動き出した時間 前編
『くもりのち、はれ』 本編第九章と第十章の間に当たる物語。
木戸周人のアメリカでの生活を描きます。
今日も見上げる夜空は快晴であり、そこにきらめく星の数はまさに無限といえるだろう。月の光すら霞ませるその無数の星の光が本来真っ暗闇である夜の世界を明るくしていた。もちろんそれは太陽の照らす光には足下にも及ばないまでも、それでも昼には無い美しい情景をそこに描き出していると思いながらゆったりと白い煙を立ち上らせるタバコをくわえた若い男はその夜空を見上げながら自然と小さく微笑んだ。この夜空を見るようになって約2年半、いつも腰掛けてその夜空を見上げている鉄製の階段のすぐ右側には自分が働いている工場の壁があり、今日も残業の合間の休憩を兼ねてここでこうしているこの時間を楽しむこの若い男、木戸周人はくわえていたタバコを口から外してゆっくりと肺に溜まった煙を吐き出した。見渡す限りこの工場以外にあるものは広大な麦畑とただひたすら続く平原だけだ。所々にある大きな岩、そして町へと続く舗装されたアスファルトの一本道以外にははっきり言って何もない。だが、ここから数十キロ先にある南には大きな街があり、高層ビルも多く立ち並んだ都会となっていた。また北には小さいながらも立派な町もあり、この工場はその南北にある町のちょうど中間地点に位置しているのであった。もちろん町まで行かずとも工場内には買い物が出来るマーケットを始め診療所や娯楽施設も用意されており、仕事はおろか生活する分ですらなんら支障がないようになっていた。現に北の町に安いアパートを借りて住んでいる周人も週の半分近くをこの工場内で生活しているほどなのだ。この雄大な大地アメリカのアリゾナ州にある日本企業カムイモータースのF1用エンジン開発工場にはその広大な敷地を生かした簡易サーキットまである日本では考えられないほどの超巨大工場となっている。周人はカムイに就職してすぐにこの工場へと配属され、単身アメリカで生活しているのだ。もちろんF1の開催に合わせてほぼ1年中を世界各地で過ごしているためにこの工場にずっといたわけではないのだが。とにかく日本を離れて早2年半、すでに英語は完璧にマスターし、ドイツ語とフランス語すらそれなりに話せるようになっている周人は母国である日本語も忘れないようにと仕事の合間を縫ってはこの非常用の階段に腰掛けてタバコを吸いながら学生時代に講師のアルバイトをしていた塾でのことを思い出しているのだった。いや、正確に言えば塾で出会ったある少女のことだ。満天の星を見上げながら作業用のズボンのポケットに両手を入れたまま立ち上がった周人はタバコをくわえたまま顔のみを上へと向ける。文字通り降ってきそうなその星空を眺めながら、今夜もまたその少女のことを想い、淡い微笑を浮かべるのだった。
工場には3つの巨大な建屋がある。1つ目はエンジンそのものを開発している設計棟である5階建ての一番大きな建物。2つ目は部品を集めたりするキッティングと組立が終わったエンジンの試験を行なう3階建ての建物。そして最後の3つ目が組立を行なう工作棟となっているプレハブで出来た2階建ての建物だ。周人が所属している設計棟には日本人スタッフも在籍していた。とはいえ、そこにはわずかに6人しかいないのだが、一番日本人が多いのは工作棟であり、それ以外の部署にはアメリカ人や中国人が多くを占めていた。この工場にいる日本人は全部でわずか17名しかおらず、その中でも女性はたった2人だった。もちろんここはアメリカであるので主流言語は英語である。そのせいか日本人同士でも英語で話すケースが多く、実際この2年半で周人が日本語で会話したのは数えるほどしかなかった。
「試験データを持っていきます」
日本人とは思えない流暢な英語でそう言うと自分のノートパソコンを手に工場内では着用を義務付けられている帽子をかぶって立ち上がる周人は目の前に座っている黒人に意味ありげな表情をされて眉をひそめた。
「そのいかにも何か言いたげな顔はやめてくれる、アレックスさん?」
「いや、何もないぜ・・・ただ」
そこまで言うとさっきよりも濃く意味ありげな笑みを浮かべてみせる。
「昨晩ジェシーと仲良く話してたからさ、ようやくその気になったのかと思ってな」
その言葉に対して大げさなため息をついた周人はやれやれとばかりに頭を振った。確かに昨夜遅くまで残っていた女性エンジニアであるジェシー・ランベルと休憩がてらコーヒーを一緒に飲み、楽しく会話をしていた。年も2つ上のジェシーとはここに来てからずっと親しくしてきており、周囲からは付き合っているのではないかと言われるほど仲が良かった。だがジェシーにはニューヨークに彼氏がおり、周人も誰とも付き合う気が無いと周囲にもアピールしていたために、実際お互いが友達関係以上の感情を持つことはなかったのだった。仕事が出来る上に人当たりもよく、優しい周人はよくモテたが恋人と呼べる存在は今をもっていない。
「その気も何も・・・何にもないよ」
うんざりしたかのようにそう言うと、周人はアレックスを一睨みしてからやや早足でフロアを後にしていった。
「ってことは、やっぱ本命はリリーか?」
「いーや、きっとマリーアだな」
考え込むアレックスの隣から横やりを入れてきた青い瞳の白人男性ギルバートはコーヒーを片手にそう言うと深く椅子に腰掛けた。
「たしかにマリーアはボン、キュッ、ボンのダイナマイトバディだ・・・だが、シュートの趣味はそうじゃない」
「ほう・・・じゃぁどんな?」
「リリーのようなお嬢様タイプだ、間違いないね」
いやに自信たっぷりそう言うアレックスに対し、ギルバートはコーヒーをすすりながら表情でその真意を問うようにしてみせた。
「ピンクのドレスを着たドえらい可愛い子の写真を持ってるあいつに聞いたらさ、どうやらその子がタイプみたいなことを言ってた。その子はもちろん日本人だけどな」
「日本人でドレスと言えば金持ちか・・・なるほど」
妙なところで納得したギルバートに向かって得意げな顔をするアレックスだったが、その自信はこの後、より大きくなることにまだ気付いていなかった。
試験設備はアメリカにある3つのカムイ支社においてナンバーワンを誇るここアリゾナ工場だったが、それを扱える人間が極端に少ないという台所事情を抱えてもいた。元々F1マシンの試験などはテストドライバーも必要となり大掛かりになってしまう。だがここはエンジンを主としたテストを行なう場であるためにそういった大掛かりなテストは年に3回あるか無いか程度にすぎない。それでもエンジンの特性を熟知し、なおかつ全ての開発に精通した者でなければ完璧な試験は行ないきれない現状に工場長も頭を抱えている始末である。今現在その試験ができるのはジョニー・ハルバートン、マティス・コナー、そしてリリー・キャンベルの3人しかいなかった。年配のジョニー、若きホープのマティス、そして女性であるリリーはF1レースの現場でも活躍している優秀なスタッフだった。特にリリーは美人である上に家もお金持ちであり、こういうどこか男臭い仕事をしていること自体が間違いではないかと思えるほどの人柄であった。だがリリーの腕前は素晴らしく、ジョニーがマティスを差し置いて自分の後継者だと言い張るほどの能力を発揮しているのだ。そのジョニーは定年を間近に控えているものの、多くのF1レースを経験してきたその腕前は衰えを知らず、一番弟子であるマティスにとっては永遠に超えられない壁として存在しつづけているのだった。そのジョニーは今、F1ドイツグランプリに駆り出されて不在、マティスは新型エンジンの開発会議出席でニューヨークへと出張中だ。残ったリリーはかなり忙しく、1台に3日はかかる試験を同じ3日で5台分こなさなくてはならないのだった。
「待たせてすみません、ミス・リリー」
「シュート!まさかもう出来たの?」
「言ったでしょ、徹夜してでも今日仕上げるってね」
にこやかに微笑んでそう言う周人がDVDを差し出す。リリーは美しい微笑を浮かべながら自分の目の前にある3台のパソコンの内で一番右端のものにそのDVDを挿入した。
「データ的にはチェック済みです。あとは整合性だけですね」
「あなたのデータが間違ってたことはわずかに2回だけ、信用できるわ」
エメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそうになるのを感じながら、そう言われた周人は少し照れた顔を隠すかのようにぐるりと工場内を見渡した。天井を移動する巨大なクレーンがあり、大きな白い箱型の設備がいくつも並んでいる。かなり広い敷地を誇るここではエンジンの稼動試験も行なわれており、遠くでエンジンのアイドリング音も聞こえてきていた。金色の髪をうなじで留めたリリーの横顔へと視線を戻しつつ、画面上に表示されたデータを覗き込む。
「いけそうね・・・これで今日中に1台は仕上がる、助かるわ」
その微笑に多くの男性が虜になっていることに気付いているのか、リリーは女優にもスカウトされたその美貌の笑みを周人へと向けた。
「お願いします。あと、東側の試験設備を借りたいんですけど」
「多分、今は誰も使っていないと思うから好きにしていいわ」
「ありがとう」
にこやかに礼を言って去っていく周人の後ろ姿を見ながら少しつまらなさそうな顔をしたリリーは小さなため息をついてから真剣な表情へと変えてパソコン画面を鋭く見つめるのだった。
「あれ、マリーア・・・それ使ってるの?」
さっきリリーに言った東側の試験設備のある場所へとやってきた周人だったが、そこには先客がいたのだ。その人物の名はマリーア・エクスメル。周人と同じ設計士であり、大きなバストが魅力のブロンド美人だ。この工場ではリリーとマリーア、そしてもう1人リンダ・リチャーズの3人が美人で有名だった。そのマリーアは振り返りつつ周人に向かって照れたような顔をし、それからにこやかに微笑んだ。
「えぇ、使ってるけど・・・急ぐ?」
「いや、急ぎはしてないし、使ってるならいいよ」
微笑みを返しながらそう言うと、周人はマリーアの顔に自分の顔を近づけて画面の中に並んだ数式を見つめ始めた。すぐ近くに、それこそちょっと顔を傾ければ頬と頬が触れ合うほどの距離にいる周人を意識したのか、顔全体を赤く染めるマリーアに気付かない周人はなにやらぶつくさ日本語をつぶやきながら数式に見入っていた。
「これ、ここの数字っておかしくないかな?」
その言葉にハッとなったマリーアもまた真剣な顔をして画面を凝視した。周人の指摘した場所を見つつキーボードの脇に置かれた書類に目を通せば確かに数値がおかしいことが判明した。
「ありがと、さすがね・・・お礼に後でコーヒーでもおごるわ」
「楽しみにしているよ。あと、終わったら教えてくれる?オフィスにいるから」
その言葉にまたも頬を赤く染めながら大きくうなずいた拍子にその大きなバストも弾むように揺れる。だが周人はそこに目をやることも無く片手を挙げてさっさと行ってしまった。
「いっそのこと裸で迫ればいいのかな・・・」
つぶやくようにそう言うと、唇を尖らせながら画面へと向き直るとややきついタッチでキーボードを叩いていくマリーアだった。
試験棟からオフィスのある建物まではゆうに百メートルは離れている。さらにはそこから四百メートル離れた場所に組立工場があり、3つの建物を移動する際には自転車かバイクを利用する者が多かった。工場全体を囲っている高い壁には鉄条網もあって外界と遮断された感があるのだが、実際は工場内にも砂利道や草の生い茂った場所まであるのだ。逆に舗装された道の方が少なく、ここが田舎であることがはっきりと自覚されるほどの環境に来た当初こそ戸惑いもしたが、これに慣れた今ではそれが普通に感じる。心地よい日差しを受けながら結局使うことのなかったノートパソコンを抱えた周人は自転車やバイクを使用せず、いつも歩いて敷地内を移動していた。周囲には健康のためだと言っている周人だが、その真意は少しでも体がなまらないようにとの自分に対する配慮をしているからだった。北の町からこの工場までを日本から持ってきた愛用のバイクで通っている周人だが、仕事が終われば近くの草原でトレーニングを積んでから帰るようにしている上に、早朝もランニングやその他のトレーニングも怠っていない。大切な誰かを守るためにと叩き込まれた武術の腕をなまらせたくないのと、いつか日本に帰った時にある少女から幻滅されたくないというのがその理由だ。だから歩ける時は歩くという形を取っている周人は今日もまた工場間を歩いて移動しているのだった。だからこそなのか、それともこれが運命だったのか、周人は設計棟と試験棟とを何度も交互に見ながら不安そうな顔をしているいかにもこの場所には場違いだという格好の少女に目を留めた。鮮やかな金髪が緩やかなカールを巻いたようなパーマの少女は白いワンピースに赤いバッグを持って不安そうにキョロキョロとしていた。眉をひそめつつもそのままにしておけないと思った周人はやや大股になりながら少女に近づいていった。そんな少女はそばに寄ってくる周人に対して明らかな侮蔑の視線を投げかけた。その理由は周人を見た際に発した『ジャップ』という言葉から相手が日本人だからということだと理解できたが、そんなことなどお構いなしに周人は少女の目の前に立った。
「誰かを探しているのですか、お嬢さん?」
「フン、あんたみたいな日本人にお嬢さんなんて言われたくないわね」
見た目はかなり可愛い少女だが、その言葉遣いは容姿に似合わぬ最悪のものだった。だが、周人はこのギャップに何故か小さく微笑んだ。それは苦笑ではなく、微笑。
「じゃぁ、なんて呼べばいいのかな?」
自分を馬鹿にした相手に見せるべき微笑ではないその表情に一瞬見とれるようにじっと周人の顔を見つめていた少女はその青い瞳を2、3度パチパチさせてから腕組みし、斜めから周人を睨むようにしてみせた。
「生意気ね、あんた・・・お嬢様って呼びなさい。実際私はお嬢様なんだから」
「わかりました、お嬢様。で、ここで何を?」
「お父様とここに来たのはいいけど、退屈なんで外に出たらどこがどこだかさっぱり。で、どうしたもんかなってここにいるわけ」
「お父様のお名前は?」
「キース・・・キース・クロスフォード」
その名前に思い当たる節がある周人の表情が変わるのを見た少女は口の端を歪めるいやらしい笑みを見せた。
「へぇ、君はクロスフォードの御令嬢か、こりゃ確かにお嬢様だな」
小さく笑ってそう言う周人の反応に少女の顔から笑みが消えた。このカムイにいて、いや、アメリカにいてクロスフォードの名前を知らない者はまずいないだろう。広いアメリカ合衆国において5本の指には入る巨大企業クロスフォードインダストリー社といえば世界でもトップレベルの自動車メーカーだった。そしてカムイF1チームのスポンサー企業でもあり、カムイモータースとも技術提携を結んでいるほどの会社なのだ。その令嬢といえば屈指のお金持ち、お嬢様の中のお嬢様だ。だがそんな少女を前にしても全く態度を変えなかった周人に対して屈辱を感じる少女だったが、目の前の日本人であるこの男の柔らかい雰囲気のせいか、徐々にだがその屈辱感が薄れていく。
「キース氏はおそらく設計棟でしょう、ご案内しますよ」
「ええ、そうして」
自分より年下の少女に丁寧な言葉と仕草でエスコートする。容姿は美人でも中身は高飛車なこの少女に、周人は心の中にいるある少女を重ねていた。決して姿は似ていないが、そういった見た目とのギャップが似ているのだ。その心の中の少女を、ここアメリカに来てからただの1度も忘れた事は無い。お互い好き同士でいながら日本とアメリカで付き合っていくことの難しさ故に泣く泣く別れた2人、しかも相手は今時点でもまだ高校生なのだ。
「そういえば名前、まだお聞きしてませんでしたね。私はシュート、シュート・キドです」
「アリス・クロスフォードよ」
そう言ったきり設計棟のエレベーターホールまで黙ったままのアリスに合わせてか、周人もまた何も言わずにここまで来ていた。だがエレベーターを待っている間、何度かアリスは周人をチラチラ見やるような仕草を取った。そんなアリスに気付きながらも視線を合わせない周人はただ降りてくるエレベーターの階数を表示するランプを見つめているのだった。
「あんたさ、私の素性聞いてビビらなかったけどさ、なんで?」
突然何を言い出すのかと思う周人の口元が小さく歪む。それは苦笑であり、そして馬鹿にしたような笑みでもあった。それがわかるアリスは明らかに不機嫌そうな顔をしたが、そうされても周人の表情に変化は無い。
「まぁこの際はっきり言うけど、お前さんの肩書きに興味ないよ。金持ちだろうがお嬢様だろうがオレには関係ない。それだけだ」
「なに、その口の聞き方!」
「こりゃ失礼」
そう言うとやってきたエレベーターにさっさと乗り込む周人の背中を怒りに満ちた顔をして睨むアリスを振り返ったその表情は実に穏やかだ。
「乗らないのですか、お嬢様?」
「あんたと一緒にいたくないわ!」
「そう。お父上はここの最上階にある工場長室でしょう。今度は迷子にならないように」
わざとらしく大げさに頭を下げた周人は扉の向こうにいるアリスに小さく微笑んだ。それを小馬鹿にされたと取ったアリスは憎しみを込めた目で周人を睨みつける。
「あんた、この会社から追い出してやる!日本へ帰らせてやる!」
ものすごい剣幕でそうまくし立てるアリスに対する周人の微笑がより一層強い笑みへと変化していく。何故追い出すと言われて笑うのかがわからないが、どうやら本気と取っていないせいだと思ったアリスは勝ち誇ったような顔をして見せた。
「フン!私がお父様に言えばあんたは終わりよ」
その言葉に対して苦笑した周人はエレベーターのボタンを操作して自分が仕事をしているオフィスの階を押す。
「そうしたいならそうしな」
「そうするわ!」
「なら、思ったより早く会えるな」
最後だけ日本語でそう言う周人の口元に浮かんだ淡い微笑の意味がわからないアリスは言葉もわからないせいで怪訝な顔をするしかない。そんなアリスを見ながら微笑を消した周人は軽く右手を挙げると閉じられていく扉の向こうに消えたのだった。
「何よアイツ!」
ふてくされるようにそう言うアリスだったが、何故か怒りは引いていき、替わりに周人に対しての興味が沸いてくるような感覚に襲われていた。
朝日が平原の彼方から姿を現し、軽やかに走るその足下から勢いよく長い影が伸びていく。日本には無いその雄大な景色を見ながらも足を止めないで走りつづける周人はまばゆい太陽に目を細めつつも気持ちの良い朝に満足していた。そしていつもの場所に着き、軽くストレッチをする。ここは草もそうないのだが、砂利も少なくトレーニングをするにはもってこいの場所だった。滅多に車も通らないわき道沿いだが、ここで毎朝のトレーニングを行なっている周人にしてみれば絶好の場所でもあった。幼い頃から叩き込まれた習慣はここアメリカに来ても変わることはなかった。拳を突き出し、蹴りを放つ。まるで舞うかのようにして体を動かしたあと、腕立て伏せを開始していった。やがて1時間にわたって一通りのトレーニングを終えた周人は来たとき同様約四十分かけて元来た道を戻っていった。安いアパートではあるがトイレもシャワーも完備されており、それなりに快適な生活を送れるようになっていた。周人は軽くシャワーを浴びてシャツとジーパンといったラフな格好に着替えた。そしてバイクのヘルメットを右手に会社用のリュックを背負うと戸締りをしてすぐ目の前に留めてあるバイクにかけられた盗難防止用の鎖を外すと勢いよくそこを飛び出すのだった。
行き交う人々に朝の挨拶をしながらオフィスにやってきた周人は自分の席に座っているここにいるはずのない人物を見て目を丸くした。軽くカールした鮮やかな金色の髪、太ももをあらわにした黒いミニスカートに白いシャツのその少女はまぎれもなくアリスだった。昨日ああいう別れ方をして以来会うことはなく、もうこのまま2度と会うこともないと思っていた矢先にこれである。
「あら、意外と来るのが早いのね」
「まぁな・・・ってなんでお前がここにいる?」
明らかに不快感をあらわにしている周人に対してアリスは余裕の表情を見せる。そんなアリスを見て疲れたような顔をする周人を見る周囲の人間はどこか緊張した面持ちで2人を交互に見ていた。もちろん皆アリスはよく知っている。カムイF1チームのスポンサー企業であり、アメリカでもトップを行く企業の令嬢ともなればそれなりに有名だ。そのアリスを『お前』と呼び、ため口をたたく周人の気が知れないのだ。
「クビになったかどうか確かめに来たのか?」
「残念、違うわ。お父様には何も言わなかったからね。今日来たのは暇つぶしよ」
「金持ちの子供は暇の潰し方も知らないのかよ・・・仕事の邪魔だから帰れよな」
シッシと追い払うような仕草を取る周人にアレックスとギルバートは冷や汗をかいていた。
「ホントにクビにするわよ?」
そう言いながらも、アリスは素直に椅子から立ち上がって周人の横に立った。
「したけりゃそうしな・・・日本に帰るのが早くなるだけだ」
そう言うと席に座ってパソコンを起ち上げる。同じように起動画面を覗き込むようにするアリスをうっとおしがる周人をよそにすぐ目の前にいるアレックスを見たアリスは即座に椅子を持ってくるようにと命令をした。言われたアレックスはすぐ行動して空いている席から椅子を持ってきた。
「ありがと」
高揚のない声でそう言うと椅子を周人の椅子にくっつけるようにしてみせた。
「お前・・・うっとーしぃよ」
「あんたに興味があるのよ」
「昨日はムカついてたろ?」
「そうね。でもなんでクビにすると言われて笑ったのか聞きたいのよ」
「だから言ったろ?日本に帰るのが早くなるからそれはそれで構わないって。仕事のアテもあるしな」
「じゃぁ、あの時最後に日本語で何言ったの?」
そう言われた周人は怪訝な顔をしてみせた。昨日の最後に自分が何を言ったかなど覚えていない。覚えているのはクビにすると言われてそれはそれで別に構わないと思ったことぐらいなものだ。そんな顔を見るアリスだが、その言葉が日本語だっただけになんと言ったのかもどういう単語だったかも全くわからないのだ。
「覚えてないな・・・」
肩をすくめる周人に向かって頬を膨らませるアリスに苦笑を漏らすしかない。
「ゴメン、本当に覚えてないんだ」
「・・・まぁいいわ」
そう言うとアリスはさらに椅子をくっつけるようにしてみせた。結局この日はどこへ行くのも何をするのも付きまとったアリスのおかげでろくに業務をこなせずに残業となった周人であった。
その翌日もまたアリスはやって来た。年はまだ十六歳とのことで学生なのだが、学業などどうでもいいのか朝も早くから専属の運転手を引き連れての『出社』である。スポンサーであり、超大企業の令嬢とあって誰も何も言えないことを幸いとしたのか、アリスは邪魔こそしないのだが周人にべったりであった。周人にしてみれば付きまとわれているだけで仕事がやりにくく、何度も帰れと言っているのだが聞く耳持たない状態にあってもはやどうすることもできない状態となっていた。
「あら、子連れとは・・・」
試作段階のエンジンの調整を見ようと工場へとやって来た周人にしがみつくように腕を組んでいるアリスを見たマリーアは一瞬片眉を上げてからそうつぶやいた。
「子連れって言い方はないでしょう?私を誰だかわかって言ってるの?」
「余計な口をたたくんじゃない!」
腕組みしてふんぞり返るアリスと睨みあうマリーアの横に腰掛けた周人は火花を散らす女性2人を見てため息をつきながらもパソコンを起動させた。
「どこの小娘か知らないけど・・・邪魔」
「私を知らないなんて・・・カムイの社員としては失格ね」
「なんですってぇ!生意気なガキね!」
「どっちが!おっぱいが大きい女はバカだと言うけど、まさにその典型ね」
もはや掴みかからんばかりに鼻をくっつけあって罵りあう2人を横に、周人はさっさと仕事を片付けようと素早い動きでキーボードを叩いていった。
「フン、負け惜しみ?男はみんな大きな胸を好むのよ。小娘の貧相な胸なんか興味ないわよね、シュート?」
突然そう振られた周人だが、画面上に浮かぶデータに夢中なため、適当に相槌を打った。
「胸はあんたほど無いけどお金はあるわ。やっぱ胸よりお金よね、シュート?」
口元に手をやって真剣な顔の周人はこれまたデータに夢中で適当に相槌をうった。
「ほぉ~ら!乳デカおばさんには興味ないってさ!」
「ムッカー!何よ!というかアンタ何様?」
「私はシュートの彼女よ!」
「彼女は私よ!」
勝手にそう言い合うと激しく睨みあう2人。もはや取っ組み合いが始まろうとした矢先、パソコンの上にあるプリンターから印刷したデータを見ようと立ち上がった周人の方に顔を向けた。
「シュート!どっちを選ぶの!」
そうきつい口調でマリーアに言われた周人はここでようやく驚いた顔を2人へと向けた。自分の知らないところで勝手に彼女を名乗っている2人だが、周人は話すらまともに聞いていなかったために苦々しい表情を作るしかできない。
「選ぶって・・・何を?」
「どっちが」
「あんたの彼女かよ!」
今でも睨みあうマリーアとアリスの見事なコンビネーションでそう言われた周人だが、怪訝な顔をするしかできない。第一マリーアとは仲が良いが恋人同士になった覚えも無く、アリスに至っては一昨日会ったばかりで彼女も何もない。何がどうなってこういう話題になったかはわからないが、とにかくここははっきり答えなくては収拾がつかないことだけは認識できた。
「彼女って・・・・・オレは誰とも付き合ってないし」
「どっちか選べって話よ!」
かなり要約された感が否めないが、ここはどちらかを選んで欲しい2人は食い下がることなく一歩周人に歩み寄って問い詰めるような格好を取った。
「選べって・・・何を?」
「・・・・彼女にするならどっちとか、どっちと付き合いたいとかさ」
少し冷静になってきたのか、マリーアは勢いをなくしつつそう口にした。若干顔が赤く染まりつつあるのもそのせいか。
「彼女って・・・・・・どっちも選べないし、選ばない。オレは誰とも付き合わない」
きっぱりとそう言う周人は印刷された紙を取ってそれに集中するような格好を取った。
「好きな人はいないの?」
アリスとのいさかいを忘れてマリーアがそう質問を投げる。その少し恐々した口調に何故かアリスも緊張を顔に出した。
「いるよ」
「誰っ?」
声はおろか組んだ手を胸に当てる仕草まで同じにそう言う2人に思わずたじろいだ周人だったが、深々とため息をついてからゆっくりと口を開いた。
「日本にいるんだ、その子は。まぁもう彼氏ができてるかもしれないけど、オレはその子が好きなんだ」
この時、ここで一緒に仕事をしてきたマリーアですら見たことがない淡い微笑が周人の口元に浮かんでいた。そこに深い愛情が込められているように思えたマリーアは胸が痛むのを感じながらもそれを表に出さないように努めるのが精一杯だった。
「なんだ、片思いか・・・」
「そうかもしれないけど・・・少なくともオレはその子以外を好きにはならない」
アリスに向かってもそうはっきり言い切った周人はデータを印刷した紙を手に工場の奥へと消えていった。残された女性2人はその背中を見つめることしかできず、2人同時にため息をつくのがやっとの状態だった。
「あいつならって思ったのに・・・あいつなら、私をクロスフォードの人間じゃない私を見てくれるって思っていたのに」
アリスはそうつぶやくとトボトボとした歩調で周人の後を追い始める。
「そっか・・・好きな人、いるのか・・・」
マリーアもまた悲しげにそうつぶやくと力なく椅子に腰掛けて深い深いため息を漏らすのだった。
その日はお昼で帰ったアリスの元気の無さが気になりつつも、周人はチャンスとばかりに夜中近くまで働いた。夜食も食べず、休憩のタバコもろくに吸わないで頑張ったせいか、明日からの仕事は比較的楽になることは間違いない状態になっていた。そしていつものように人気のないオフィスを出て非常階段に出る。少し雲が多めだが、それでも星の瞬きを覆い隠せるほどの威力はもっていなかった。今日もまた見事な星空が頭上に展開されているのを見ながらタバコに火を点けた周人は傷が目立ち始めたピンクのハートが施されたジッポライターを見つめた。昼間話した自分が想いを寄せる少女がくれた大切な物であるそのライターを1日足りとて手放した事はない。ギュッとライターを握りしめながら小さく微笑んだ周人はくわえたタバコからゆらゆらと煙を立ち上らせながらもう一度その星空を見上げるのだった。
「彼氏ができてるかもしれない・・・か」
昼間自分が言った言葉をつぶやきつつ、微笑の中に寂しげな感情を込める。
「まぁ、それはそれでいいんだろうけどさ」
日本を発つ時はあれほど晴れ渡っていた心が今ではすっかりと曇っている。
「結局、あの子がそばにいない限り、晴れはしないのかな・・・オレの心は」
雲が流れ、満天の星空が空を埋めていくのをうらやましく思う周人は自身の心にかかった雲を晴らせてくれる存在はこの広い宇宙にたった1人しかいないことを自覚しつつゆったりと紫煙を揺らしながら少し悲しげな表情を浮かべるのだった。
「おはよう!」
結局工場で寝た周人が目覚めのコーヒーを飲んでいるとそう背後から声をかけてきたのはマリーアであった。昨日は激しく落ち込み、ろくに仕事も手につかずにいた彼女だったが気持ちの切り替えの速さは天下一品だ。そもそも相手に好きな人がいるからといってはいそうですかとあきらめられる性格をしていないマリーアは一晩で気持ちを切り替え、今まで以上に積極的に行こうと決めていたのだ。自分の気持ちは昨日のアリスとのやりとりでいくら鈍い周人でも気づいているだろう、そう思ったが故に逆に開き直ることができたのもその要因の1つでもあるが。
「おはようさん」
そう言う周人の横にある自動販売機でコーヒーを購入すると周人のすぐ隣に腰掛けた。今日はいつもよりも薄着なせいか、より一層大きな胸が強調されている。現に少し離れた場所にいる何人かの男性はマリーアの胸に釘付けだ。だが当の周人は全く気にすることもなくコーヒーを飲みながらかなりくつろいだ雰囲気をかもし出している。
「昨日はゴメンね、わけのわからない話になっちゃって」
「いや、こっちこそ」
小さく微笑む周人にはにかんだ笑顔を見せたマリーアはさりげなく周人との距離をつめていく。熱い視線を送りつつ周人の左腕にその胸をくっつけようとさらに距離を詰めるマリーアだが、周人はそんな気配にすら気づいていないようだ。周囲の男性がうらやましいという視線を浴びせる中、マリーアが小さく意味ありげに微笑む。
「こらおっぱいオバケ!馴れ馴れしいにもほどがある!」
あとわずか数ミリで接触と言う瞬間、聞きなれた声にマリーアは身を固めながら、周人はげんなりしながらその声の主の方へと顔を向ける。そこには赤とピンクのチェック柄のシャツに白のミニスカートを履いたアリスが腰に手をやって仁王立ちしているではないか。ムッとした顔をするマリーアはおもむろに立ち上がると胸を強調しながらふんぞり返る。
「貧乳娘・・・部外者は立ち入り禁止!」
「私は関係者よ!」
「あんたの父親の会社の人間はそうかもしれないけど、あんた自身は無関係よ!」
そこにいる全員がマリーアの言葉を正論と取るが、天下のクロスフォードインダストリー社の令嬢にこうまでの口をたたいていいのかと不安も抱えながら2人のやりとりに注目していた。
「生意気ね、おっぱいオバケ」
「うるさいわよ、貧乳娘が」
火花を散らす2人を後目にコーヒーを一気に飲み干した周人は疲れた表情を見せながらそそくさと休憩室を後にする。そんな周人を目で追いつつもお互いを威嚇してその場を動けない2人は勢い良く同じタイミングでそっぽを向くと腕組みをしてさらなる殺気を漂わせるのだった。
結局アリスは毎日のように会社にやってきては周人にまとわりつき、マリーアやジェシーといった周人と仲の良い女性陣と口論を繰り広げた。男性陣に至ってはここで玉の輿を狙おうとする者も現れたが、結果としてこてんぱんにやられるという日々が約1ヶ月も続いたのだった。周人は仕事が落ち着いてきたせいもあってアリスに振り回されつつもきっぱりと線を引いてその対応を続けていた。
「アリス嬢が、ですか?」
白髪というよりはグレーに近い髪をオールバックにした初老の男性が自分よりも年下の男に敬語を使っていた。一流ブランドのスーツを着こなし、小さくため息をつきつつ葉巻をくわえた四十代と見える男は黒革の豪勢な椅子に深く腰掛けて1つうなずいた。
「ここ一ヶ月ほど入りびたりでな・・・妙な日本人に夢中だそうだ」
落ち着いた口調ながらそこには怒りにも似た感情が含まれているのがわかる。初老の男性はネクタイを少し緩める仕草を取りながら口の端だけを歪めて声には出さない苦笑を漏らした。
「で、私はどうすれば?」
「アリスに行くなと言っても聞きはせんよ・・・誰に似たのか頑固でわがままだ。悪知恵も働く。それに娘には嫌われたくないのが父親の心情だよ」
感情のこもらぬ声でそう言うと、初老の男に自分の目の前にあるこれまた豪華なソファを勧める。初老の男は苦笑をたたえたまま勧められるままにソファに腰掛け、優雅な動きで足を組む。仕草、雰囲気がその男性を紳士的に見せていたが、見かけもまた紳士風だ。
「相手が我が国の人間であれば、まぁそれなりに大目に見たさ・・・が、日本人のサルごときに娘を好きにはさせん」
「カナメ・スゴウ以外の日本人はお嫌いでしたな・・・そこもまたお父上とそっくりで」
皮肉なのか、そう言う初老の男に苦笑を見せた男は足を組み直してから大きなガラス製の灰皿に葉巻をこすりつけてもみ消すようにした。
「まぁな・・・が、スゴウは日本人だが信頼できる人間というだけだ。アリスをくれと言われれば即座に断るよ、当然な」
「ということは、その日本人にお嬢様に近づくなと『警告』すればよろしいわけですな」
「さすがだなエリック。そういうことだ。半年ほど足腰が立たない状態が望ましい」
「社長のご命令は会長のものでもありますからな・・・引き受けましょう」
そう言うと初老の男エリックは立ち上がり、肩に手を置きながら2、3度首の骨を鳴らしてみせた。
「ここ最近は不穏な動きもある。アリスに危険が及ぶことだけは避けたいんだ・・・父親として頼む、エリック、どうか娘を」
「天下のキース・クロスフォードのお言葉とは思えないな。あなたはこのアメリカ経済を背負って立つ人間だ、そういう気弱な言葉は吐かないで欲しいものだ」
さっきまでの立場が逆なような言葉が2人しかいない広い部屋にこだまする。会社のオフィスなのだろうが大企業の社長室とはいえ広すぎる空間だった。大きないくつもの書棚にかなり大きめのデスクといったオフィスにふさわしいものがあるのだが、それでもこのスペースは広すぎる。
「軍に仕入れている武装車両などの縮小も決定してな、おかげでキース将軍は機嫌が悪い。まぁ、そういった金を横領しているとの噂も聞いているのでな、父上、いや、会長の親友とはいえ油断がならん」
「それが本当であれば・・・マスコミにでも露呈すればわが社も被害をこうむるわけですな・・・海軍の将軍とはいえキースは何かと悪い噂が絶えない男ですから」
「いざとなれば、また君にお願いせねばなるまい」
大きなため息混じりにそう苦々しく言うと深く椅子に身を埋めるキースはうなだれるようにして視線を床へと落とした。そんな気弱なキースを見て小さく微笑んだエリックだが、同じように表情は険しい。目の前の男と同じ名を持つキース将軍は有能だが、何かと悪い噂が絶えないからだ。
「いくら私でも無理ですよ。それにキースにはあのゾルディアックが付いている。あいつは強い・・・おそらく裏でも表でも、このアメリカで最強と言っていいでしょう」
その名前を耳にした瞬間、キースの表情もまた険しくなった。海軍大佐にしてマーシャルアーツの達人であるゾルディアック・アーロンの強さは有名だった。湾岸戦争において夜間におけるゲリラの襲撃に遭った際、たった1人ながら素手で四十人以上の敵を倒して全滅させ、国から勲章をもらったほどの実力者、最強の軍人とも言われるその男を前に勝てる人間は世界的に見てもそうはいないだろう。
「あと十年、いや、十五年若ければあるいは・・・とも思ったりしますがな。それに世界は広い。中国にいるという『武神』、そしておそらく世界最強でしょう日本にいる『モンスター』を含めて、私では太刀打ちできない人間も多いのです」
エリックはそう言うと両手をポケットに突っ込んだ。さっきまでの険しい表情が嘘のように実に穏やかな雰囲気をたたえている。
「まぁとにかく、相手がその『モンスター』でないのなら運動不足の解消も兼ねてその日本人の件はおまかせを」
「頼む」
その素っ気ないまでの返事に好々爺のごとき人懐っこい、優しい笑みを残して部屋を後にしたエリックの背中を見やるキースの表情は険しさを増していくばかりだ。
「カラテの達人エリック・ノーティラスでしか、あのゾルディアックは倒せないと思っているのだがな」
一人そうつぶやき、深いため息をついたキースは椅子の背もたれに上半身をゆだねながら薄暗い天井を見上げて虚ろな表情を見せるのだった。