31話 シリアスな空気はどこへ
「……」
私達ができる範囲内での救助活動を終え、群青隊の基地に戻った。そして、あの場で起こったことを全て沙月さんに説明すると、沙月さんは頭を抱え始めた。
「随分派手な救助活動については問題ない、と先に言っておくね。あの辺一帯の監視カメラ関係は怪盗側のせいで全滅だし、全員が自分のことに手一杯でバレてもない」
そのことに頭を抱えていたと思っていたが、違うらしい。あの後の救助活動は少々やり過ぎた感があったからである。
景の力を利用し、救助には成功した。……のだが、そのやり方が少々問題だった。
景は氷で箱のような物を作り、それを釣り上げることで安全な場所へと移動させた。物はゴンドラに近いだろうか。
だが、それは随分と目立った。幸いにも、それによるパニックでドミノ倒しが酷くなることはなかった。その前に景が終わらせたからである。
「皆にあの場にいてもらうだけで上手くいく予定だったんだけど……これは……」
実際、私達がいた場所と爆発の現場は近かった。沙月さんが私達に何も言わずに行かせたのも、言うことで上手くいかなかったのかもしれない。
だが、結果は完璧に成功とはいかなかった。犠牲者も出てしまった。
「……S級?」
「そうよ」
沙月さんが女に問いを投げかけると、彼女は短くそう返した。
この騒動はS級の関与だというのか。そして、彼女はそれを知っている。
「私が紅の月にいた時に仕えてたやつ、とでも言えばいいかしら? 実際に会ったのは数回しかないけど、あいつはヤバい」
そう言うと彼女は机に置いてあったコップの中の水を一気に飲み干し、コップを乱暴に置いた。
「普通の戦闘であいつに勝てるとしたら、魔女かうちの隊長か。それくらいしか知らないわよ」
「ここにはS級が2人いる。それでも難しいのか?」
「……は? ここには?」
そう言うと、彼女は部屋中をぐるりと見渡した。そして景をじっと見つめた。しばらくすると、いきなり机の上のコップを倒す勢いで立ち上がった。
「ま、ま、ま、ま、まさか……!?」
「そのまさかだ。絶対零度、と言ったら分かるだろう?」
そして、彼女は崩れ落ちた。机の上からコップも落ちそうになったが、地面に着く前に私がそのコップを取ることに成功した。危ねえ。
「……もう1人は?」
「あー……私です」
私はそろりと手を挙げた。そして、彼女は口をポカーンと開けたままこちらを見つめる。そして、また時間が過ぎていく。
「ああ、なるほど。……はい?」
やっと出てきた彼女の声は間抜けなものだった。その反応も当然だろう。何故なら、私も同感だからである。
「魔女、絶対零度、破壊光線、念力、蟲使い、精神操作、後は魔女みたいに能力がよく分からん新しい奴……絶対零度を倒したとか何とかの……」
「そのよく分からん新しい奴です。はい」
「あ、そう。……はあああああああ!? あんたが、この絶対零度より強いっていうの!?」
彼女は私の肩を掴んで、揺さぶってきた。その勢いで、手に持っていたコップは地面に転がった。
だが、音から推測してどうやら割れずには済んだようだ。視界が揺れているせいで、コップの行方は分からないけど。
「違っ……勝ってない……」
「じゃあどうしてマイヤのあの大雪が元に戻るのよ! それに、その絶対零度があんたとここにいるのよ! そもそも、あの中をどうやって!? まさか、あの変な力の——」
「落ち着けぇい!」
私は彼女の肩を掴み返して、そう叫んだ。正気に戻ったのか、ハッとした顔になった。
そしてイスがあるのにも関わらず、地面の上で正座をした。反省……しているのか?
「……ええ。あんたは分隊長に相応しいわ」
「何故に今その話!?」
そしてその場にいた私以外の全員が頷いた。
おい! この場にツッコミ担当はいないのか!? どうしてそうなるんだよっ!
「S級で、あの絶対零度も倒して舎弟にして、古代語まで分かるなら、やっぱり嬢ちゃんが適任だな」
「舎弟にしてませんよ!」
景はいつ私の舎弟になったんだ。した覚えもないぞ。
それに、倒してもないし。ただ超能力を無効化して解決しただけだ。戦っても私は身体能力の差で負けるだろう。
「古代語!?」
「あ、そこに反応します!?」
科学にしか興味がないはずの沙月さんが、「古代語」に反応して突然立ち上がった。そして、コップの中の水をぶち撒けた。
コップのことなど気に留める様子もなく、私に駆け寄る沙月さん。そして、私の肩を揺さぶった。
「どこで知ったの!? どうやって!? 何故分かるの!? いつ、誰に教えてもら——」
「そもそも古代語ってなんですか!」
ツッコミするのに疲れてくる。本人達は熱が入っているだけで至って真面目……だと信じたい。
だが、もはやこれはギャグである。話の内容は真面目なのに。さっきまでのシリアスな空気は何だったんだ。
「あ、それすら知らない? 聞かせたいけど、持ってないから後で」
「はあ……では、話を戻してください」
そもそも何の話をしていたのか忘れてしまったのだが。えーっと……S級の話をしていたっけ? ああ、首謀者か。この件にはS級が関わっているとか何とか。
「何の話だっけ? ……ああ、私の上司的な奴の話ね」
もはや全員が忘れていたのではないだろうか。ようやく話が戻った。そう言うと、彼女は正座からイスに座り直した。
「そいつは念力の超能力者よ」
次の瞬間、ガシャーンと大きながした。
全員が一斉にその方向を見る。床には粉々になったコップの破片が散らばっており、大量の水も零れていた。
「……だ、大丈夫? 続き、いくわよ? 自分のやったことに言い訳するつもりはないけど、あいつはあんたの敵でもあるわ。私に人形を盗むように命じたのはあいつ」
「よし、やるか」
全ての元凶はそいつか。そいつを引っ張り出せば、私の最後の1つのフィギュアの行方も分かるだろう。
しかも「命じた」ということは他の人にも命令して、フィギュアを盗んでいる可能性が高い。全オタクの敵だ。
「殺す方の殺るに聞こえるんだが」
「同感よ」
実際に殺すことはないだろう。だが、半殺し程度にはしてやりたいと思っているので、景達の言うことも強ち間違いではない。
「人形を盗むことに目的はあるのか?」
「金になるって言ってたから換金目的とかだと思うけど……それに人形は『お宝』って言ってたし。でも、あいつは色々物を欲しがるからよく分からない。怪盗とは互いの利益が目的で手を組んでるだろうけど」
それにしては変だ。いくらなんでも、盗んだ物を何度も売っていたらバレないか? 巧妙に隠して売っているなら話は別だが……「お宝」と言っているのも何だか変だ。
それに、プレミアの付いていないフィギュアはそこまで高くはない。この世界での価値がいまいちまだ分かっていないので正確なことは言えないが、精々数千円程度だ。換金目的にしては効率が悪すぎる。
「人形を盗んできたらかなりの報酬が出るから私達も『お宝』って言ってた。まあ、物によるけど1つで最低でも数万は貰えた」
「ありえない。換金目的じゃない。赤字じゃねえか」
それは絶対に赤字だ。盗んできたフィギュアは10万円以上の価値があるとするのであれば、黒字だろう。
だが、明らかにおかしい。1つあたり最低でも数万円の支払い? 異世界だとはいえ、全てのフィギュアがそんなに価値があるとは到底思えない。
「……やっぱり、何かしらの意図があるとしか思えない。報酬の基準は?」
「さあ? あ、でも、見た目が似たようなやつは同じような報酬だったかも。さっきあの怪盗が盗んでたやつもそこそこ高い報酬が手に入ったと思うんだけど」
作品かキャラクターに何か意図があるな。……これは、あのフィギュアのキャラを調べて作品とキャラがどういうものか知る必要があるようだ。
報酬が高い物ほどあいつにとっては価値があるはずだ。つまり、こちらも調べてみる価値はある。
「よし。ここはオタクの出番だな」
久々の新しい作品に少し燃え上がるのであった。




