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「神様はもういない」

 ~~~三上聡みかみさとし~~~



 

「レン……っ?」


 話しかけても、話しかけても、もうレンは言葉を返してくれない。

 ただただぐったりと、重たげに目を伏せている。


「レン……っ?」


 でもなかなか諦めきれず、俺は何度も呼びかけた。

 何かの拍子に目を開けてくれることを願って。

 冗談ですよーって、からっかちゃいましたーって。

 陽気に笑いかけてくれるのを願って。


 でも、現実は無常だ。

 反応はあったが、それはレンからのものじゃなかった。

 

「あああああああああっ」


 レンが表層に出てきたかと思うと、目の前にいた俺に抱き着いてきた。


「恋っ、恋かっ?」

「レンさんっ、レンさんがいなくなっちゃった……っ!」

「落ち着け! 落ち着け!」

「だって……レンさんが……!」


 懸命に取り押さえようとしたが、恋は凄まじい力で暴れた。


「いつものとこにいないんですよ! わたし、最近になってようやくレンさんがどこにいるのかがわかるようになってきたのに! 自分の中のどこにいて、起きてるのか寝てるのかがわかるようになってきたのに! 話しかけ方がわかるようになってきたのに! ようやく一心同体って感じだったのに! なのにいないんですよ! もう……どこにも!」


 うぐう……っと、恋はくぐもったような声を出した。


「こんなことになるなら、一日ごとで交代だなんてケチくさいこと言わなきゃよかった! 最初から、丸ごとあげればよかった! だってわたしには、このあと十分な時間があるんだから! レンさんにはこれだけしかなかったのに! たった一年しかなかったのに! わたしは自分のことばっかりで……っ、わたし……最低だ!」


「違うぞ恋、それは結果論だ」


「違わないですよ! 全然違わないです! だって、少し考えればわかることじゃないですか! こんな状態いつまでも続くわけないって! だったらって!」


「それにしたって、期日の予想なんて出来るわけがない」


「出来なくたっていいんですよ! だってわたしのそれより、レンさんのほうが遥かに価値があったんだから! 歌も上手くて! ダンスも上手くて! 周りのこともよく見えてて人間出来てて! プロデューサーさんにだって、わたしなんかよりよっぽど好かれてて……!」


「……っ!」


 ズキリと胸が痛んだ。

 ついさきほどレンに向かって放った言葉がそのまま跳ね返ってきて、ザクリと突き刺さった。

 

 そうだ、俺は言ったんだ。

 レンが好きだって。

 誰より好きなんだって。

 他ならぬ恋の目の前で。


「なんでレンさんなの!? 死ぬなら……いなくなるならわたしのほうが良かったのに!」


「──恋! 違う!」


 恋を強く抱き締めると、俺は懸命に言葉を紡いだ。


「レンは言ってた! 本来ならとっくに終わってたはずなのに1年間もアンコールがあって嬉しいって! みんなに会えて楽しくやれて、おまえとも仲良く出来て嬉しいって! 幸せだったって! だからそんなこと言うなよ!」


「でも……! でも……!」


「レンは! おまえに! 感謝してたんだ!」


「そんなの……っ」


 恋はぶるぶると首を横に振った。


「感謝されても、嬉しくなんかないですよ……っ。わたしはっ、レンさんにずっと傍にいて欲しかったんですっ。レンさんと、わたしと、プロデューサーさんとで、ずっと、ずっと一緒にぃ……っ。それだけで、よかったのにぃ……ううっ、うわぁぁぁぁー……っ」


「恋……」


 ぼろぼろと泣き出した恋を、どうしていいかわからない。

 この小さくて可愛らしい生き物を、どうすれば泣きやませられるのかわからない。

 かけるべき言葉はいくらでもあるはずなのに、上手くまとまらない。


「恋……」


 最善の行動が何かわからないまま俺は、ただただ恋を抱き締めていた。

 抱き締めて、頭を撫でて、その名を呼び続けていた。

 

「ああああああ……っ、ああああああ……っ」 


 恋はひたすら泣き続けた。

 俺の胸に顔を埋めて、叫び続けた。

 悲しみを。

 絶望を。

 ずっと、ずっと。

 やがて皆が到着するまで。

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