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傷跡童話《スカーテイル》  作者: 小鳥遊 和輝
1章 スタートライン
10/19

EP 朔来 祈

時刻は13時27分。

昼休みが終わり27分経過。

ソワソワと歩いたりお湯を沸かしたりしながら1人で部屋に27分。

要は27分放置な現状。


「っておおーい、何で誰も来ないのかよ!」


『それより何で変わらないの、私の体調はホイル焼きパワーで回復したんだけど』


体調がせわしなく変わるなオイ。


『観星と違って繊細なの』


ほう、言ってくれるな。

表に出ろ。


『表に出たら入れ替わるでしょ』


それもそうだな。本当に体調が良いなら変わるがどうする?


『変わって』


分かった。


アタシはヘアピンをポケットから取り出しつけた。


「んんー程よい満足感と柔らかい日差しが私を襲うー」


窓際でぐーっと身体を伸ばし光合成のように陽の光を浴びる。

風も気持ち良さそうなので窓を開けてやや冷たい風を全身にーー。


「あいたっ」


飛んできたのは風ではなく紙飛行機だった。

痛くはないが額をさすり窓の外を覗き込む。


『やばっ』


ここからよく見える中庭の無駄(?)に設置してある水車小屋の扉がバタンと閉まるのを私は見逃さなかった

紙飛行機を飛ばしたか相手かどうかはまだ断定は出来ないけど隠れたしこんな時間にいるんだし捕まえた方がいいだろう。



玄関を通って水車小屋に行くと少しの間は目を離してしまうためスリッパのまま窓から出る。

忍び足で一歩また一歩と、どうとっちめようか考えながら進む。


そろり…そろり……。


さあ扉の前だ、深く呼吸をして大きな声を出す準備を整える。

引き戸に手をかけせーの!


「はーい誰かな出てきなさーい!!」

カチッ!!


……カチ?


何かを踏んだ感覚がしたので足を退ける。


ブシューーーーー!!!


すると薄い茶色の粉末が踏んだ物から吹き出した。


「え、なにこっつっぁつあっクシュ!!へクシュ!!フェクチュ!」


コショウだこれ!古典的だけど確実にコショウだ辛いし!


「ふふふっ、突破させてもらうわ」


「ヘックしグフッ!」


視線のやや下から女の子の声がして腹部を鋭い衝撃が貫いた。

罠を仕掛けて強行突破をしてきたのだろう。

しかし私は逃すまいと衝突物を強く抱きしめ片手で受け身をとる。

幸い二転三転とすることはなく尻もち程度で止まれた。


「コホッコホッ、君は……」


やや咳き込みながらもコショウ幕から脱出し顔のコショウを手で払い顔を覗く。


「捕まっちゃった」


抱きかかえていたのはクセ毛の白衣を着た背の小さい女の子。

地味に自己紹介で唯一興味なさそうな態度をしていた生徒だった。



「んで、何でこんなことしたの?」


「緊張しながら生徒が来るのを待っている姿が滑稽で右往左往する姿が野生のクマみたいや動きだったから可笑しくて観察してたの」


「性格悪!?」


何だこの白衣ちゃん。

はぁっとため息を吐きいろいろな感情も吐き出す。


「まあいいよ、水に流してあげる。とりあえず捕まったからには観念して自己紹介をしてもらおうか」


「他人に物事を頼むのならそれなりの態度があるでしょう?」


アレなノリの白衣ちゃん。

少しテンションが高いのか頬がわずかに赤らんでる

楽しいのならつきあうか。


「上から目線だね……へーへー分かりました。この未熟者のカウンセラー兼生徒の中途半端な愚物にあなた様の高貴なる音を連ねた祝福されしお名前を卑しく汚れた両耳に響かせていただけないでしょうかお嬢様」


床に正座をして軽く頭を下げる。


「あら、歳上を不快な思いをさせるなんていい度胸ね。首を差し出しなさい、断頭の刑に処してあげる」


そう言った少女は机に頬杖をつき足を組みニタリと笑って死刑宣告をしてきやがった。


「ちょっと確かに卑下の仕方も敬い方もふざけたけどそこまでする?」


「あらあら、本当にふざけていたのね。覚悟はいいかしら?」


少女は目を細める。

僅かな隙間に光る眼光は処刑を心待ちにしているかのように輝いていた。

え、本気ですか?


「ごめんなさい、貴方の名前を教えてください」


再び頭を下げて気づく。

あれ、私って割と被害者だよね?

それに娘……。


「ふふっ、表情も態度もコロコロ変わって本当に面白いわね。今までのおじ様おば様とは大違い、気に入ったわ」


「あ、ありがとう」


「ワタシは朔来(サクライ)(イノリ)、月を意味する(サク)に来るでサクライ、櫻井じゃないから間違えないように」


「オッケー。私は朝のホームルームでも言ったけど日向丘朝陽だよ」


「よろしくねヒナ」


朔来先輩(暫定的)は席を立ちいまだ床で正座中の私の頭をクシャリと撫でた。


「あのー朔来先輩、なぜ撫でるの?」


「あら、可愛らしいモノは愛でるものでしょ。ホラもっと喜んでもいいのよ」


さらさらと髪を梳く激しくも強すぎもない優しい手

そして頭を撫でる手は徐々にスライドし頬を通過しまさに犬をあやすように私の顎を撫でてきた。


『先輩の撫で方上手い……』


人間なのに『くぅーん』と思わず言ってしまいそうになるがそこは人間、耐えなければ……。


「ふふふっ頬が赤くなって、恥ずかしがらないで鳴いてしまってもいいのよ……」


「残念ながら人間の尊厳を捨てる気はありませんので……」


「プルプル耐えながら強がって、分かったわ。おーしまい」


最後にアゴを持ち上げるような撫で方でスッと手を引いた。

最後の最後まで気持ち良い指使いに思わず『ぁぅ』と声が漏れてしまい朔来先輩と目があった私は絶望的なまでに顔が熱くなる。


「あらあら名残惜しかったの?ふふふっじゃあまた今度ね」


「いっそ穴に埋めてくれ……」



数分後、クールダウンしたので再開。


「えっと、朔来先輩って呼んだほうがいいかな?」


「そうね、『さん』呼びは好きじゃないし『先輩』でいいわ」


「わかった、でも何で朔来先輩は先輩って呼ばれてるの?」


「それは車椅子の子が律儀でね、ワタシの事を先輩って呼んでからワタシだけ先輩扱いなの」


「なるほど、となると先輩はここに長くいるの?」


「ええ、ワタシは8回生。1番長いわ」


「8年間ここにいるのか、なるほどね」


「えっと性格は何となーく把握したからそこは終わりで、ここに来た経緯とか夢想(プレシャス)についてとか聞いてもいい?」


「経緯については悪いのだけれどまだヒミツ、もう少し仲良くなってからね。夢想(プレシャス)は実際に見せるわね」


そう言うと先輩は席を立ち、スカートの裾を左手で軽くつまみくるりとターンした


「はい、どうぞ」


正面を向いた先輩の右手には先ほどは確実になかった丸い機械のような物が握られていた。


「コレは?」


よく分からないがとりあえず受け取る。


「握ってみて」


私は「分かった」とうなずき、何かあるのではと不安半分で球体を握る。

……がしかし、何も起きないぞ?


『ナニモオキナイゾ?』


「うわ喋った」


何だろうこの機械。


『ナンダロウコノキカイ』


「…………」


先輩、これ心の声を読み取る機械なの?


『センパイ、コレココヲヨガガガガガガガガ?』


「え、突然壊れちゃった?」


『イッタイドウイウコトカガ?』


「多分、お察しの通りこれは心を読む機械。ただし11文字までが限界であとはガガガしか言わないわ」


「性能はピーキーだけど面白い機械だね、これが先輩の夢想(プレシャス)?」


「いいえ、これはほんの一部よ、さっきの『紙飛行機』も『胡椒地雷ペッパー』もワタシの夢想(プレシャス)


先ほどの笑みとは違う、子どものような笑顔で、今度は両手でスカートの裾を掴み再び一回転をする。

するとスカートの中から小さなロボット、オルゴール、拳銃、ダイナマイト(?)など他にもいろいろな物がゴトゴトと音を立てて落ちて来た。


「ワタシの夢想(プレシャス)はイメージしたオモチャを創り出すこと。あくまでオモチャだからどれほどすごい機能をイメージしても欠点はあるけどね」


先輩は拳銃を拾い銃口を私に向け躊躇なく引き金を抜いた。


「センはぶっ!」


止める間も無く銃弾は私の額に直げきした。


「いきなり撃たないでよ!驚いた!」


「ふふふ、鏡を見ればもっと驚くわよ」


先輩はまたくるりと回って手鏡を差し出した。

そこに映る私の顔、撃たれた額には『髭』の一文字

「な、何これ、どーゆうことセンパイ!」


「あははは!漢字一文字を詰めて打ち込む『テキストガン』ってオモチャよ、自分を含めて3人に見られると消えるわ。逆に見られないと石鹸で擦っても取れないわよ」


「つまりこの醜態をあともう1人に見せる必要があると……」


「がんばってねー、そろそろ時間だから帰るわ」


万遍の笑みを浮かべ指を鳴らすと床に散らばっていたオモチャは全て消えた。


「先輩、教室に戻る前にこの自己紹介カードだけ持って行って」


「分かった、鏡は置いていくわね」


先輩は最後まで楽しそうに相談室から去って行った。


そーいえば紙飛行機をこっちに飛ばしていた理由を聞いていなかった。

何て思いつつ手鏡でもう一度額を見る。

映った『髭』は目に入った一瞬は確認できたがすぐに溶けるように文字が消えた。


「もう、あの先輩は……」


3人のカウントって同じ人が大丈夫なら先に教えてくれても良かったのに。

そう考えた脳の片隅で、あの先輩の愉快そうな笑い声が聞こえた気がした。

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