37話 作戦会議
「……」
人工知能が仲間になった。それはとてもありがたいことだ。だが——
「何も起きてないのにこの重い空気は何? ってか、なんで一緒の部屋?」
あの大きな機材ごと、私の部屋にいるである。その上、私の分隊が全員集結している。この狭い部屋が更に狭くなった。正直、邪魔だ。
「まあ、あそこは人目があるからなあ……仕方ないだろ」
鬼塚さんの言う通り、実際あの後アイは多くの人の注目を浴びた。物珍しさからか、アイに質問する人も多数いた。
他の人の迷惑になりかねなかったので、私の部屋に避難したのだが……もっと最適な部屋があっただろ、これ。
「私が呼ばれた本来の目的である、怪盗について話を進めましょう。ご存知であることをおっしゃってください」
「さっき私が色々言ったんだけど」
そう文句を言いながらも、ソフィアはアイにもう1度説明した。かなり雑だったが、アイはある程度理解できたような様子だった。
「その怪盗はA級では?」
「ああ、そうね」
サラッと新情報を流された。A級だと? あの怪盗はまさかのA級? ……そんなことを言われた記憶がない。
「そういえば、思い当たる節があるって言ってたけど。それって何?」
唐突に話を佐藤ちゃんに持っていった。そういえば、言っていた。
だが、そう言われた佐藤ちゃんは少々複雑そうな表情をしていた。……いや、正確には表情は変わっていないのだが。なんとなく、そんな雰囲気を醸し出していた。
「……今から打ち込みますので、それを元に探してください」
そう言うと、佐藤ちゃんはアイに接続されたタブレットを操作し始めた。何か文字を打ち込んでいるのだろう。だが、その内容は私達には見えなかった。
「……検索しました。こちらの赤い印を付けたところです」
「これは多いなあ」
画面の世界地図に映し出された印はあまりにも多かった。数十個——それどころか、100を超えているかもしれない。世界中となるとかなり絞った方かもしれないが、それでも多い。
「既に事件が起きたところを青い印を付けます」
「お、おお……!?」
思わず、少し変な感嘆の声が漏れた。青い印が付けられたのは、元は全て赤い印だったところのように見えたからだ。
「全て的中しています。次に起こる可能性があるのは赤い印のうちのどれかである可能性が高いかと」
「とは言え、どう見ても両手では数え切れないでしょ、これ。無理じゃね?」
ソフィアの指摘はもっともだった。それでもまだ、かなりの数がある。
他の群青隊のメンバーの協力を得たとしても、これほどまでに分かれていたら事件を未然に防ぐことはできないだろう。何かしらの行動は起こされるに違いない。
「……場所をイアギットに絞ってください」
「その場合、候補は1ヶ所になります」
「ほぼ間違いなくそこです」
何故そこなのか、佐藤ちゃんが「ほぼ間違いない」と言える根拠が何かは分からない。だが、場所は絞れた。
世界中——いや、最終的に佐藤ちゃんがイアギットに絞ったから、イアギットだけだろうか? そうだとしても、からこの場所だと分かるまでに、このメンバーだとどれほどの時間がかかっただろうか。人工知能、素晴らしい。
「……神社? あいつが盗むものなんてあるのか?」
景がそう言った。言われてみれば……オタクと神社……全く関係がないとも言い切れないが、一見すればなさそうにも見えるだろう。
「あるのでしょう。今月、1日にも、他国の神社で事件を起こしています。マイヤの件があったので、ほとんど知られていませんが」
他国にも神社があるのか。イアギットは日本っぽいところがあるのかな、と思っていたがどうやらそうとも限らないようだ。
「俺の思い違いだったら悪いんだが……ここって結構デカくなかったか?」
「はい。イアギットで一番大きい神社です」
……絞ったとはいえ、これはこれでかなり大変そうだ。
敷地が広いとなると、この人数では無理があるだろう。その上、神社だ。立ち入り禁止の場所にでも忍び込まれたら、私達が手出しすることは難しくなる。
「この神社で、近いうちに何か行事はないですか?」
「はい。明日、正月関連のお祭りがあるようです。かなり混雑すると予想されます」
「明日!? ギリギリ……」
もし分かったのが明日だったら、作戦も何も立てようがなかった。前回のように、ほとんど役に立てなかっただろう。それ以降なら、手出しすらできなかった。
「それを逃したら、予測が難しくなってきます」
「よし。絶対に逃すわけにはいかない。作戦を立てよう」
まずは、奴の狙いから探さなければならない。だが、おおよそは佐藤ちゃんが知っているだろう。だから、目的の物がどこにあるのか、境内の地図の確認と配置、後は——
「作戦なんですが、私に任せてください」
佐藤ちゃんはそうはっきりとそう言った。そのはっきりとした言い方は、珍しく感じた。自信があるようだったので、彼女に話を続けるように促した。
「まず、怪盗の狙いは宝玉です」
「ほーぎょく? 何それ?」
この場ではソフィアだけがそれを知らないようだった。私も名前だけは知っているが、神社との関連はよく知らない。何となく、関係はありそうだけど。
「あの神社に伝わる宝石です。宝玉の公開予定はありますか?」
「はい。あります」
「では、間違いなくその時に狙ってきます」
「でもどうするんだ? 混むってことは前回の二の舞になる可能性もあるぞ?」
鬼塚さんの指摘はもっともだ。ただ単に見張っているだけでは何の意味もない。またドミノ倒しが起きてしまうかもしれない。
「安全かつ未然に防げるかもしれない方法です。まず、先に私達が宝玉を盗みます」
「えっ」
盗む、という発言に思わず困惑した。流石に周りも何とも言えない表情をしていた。
「私の力でそう見せかけるだけです。私が宝玉の保管場所に侵入して、宝玉が無くなったように見せかけます。あの怪盗は目立つところでしか盗みません」
彼女の能力は影が異様に薄いことだが、それは物にまで影響を与えられるというのだろうか。確かに、そうであれば盗む必要もなく無くなったように見せかけられるかもしれない。
「だが、そこからどうやって捕まえる? 奴が現れなければ捕まえることは無理だ」
景の言う通り、事件を防ぐことはできても捕らえることは無理だ。それではまた事件が起きてしまうだろう。
その上、相手は他者まで変装させられる超能力。そいつを探すのは至難の技だ。
「……私が何とかします」
「その何とかを訊いている」
「ですので、信じてください」
それ以上は誰も何も言えなかった。表情には出ていないが、自信と覚悟の目だ。これ以上何を言っても動かないのは誰もが察していた。
「……分かった。俺は嬢ちゃんに懸ける。それでいいか?」
「よく分かんないから、小隊長に任せる」
「マスターの判断に従います」
「……」
景だけは無言だが、無言の肯定というやつだろうか。文句を言いたいような素振りもない。
「じゃあ、任せるね」
「はい」
そう言って、佐藤ちゃんは小さく頷いた。
「決行時刻は遅くとも午前6時を推奨します」
「早っ!?」
朝が弱い私にとって、最悪の時刻だ。朝食や着替えのことだけを考えると、それでも5時起きだ。
「祭りの開始時刻を考慮しますと、その頃には準備が始まるでしょう」
「寝かせてくれ……」
「諦めろ」
景にそう言われながらも、嘆くしかなかったのであった。




