32話 俺TUEEE系アニメってなんだっけ?
あの後、私は沙月さんに借りたタブレットで徹底的に検索し、あのフィギュアを見つけた。そして、どの作品のキャラなのかも確定させることができた。
そして次の日。約5時間かけてそのアニメの作品をネットで見た。異世界でも安くアニメが見ることができるサイトがあるんだなと感心した。当然、合法サイトである。
「おう……」
5時間かけて見た感想がこれである。思わず、そんな声が漏れてしまうほどの作品だった。
……さあ、声を大にして言わせてもらおう。
「何だよ、このつまらん作品!」
私がつまらないと言うのは相当のことがない限り言わない。多分、世間一般よりはつまらないの基準が低い。全部が全部大丈夫という訳ではないが、結構何でもいける。一応、雑食系に入るだろうか?
だが、それにしても酷過ぎる。私がつまらないと思った作品は世間でも必ず「つまらない」と言われる。にも関わらず、この作品は「面白い」と評価されている。それが全く信じられないのだ。
「……景はどう思う?」
「全く面白くない」
景にも強制的に見てもらった。そして、同意見だ。……まあ、景は確実にそう思うだろうな。
この作品はこの世界を表していると言ってもいいくらいのものだった。
内容はよくあるファンタジー……っぽいもの。敵は魔王が率いる魔族や魔物だけでなく、魔法使いとか超能力者とかも含まれる。
主人公は勇者なのだが、ご都合主義と主人公補正が露骨な上に酷過ぎる。勇者なんて名ばかりで「ただの一般人じゃねえか!」と言いたい。
そして、魔王側の化け物揃いを相手に主人公側はただの兵士や騎士。魔法や超能力なんて使えない。むしろ、それらは問答無用で悪。ここはこの世界の世情が入っているので、仕方ない。
だが、努力して筋肉ムキムキで最強の脳筋というわけでもなかった。戦略や戦術なんて、ないも同然。メインキャラは全員が未成年。どう考えても勝てねえだろ! とツッコミたくなる作品だった。
「俺TUEEE系の中でも最悪の作品かもしれない。私が見た中では、だけど」
「何だそれ?」
「私のいた国で流行ってたやつ。主人公が超強くて、無双する」
「まさしくこれだな。主人公の強さの根拠は勇者くらいしかないが。そもそも勇者が何故強いのかもよく分からなかった。特別な力を得たようには見えないし、側から見ればただイキっているガキで——」
景でもこのように文句を言うほどだ。元の世界であれば確実にウケないだろう。むしろ、批判の嵐に違いない。
これだけならまだしも、内容もそこまで面白くない。戦闘シーンも特に盛り上がるというわけではない。……いや、ツッコミには盛り上がるか。
私でもこう思うのだから、元の世界ではもっとボロクソに言われているであろう。
「めっちゃ人気というわけではないという点には安心した」
この世界の世情的に、超能力者は悪でそれを倒す勇者最高! となるのは分かる。内容にツッコミどころが多くても、そういう設定があるからウケているのも分かる。
だが、そのせいで勇者側はもはやただの一般人。魔法も超能力も何も使えない、身体能力もほぼ現実的。何も面白くない。
「……こういう作品だから、あいつは盗んだ?」
この作品への反感を意味しているのか、それとも意図は別か。
でも、これを盗むためだけにわざわざあんな騒動を起こすか? あの騒動の中で盗まれたフィギュアの1つや2つなど、注目されることはない。超高価、あるいは大量に盗んでいたのであれば、注目されるかもしれないが。
「でも、盗んだのはこの女の子なんだよな……このキャラに意味はなさそうなんだけど……」
メインキャラではあるのだが、途中から空気と化したキャラだ。可愛いので、一部のコアなファンからは人気があるようだが、このキャラに何か重要な意味や裏設定などはないようだ。
「あいつは『見た目が似たようなやつ』って言っていたから、これが本命じゃない可能性もある」
「それなんだよな。間違えていたなら何か共通するものがあるだろうし……」
理由をきちんと解明するためには、もっとグッズが盗まれないと分からない。それは作者やグッズの制作、販売をしてくださっている方への冒涜であり、私もそれは望まない。
理由を知ることよりも優先して、この件を解決しないといけない。理由はどうしても防げなかった場合などに調べたらいい。私はそう思った。
「この件はここまでだなあ。この作品への反感、としか現時点では言えない」
そう言ってから、床の上で横になる。流石に5時間もずっと見続けるのは疲れた。そして、タブレットを適当に操作する。
「ニュースは魔女騒動のこと……と、あれか」
景の前だったので“あれ”と言い換えた。“あれ”とは景の故郷であるマイヤで彼が引き起こした氷漬けが元に戻った件と新たなS級のこと、つまり私のことである。
「……」
景には見られないように、画面を隠しながら記事を見る。内容はマイヤのこと。
やはり、大勢の犠牲者が出ていた。その数は約5万人。
だが、国全体が氷漬けだったのだ。一国の人口からすると犠牲者の数は少ないのではないか……? これから出てくるのか?
「ははは……」
次に目にしたのは新たなS級、つまり私のこと。
知ってはいたが、色々な憶測が飛び交っている。「新たな1人ではなく、魔女のせい」とか「光が出てたから破壊光線のS級超能力者によるものではないか」とか。私の超能力に関して言えば「絶対零度とは反対で、熱を生み出す超能力ではないか」とか。
まあ、どれも違うけどね! 誰も「超能力を無効化する超能力」という発想には至っていないらしい。
元の世界であればそういった超能力はあるから、思いつくだろう。だが、こっちの世界では能力バトルものとかの類は発展していない。それはさっき見た作品で思い知らされた。だからなのかもしれない。
「……後はどれも嘘か推測か私達が知ってることしか——」
その続きを言おうとして、やめた。何故なら、新たな事実を知ったから。
「祭り? 確かに言われてみればそうだ」
一般的なお祭りはではなく、オタク向けのアニメ化記念のイベントのようだ。だからあんなに人が多かったのか。
秋葉原でも、あんな道いっぱいに人だらけということはないだろう。こっちにも目的が?
「さっき見たやつとは別の作品のイベントか。……よし、アニメもある」
「……まさか、それも見る気か?」
「当然。でもまあ……お腹空いたし、後で」
気付けば、既に食事の時間はもうそろそろだ。今からアニメを見るのはキリが悪い。
……そして、このドタドタという音は多分——
「もう見終わったよね!? さあ、食事の時間だよ! 分隊の結成記念と景達の入隊記念も兼ねて——って、あいたっ!」
誰かが沙月さんの頭にチョップをする。扉に隠れて見えなかったが、その人物が部屋の中に入ってきて誰だか分かった。
「興奮しすぎだ。落ち着け。それに、言うほど痛くないだろ」
現れたのは渚さんだ。沙月さんに対して、やれやれといった感じだった。
「……まあ、痛くはなかった。びっくりして言っちゃっただけ」
目を逸らして、どことなくばつが悪そうな顔をしていた。
……声は痛そうだったけど、実際は痛くないのかよ。
「って、それよりも! 2人とも早く早く!」
「ど、どこに連れて行く気ですかー!?」
沙月さんに引っ張られて部屋から出され、そのまま4人でどこかに連れて行かれるのであった。




