file1-D:間隙の夕刻
ちょっとココ最近忙しかったのでろくに進んでおりません。
タイトルの通りインターバルです。
昼休み。社長室と同じように色の少ないオフィスの一室で昼食を取りがてら、渡された資料を読んでいた。
まだまだ高い日の光と白い蛍光灯の光が、スチール製のオフィスデスクと黒いリング式バインダーを照らす。関わった人間の色が見えないというのは、部屋の調度だけではないらしく、このバインダーの表紙の字も、受付で応対してくれた色素の薄い少女すらもどこか無味乾燥としている。
だからこそ、先刻のティーチオ社長やバインダーの中身が際立って見えて仕方ない。
彼女から渡されたこの資料には、言葉通りボルコディオ社の概要が書いてあった。社外秘という注意書きがないのは、これが外向けに作られたもので、内部情報を教えてもらえるほど俺が信頼されていない証でもある。
結論から言って、ティーチオ社長の言っていたことは、一から十まで本当だった。
民間、国家、国外問わず依頼を引き受け、それを達成して報酬を貰う。それだけでいえば便利屋ですむのだが、如何せん扱っている仕事がドンパチ・・・・・・即ち戦闘関連ばかりなのである。
定職は欲しいものの、戦場勤めは望んでいない。もちろんゲームや漫画なんかのフィクションでのバトルは楽しいし面白い。だが、それが身に降りかかる現実となればどうだろう。怖いし、きっと痛い。とても痛い。それは多分よくないことだ。
そういえば社長室に続く廊下に倉庫と書かれた扉があったような気がする。もしやあそこには銃火器の類でも入っているのではないだろうか。
そこまで分厚くもない資料をぱらぱらとめくる。時折可愛らしくデフォルメされた社長らしきキャラクターの挿絵が妙にハイテンションな調子で注釈を入れており、どういうわけかそっちの方がでかでかとページの割合を取っている。
しかしそれを除くと、しっかり整理された読みやすい資料になっており、特に今まで達成した以来の件数、任地の統計などのページは変なイラストもなくわかりやすい。
スペイン、アメリカ、イタリア、中国、カンボジアなどなど。確かに日本だけじゃなくグローバルに活動している会社らしい。流石に国内の任地の方が多いが、達成率はすごい。九十九パーセントという数字が事実なら一度や二度しか失敗していないことになる。社員数二名というごく少数にして収支が高いのも頷けるというものだ。
ていうか、二名て。社長と受付の子だけってことじゃないか、それ。あの細っこくて小さな女の子が銃片手に戦火の中を走れるとは思えないし、ティーチオ社長が現場に行っているんだろうか。しかし、その場合入社したら俺がその役目にならないか。
やはり辞退しよう。そんな後ろ向きの考えが俺の中で固まり始めた、その時だった。
アルミだかスチールだかよくわからない金属で作られた、どこのビルでも見かける簡素な扉が開かれた。
遅いとも早いとも感じない絶妙な速度で生まれた隙間から丁寧な動作で現れたのは、色素の薄い小柄な少女、つまり受付で対応してくれた少女だ。胸元のネームプレートには『フルミネ』と書かれてる。・・・・・・フルミネ。古峰、かな?
清廉な所作、といえば聞こえがいいが、どこか機械的で画一的な動きが印象的で、今も全く同じ振れ幅で手足を動かしている。メトロノームを連想してしまったせいか、見ているだけで眠くなりそうですらあった。
少女はまっすぐ俺が据わっている椅子の方へ歩いてくる。数える間もなく彼我の距離はどんどん短くなっていくが、少女のロボットじみた所作の効果で圧迫感も緊張感もない。ペッパー君といっただろうか。最近飲食店で見かけるようになったあのロボットは。失礼ながらあれが近づいてくるような気持ちである。
俺との間が一メートル程度まで来ると、少女は立ち止って綺麗に九十度頭を下げた。
「浦賀様。社長がお呼びです。社長室までご足労願います」