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傷跡童話《スカーテイル》  作者: 小鳥遊 和輝
1章 スタートライン
8/19

EP 桐江 幸織

大嵐が去った。


「ふぅ……すこし疲れた。1人目からテンション高いなあ」


天候は変わっていないはずなのに風が少し穏やかになった気がする。

流れる雲を細目で見てゆっくりお茶を傾ける。


「たのもーー!!きょーしつやぶりーー!!」


嵐が現れた、ちっこい小嵐だ。

被害は洪水、被災地は私の肺。

しかし、この小嵐ちゃんは何なのだろう、容姿は中学生にすらなってないように見えるけど


「えっと、教室にもいたけど君は……連れ子さんかな?


「ツレゴサン?シチゴサンみたい!」


口調も舌回りも幼いな、正真正銘の子どもだ。


「七五三ではないんだよね……君はここでお勉強してるの?」


「うん!キリエがここでおべんきょーしようっていっててしーねわかったって」


『キリエ』真っ先に思い浮かぶのは桐江学園長、もし彼女がこんな場所に連れてきたのならまず連想するのは夢想(プレシャス)持ちだということ。

精神疾患は誰でもなる可能性はある、しかしこんなにも幼い子どもははじめてだ。


「そっか、じゃあお名前を聞いてもいいかな?」


「しーはね、しーって呼ばれてるよ」


「『sea』な訳はないよね、えっと……海ちゃん?」


「おー、うみちゃんとはなにごとだー!しーにケンカうっとるのかー!!めにもーみせてやるぞーー!」


この小嵐ちゃん案外口悪いぞ。


「えっとじゃあ、しー以外には何て呼ばれてるかな?」


「えっとー、メガネはオサナゴって呼ぶよー、あとはキリエはシオリって」


柴柳先生の扱いにも呼び方にもツッコミ所はあるけどそれよりも、この小嵐ちゃんはシオリちゃんって言うのか。


「そっか、私は朝陽。よろしくねシオリちゃん」


「おー!よろしくな!あさひー!」


元気いっぱいの小嵐ちゃん、改めてシオリちゃんは右手を高く掲げグーサイン。


「それより!しーにもドリンクをもってまいれい!」


そして振り上げた拳を机に叩きつける。

お行儀が悪い。


「めっ」


ペチンッと強めにデコピン。


「あうっ」


おでこをさするシオリちゃん。


「ふてーやろーだ!なにをするー!」


「机を叩いちゃいけません、メッだよ」


「おー?でもえーがでダンシャクが机をトントンしたらひらひらさんがのみものもってきたぞよ?」


何となく光景が目に浮かぶ、お金持ちが使用人を呼ぶシーンだろう。

確かに普通に呼ぶ、手を鳴らす、ベルを鳴らす、机を叩くの4パターンは見たことある気がする。


「でも、男爵さんは指でトントンって机を叩いてなかった?」


「んーと、ダンシャクはしーの5人分いじょー生きています。そのダンシャクがゆびいっぽんでのみものをたのむなら、しーは5本のゆびでたたかないといけません。じつりょくがたりないのです」


「んーそっかぁ……そうかぁ?」


子どもだからと考えるべきか紙一重でアレなのか。

いや、子どもにしては発想力はすごいけどさ。


「とりあえず飲み物ね、何を淹れる?」


「おゆでお願いします、こーりぬきで」


「なぜに氷抜きを主張したし」


「ん?のみものをたのむときそーゆーとたくさんもらえるってメガネが」



「さてシオリちゃん、お姉ちゃんとお話をしようか。聞きたいことある?」


「おー、ならしーのセンセーコーゲキだ!」


「よーし、どんとこい!」


「好きな食べ物はなんですか!?」


「んーチョコミントのアイスかな」


「んー、しーには理解できないオトナのリョーイキにたっしたオンナだったか」


「シオリちゃんにとってチョコミントは大人の世界なのか。シオリちゃんは何が好き?」


「しーはダイコンころしさんが大好き」


「……渋いね」


多分、大根おろしのことだろう。

どっちが大人の領域に達しているんだこれ。


「ふふふ、アサヒはほんとーのダイコンおろしさんを知らないよーだ」


あ、やっぱり大根おろしなんだ。


「本当の大根おろしって大根おろしは大根おろしでしょ?」


「ムチなものよ、おろか、じつにおろかなり」


さっきからたまに見え隠れする口の悪さは誰のものが伝染したのだろう。

シオリちゃんには腹は立たないけど原因にはイッパツお灸を添えたい。


「ダイコンおろしさんは辛いのである!そしてハンバーグさんの上にのせるとまさにゴッド!しーはキンキのドアを手にかけたとかん違いしてしまうほどである!」


「シオリちゃん、もういいツッコませて限界。その変な言葉使いは誰に教えてもらった?」


「ヘン?しーはこんなイキモノだぞ?これがフツー」


あ、はい。

この娘自分の口調を変だとカケラすら思ってない。


「むしろアサヒの方がヘンだとジカクしなさい」


「え、私が変なの?」


「そーです、アサヒはカウンセラーさんなのですから背もたれが折れるくらいふんぞり返りなさい」


「無理無理、無理だよ」


どんな背筋お化けだ。


「そっか……ならアサヒ!質問!」


「話がぶっ飛んだね!?で何?」


「アサヒのタイセツな思い出をききたい!」


大切な思い出。

すぐに思い当たるのは2つ。


「うーん、私は恩人のシスターかな。新しい生き方ができるようになった大切な思い出」


「しすたーとは?」


「んー、悩みを解決してくれる人かな」


「おー!まさにアサヒのことだ!アサヒしすたー!」


「っ!!」


突然の言葉に動揺が走る。

あ、やばい。これはちょっとクるかも。

彼女のようだと言われるだけで記憶がフラッシュバックする。


「シオリちゃん、私はそんなのじゃないよ」


アタシたちは彼女のようになんてまだなれてない。

届くはずがない、なれるわけがない。

愚図だ馬鹿だ夢を見るのもいい加減にしろ。

あの子にしたことを思い出せ。

道を踏み外せ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろおち。


『止まれッ!』


「ンンッ、それよりシオリちゃん他には質問ある?なかったら私が聞きたいことがあるんだけど」


喉ものに残る違和感と強い光を当てられたようにチカチカする目を強めの咳払いをして正気に戻す。

思考を止めるのにも成功したようだ。


「お、おー。しーはダイジョーブだけど、アサヒはつらいの?」


「え?そう見えるかな?」


「汗ダラダラだし顔が怖いよ?」


「あー……はは、ごめんねシオリちゃん」


「うん……ほんとーにダイジョーブ?」


「うん、……うん大丈夫」


動悸が止まらないけど……いやごめん、少し頼るよシオリちゃん。


「シオリちゃん、嫌だったらいいんだけど少し抱きしめてもいい?」


「おー、ぎゅっとこーい」


まだ幼い子ども相手にこんな姿を見せるのは情けないけど今は助かる。

暖かく小さい身体を強く抱きしめる。

さらさらした長い黒髪が気持ちいい。


「おー、どくどくいってる」


「あはは、ごめんね」


この暖かさと柔らかな感覚がおかしくなりかけた思考を無理やり戻した正気のズレもキチンと正常に戻していく。


この世界に自分は存在している、手助けをしたい人が近くにいる、自分はまだこの世界に必要。


「よし、戻った」


「おー、どくどくが治ったよ」


「そうだね、ありがとうシオリちゃん」


「んーん、しーもぎゅってされて気持ちよかった。おねーちゃんみたいだったよ」


「あはは、そっか。なら私は朝陽お姉ちゃんだ!」


「おおーー!アサヒおねーちゃん!次からそう呼ぶね!」


「分かった、私は今日から朝陽おねーちゃんだ!」


「うむ、よろしくお願いします。それとごめんね、お時間です」


「本当だ、もう1時間たったのか。ありがとうねシオリちゃん」


「おーー、いっしょにおべんきょーするの楽しみにしてる!」


「あ、そだ最後にコレ、自己紹介カードを書いておいてね」


「んー難しそう……キリエかメガネといっしょにかくー」


ポテポテと音が鳴りそうな足取りでシオリちゃんは相談室を立ち去った。

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