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傷跡童話《スカーテイル》  作者: 小鳥遊 和輝
1章 スタートライン
11/19

EP 青美 海里 青美 空多

マトモな奴がいない。

いや、何がまともなのか説明してみろと言われたら言い返せないから個性的と言っておくか。


『そうは言うがアタシらも相当アレだけどな、無免許カウンセラー』


まあそうなんだけどさー、そこさえ目を瞑ればマトモじゃん?


『え、いや、全然全くこれっぽっちも微かな可能性も微塵もなく確実に絶対にまともじゃない』


はっはー……言われてアレな気持ちになってきたんだけど。観星は?


『アタシも言ってて悲しくなってきた』


でも悪い人は1人もいない愉快な面子だったしよかったよ


『それフラグか?』


それは神のみぞ知る。


何て暇つぶしで観星と話ながらお茶を飲んでいると駆け足の音が聞こえてきた。

そしてパタパタとスリッパ特有の軽い音が止まりコンコンと扉を叩いた。


「失礼します、面談を受けに来ました青美 海里(アマミ カイリ)です、海の里で海里です。よろしくお願いします、日向丘センパイ……ってセンパイ?何で目元に手を当てているんですか?」


「……ゴメン、初めてドアをノックして入って来る人だから少し感動してしまってね」


「あー、破天荒だったり型破りな人が多いですからね、お疲れ様です。でもすみません、わたしも少し変わっているらしいので。お兄ーまーだーー?」


サイドテールの女の子もとい海里ちゃんは廊下に顔を出すと身体の細さからは想像できない大声で人を呼ぶ

「ゴメンゴメン、遅れたー」とこちらも駆け足の上履きならではのキュッキュッという音が響く。

そしてやや背が高めの茶髪くせっ毛男子がやや息を切らせて相談室に入ってきた。


「すごいよ海里、さらに足が速くなったね、スリッパでその速さはすごいや」


くせっ毛男子は海里ちゃんの頭に手を乗せ、ザ・お兄ちゃん風の笑顔でやや乱暴に頭を撫でた。


「やっちょっ頭クシャクシャするな!やーめーろ!バカっ!おたんこなす!こんなことする暇があるんならはやく自己紹介して!」


おお、海里ちゃん顔が真っ赤だ。果たして照れか怒りか両方か。

くせっ毛男子のお腹をポカポカと駄々っ子パンチ、しかし


「あはは、ゴメンゴメン悪かった、悪かったから叩くな、痛くないけど」


案の定ダメージはない、男は笑顔でケラケラ笑っている。


「チョーシに乗るなって、の!」


「ガファッ!!」


怒りか照れかどっちかは分からないが限界を超えたようだ。

素人目でも威力が高く見える手刀が男のお腹にぶっ刺さった。

悶絶する男に腕を組み仁王立ちする海里ちゃん。

鋭い視線は『さっさと挨拶しろ』と語っているようで視線が合うと男はコクコクと頷きこちらに顔を向け姿勢を正した。


「いきなり漫才を見せてゴメンね。じゃあ改めてまして、海里の兄の青美 空多(アマミ ソラタ)ですよろしくね。……あの日向丘さん?」


「あのーセンパイ?」


息がぴったりとか、ハードな漫才だとか、海里ちゃん怒らせたら怖いとかいろいろと情報が飛び込んで来たけどとりあえず分かったことがある。

この2人もマトモじゃない。


「えいっ」


「あぅ」


ぺちりと頬を軽く叩かれた。


「お、気がつきました」


「あーごめん、すごい仲がいいんだなって思って。兄妹以上恋人未満レベルに感じるよ、うん」


「あー、やっぱりそのリアクションしますか。わたしは嫌なんですけどお兄が髪をワシャワシャしたり、ご飯を食べさせようとしたりと何かと構って来るんでよく言われるんですよ」


「そんなこと言いつつ海里って嫌がらないけどね」


「本気で抵抗しても腕力じゃ勝てないんだよ!隙を突くのも上手いし!」


「仲が良いね、微笑ましい」


とりあえずこんなに喋ったら喉が乾くだろう。

緑茶を飲んでから面談開始だな。



「さて、何から話そうか」


「日向丘センパイって料理下手なんですか?」


「得意料理がボイルドソーセージって言えばどれほどの経験値か分かる?」


「なるほど、わたしはツナマヨしか作れないので同志ですね、祈センパイも加えて女子力向上同盟を設立しましょう。打倒、鴇崎センパイ。目指すは和の朝食と手編みマフラー」


「あ、ごめん。私は裁縫とかはできるし裏ワザ使えば料理もお菓子も作れるよ」


そもそもツナ缶開けてマヨネーズ混ぜたものとボイルドソーセージじゃさすがに差があると思う、思いたい。


『ボイルドソーセージもお前の場合はただお湯に突っ込んで破裂させてるし実質大差無えよ』


うるさいよ。


「裏ワザですか、それはアレですか、飾り付けの技能を駆使することで冷凍食品を手作りと言い張ると言ったものですか?」


「いや、普通にクッキー焼いたりドーナツ揚げたりシュウマイ蒸したり肉じゃが煮たり」


「くっ……主婦道は万里の道よりも長いのか」


なるほど、料理を作れるようになりたいのか、覚えておこう。


「次は僕から、前の学校では部活とかやってた?」


「部活はやってないよ、でも両親がカウンセラーだったから真似事みたいなものだけども保健室で悩み相談をしてたよ」


「ほほう、悩み相談のプロか。繁盛してた?」


「まあ割とね、お母さん相談会とか言われて遅い時間まで残ることもあった」


「ほーんそか、となるとあんまり放課後に遊んだことは無かったり?」


「そうだねカラオケもボーリングもビリヤードもダーツも私は無経験、マウス・ザ・ワールドも卒業旅行くらい」


「そっか、なら行ける人集めて皆んなでカラオケ行こうか。幸織とか演歌歌うんだぜ、恵一は歌は下手だがノリと絶叫で乗り切るのがまた面白い、ちなみに海里はーー」


空多さんがチラリと海里ちゃんを見る。


『イッタラコロス』


殺意を乗せた視線に貫かれていた。

次のセリフを喋れない空多さん。

会話のテンポが良かったためこの流れをキープしたい。


「お気遣いありがとう、私も歌を覚えなきゃね。他にはある?」


「あ、じゃ次わたし。大切な人とか好きな人っていますか?」


「尊敬している人と大切な人はいるよ、大切な人は今度合わせてあげられる」


「本当ですか!?わーい楽しみ!どんな人なんだろう」


「ハードルは上げないでね」


『……………………』


観星(そのひと)今プレッシャー感じてるから。


「さて、私への質問タイムは終わり。次は2人のことを聞きたいな」


「オーケー分かった。僕と海里は3回生で君と同じ転校生だった、前の学校では2人とも剣道部に入っていたよ」


「なるほど、となると今2人が着てるのはその頃の制服?」


「そそ学生なら基本は制服だと思ってるし作りもしっかりしてるからね、捨てるのもったいない」


「もったいないと感じるのはなんとなく分かるな。いい辛かったらいいんだけど、ここに来たけど理由と前の方での生活とか教えてもらったりできる?」


「わたしはわざわざここに来てまで治療することじゃない病気です。不眠症らしいので。ちなみにお兄も同じです」


「学校生活は至って普通、真面目に剣道をやって授業中は遊んで放課後に遊びに出かけてたよ。ね、海里」


「それはお兄だけ、わたしは授業中遊んでないし予習復習もやってた」


生活態度は年相応のようだ、さっき話をした感じだと友人もきちんといたのだろうし。

不眠症の原因は何だろう。


「眠れない原因とか分かる?」


「いや、全く分からない」


そうか、分からないのか。

ここは地道にコミュニケーションを取って把握するしかないか。


「オーケー、なら最後に2人の夢想(プレシャス)を教えてもらってもいい?」


「あーそれなんだが、僕らの夢想(プレシャス)も分からないんだよな」


「それは夢想(プレシャス)持ちと判断されたけどどんな夢想(プレシャス)か分からないってこと?」


「いや、そもそも夢想(プレシャス)が無いらしい」


「へーなら退院も結構近いのかもね」


「そもそもわたしはここに来る必要ないってお父さんに言ったんですけどね」


「お父さんの勧めでここに来たのか」


「はい、わたしもお兄も母も大丈夫と言ったのですが入った方がいいと。とても心配性なお父さんです」


「ま、愛だよそれは」


「そうね、愛されてるね」


「そうですね。結構楽しい生活もできているので感謝です」


「さて、これで終わりかな。最後にこの自己紹介カードを書いておいてね」


面談を終わらせプリントを2人に渡す。


「分かりました、それでは失礼します、日向丘センパイ」


「ありがとう、またね日向丘さん」


「はーいお疲れ様」


2人とも礼儀正しい態度で相談室から出て行った。

しかし廊下に出た直後、海里ちゃんがヒョコリと顔を出した。


「そうだ日向丘センパイ、次のセンパイで最後なんですけど車椅子なので日向丘センパイの方から会いに行って欲しいとのことです。図書室にいると思いますのでよろしくお願いします」


「おーけー」


話が終わりぴょこぴょことテールが去って行く。


『1つ質問なんだが、何で先輩呼びされてんだアタシら』


それは今度聞いてみるよ。

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