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3 3人のお家

さっくりした説明。

 



 てった、てった、てった。裸足で廊下を歩いているのは菫だった。というよりも鈴蘭の城内(まだ平屋だが城と呼ぶことにする)で足音を立てる者はこの菫しかいない。菫が名付けた妖聖の鈴蘭は基本的に宙を浮いているし、菫が拾ったトロルドの竜胆は足音を立てない。

 

 今日の服装は白いTシャツに黒いサロペット。全身が黒まみれ(日本の忍装束に似た装備)の竜胆とお揃いらしい。

 昨日は鈴蘭とお揃いだといってノースリーブの真っ白なワンピースを着ていた。そして半日もしないうちに土で汚れてしょんもりと肩を落として着替えていた。

 

 

 菫、鈴蘭、竜胆。この三人(一人と一聖と一体と呼ぶのが正しい)が城内に住んでいる。

 

 竜胆。これは真名ではなく、菫がつけた名前だ。

 トロルドの亜種と呼ばれる一族である青年は菫に命を救われた。救った本人は全く気にしていないが、竜胆は二度目の生として菫を主と定めている。

 先程も言った通り、装備は忍装束に酷似している。一見しただけではトロルドと気付けないのも無理はない。トロルドよりも遥かに理性的な知識を持っていて、人前に姿を現さないため竜胆の種族が認識されていないのだ。

 三メートル近い体躯を持つが、気配遮断に長けている。額から突き出た二本の角、下顎から生える牙、なによりも一番の武器は自在に操る毒のある爪。

 ………というのは、以前の竜胆だ。以前の、とは、役職をもらう前の、と伝えればわかりやすいだろうか。菫を護れる力が欲しいと願った竜胆に呆れつつも鈴蘭が提示した役職は”軍師“だった。戦闘能力と思考回路が飛躍的に上がり、城の管理も半分(主に攻撃防御面において)支配権を得た。本当に蛇足だが菫は軍師がどんなものか理解出来ていない。それに附随して、竜胆の姿形も変化した。むしろそちらの方が竜胆にとっては重要だったかもしれない。

 菫の倍近い体躯が縮み、角や牙はなくなり、爪はより細く鋭くなった。元々厳つくとも整っていた顔立ちが更に洗練された。そう、人に近い体つきに変わったのだ。これには鈴蘭も驚いた。跳ね上がったオーラを凝縮した、とでも言えばいいのか、見た目は以前の方が強靭であるのに変化後の方が明らかに強化されていた。

 役職にはこんな変化もあったのか、と。スキルを知識として理解していたとしても、使用するのは初めてだったのだから仕方がない。

 

「リン、ちっちゃくなった?ま、いっか。話しやすくなったもんね」

 あっけらかんと言い放ち、ぎゅうっと抱き着いた菫には多少(と呼ぶのはいささか行き過ぎているが)の変化だったらしい。

 

 そんな菫を姉のように、母のように、見守り導いているのが妖聖の鈴蘭だ。

 鈴蘭の持つスキルは城を発展させる力だけ。契約主(この場合はもちろん菫)によって壮大な城となるか平穏な邸になるか様々だ。鈴蘭のみが見えるパネルを操作し、ポイントを還元する。菫はキッチンやシャワールームを造ったり庭を広げたり、まったりのんびり楽しんでいる。竜胆は城壁の強化や砲台の量産と一国の軍事力と変わらない戦闘スキルを上げている。鈴蘭にとってはどちらが不正解などはなく、契約主が好きなように彩る城が正解なのだ。

 

 妖聖はこの世界でもさほど存在しない。せいぜい片手で数えられる程度だろう。菫の手のひらに乗るほど小さく、シルバーブロンドの髪を靡かせて飛び回る。白いドレスには銀の刺繍が施されているが気分によって自在に服装も変えられるらしい。菫を真似てTシャツを着ている日もあるくらいだ。

 唯一外さないのはピアスくらいなもので、菫の目の色によく似た紫色の石に白くきらめく薄い雫がぶら下がっている。聖樹から産まれたときにはついていたようで、外す素振りすら見せない。

 つんと上向きの鼻も少しつり上がった瞳も溶けて消える光を振り撒く羽根もまさしく妖精のようで竜胆が間違ってしまうのも仕方のないことだろう。

 

 

「うーん…今日はクッキー作ろうかなあ」

 

 

 最後に菫。ぽやぽやとレシピを思い出しながらキッチンへ向かう足取りは軽い。三人で食べるおやつにするつもりらしい。

 少女と呼ぶには年齢を重ねていて、女性と呼ぶにはもう少し時間が掛かる。鈴蘭に導かれ、竜胆に護られていることを知らない菫は、ただ二人のことが好きなだけの、普通の…別次元の女の子だった。






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