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リンケージ・リインフォース~出会いが僕を強くする~  作者: 隠れ鬼
第一章『旅立ち、迷宮に潜む長き影』
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7.冒険市場

「や~っと出られましたぁ~」


 数時間ぶりに浴びた日の光の下で、リーアが安堵の声を漏らす。

 続いて僕、ファル、そして黒猫少女のシィも、ダンジョンの入り口から姿を現す。みんな疲れた表情で。


「ウィルが、考えなしに突っ走った、から……」


「マジで反省してます、はい」


 恨みがましいファルの視線が突き刺さる。

 彼女の指摘は全面的に正しいので、返す言葉がない。


 シィを助けてさて帰ろう、となった僕たちだけど、その帰路は決して簡単ではなかった。

 簡単に言えば、道に迷った。

 地図とわずかな手がかりだけを頼りに帰路を探し、その最中、何度か魔物の襲撃にあい、トラップに嵌りかけ……ようやく見覚えのある場所に出た時は、三人そろって胸を撫で下ろした。


「帰るまでがダンジョン探索だ、っていうのがこの町の冒険者の決まり文句らしいですが……その意味がよーく分かりました」


「ご、ごめんなさいです。シィなんかを助けてもらったばっかりに」


「あなたは、悪くない……すべては独断専行したこの男の、せい」


「ごもっともで……」


「ま、まあまあ。こうしてみんな無事に出られた訳ですし、いいじゃないですか、ね?」


 フォローに回ったリーアが、空気を変えようと別の話題を持ち出す。


「それより、ほら。手に入れた魔石の換金に行きませんか?」


「……ん。お姉ちゃんがそう言うなら、そうする」


 姉の取り成しにファルはこくんと頷くと、すたすたと先を歩きはじめた。

 その後を追いながら、僕はリーアに小声で話しかける。


「助かったよ、リーア」


「いえいえ。でも、あんなに怒ってるファルを見るのは珍しいです」


「うっ。そんなに怒らせちゃった?」


「あ、そうじゃなくて」


 ぱたぱたと手を振りながらリーアが否定する。


「普段のあの子は他人に無関心というか……私以外の人に感情を露わにすることは滅多にないので」


「そうなんだ?」


「ええ。もし言いたい事があっても、内に抱え込んじゃうタイプで……だからある意味、あの態度は信頼の証なんだと思います。人助けのためだったんですし、あの子も本気で怒ってるわけじゃないですよ」


 だから気にしないでください、とリーアは微笑んだ。

 それは僕だけでなく、助けられたシィに対してのフォローでもあったのだろう。


「根は悪い子じゃないんです。良かったら二人とも、あの子と仲良くしてあげてください」


「もちろん」


「は、はいです」


 僕とシィがそろって頷くと、前を歩いていたファルがくるりと振り返る。


「お姉ちゃんたち、何の話、してるの……?」


「何でもないですよ。ねぇウィルさん、シィさん」


「うん、何でもないよ」


「なんでもない、ですっ」


「へんなの……」


 そんな話をしている間に、僕たちは目的の店にたどり着いた。


 ここのダンジョンの入り口付近は、冒険者向けの店や施設が集まった、小さな市場のようになっている。

 携帯食料や松明などの探索用具を売る店、傷んだ武器防具を修繕する工房、そしてダンジョンで手に入れた財宝や魔石の鑑定・買取を行う店などが軒を連ねている。


 魔石の看板がかかったドアをくぐると、小奇麗に商品が並べられた店舗のカウンターで、店員さんが僕らを見て一礼する。


「いらっしゃいませ。魔石のご購入でしょうか、それとも売却でしょうか」


「売却をお願いします」


「畏まりました。では鑑定させていただきます」


 僕らは荷物袋から魔石を取り出すと、カウンターの上に並べていく。

 帰路の途中で狩ったものを含め、ゴブリンの魔石が21個、ミノタウロスの魔石が1個、ジャイアントバットの魔石が6個、スライムの魔石が4個だ。


 洞窟の中を自在に飛び回るジャイアントバットや、斬撃の効き目が悪いスライムには、ファルの魔術が大活躍だった。

 ゴブリンとの戦いでは仕事が少なかった分、彼女の独壇場だったと言ってもいい。

 リーアに「ファル、出番があって嬉しそうでしたよね」と指摘されると、彼女は「そんなこと、ない」とそっぽを向いていたけど。


「ゴブリンに、ジャイアントバットに、スライム……それにこれはミノタウロスですか。よくこんな大物を倒されましたね」


 店員は並べられた魔石をルーペで観察したり、秤に乗せたりして鑑定していく。

 プロの魔石鑑定家は魔石の色や透明度、大きさや比重等から、それがどの魔物の魔石なのか判別可能なのだそうだ。

 ものの十分ほどで鑑定は終了し、硬貨の詰まった袋がカウンターに置かれる。


「お待たせしました。合計で銅貨6枚と大銅貨7枚、それに銀貨10枚となります」


「ありがとうございます」


 中身はあとでパーティで分配するとして、ひとまずはリーアが財布の管理をすることになった。

 この中では一番社交的でしっかりしてそうだし。テンパると突然タックルしたりもするけど。


「それから、こちらが魔石の売却証となっております。これを冒険者ギルドに提示すれば、そこに記された魔物を皆様が倒したと認められ、ギルドでの評価に加えられます」


「なるほど」


 この辺りの店はほとんどが冒険者ギルドと提携しているという。

 ここで冒険者が何を買い、何を売ったかはギルドにも伝わり、それが冒険者への評価にも繋がっていくというわけだ。


「それでは、またのご来店を」


 店員さんに見送られ、僕たちは魔石店を後にする。

 さて、これからどうしようか。


「ひとまずはギルドに戻って、この売却証を提出しに行こうか」


「その前に、ひとつ提案があります!」


 びしっ、とリーアが勢いよく手を挙げる。

 なんだろう、やけに気合の入った目つきだ。


「提案?」


「はい。まずは何よりも先に、この子の服を買うべきだと思います!」


 びしいっ、と続けてリーアが指差した先には、きょとんと目を丸くするシィがいた。


「わ、わたしです?」


「そう! そうです! 実はダンジョンにいる間もずっと考えていたのです! 女の子がこんなボロボロの服を着ているのはよろしくない、と!」


「私も……それは同意……」


 リーアに同調してファルもこくこくと何度も頷く。

 そう言われて改めてシィの今の格好を見てみると、服はボロボロで穴だらけの汚れまみれ。ちゃんとした着替えすら与えられなかったのだろうか。

 本人も恥ずかしいのか、皆に見られると赤くなって俯いてしまった。


「こんな格好で街中を歩かせるなんて、言語道断! 早急にきちんとした服を着せるべきです!」


「あぅ、でもわたし、服を買うお金なんてないです……」


「じゃあ、シィの服代は僕が持つよ。今回の報酬、僕の取り分から引いておいて」


「ええっ?!」


「さすがウィルさん、男です!」


 びっくりしたシィの叫び声に、リーアのサムズアップ。

 いやまぁ、さすがにこの状況で女の子に支払いを任せるわけにはいかないでしょ。


「元々、シィを助けたのは僕の独断だったし。それくらいの責任は持つよ」


「そ、そんなっ、命を助けてもらったうえに、服までっ」


「シィ、ここは黙って奢られるべき……」


「ですです。そうと決まれば早速出発です!」


「え、えと、その、あのっ?!」


 右手をファルに、左手をリーアに引かれて連行されていくシィ。

 女の子ってこういう時やけに生き生きとするよなぁ……と考えながら、僕もその後を追う。


 そんなわけで、シィと僕らは近くにあった服飾店へと向かう。

 冒険者向けの市場に服屋? と一瞬思ったけれど、冒険や旅をしていれば服は傷むし、また女性の冒険者も少なくないので、需要はわりとあるらしい。


「おお~。さすがファースは大都市ですね。素敵な服がいっぱいです!」


「……これとか、シィに似合いそう……」


「そ、そうです、か?」


 双子姉妹が楽しそうに店内を物色している。

 シィも戸惑ってはいるけど、興味がないわけでは無さそうだ。


 ファッションに疎い僕は口出しはせずに、かしましい三人の様子を眺めていることにする。

 あんまり高い服を持ってこられたら困るけれど……そこはリーアたちの金銭感覚を信用しよう。


「あ、櫛も置いてあるんですねここ。ちょっと借りまーす」


「さ、シィ、入って……」


「は、はぅぅぅ」


 有無を言わせず試着室に放り込まれるシィ。

 しばし待つこと数分、満足げな顔でリーアとファルが顔を見せる。


「できましたよー。さぁとくとご覧あれ!」


 しゃっ、と試着室のカーテンが開く。

 その向こうから姿を現したのは、さっきまでのボロ布から一転、清楚な印象の白いワンピースに身を包み、髪も丁寧にとかしたシィの姿だった。


「おぉ」


 思わず声が出た。

 彼女の艶やかな黒髪と、純白のワンピースの布地が対比になって、シンプルだけどとても可愛らしい。


 シィは恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、おずおずと前に出ると、上目遣いに尋ねてきた。


「あの、ウィル様、似合うですか……?」


「「「……様?」」」


 僕とリーアとファル、三人の声が見事にハモった。

 するとシィはびくっと肩を震わせ、あたふたと慌てだす。


「ご、ごめんなさいっ。やっぱり名前でお呼びするなんて恐れ多いですよねっ」


「いやそこじゃなくて。なんで様付け?」


「そ、それは、あなた様は命の恩人ですから、失礼のないようにと……」


「僕はそんなに立派なヤツじゃないよ。ウィルって呼び捨てにしてくれて構わないよ?」


「そそそっ、そんなっ、無理ですっ」


 なぜか顔を真っ赤にして首をぶんぶんぶん、と横に振るシィ。

 なんで様付けは良くて呼び捨てがイヤなんだろうか。


「これはどう思いますか、ファル」


「どうもこうも、見ての通り、では……?」


「ですよねー。ウィルさんったらなかなかスミに置けない人ですね」


「しかも、天然……」


「あの二人とも、隅っこで何をひそひそ話してるの?」


 内緒話ならせめてもう少し目立たずにやってほしい。


「なんでもないですよー。ねーファル」


「ねー……」


「はぅあぅ」


 なぜか楽しそうな双子に、首の振りすぎで目を回しているシィ。

 どう収拾つければいいんだ、これ。


「あーもう、分かったよ。名前でも様付けでも、好きに呼んでくれていいから」


「! はいです、ウィル様っ」


 途端にぱぁぁっと表情の明るくなるシィ。

 誰かに聞かれると誤解を招きそうだけど……うん。彼女がそれで満足ならもう何でもいいや。


「良かったですねウィルさん、こんな可愛い子に懐かれちゃって」


「からかわないでよ。服選びも終わったんだし、もう行くよ?」


「何言ってるんですか。女の子の服が一着で足りるはずないでしょう?」


「え」


 リーアの言葉に固まる僕の肩をぽんと叩くファル。


「大丈夫……ちゃんと報酬の範囲内には、収める」


「お、お手柔らかに……」


 村から持ってきた旅費もそんなに多くはないし、あまり大きな出費は困るんだけど。

 それでも、嬉しそうなシィの笑顔を見ると、ダメとは言えない僕なのだった。

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