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傷跡童話《スカーテイル》  作者: 小鳥遊 和輝
1章 スタートライン
17/19

とある患者の回想、もしくは夢のようなもの

いつからだろう、前を向いて歩けるようになってのは

果たして進んでいたのかどうなのかは分からない、けれども前を向けていた

あの場所から去ることになる前日にあいつはいつもの散歩に出かけた


肌寒い風はざわつく心を逆なでするような気がして居心地が悪い、あいつは好きなようだが

家を出てると隣の家の中学生が日課の素振りをしていた

あいつが喋りかけると気恥ずかしそうに顔をそらして力み気味に素振りを再開する年頃の子どもだ


『ーーーーぁの』


あいつは声をかけようとしたが喉がかすれ声はうまく出ていなかった、多分表情も普段通りではないだろう

少年はこちらに気づいたが反応はせずに素振りを続けた


『こんばんは、いい天気だね』


何度か部屋で練習した掛け声は少年に届くことはなく『あはは』と自分に呆れたような笑いを心で何度か繰り返した


住宅街を抜け通学路だった川沿いに着いた

あいつは風音と鈴虫の音になるべく耳を傾けて穏やかな呼吸を繰り返す

せめてもう少し人通りが少なかったら良かったのだろうが21時を過ぎた程度の時間はまだうるさい

そんな中、鈴虫の音とは別に聞き親しんだ友人の声が聞こえた

あいつはつい顔を上げてそちらを見る

しかしスマートフォンで楽しげに談笑する友人を見て形だけなら笑顔に見える表情で俯いた

すれ違いざまに友人はあいつのことに気づいた


『ねえ今の見た、あいつまだここにいるの?』

『犯罪者予備軍はさっさと消えて欲しいよね、いるだけで気持ち悪い』

『バカ聞こえちゃうよ、障害者なんだから突然殺そうとしてくるかもよ』


耐えるしか選択肢はなかった、衝動で怒ったところで解決する仲違えじゃないと理解していたから

『仕方ないよね』と呟いたあいつは切り替えられればとクソ寒い中で自販機の炭酸ジュースを買った


Uターンしては気の向くまま散歩を続けていると公園が目に入った

そこにいた人物には己の運の無さを笑うしかないと思った

淫行にふけろうとする2人は相談に乗ったことがある、男の方はあいつに告白もした

結論は返事うんぬんは出来なくなりくっついたって訳か

2人はすぐさま退散した『ゴメン』の一言と恨みのこもった一瞥を置き土産にして


それからもあいつは歩いた

知り合いが多かった分、あいつへの負の感情も多く、避けられたり通り過ぎた後に聞こえる声で陰口を言われたりと散々だった


そして2時間におよぶ散歩を終え家に着いた

リビングにはまだ灯りが点いていて両親の影があいつを待っているように見えた

冷え切った心身にとってそれは救いで温かくて、目からあつい涙が溢れた

きっとあいつは今日のこと、変わってしまったこと、今までのことを思い思いに語るだろう

アタシも、もっと強くならなくちゃいけないな

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