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傷跡童話《スカーテイル》  作者: 小鳥遊 和輝
1章 スタートライン
9/19

EP 鴇崎 夏蜜

カーン……カーン……カーン……。

12時の鐘の音がなった。

『腹へった』

観星のお腹もなった。


『アタシの感覚だと大丈夫そうに感じるがどうだ体調はは?』


私も大丈夫、なかなかに辛いね。

無くしたものの重さも無念を掘り返すのも。


『そうだよな……まあとりあえず変われ。この先は一旦アタシが引き受ける」


出来るの?私のフリなんて。


『お前がぶっ倒れた後の生活よりは困難なものじゃねーよ』


分かったそれじゃあチェンジで。


私はまだ少し気だるさが残る手で髪留めを外した。


ポーン………


入れ替わった直後、電子音が響いた。

おそらく校舎全体だろうな。


『あーテステス……は必要無えか、日向丘、昼メシの時間だ。食堂は開いてるから行ってみろ。」


ポーン……


「今の声は殿町か……ってリアクションよりもアタシら食堂の場所知らねぇんだけど……」


「テキトーに探すか」と呟き相談室から出ようと扉に手をかける


「うぉっと」

「っぁう」


突然扉がスライドして思わず変な声を出してしまう。


「お、ぉう」


そして染めたものとは思えない綺麗な金髪にさらに変な声が出る。


「あ、ごめん、ヒナオカ」


「いや、うんアタシも悪かった、ごめん」


「悪かった?……あーもしかしてこの髪?」


「あーいや、あいや違う、そうだ髪がな、綺麗だなと」


「ふーんヒナオカって容姿とかに目がつくタイプの人間なんだ、髪の色で差別する」


「ち、ちげーじゃない違うよ、アタシは別にそんなことで人をバカにする奴じゃねい」


「フフッ冗談、悪いね。お詫びと言ったらなんだけどウチとお昼行かない?」


「え、マジか行く、ぜひとも」



案内をしてもらい食堂に着く。

クラスメイトは誰もいなかったのが残念だ。


「えっと、なあアンタ、食堂ってあんまり人気ないのか?」


一緒に来た金髪に声をかけようとするーーが。


「アレ、いない?」


隣辺りを歩いていたはずの彼女はいなかった。


「ねえ、ヒナオカ!早く料理選んでー!」


食堂の奥からあの金髪の声が聞こえた。

返事をしようとそちらに振り向くとまあ予想はしてなかった場所にいた。


「え、あの割烹着?てかそこカウンターだよな?食堂名物の大盛りおばちゃんとかいねーの?」


「白百合食堂の調理師はウチ、ホラ早く選んでA定がサケのホイル焼き、B定が里芋の煮っころがしと冬瓜(トウガン)の煮もの、C定はミックスフライ、汁物はなめこ汁か豚汁を選んで。あとはメニュー通り」


「お、おう」


とりあえず、A定食でいいか。

揚げ物の気分じゃないし、野菜メインよりボリュームはこっちの方があるだろう。

汁物は身体が温まりそうななめこ汁にしよう。


出て来た半券を持って金髪の元へ。


「A定だ。汁物はなめこで」


「あいよーA定なめこね」


注文が入ると金髪は薄く水の張ったフライパンでアルミ包みを熱する。

フツフツと水が沸騰し、包みから少しだけバターの溶けた香りがもれる。

そして十数分、先ほどの空腹感が限界に達したくらい。


「はい、A定食。ホイル焼きには辛味みそと醤油どっちは使う?」


「え、みそなんて使うのか。試してみるか」


「おっけー、はいみそタレ。それじゃあ食べよう」



着席


金髪はB定のようだ。


「それじゃあいただきます」


「おういただきます」


メニューは鮭のホイル焼き、ご飯、なめこ汁、ツルムラサキのおひたし、富有柿(柿の種類らしい)と野菜メインのいかにも身体に良さそうなものだった。

アルミをサクサクと箸で開き辛味みそをかける。

割と肉厚なサケに敷き詰められた玉ねぎと美味しそうな香りと出汁を想像させるきのこ。

うん、食べよう。


「おおっ、美味しいな」


素直に感情が口に出る。

その瞬間に目の前のこいつは目を輝かせ食らいついてきた。


「詳しく聞こうか」


「え、詳しく?えっと火加減がちょうどいいから脂が抜かれ過ぎず水分もちょうどいいからサケはふっくらで、玉ねぎは透明感があるからバターの黄色と混ざって綺麗に見えるしきちんと甘い、キノコは配置も量もサケをしっかり主役として引き立てられている思うぞ。ミソはサケの脂とバターの油と一緒に最後まで下に風味が残って強いコクを感じるな」


「ヒナオカ、ウチと友達になりましょう」


「はぁ、いやそれは嬉しいがまずは名前を教えてくれ」


「そういえばそうね、ウチは鴇崎 夏蜜(トキサキ ナツミ)鳥の鴇に山大可で崎、夏の蜜でナツミ」


そう言うと鴇崎はB定のメインの里芋を頬張った。

しかしその瞬間、眉をしかめた。


「チッ、ハズレか」


「ハズレ?悪いがよく意味がわからん」


「ヒナオカは不味い里芋を食べたことないの?どんな幸運よ……」


呆れ半分信じられない半分の何とも微妙な溜息と表情で鴇崎は里芋を1つ箸でつまんでこっちに向けてきた。


「ん」


「あん?」


「惜しい、伸ばし棒が足りない」


「?あーーんんぐっ!」


口に里芋を突っ込まれた。


「んぐんぐ……うん、美味い」


「本当に?」


「いや、マジで。これが不味いのだとしたら大抵の料理は不味いことになると思うが」


「なるほど、ヒナオカは本当に運が良いのね」


「はあ、そうか」


「うん、そうよ」


「味は美味しいけどゴリゴリ感が……」とつぶやきながらヒョイヒョイ里芋をつまんで食べる。

たまに眉がよるのはまだ残るいくつかの不味い里芋を食べてしまったのだろう。


「あーそだ、ついでだし面談するか」


「いいわよ、と言っても何をするのかはわからないケド」


「そんなに難しいものでもないよ、とりあえず、ハイこれ自己紹介カード。なるべく早めに書いてくれ」


「へーこんなのやるんだ」


「ガキのお遊びじゃない真面目なプリントだよろしく頼む」


「わかった、それで他には?」


「あ?あーそうだな、どんな経緯でここにいるのか、どんな夢想(プレシャス)なのか、自分がどんな人間だと思うか、この3つをとりあえず」


「ウチはパパとの関係が捻れてここに来た、夢想(プレシャス)は今度見せるわ。と言うか嫌でも見ることになるから。あとウチは料理が好きな気まぐれ女の子だと思っているわ」


「ざっくりだな……まあいい、こっちからはもうない。辛い話はまたの機会に聞く」


アタシは最後の鮭の一欠片を口に頬張りこれで区切りと言わんばかりに箸を置いた。


「「ご馳走様でした」」


向こうも食べ終えていたらしく2人同時に感謝の言葉を告げた。

そしてトキサキは軽く机を拭き席をたった。

コップを持っていたので水を持ってくるつもりなのだろう。


『ちょっと観星、全然私らしくない振る舞いなんだけど』


ああ、そうか?

まあいいだろ、どーせ今日明日にはアタシの説明は必要なんだし。


『いやいや、そう言う問題じゃないっしょ。相談した相手が別人だったら不安じゃん」


そうは言うがお前が対応しにくいと思った奴の相手はアタシがやるんだ。

そうなればお前に相談したつもりでもアタシが解決することになるしこだわる必要はないだろう。


「どうしたの、眉間に皺が寄ってるけど」


そうこう考えていると鴇崎が戻って来た。


「いやすまん、早朝に起きたから眠気がな」


さすがに朝陽(あいつ)と会話してたと言うのはタイミングが早すぎる。

ここは悪いがテキトウな誤魔化そう。


「なるほど。そこに昼食の満腹感で眠気が強くなったのね」


鴇崎は納得したような返事をしながらポケットから巾着を取り出し錠剤を出した。

銀とオレンジのPTPシートには断裁時に名前がカットとされたであろう『ンザピン』の文字が書いてあった。


「オランザピンは使って長いのか?」


「他の人がどれくらい使っているのかは分からないけどウチは4年間くらいは使ってるかな」


4年間の服用はまあそこまで長いものじゃない、父さんの患者には10年以上服用している人もいた。

しかし、量がやや多めだったことは気がかりだ。


「学食で働いて……いるのかはわからんが辛くないのか?」


オランザピンの最も危険な副作用は体重の増加である

人によって差はあるが他にも空腹や血糖値の上昇や新陳代謝の低下などの症状が現れ酷ければ心筋梗塞になる場合がある。

だからそこ彼女が食の誘惑が多い学食で働いているのは気がかりであった。


「確かに薬を飲み始めてからお腹はすごい空くようになったけど我慢はできる。それにシバヤギ先生の料理が下手だったから居ても立っても居られなくて」


「なるほどな」


終わりかけの話がようやくひと段落して鴇崎は薬を飲みトレーを持ってカウンターに行った。


「いろいろとわかった、また一緒に学食に来ような」


「ええ、もちろん。食べ終わった食器は返却カウンターに置いておいてね」

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