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傷跡童話《スカーテイル》  作者: 小鳥遊 和輝
1章 スタートライン
7/19

EP 殿町 恵一

指定された部屋、というか保健室の隣の相談室。


順番は任せたので待つだけだ。

とりあえずサーバーもあるしお茶でも淹れていれ丁度いい時間に誰か来るだろう。


「来たぜ!!」

「うわびっくりした!!」


そう思い準備をしようと湯のみのある棚を開ききった瞬間に活発そうな男子生徒が現れた、驚いた、しかも棚の扉が端にぶつかると同時に破壊音レベルの音が相談室の扉から聞こえたものだから余計に驚いた。


「何だ日向丘は小心者か?自己紹介の時もビビってたし」


「小心者は否定しないけど転校のあいさつで緊張したり突然大きな音が鳴ったら驚くとおもうの、とりあえず何か飲む?お茶なら淹れるけど」


「スポーツドリンクで頼む」


「自販機行ってこい、あるか分かんないけど」


「冗談だよ、あったかい麦茶で。サーバーの赤いレバーの方だ」


「わかった」



お茶を淹れテーブル越しに対面した。


「それじゃあ改めて、日向丘朝陽です。よろしくね」


「おう、俺は殿町恵一(トノマチ ケイイチ)よろしくな」


嵐男はトノマチっと、覚えよう。


「殿町君ね、さっそくだけどやってほしいものがあるの」


私はトートバッグからいつも使っているプリントを出そうとした。


「おお、もしかしてあの変な絵のやつか?何に見えるかーってやつ」


すると、意外にも私の両親が最初の面談でよく使うあのテストの話題が出て来た。


「えっと、もしかしてロールシャッハテスト?左右対称の絵を見るやつ」


「名前は知らんがそれだろうな、カウンセラーが変わるたびに良くやらせれたし」


なるほど、考え方や感性や過去を知るために行うための上等な手段だし正確に把握できるプロならこのテストはよく使うだろう。

しかもなかなか印象に残るものだからすぐに思いつくことも納得だ。


「残念だけど私はやらないわ。出来ないし、私的には信憑性が欠けるし。それよりも私は対話で性格を知る方が好きだし」


「そうか、俺はロールバッハ好きだったから少し残念だな」


「何その音楽家のヅラみたいなやつ、近々特注でもするの?」


「え、何でヅラの話になってんだ?俺はハゲてないぞ?……ハゲてないよな?」


「ええフサフサよ、心配ないレベルで」


「そっか良かった……俺の親父は若干ハゲてたから心配で……」


「ふーん、『ハゲるか心配』っと」


「バッお前、メモすんな!」


「私はカウンセラーよ、悩みは把握しておかないと」


「カウンセラーでもあるが生徒でもあるんだろ!?クラスメイトが弱みを握るな!!」


「それは安心して、カウンセラーとしては殿町君の秘密はバラしません」


「クラスメイトとしては?」


「つっかかりすぎ、麦茶飲んで落ち着きなさい」


「オーケー落ち着く、ただしクラスメイトとしてはどうか答えろ」


「生徒ではあるけどカウンセラー、弱みを拡散する真似はしないわ。約束する」


「ならよし」


あれ、私はプリントを渡したかっただけなのになぜハゲの話になった?

まあいいか、私はコホンと咳払いをして渡すべき物を渡す。


「話が飛んだわね、これをしてほしいのだけれど」


「おう、『これは自己紹介カード』か。小学校以来だな」


そう、小学生の頃におそらく多くの人が経験したであろうプリントだ。

とはいえ蝶々の書いてあるファンシーな花型プリントというものではなく、書いてある項目も小学校の物よりお堅い物である。


「ちょっと子どもっぽいけどもこうやって当時の自己紹介を形に残すと自分の変化がわかりやすいの」


「アイアイサーやっておく」


いかにも快活な笑顔で敬礼をして受け取る。

どんな病なのかは想像できないが、その表情は年往々の元気な青年の笑顔だった。


「ありがとう、さてじゃあ質問タイム。何かある?」


「いやない」


「マジか」


「俺の場合は質問ってより取っつきやすいか苦手かが知りたかっただけだしな。逆に質問はあるか?」


何となく察した。

殿町君は事前に知って気を使うタイプじゃなくてトラブルが有っても正面からぶつかって身をもって分かり合う熱血タイプだ。

だからこそ1番重要なのはソリが合うかなのだ。


「んー、なら好きなものは?」


「大豆で出来た食い物、特に豆腐。身体作りにはコレだろ」


「なるほど、身体作りを気にするってことはスポーツが好きなの?」


「ああ、バスケをやっていた。……ここに来る前までは」


ふむふむ、スポ根はスポ根でも元スポ根か。

会話していたら何となくだけど、殿町君なら少し踏み込んでもいい気がした。


「話すのが嫌なら今は無理強いはしないけど、バスケを辞めた理由、ここに来た理由、あとは殿町君の夢想(プレシャス)を教えてもらえる?」


「あー……バスケは怪我で辞めた、ここに来たのは5年前でいろいろ燃え尽きてたからだな。夢想は筋力の増強だ、とんでもなく動き回れるぜ」


「ふーん、まあそれならいずれ見させてもらうね」


「そっちから聞いたのに興味なさげ?!けどまあ見せる機会は絶対あるから肝をぶち抜いてやるぜ」


「ほほう、楽しみね」


度が抜けるだけでずいぶん物騒にきこえるな、何てどうでもいいことを思いつきながらまた空返事をした。


「んで、そのほかに悩みってある?学校生活でも私生活でもなんでもいいよ」


「悩みか……うーん、悩み悩み」


「思い当たらなければいいんだよ?無理やり思いつく必要はないし」


「いや、悩みと言うか要望はあるんだ。到底叶いそうにはないが」


「一応聞かせて」


「近所のスポーツクラブに入りたい」


「あー……なるほど」


納得した。

今、話した様子では至って普通の男子生徒にしか見えない。

街中を歩いていても彼が精神疾患を患ってると気づく人は少ないと思う。

しかし、それでも彼はやはり患者。

いわゆる、普通の人ではないからこそ相談をしても許可がもらえなかったのだろう、それは私も考えだ。


「そうだなー、もう少し殿町君のことをよく知ってからだな」


「ほう!意外な返事がもらえたぜ!」


「意外?どう言うこと?」


「今までのカウンセラーからは大抵が絶対拒否の一点張りだったからな。良くても症状の改善を提示されたりだな」


「そりゃそうよ、症状の改善は必須。けど殿町君のことは全く知らないし、病気のことも知らない。だからこそ改善よりもあなたを理解することが最優先よ」


「あー、やっぱり改善は必要なのか」


「当たり前、ほかにはある?」


「んや、今はない」


「そう、分かった。じゃあ面談はここまで」


「うっす、あざーす」


「あーそだ最後に」


「ん?何だ?」


「1時間も空気椅子で平然としていられたのは夢想(プレシャス)?」


「おうよ!こんなもんじゃねぇけどな!」


最後に彼はニカッと笑顔を向け走り去って行った。

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