが原因か。


「さて、このまま行く会場に行くのもいいけど……光、ちょっとこっち来て」


「は、はい」


 怪しげな笑みを浮かべた沙月さんに連れて行かれる。嫌な予感がするような……しないような。沙月さんはニヤニヤしていて、ちょっと怖い。何か企んでいそうな顔だ。


「さあ、好きな服を選んで!」


「えええええ!?」


 連れてこられた部屋にはたくさんの服や靴、アクセサリーなどがあった。見た目はシンプルだったり地味なものからいかにも高そうなものまで。

 見た目がシンプルなものでも、安物と生地が違う。明らかに良いものだ。つまり、高い。


「どれでもいいよ?」


「そ、そう仰られましても……」


 私が今まで着てきたものは安物だ。一着5000円ですら私には高級品だ。

 初めて高い服を見るが、これらは1万円を超えていると確信を持てるほどの違いだった。


 これがおしゃれにお金をかける都会か……1日中ジャージでいる私とは大違いだ。


「あ、そっか。これだけ数多いと選ぶの大変だよね。セバス!」


「はい、お嬢様」


 どこからかセバスさんが現れる。……気のせいかしら。さっきまで気配もしなかったんだけど。


「美容師とか呼んで」


「かしこまりました」


「え」


 思わず間抜けな声が出てしまった。そんなにあっさり呼んでいいものなのだろうか。お忙しかったりするのではないだろうか。……本当に呼んでいいのか?


 と、自分でもしつこいと思うくらいにそんなことを考えていた。



「お待たせしました」


「は、早い……」


「お二方とも専属でお嬢様が所持するマンションに住んでおりますので超能力で繋げればすぐでございます」


 数分で戻ってきてしまった。いや、それでも準備とかあるのでは? こういう無茶な要求に慣れて対策でもしているのだろうか。


「さあ、彼女を可愛く……いや、綺麗の方がいいかな。とりあえず、どっちでもいいから似合うような格好にして!」


「「承知しました」」


 2人がそう言うと、話し合いを始める。話し合いが終わるとスタイリストと思われる人が服を選んで私に合うか調整している。


「神谷様。こちらにお座りください」


 選び終わると今度は美容師さんの出番らしく、イスに座るように指示される。

 初めてこの部屋を見たときは気付かなかったけど、美容室にあるようなイス、鏡、道具、機械もある。これなら準備をせずに来れるのも納得だ。したとしても少しでいいだろう。


「……って、なんじゃこりゃ!?」


 イスの座り、鏡を見て驚愕する。ど、どうなっているんだ……?


「どうかされましたか?」


「この鏡に映った金髪の女は誰ですか!?」


「え? 神谷様では? お会いした時からこのお姿でしたが……」


 鏡を見ると、自分が自分ではなかった。髪が金髪になっていたのだ。鏡も見ずに髪を適当に一つに纏めてたせいか、気が付かなかった。

 勿論、生粋の日本人だから元は黒髪だ。金髪になる要素など、全くない。


「……地毛? 染めた覚えなんてないんだけど? わ、私は誰……?」


 実は異世界転移ではなく、死んで誰かの体に入った異世界転生なのでは? と一瞬思った。だが、それなら私の部屋ごとこちらの世界に来ているのか、よく分からない。まあ、元からそんなことは分からないんだけども。


 それによく見ると、顔は自分だ。ニキビとかは同じ位置に残ってるし、目や輪郭とかは同じだ。金髪に染めた日本人には見えるだろう。一度も染めたことはないけど。


「髪は綺麗ですし、根元を見ても、染めてないようにも見えますね。経過を見ていかないと断言はできないですけど」


 そう言いながら作業を始める美容師さん。化粧も自然な感じで綺麗に仕上がった。ニキビの面影はまるでない。というか、化粧をすると自分でも本当に誰か分からなくなる。鏡の中の自分は誰だ?


「化粧するとこうなるのか……」


「化粧したことはないんですか?」


「おしゃれでするような化粧はないですね。化粧は校則で禁止されてますし、おしゃれはしないもので……強いて言うならコスプレはしたいとは思いますね」


「化粧が校則で禁止なのは珍しいですね。私のところでは安全に気を付けることや節度ある範囲で、とは言われましたけど禁止はされてませんでしたね」


 珍しいだと……? 県内の学校のほとんどがブラック校則と言われるほど校則が厳しかったのに……? これは異世界だからか? それとも都会はこんなものなのだろうか。


「さあ、洋服に着替えてください」


 確かに顔は良くなった。だが服はジャージだ。しかも2度も紅の月との戦闘に巻き込まれて汚れている。顔と服装がアンバランスだ。


 着替えると、もう赤の他人に見えてしまう。髪色が変わっていなければまだ自分に見えただろう。だが、普段おしゃれをしない私がここまで変わっているせいで圧倒的違和感がある。


 いや、我ながら美人……とか思ってしまうが、もはや私ではない。鏡の中の私よ、誰だお前。化粧の力って怖っ。


「おっ、可愛くなったじゃん。超美人」


「凄すぎて誰ですかこの人。本当に私ですか?」


 着替え終わると沙月さんが入ってきた。沙月さんも着替えたらしい。とても綺麗で、お嬢様らしい格好だ。こう見ると確かにお嬢様に見える。


「その様子だとちゃんとしたおしゃれしたことない?」


「おしゃれはありますけど、都会での常識のおしゃれと比べると天と地の差がありますよ。流行とか全く知りませんし、おしゃれ関係の本なんて読んだことがないです」


 私のおしゃれは都会の人からすれば「ダサい」と言われるだろう。あるいは「微妙」か。「どう? いいでしょ?」なんて言えば、影で笑われることは間違いなしだ。


「だったら、光にはいきなり上がりすぎたかな? 2人とも超有名だよ。世界の有名人から仕事の依頼きてやってるからね」


「ふぁっ!?」


 反射的にそんな声が出た。それはレベルが上がりすぎではありませんか? そんな恐れ多い方に私などという人間をコーディネートしていただくとは……服も含めて色々費用を考えると恐ろしい。


「ついでに光にも強制じゃないけど参加してもらいたいのがあってね。他の皆もやってる人は多いから1人だけとか気にしなくていいからね。私もついてるし」


「何ですか?」


「クリスマスの宴会に参加してほしくて」


「ああ、それならいいですよ。……というか、これからなのでは?」


「私達のは夜遅くだからね。今からもあるんだよ。疲れてるなら無理強いはしないよ」


「特に疲れてないんで大丈夫ですよ」


「それならよかった。じゃあ行こう!」


 この時の私は知らなかった。この後、とんでもない後悔をすることになるということを。



 ◇  ◇  ◇  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「……え?」


 何ここ。舞踏会か何かですか? 高級感が半端ないんですけど。しかも皆、宝石やら高そうなものを身につけている。目の前はご馳走もあった。まるで貴族の舞踏会だ。


「こ、これって……社交界というものでは……?」


「あー、うん。まあそんなものだよ」


「……」


 絶句し、終わりを覚悟した。社交界? 田舎者に突然の社交界? 今日一日で色々と飛躍しすぎではありませんか?


「ごきげんよう」


「ご、ごきげんよう」


 そう、挨拶されてしまった。実際にごきげんようなんて挨拶を使ったことなんてないんですけど!?

 挨拶されたら返さないわけにもいかないので返したけど、内心焦った。


「あ、そうだ。この後踊るんだけど、ダンス踊れる?」


「……社交ダンスですね。ネットでよくある踊ってみたのダンスならまだしも、フォークダンスすら経験ないです。どっちも無理です」


「見たことはある?」


「まあ……テレビで見た程度なら」


「よし。渚!」


「なんだ」


「ダンス教えてあげて」


「分かった」


「えっ」


 その後渚さんによる長時間の指導を受けて多少踊れるようにはなったものの、ご馳走にありつけるのがかなり後になったことは言うまでもなかった。


 だが、その後のご馳走は今までの人生で一番美味しかった。

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