4 お昼寝日和
ヒロインの周りは忙しいらしい。
竜胆の膝に乗っかったままよだれを垂らしている菫を眺める。天気もいいし、眠たくなるのはわかるわ。
かくいう私も縁側のすぐ傍に造ったすずらん畑に腰掛けて何もしてないんだけど。
「それで、どうなってるの」
「…子城は問題なく機能しているはずだ」
「まぁねぇ。知らない間にポイントが増えてるもの。そこは心配していないわ」
「絶対に出さない。主が出たいと言うならば従うが、あいつらの言葉に従う義務はない」
多少の物音くらいじゃ起きないのがわかっていても、ついつい声を潜めてしまうのはお互い様。
子城、というのはつい最近増えたもう1つの城のこと。もちろん菫も知っている。
森で魔獣を狩っていた竜胆が見知った気配を感じ、それが族の一人だったらしい。姿形が変化した竜胆に助けを求めた。急激に勢力を増したエルオークが再び襲撃してきた、と。前回は主勢力を竜胆が引き受けてどうにかなったが今回は領長の竜胆がいない。なんとか耐え凌いではいるがそれも時間の問題だったらしい。
すぐに向かわず一度領地へ行く許可を取りにきた竜胆に「子城造れば?」と言ったのは私。「いいよー」と言ったのは菫。ポイントは竜胆がせっせと貯めていたし、菫のポイントを使わずとも子城を造ることは出来た。
まず役職付きの竜胆が領地へ行き、軽くエルオークを凪ぎ払い、さくっと子城を作り、ついでに自分が居なくても成り立つように後継の領長を子城の番人として指名し、半日も経たずに帰ってきた。
エルオークの群れって、トロルド単体で倒せるものだったかしら。
まぁ、いいわ。それで、トロルドたちは妖聖の私はもちろん、城主の菫に会いたいと言ってきた。ちなみにこれは菫の知るところではない。菫が知っているのは「リンの友達助かったの?よかったね」くらいだもの。
「それにしてもトロルドって勤勉ねぇ。生態系を壊さない程度に魔獣を狩ってるみたいだし…エルオークも元は真面目だったのも面白いわ」
「エルオークについては番人に一任している。そもそもが領地と食糧の不足によるものだったからな」
「広い畑を造ったんだもの。しばらくすれば食糧は解決するでしょうね。近林の開拓も進んでいるようだし」
「あぁ。駒が増えたのは喜ばしいな。いくらか様子を見て役職を与えるのも考えている」
「トロルドの何体かには既に役職を与えているんでしょう?」
「元は腹心だったやつらだ。問題はなかろう。万一のことがあったとしても首を切ればいいだけだ」
「リン…あなた、菫の前でそんなことしないでしょうね」
当然だとでも言うように菫の髪をさらりと撫でる。本当に、菫が望めば軽く一国落としそうね。
防御に続いて攻撃までもがカンストした城壁とは違い、本城はゆっくりとレベルを上げている。平屋だった小さな家は二階建てになった。庭も広くなり、裏には果物の木が、表には小さな畑と色とりどりの花畑が出来た。
「スズは何が造りたい?リンは何があったら嬉しい?」と次はどれを造ろうか悩む菫を眺めるのも楽しい。
「いぬ、」
「起きましたか、菫」
「いぬ、ほしい。おっきいやつ、もふもふする」
「ふふ、夢でも見たの?」
「うん…おっきい犬にね、乗って、走った」
ぐじぐじと目を擦りながら、夢の内容を話す。ふむ、と考え込んだ竜胆は「では次は丘を造りましょう」と小さな笑みを浮かべた。貯まったポイントを使えばすぐにでも立派な王城が出来るのに、きっと菫はせっせとポイントを稼ぐんでしょうね。
丘にはどんな花が似合うのか、どんな木を植えるのか、笑い合いながら話すのも嫌いじゃないから構わない。
まぁ、数日後にただの子犬ではなくレオンウルフを連れてきた竜胆にはやっぱり呆れるしかなかったんだけど。